この言葉を知ったのは、つい最近のことです。知らないと、新しいラジオのFM局か何かかと思ってしまいますが、全然違います。ある英語のフレーズの頭文字ですが、これを理解しておくと、プレゼンテーションや、セールストークなどに説得力が出てきます。企業や、組織で、多くのスタッフを動かさないといけないときにも、これを押さえておくとうまくいきます。簡単な概念なので、ご存知ない方はこの機会に覚えておきましょう。
この言葉は、“What’s In It For Me?”という言葉の頭文字。「ウィーフム」と発音します。「それが自分にとってどんなメリットがあるのか?」ということなのですが、これを明確に伝えておくことが、プレゼンテーションにおいても、スタッフを説得する場合にも重要なポイントになるということです。逆にこれが共有されていないと、どんなに強制的に「俺の話を聞け」とか「言うことを聞かないとひどい目にあわせるぞ」とか脅しても効果は期待できません。
私がこの言葉を聞いたのは、EXAFORUM 2021というオンライン展示会でのことで、元インテル社エバンジェリストであり、未来学者でもあるSteve Brown氏のセミナーの中でのことでした。ベストセラー「the Innovation Ultimatum」を出している方で、めちゃくちゃわかりやすい、面白いセミナーでした。AIやIoT、ロボティクスなどの複数の技術が融合し、社会を変えるテクノロジーの津波になるという話です。企業はデジタル・トランスフォーメーションを進めないといけないのですが、なかなかうまくいかない。抵抗勢力が出てきて、その動きが潰されてしまうというのです。それを克服する方法は何かという文脈の中で出てくるのがこの言葉です。
ビジネスリーダーは、明確なビジョンを持ち、変化を拒む人たちを助けなければいけません。そこで必要になってくるのが“WIIFM”であると、Steve Brown氏は語ります。ここはDX(デジタルトランスフォーメーション)の話をしている中でのことだったので、「DX後の未来の世界では、あなたの役割はこう変わり、あなたにとってすばらしい世界になります。新しい役割であなたは成功するでしょう。そういう未来図を説明できないのであれば、DXは大変困難になるでしょう」と語っています。
概念としては前からあったと思いますが、“WIIFM”という言葉ができて、さらにこの目的意識の明確化にフォーカスがあたってきました。最近はやたら新しい言葉が出てきました。DXもそうですが、SDGs、ESG、CSRなど、ちょっと勉強していないと置いていかれそうな言葉が次から次へと出てきます。
ビジネスリーダーの皆さんもついていくのが大変かと思いますが、中途半端な理解しかしていない状態で、これをやれと命令するだけでは、スタッフはどんどん脱落し、誰もついてこない状況になってしまいます。何でこれをやらなければいけないのか、それをやることで、どんないいことがあるのかを自分事として納得してもらわなければならないのです。
これはプレゼンテーションの場合も同じです。みんな忙しく、それぞれ抱えている問題は異なります。これを聞いてどんなメリットが自分にあるのかわからない状態で長いプレゼンテーションに付き合っている余裕はありません。これを聞いたら、どういうことがわかるのか、それがわかるとどんな得をするのかなどを冒頭で押さえてもらえると、聴衆は積極的に話を聞くようになります。
私は、広告会社に長年いて、海外向けの企業広告や、コマーシャルや、会社案内や、商品カタログなどを作ってきました。ここで学んだことは、企業が伝えたいことを一方的に伝えるのでは誰も聞いてくれないということでした。あるカメラメーカーのアメリカ法人のマーケティング責任者はいつもFAB(Feature, Advantage, Benefit)を明確にするようにと言っていました。製品特長だけをアピールしても消費者は興味を示さない。アドバンテージとは、その特長が、他社と比べてどれほど優れているのか。そして最も重要なのが、その特長やユーザーにとってどのような利便があるのかということでした。
商品広告や商品カタログでは、製品の特長や優位点を洗いだし、考えられる限りのベネフィットを書き出すというのが重要な仕事でした。どんな些細な特長でも、何かしらのベネフィットがあります。製品の重さが軽ければ、持ち運びが楽とか、旅行に便利、長く持っていても疲れないとか、筋力のない人でも持てるなどのベネフィットが考えられます。こういう考え方は、“WIIFM”に共通するものがありますね。相手の立場にたって、どんな得があるのかということを探すということですので。
商品マーケティングではユーザーの立場にたってベネフィットをアピールするというのは昔から基本的なことですが、デジタルトランスフォメーション(DX)や、SDGs、ESGなど新しく、抽象的で捉えにくい概念の場合は、“WIIFM”が特に重要になります。それがないと、何だかんだできない理由をつけて、変化することを阻んでくる人たちによって、プロジェクトは頓挫していくわけです。
今後は、世の中の変化に伴い、こういう新しい概念は続々と出てくるでしょうし、落ちこぼれそうになっていく人たちを救うために、“WIIFM”が活躍していくのでしょう。
トップ画像は私が描いたチョークアートです。この言葉があまりに厳かに思えたので、何か視覚的にインパクトのある形にしたかったのです。私にとっては、こうやってビジュアル化したいほど魅力的な言葉だったわけです。皆さんにとってはあまり意味のないことだったかもしれませんが、所詮自己満足なので、笑って流してくださいませ。