日出麿「めぐりというものは、何でございますか。」
天使(神使)「前世における霊魂の罪障だ。」
「何故、誰にでも、自分の前世は何者であったかという事を分からないのでしょうか。」
「すっかり忘れとるのだ。」(注 鬼雷述べる。神様から授かった御魂の本然には、記憶を保全する機能は無し。魂は、素朴で素直であり、魂に名誉や誉れなど、人欲は遺らない。故にかつての記憶は無し。前世を憶えている者は、縁ある眷族神により、過去世の紹介がある。主神はかつての記憶を尊重されない。只今の心境を好まれる。)
「思い出すわけにはゆきませんでしょうか。」
「現界において、去年の今月今日に自分が何をしたかということさえ、普通、思い出すになかなか困難であろう。
前世に於いて、自分は何の誰兵衛であり、何処に住んで、何をしたかというような事を、はっきり意識している事は、一旦嬰児の境涯をへて来る現代人にはとても困難だ。
(鬼雷述べる。天の神は厳格であり、前世に価値無し。今の人は、受け継いだ魂と努力による経験でしか、物事や天理を咀嚼出来ない。もし、貴方が前世を知りたいと臨むのであれば、そこに、真実は無く、霊能者による前世鑑定と称する迷信に騙されておられる。
そこに至る経緯にて、多くの金銭を払っておられるのであれば、尚の事、教えられた前世に意味なく、自己の顕在の欲望により、更に己の本質を失っておられます。その教えらた事による、弊害は、北極真経では、命如と呼び、無形の虚霊の天命を偽っている。何故ならば、自分の蓋を、心の岩戸を開く、努力せずに、他に求めて得ようとされており、永遠に自己の天命を悟る事が出来ないのであるから。)
「嬰児の時分は想い出す力が無くても、成長して後に、ちっとは分かりませんか。」
「成長するにつれて、現界的な印象がいよいよ強く、明瞭に頭にまぶつくから、余計、前世の事などわからなくなる。
しかし、何と無く、気持ちにおいて、過去世における自分の境涯が想像されるような気もする時もあるのだ。
ごく稀に、自分の前世には何の誰某であったと、先天的(鬼雷のべる。多くは神界からの降臨の御魂の持ち主。神界から降臨の御魂には、眷族神が従っておられる故に。)おぼえている人もある。」
私はこの際、再生や分娩の神秘について、はっきり、神使からお伺いしたいと、次からつぎへと出てくる疑問を整理しつつ、口をもぐもぐさしている間に、フッと神使のお姿は消えてなくなった。
俗に「消えてなくなるタバコの煙」ということがあるが、タバコの煙りでも実際は消えて無くなるのではなくして、消えて何処かに行くのである。
言わんや天使においておやだ。
実はあまり、よそへ行き方が早いので、消えたような感ずるまでで、霊体の往来は、いわば、電気のそれのようなものだ。
その時、ふと私は、すぐ足もとの、さっき入った穴(現世お陰を望む欲望だらけの蛇がおる祠)
の中に入りたいなと、いう気になった。
理智は瞬間、何故あんな汚い所へ入る必要があるか、と抗議を申し込んだ。
が、一方、はいりたいなという気(これは、何処から来る気だ?。と咄嗟に、その時私は考えたか分からなかった)がますますつのって来て、嵐のように私を駆った。
私はそれでも用心しつつ、そろそろ、穴道にさしかかった。
前の時よりも、心持ち、穴の中が明るいように思えた。
下へ斜めに降り切った所が広くなって、その奥に一段高く、崩れなかった木の祠がある。
私は吸いつけられるように、その前まで来た。
と急に足がピタリと止まった。
私はこの時、心中に、こんなうす汚い祠へ吸いよせられたことを心得ぬことに、思ったので、一度こころみに、わざと反抗的態度に出てみてやれと、ある力に抗しつつ、少しあとずさりを、してみた。
多少苦しいが、強いて後へ下がれば、いくらでも出来るように思ったので、五、六歩ばかりで
立ち止まった。
と、スルスルすると、電気にかかったように、最初の位置まで引き寄せられた。
「なにクソっ!」とまた三、四歩下がって止まってみた。
スルスルスルと、また引き寄せられた。
そして、今度は急に非常な重圧を身体に感じて、押さえつけられるようにヘタばってしまった。
「きたない祠だが、えらい力のある霊がおるな。」
と、私はグタリとなって感心した。
顔をあげて見ると、どこかで見た事のあるような、ないような、五十格好の中背の男が祠を後ろに私の目前で直筆している。
「わしの顔をよく見い。」
「どこかでお見かけしたようでございますが。」
「ウハハハハハハ分からんか。」
「……」
「少し変わっているだろう。」
「ヘエ、……分かりませんな。」
その内に、その人の面貌が急に色白く、そして膨れてきた。(現界に、おいても、こうした面貌の変化は、おうおうあることであるが、普通に気がついていないまでで、よく注意していると分かる事がある。)
私には直ぐにそれと分かった。
「ハハァ、あなたは枚岡神使さまでございますな。しかし、少し背格好が違いますな。」
「わしが宿っている身体は、この祠の主だよ。」
「宿っておられると。申しますと……?。」
「わしの体を直接にあらわさずに、他の者の体を借りているのだ。」
「この者の霊魂はどうなっております?。」
「わしが表面にでる時は、その踏台の役をつとめているに過ぎぬ。
わしが引っ込む時は、彼自身として体にあらわれてくる。」
「あなたとこの祠の主とは、何かのご関係がおありなのですか。」
「因縁によって、わしがこの祠の主を守ってやっているのだ。
この祠の主ははなはだ、罪に汚れた者であるが、その罪ほろぼろしに、ここにいて、相応のの人を助けたい志望を持っているのである。
それに現界にいる時分、この者に既に改心のきざしがあったに拘らず、わしがこの者の悪事を極端に摘発して、苦しめたことがある。
このことは、あとになってから、気の毒だった、やり方が苛酷だった、愛が足らなかったと非常にわしを悔いさした。
その因縁によって、わしは今ここでこの者を陰ながら守護し、指導してやっているのである。
わしが去ると、純粋にこの者自身となるから、よく注意して見ておるがよい。」
「ちょっとおうかがいいたしますが、あなた様はなんの必要があって、私をここへお引きつけになったのでございますか。」
「お前に、化神ということを如実に知らせようと思ってじゃ。」
「ヘエ……」
「化神というのは、変化の神ということで、ある他の体〜大抵はずっと格下の〜を借りて宿っている、すなわち変装している神霊ということだ。」
「格を落としてのお働きはお苦しいでございましょう。」
「むろん。だが、これもわしのめぐりじゃ。
「あなたにもまだ、めぐりがございますか。」
「穢れ果てた地上の守護に任じ、それと接触せる霊界に出入りしているのは、地上との因縁がまだ切れぬからだ。」
「宿命的に自分の身にくっついている環境はめぐりによるのですか。」
「そうだ。」
「霊界の広さはどれほどありますか。」
「無限だ。」
「天国も地獄もそれぞれ、上中下三段に別れていると、いうことを聞いていますが、そうでございますか。」
「大別して、格三段、あるいは五段、あるいは七段というだけで、中別、小別すれば無限の段階があるのだ。」
「地獄に堕ち入ったなら、もう再び浮かび上がることが出来ないと申しますが、そうですか。」
「そんな事はない。改心さえすれば、必ず向上してくる。」
「どういうことが改心でございますか。」
「神を信じ、神をみとめ、神に従うことだ。
他力の中の自力である事を知ること事だ。
一切のもののために、相応の奉仕をすることが、真の生活である事を悟ることだ。
天国的の人と地獄的な人とは、より奉仕的であるか、より利己的であるかによって分かれる。」