思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』凄いし面白い!

2020-06-24 14:51:59 | 日記
米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』
第33回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

なにはともあれ、読むと良いです!
凄い!面白い!且つ勉強になる!!

作者の少女時代の振り返りと、
30数年を経た学友たちの今昔を描いています。

そもそも、米原万理さんの境遇が稀有!

9歳から14歳までの多感な少女時代、
大戦後間もない政情不安な1960年から1964年までを
プラハにあった「ソビエト学校」で過ごしたといいます。

この学校はプラハにありつつ、ソ連派遣の教師によるソビエト式小・中学校で、
50か国もの国の共産党幹部の子弟・子女が在籍していたと言います。
解説でも書かれていますが、親や祖国の政治的立場の
影響を(良くも悪くも)受けざるを得ない子どもたちが
集まっている学校ということです。

そこで出会った3人の友人を軸にした、
少女時代と、大人になってから。

ギリシア人のリッツァ。
ルーマニア人のアーニャ。
ユーゴスラビア人のヤスミンカ。

それぞれに複雑な国際事情・民族的事情を持ちつつ
少女らしい友達関係を築いています。
作者の米原さんは1968年に起きた「プラハの春」の直前に
父親の仕事の都合で日本に帰国。
言い換えれば、チェコに残っていた学友たちは
「プラハの春」とその後に翻弄されたということでもある。

「プラハの春」を戦車で押しつぶしたソ連は1991年に崩壊。
ルーマニアでは共産の皮をかぶった独裁政権の
チャウシェスクは1989年に転覆、
ユーゴスラビアは1991年から2000年にかけて紛争の泥沼化。
30年を経て訪ねた友人たち。

作者の稀有な境遇でないと書けないし、
これだけの筆力と広い視野を持った作者でなければ
書けなかったであろう一冊です。

必読!
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皆川博子『倒立する塔の殺人』

2020-06-22 16:36:45 | 日記
戦時中のミッションスクールに通う女学生の物語。
皆川博子『倒立する塔の殺人』、読了です。

お嬢様学校という独特な場での
優雅で隠微な雰囲気がありつつ、
舞台は1945年である。

敗戦直前、東京は空爆に曝されて焼け野原。
主人公で庶民代表みたいなベー様も、
その友人で医者の娘である小枝(さえだ)も、
戦禍で母も弟妹も、友人も、亡くしている。

そんな中で遭遇した「不可解な死」の真相を突き止めたい
って言われても…と思いそうなもんだけど、
意外とぐいぐい引っ張られて読めます。

ところでこの時代の女学校での下級生とお姉さまの
「エス」(シスターのSという意味らしい)文化の話し、
最近、何かでも読んだ気がするぞ…。

多分『オーブランの少女たち』の一編ではなかったろうか。
(調べたら『片想い』という短編だった。それそれ!
 お約束ですが、読んだ端から忘れてましたよ!やばいね。
 オーブランはなかなか面白い短編集です)

ちなみにあとがきは三浦しをん。
そういえばこういう女学校雰囲気モノを初期に書いていたな…。
なんだっけ…。
(調べたら『秘密の花園』だった。それそれ!
 主人公の名前が那由多(数の単位)ということは覚えてましたよ!
 他は忘れてたけど)

ついでに、どうでもいいですが、こういう女学校設定なら
川原泉の『笑う大天使』が一番好きです。漫画だけど。

『倒立する塔の殺人』初版は2007年。
皆川博子御大は77歳かな?やっぱ凄い人だな!

しかもヤングアダルト文庫での刊行だったようです。
有名な絵画や画家、海外小説などのネタが
ふんだんに盛り込まれていたので、
読書好きの10代には良い影響を与えるかもしれません。

いやいや、シーレとか、『屋根裏の散歩者』とか、
バルビュスの『地獄』とか(読んでないけど)、
だいぶハイブローじゃないですかね。
まあ、作中で読書家の少女も「早すぎる本ってないと思う」と
言ってますし、いいか。
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原尞『そして夜は甦る』 ハードボイルド!

2020-06-19 09:37:39 | 日記
寡作で有名な原尞のデビュー作『そして夜は甦る』です。
そういえば読んでなかったな、と思って。
著者の代表作で、ハードボイルドミステリの王道<沢崎シリーズ>の
第1作目でもあります。

このデビュー作からして、
めちゃくちゃチャンドラーを意識しているなあ、
という感想ですが、まあ、本人がそのように公言しているのだから
読者が指摘することではないかもしれません。

最新作『それまでの明日』(2018)で50歳になっていた沢崎も、
デビュー当時(1988)はまだ40歳!

…あれ?
意外とデビュー当時から良いお年だったのね。
マーロウの方が全然若いじゃないですか。

内容は、ハードボイルドミステリの王道と言って良い感じ。
名無しの若者が「佐伯」なる人物を訪ねてくるが
探偵事務所にそんな人間は来ていない。
と思ったら今度は資産家の代理弁護士からも「佐伯」に関する
問い合わせがあって。

という良い感じの「謎」で始まりつつ、
ハードボイルド沢崎は自分の哲学に則って
言わなくいいこと言うし、話しときゃいいこと話さないので
事件も進んだり進まなかったりする、
お手本のようなハードボイルドミステリです。
(念のために補足すると、褒めてます)

最後の諏訪くんとの会話は
『長いお別れ』のラストを彷彿とさせますね。
良いと思います!

シリーズ最新刊を読んでから第1作を読んだので、
橋爪と錦織と沢崎に関しては、
お前ら10年以上同じ会話してんだな!もうちょっと大人になれ!
と言いたい。

ちなみに第2作目の『私が殺した少女』
直木賞を受賞(1989)。
ミステリ部分もよくできていて、おすすめ。
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【読書メモ】2013年4月③ 『パラレル』

2020-06-18 14:05:39 | 【読書メモ】2013年
<読書メモ 2013年4月③>
カッコ内は、2020年現在の補足コメントです。


『パラレル』長嶋有
ゲームクリエーターの「僕」の造形が良かった。
小さなエピソードや物の考え方もぐっときた。

(長嶋有の初長篇作品です。
 って、あれ?そうだっけ?
 言われてみれば『サイドカーに犬』とか
 『ジャージの二人』とか、中短編だったか?
 というくらい、初長編のイメージがなかったですが。

 失業して離婚して30代半ばにもなっちゃって、
 という「僕」の物語。
 主人公とパラレルな位置にいるのは、
 ベンチャー企業の社長で女好き派手好きの「津田」。

 主人公の「僕」は、飄々としているというか
 良くも悪くも脱力系というか、自己主張しないフリして
 自分の中に考察らしきものは持っている。
 そういうやつ。

 良い感じにパラレルです。
 すれ違いとは、ちょっと違うという平行線のふたり)
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【読書メモ】2013年4月② 『十三番目の陪審員』

2020-06-17 10:22:52 | 【読書メモ】2013年
<読書メモ 2013年4月②>
カッコ内は、2020年現在の補足コメントです。


『十三番目の陪審員』芦辺拓
面白いし読みやすくて一気に読めた。
が、陪審員が現場を見に行っちゃったとか、
やっぱりどうなんだろうと思う。
そこはマスコミにつつかれなかったということで良いのかしら。

(1998年刊行の作品で、
 「日本で陪審制が採用された」という設定のお話し。

 そう、出版当時は、“設定”だったんですよ…。
 現実に裁判員制度が可決されたのは2004年。
 2013年当時に私がこの小説を読んだ際は、
 架空設定のつもりが現実に、という状態。
 まあ、読書する分には関係ないですけど。

 あらすじとしては、
 「架空の事件」を捏造し、その「架空の犯人」を演じることで
 警察を冤罪に引っ掛けてルポ書いちゃうぞ〜。
 と思ったら案の定ですが、リアル殺人が!!!

 という、なかなか楽しそうじゃないか!という導入。
 法廷でのやりとりもスリリングで、最後まで楽しいですよ!

 タイトルでわかりますが、
 名作映画『十二人の怒れる男』リスペクト作品でもあります。

 個人的にはオマージュバトルなら
 三谷幸喜の『十二人の優しい日本人』が優勝ですが…、
 この『十三番目の陪審員』も面白かった!)
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