昨日はさわやかな秋晴れの、おだやかないい天気でした。
日中最高気温は19℃、午後、それより暑く感じられる時もありました。
写真は、葉が紅葉する過程が美しかったストックポート・タウンセンターのセント・ピーターズ・スクエアの木々、夏季限定だと思っていたゴボゴボ噴きあがる噴水(親子連れが水の間をキャーキャー言いながら駆け抜けていました)。
ぺコンとつぶれたビールのアルミ缶を持たされた、ストックポート選出の19世紀の国会議員、穀物法の撤廃に尽力した郷土の偉人、リチャード・コブデン像です。
話題は、さわやかでもおだやかでもない英国の首相の恐怖の噴飯スピーチに関してです。
水曜日の午前、与党、保守党の党大会が、マンチェスターで開催されました。
かつて労働党員だったバリバリ左派の夫(トニー・ブレア内閣のイラク派兵に抗議して脱党しています)と、午前11時開始のライブ演説中継を心待ちにしていました。
...が、夫は会場のマンチェスター・Gメックス前で開場を待つ保守党員がレポーターの質問に次々と答える場面を見て、発音が特権階級の子弟が通う(という)伝統私立校パブリックスクール風だとかこいつのエリートぶった服の着こなしが気にくわない...とか、いいがかりめいた悪態をつき始めました。そして肝心の首相のスピーチが始まっってすぐ、保守的なあらゆることに嫌気がさしたらしく、聞くのをやめてテレビの前を立ち去りました。
私はそのまま、座って聞きました。
私にはどうでもいい、イングランド南北を結ぶ超高速鉄道 第2ファーズ HS2(すでにロンドンと結ばれているバーミンガムからマンチェスターへ開通の最終段階)敷設を取りやめるという重大宣言のほか...まあ、いいことも言っていました。次世代の喫煙全面禁止案、若者の手に職をつけさせる案、超高速鉄道の代りに在来線やバス路線など市民生活に直結する公共交通機関の発展促進、女性に対する性犯罪や暴力には厳罰で対処する案...など。
最後のほうでドカンとぶちかましたのが教育に関する国辱発言、原文と私の意訳です☟
We shouldn’t get bullied into believing that people can be any sex they want to be. They can’t, a man is a man and a woman is a woman. That’s just common sense.”
私たち(教育を受ける子供たちの意)が、人は誰でもなりたい性になれると無理やり信じこまされるようなことがあってはなりません。人は誰でもなりたい性になれるなんてことはないんですから。男性は男性、女性は女性、これは常識です。
言葉遣いは決して攻撃的ではないけれど、民主主義国家である英国の首相リシ・スナクが堂々と、党大会で言ってのけた恐怖のヘイト発言。対象はトランス・ジェンダーの人々です。
常識って誰の常識だ?!
生まれた性と性自認が違う人の存在が常識外だと言いたいのですね。自分がそうでないから全否定、国家の元首たる人物の決定的な想像力の欠如の露呈!
前任者、ボリス・無能・ジョンソン首相のウンコぶりも大したものでしたが、ふてぶてしい容貌で感じ悪さ全開のジョンソンが非常識なことを言ってのけても、「そんなキャラクター」として受け流すことも可能でした。
スナクのこの発言は、特定の人々(トランス・ジェンダー)の存在への攻撃です。ジョンソンのバカ発言とは悪辣度のレベルが違います。
若々しい行動力、さわやかな笑顔、やさしいパパ、愛妻家のイメージで国民を魅了し続けたリシ・スナクが本性を現したと言ってよいでしょう。
言いたくないのですが、移民の子孫(非白人)であることも一定の人たちを特にひきつける重要な要素だったはずです。
「移民の子孫の自分が首相になれて、しかもそれが特別なことでも何でもないこの国を誇りに思う」と数十分前に発言し聴衆をむせび泣かせて会場を沸かせたスナクが、どの口で言う!?
白人優位の英国社会にインドから移民してきたスナクの祖父は当時、完全に少数派で、理不尽な待遇も受けたはずです。国会議員になった孫のスナクを誇りに思って亡くなったというそんな移民一世のおじいちゃんに対して恥ずかしくないのか?!
スナクの祖父は自分たちがもう無力な少数派ではない英国社会の変化がうれしかったはずです。
移民の子孫を異端視することがない現在の英国で、今や国政の最高の地位についた彼が自分とは違う少数派を異端視する正当性はあるのか?
絶対にありません!
移民の子孫であることを誇りに思う資格はない、スナク!
ご存知の通り、私の娘は男の子として生まれたトランスジェンダー女性です。(正式な登録はまだすんでいません)家族がヘイト対象だから躍起になっているのではありません。
トランスジェンダーに限らず、少数派の存在を異端視したり常識外認定することが民主主義国家では許されることではないと主張しているのです。それを許せば、自分だってなにかの分野で攻撃対象の「少数派」になることだってあり得るのです。そういう私と私の子供たちは、すでにこの国では人種的少数者ですしっ!
質問です。性自認が生まれた時の性と違うのってそんなに大ごとですか?私は、自分の娘がそうだとわかるずっと前からそんな人がいてもぜーんぜん不思議ではない、と思ってきました。
男の子だと思っていた自分の子供が「実は自分は女の子だ」と打ち明けてくれた時、思い当たることもありましたし、受け入れることに少しもためらいはありませんでした。実は女の子がずっと欲しかったことを思い出しましたし。
スナクのかわいい娘二人がトランスジェンダーだったりしたらどうなるのか気になるところです。(受け入れられないないとしたら気の毒なことだ!)
問題はもうひとつあります。
その日1日中、テレビのニュースではスナクの党大会演説の件でもちきりでした。
論点は、マンチェスターからロンドンに行く時間が1時間短縮されたって、ロンドンに用事がない私には本当にどうでもいい、もっぱら超高速鉄道の敷設中止の件でした(過去2世紀間にわたって、経済的にロンドンに従属させられてきたイングランド北部の産業にとってはどうでもいいことではないようですが)。あと、税制とか国家医療従事者のスト権とか...
テレビの報道では首相のヘイト発言がほとんど取り上げられないのはなぜでしょうか。平日の午前中のライブ中継です。働いている人は聞いてなかったでしょうね。
インターネットで検索すると、もちろんLGBT(性的少数者)のコミュニティが大さわぎをしているのがわかります。でも、LGBT 当事者ではない人たちにはあまり知られていないとか?だったら、たいへんです。
演説そのものを聞き逃した夫は「ほんとにそんなこと言ったのか、ニュースで言っていないじゃないか」と私がきき間違いをしたかのようなことを言いました。
YouTubeでいくつも上がってきている、スピーチの問題発言部分のビデオを大音量でプレイして納得させました。
「あなたたちの首相がこれ、言ったのよ。大さわぎしなさいよ」と当事者の娘も呼びつけて焚きつけました。二人ともキタナイ言葉をいっぱい使って反応してくれました。
翌日と金曜日あたりから、やっとボツボツと各国の反応がオンライン・ニュースで発信され始めました。
だけど、テレビのニュースでは、まだほとんど何も言ってません...
...日本では、「男性は男性、女性は女性、これは常識です」発言に関する報道は皆無...??なようですね。それどころか、喫煙違法化に関する部分のスピーチを紹介したビデオに、スナクの勇気と行動力を讃え、日本にもこんな政治家が必要だ!なんてコメントがいーっぱいついています。
だ、ま、さ、れ、な、い、で!
スナクは「賭け」に出たんですね。
多くの保守派が思っていても口にできない「正論」をあえて口に出すことによって、「僕はポリティカル・コレクトネスにビクビクして『正論』すら口に出せないへなちょこ政治家とは違います」ってアピールでしょうね。姑息です。
果敢な言論者でも何でもない差別主義発言者です。
大会で聴衆は喝さいしていましたし「よく言った!」「言ってくれてありがとう!」と言ったコメントがYouTubeビデオにたくさん寄せられています。
トランスジェンダーがいたら、そんなにダメですか?
トランスジェンダーのみならず、「これは常識」と少数派を攻撃してもオッケーな風潮が世の中に広がって行かないか心配です。