イングランド北東部の有名な観光地、ウィットビー Whitby 、続きです。(5回目)
今回は、雨ふりの日のお楽しみ、美術館と博物館見学。
ウィットビー・アビーがたつ丘と「オールド・タウン」のあるエスク川東岸ではなく、砂浜の海岸のある比較的新しい(と言っても18世紀の開発ですが)西岸の なだらかな丘の住宅地の中に、パネット・パーク Panett Park というきれいな公園があります。
私たちが滞在した、海岸そばのベッド&ブレックファーストから川岸の街なかに出るのに毎日その横を通りました。
美術館 Panett Art Gallery と、博物館 Whitby Museum はこの、坂だらけの公園の中の一番高い位置にあります。
実は、外観の写真を撮るのを忘れました!!ウェッブサイトの観光ページから勝手に上の写真を拝借しました。
公園内の美しいらしい庭園は残念、見る機会がありませんでした。(雨の日だったものですから)
建物を入ってすぐの美術館をまず見学。地元アーティストに特化した展示はほほ笑ましく入館無料で雨宿りにはもってこい。とは言え、時間つぶしにもうちょっと見るものが欲しかったので...奥にあるウィットビー博物館 Whitby Museum に入館しました。
驚いたことに、1人£7-00(1,273円) の高額の入館料を取るのです。1回払えば向こう1年、何回でも入館可能な「年会費」(!)だそうです。
英国の多くの博物館は、観光地の地元の郷土史博物館であれ、大学など研究機関の付属であれ、入館無料料が一般的です。特にこのような「マジメ」そうな学術資料を擁する地元博物館では、取ってもせいぜい...2ポンドぐらいが相場ではないでしょうか。
また戻ってくるとは考えにくい観光客を相手に、「年会費」とはちょっとボッタクリ気味な請求ですが、「寄付」と割り切って払いました。
なかなか見ごたえのある展示でしたよ!(ちなみに入館無料の美術館は公営だそうですが、博物館は地元の文化財団のような団体が経営する私営だそうです)
前回お見せした、「地元の名士(?)ドラキュラ伯に扮した立つワ二」の写真をもういちど。
...ひじょうに貴重な太古の生物学的資料らしい、ワニの化石と比較したかったものですから。
恐竜や化石が大好きな夫が夢中になりました。
入館してよかったと言えるでしょう。期待どうりの展示です。ウィットビーは実は海岸と川岸を掘れば掘るだけ、ザックザックと化石が採集できる地として世界的に有名だそうですから。特に、アンモナイト ammonite。
ウィットビー・アビーの創始者で英国でのキリスト教布教に大きく貢献した聖ヒルダは邪悪なヘビをみんな石に変えてしまったという言い伝えがあるそうです。
ウィットビーの海岸に面した崖に「スネーク・ストーン」がいっぱい詰まっているのはそのためだそうです。アンモナイトの化石にヘビの顔を彫った中世の巡礼記念のお土産モノが展示されていました。
ちなみに、私たちも海岸や川岸をちょこちょこほじくってみましたがそれらしいものは全く見つかりませんでした!
化石堀りには潮の満ち引きを見極めるなど、コツがあるようです。驚いたことに違法ではありません。
オールドタウンには化石店がありました。20年ほど前、小さかった息子にサメの骨の化石を買ってやったおぼえがあります。
アンモナイトの化石はガラクタ骨とう品店やお土産物店で、「どれでもひとつ5ポンド箱」入りでガラガラと売られていました(買わなかったことが悔やまれます。ウェッブ販売でウィットビー発掘のアンモナイトを夫にクリスマスプレゼントに買おうかと今、思っています)
町の川岸の広場のアンモナイト型ベンチ☟
ウィットビーの市の紋章のモチーフは波と聖ヒルダ伝説のヘビ!
地元のプロ・サッカーチームの紋章は同じ構図のアンモナイトが三つ。博物館に展示がありました。アンモナイトは町のアイデンティティであり、観光資源でもあるのでした。
そして、太古の炭化した木の化石であるジェット jet (黒玉 コクギョク)、これもウィットビーの有名な特産品です。
19世紀にヴィクトリア女王が、夫君アルバートの死後、服喪のために常に身に着けていたというジェットのネックレスもウィットビー産だそうです。
貴石ですよ、これ☟はものすごく豪華ではありませんか?!ジェットの一枚岩(!)に細工をして本物の切って磨いたアンモナイトの化石が象嵌されたチェス盤です。
オールドタウンのチャーチ・ストリートにはたくさんのジェット工芸店がありました。
何も買わなくて申し訳なかったのですが、写真右側手前の Ebor という手工芸のジェットの装飾品を作って販売しているお店で、いろいろ教えてもらいました。(ジェットの一点ものアクセサリーを買うならおススメの店です)
例えば...
店の脇の、川岸にでる小道をおりたところにある...
小さな川岸が彼のジェット採集所であるという大変な企業秘密(!)やジェットと、流木として流れ着いた木炭の見分け方などていねいに教えてくれました。
夫が「見つけた!」と言って拾って店に持ち込んだ黒い塊は角が取れてツルツルになった古い木炭でした。
博物館のウィットビー産ジェットの工芸品に関する展示は、飽きるほどの量でした。
古いモノにはおままごとセットやメダルなど、表面に細かい細工を施した装飾品が多いようですね。
チャーチ・ストリート Church Street のいくつものジェット工芸店で売られていた現在流行のスタイルはシンプルに磨いただけの小さな石に凝ったデザインのシルバーのくみあわせが多かったように思います。
私もアンモナイトとジェットに関する展示は熱心に見ましたが、もっぱら関心はグロ物件、いえいえ、生活史と言うか地元の民族学というか...
Hand of Glory という、絞首刑で刑死した罪人がまだ首吊り台からぶら下がっている間に切断した手のミイラ!
下の鏡に写った、手のひらの静脈にピントが合っています。
名前の由来やら民間伝承やらを含むとても長ーい説明の重要な部分だけ紹介すると...ドロボウが夜間に家宅侵入する際、指先に灯をともすと住人はドロボウ作業が終了するまで目を覚まさないという後利益がある、ありがたい「おまじない物」です。
ヨーロッパ中世以来の黒魔術とかかわりがあるそうです。ハリー・ポッターのライバル、ドラコ・マルフォイが持っていたということで評判になった人気の展示物だそうです。(映画を見たはずですが、そんな設定は思い出せません)
19世紀末に古い家を買った人が扉の上の横木からつるされていたのを発見、お守りとして大事に持っていたものの、死後託された人が1931年に博物館に寄付した...とあります。
それと、これ、首吊りペンダント!
公開処刑が民間の娯楽だったころ、見物者が争って買ったという見物記念のペンダントだそうです。年代は書かれていませんでした。500円硬貨ぐらいの大きさで、本物(と言うふれこみ)の首吊り縄の繊維がちょこっとだけ入っています!
ガラスのケースは球面になっていて、拡大効果があります。これを身に着けていると咽喉系の病気が治る効果があったそうです!!!
夫は18世紀の歯医者の仕事道具セットと歯を抜いている場面の怖ろしい図解に興味を示していました。
とにかく...
昔ながらの展示方法で、古い木製の展示ケースにごちゃごちゃと1日、2日では決して見終わらない雑多な展示物がていねいに分類されて広い館内にズラーッと並んでいるのです。
思いっきりショボい「衣装」展示と、充実した「海事」展示が印象的でした。
近頃は、「インタラクティブ」というか、見せ方に工夫した博物館が多いですね。テーマごとに展示品を動かして、ユニークな組み合わせの展示をしたり、コンピューターグラフィックを駆使したり...入館者の関心をひく工夫がいっぱいです。
その点、このウィットビー博物館は、何の工夫もなく、展示ケースと紙にタイプされた説明のみの19世紀から変わらない展示方法なのが何ともレトロで...気に入りました!
展示台の下のゴロゴロした石も何かの考古学資料だと思うのですが、説明が見当たりませんでした。
ジャーンってかんじでカーテンをひけば現れる、まばゆいサンゴのコレクションの展示!
インターネットやテレビはもちろん、カラー写真もなかった時代、博物館や美術館、動物園などで実物を見るしかなかった昔の人はさぞ、びっくりしてありがたがったことでしょう。
開館は1930年だそうです。
「民俗学」のコーナーで、大きなガラスケースにごちゃごちゃまとめられていた「極東の遺物」の中には、日本の戊辰戦争(明治維新)の頃のような陣羽織や塗り笠が中国の陶器や塗り物やなぜかシルクロード風の布工芸品といっしょに展示されていました。説明はほとんどありません。
モンゴル風のどてらに「日本」と書かれていたのはともかく、真ん中に盛り上がった一点鼻緒のある子供用のサンダル(東欧風のペイントがしてありました)に「日本の習慣である纏足をした女性の履物、19世紀」と書かれていたのには、入場券を売っていた女性に抗議しました。
纏足は日本の習慣ではないことと、第一、纏足で内側に折り曲げられた足指で「鼻緒」をはさめるわけがないでしょう?!と。
とても感じのいい受付の女性は私のいうことをていねいにメモに取り、学芸員に伝えると約束してくれました。たぶん、戦前に家にあったガラクタを持て余して寄付した人は実際に極東を何十年も前に旅行してお土産物を買いまわった故人の子供や孫だったのでしょうね。訳も分からず寄付されたものをリサーチもしないで展示したものと思われます。(それも言ってやりました)
その女性は、戦前からずっと展示していた英国の古い農具の説明が、最近、来館者によって大間違いだと指摘されたいきさつと、その間違い説明と訂正した説明をどちらも掲示している展示ケースに案内してくれました。
来館者のアドヴァイスは大歓迎だそうです。正直で気に入りました。
よくある、古そうな指さし案内板です。
パネット・パークの外壁に、「博物館と美術館(の入り口)はこちら」と案内しているこの指が、ミイラみたいで気持ち悪いですよね。
入館して判明。名物展示物の「ハンド・オブ・グローリー」のパロディ表示みたいです。(ですよね?)