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酔いどれの誇りと踊る熊へ

志賀直哉の短編「剃刀」に鳥肌

2018-12-24 16:13:09 | 読書感想
ストーリーはざっとこうだ。

芳三郎は麻布六本木の床屋の親方。

先代の親方が自分の娘を配して跡継ぎにしたくらい一流だ。

とくに顔剃りの腕前。

「癇が強い」性格は完璧な仕事ぶりに現れている。

妥協を許さない性分が今日まで顧客の顔を一度も傷付けずにこさせた。

しかし自分に厳しく他人にも厳しい性格にかつての仲間は離れていき

おそらく弟子の定着も悪いのだろうなかなか育たない。

すべて自分でやってきたが秋季皇霊祭前の繁忙期に重い風邪に罹ってしまう。

ぶっ倒れてしまう。

当然店も回らない。

芳三郎の腕を見込んでお得意さまから仕事が入ってくる。

店を閉めろという女房の声も聞かない。

精神的にも追い詰められとうとう震える手を騙しだまし使って砥ぎの作業をする。

だがいつもの切れが出ていない刃を顧客からやり直せと突き返されてしまう。

半分気を失う様に眠っていたが無理を押して砥ぎ直す。上手くいかない。震える。

イライラ…イライラ…イライラ…

そこに運悪く粋がった若造が突然来店。

やめろと言う妻の注意に耳も貸さず顏剃りの注文に応じた芳三郎。

手も震えて思い通りにならない自分自身というよりもその若者に苛立ちを

向けていた矢先とうとう手もとが狂って…

緊張の糸がぷっつり切れた芳三郎は…



(;一_一)どうですか?

これ純文学ですよ。文学の神様が書いた。

ぼくの駄文ではとうてい伝わらんでしょう。

そうなんです。

志賀直哉はこの10ページ前後の短編で


人間の持つ闇を見せてくれるのです。

悪人じゃないのです。普通の市井の人間のです。

でも凡百のスプラッター映画より血糊を浴びるでしょう。

髭一本の剃り残しだって許さないし剃り跡もツルツルでヒリヒリしない一流の職人。


でも一流の経営者ではない。

一つのミスも許さない妥協できない人間に組織の人間はついていけない。

癇癪持ちの破滅の経緯を静かな冷たい文章で読ませるのです。

志賀直哉は「和解」でも「城の崎にて」でも他のものでも「死の匂い」が漂う。


口語文体の一つの完成形ともいうくらい完璧主義の小説家と芳三郎がシンクロするのです。


こんなヒリヒリする小説を

一人部屋でフライドチキンとサッポロ黒ラベルをやりながら読むんです。

世間様がイベントで大盛り上がりしているこの日をねらって。













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