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「闘蛇増えれば、国広がり、人おのづから増える。これぞ崩壊の始まりと祖父は言ふ。獣の群れには、それぞれ似合いの規模あり。雄は互いに争い、雌を連れて群れを分かつ。弱き雄は雌を得られず、子をなせず、群れの数はみごとに保たれる。その均衡は破れ、増え過ぎたるときは、病流行り、あるいは争い起き、悲惨なること、あまた起こる。これ天然の理なりと言ふ。
人、獣より知恵あり、と我言へば、祖父笑ふ。
天然の理を越えたる大きな群れを、災い起こさず治め得る知恵など、いまだ人は持たず。哀しきかな!と。
祖父の言葉、我が胸に沁みる。
小さな群れの貧しき平和 大きな群れの諍い多き豊かさ。
我、常にこの言葉を胸に刻みおき、闘蛇の数を我が手の内にとどめおかむ・・・・」