by森博嗣
人と人との関係は、必ずその場その場で必ず釣り合っている。貸し借りというものはない。世話になったと感じていても、世話をしてくれた方も満足して世話をしている。勝負でも同じこと。
負けたと感じていても、勝った方も必ず同様に悔いている。だから、あとになって返そうなどと考えるものではない」
納得のいかない考え方だった。子は親に借りがある。育ててもらった借りがある。それは大人になるまで返せないのではないか。また老いた者の面倒を見ることは、そういった借りを返す心がなければできないのではないか。
貸し借りがないのならば、人の義理の大半が消えてしまうように思えた。否、今でも自分はそう考えている。