(新潮文庫より)
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名言
「 努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じ合うことだ。」
「ぼくが、自分の思い出の中に、長い嬉しい後味を残していった人々を探すとき、生きがいを感じた時間の目録を作るとき、見いだすものはどれもみな千万金でも絶対に購いえなかったものばかりだ。何人も購うことはできない、一人のメルモスのような男の友情も、相携えて艱難を凌ぐことによって永久に結ばれたある僚友の友情も。
あの飛行の夜とその千万の星々、あの清潔な気持、あのしばし絶対力は、いずれも金では購いえない。
難航のあとの、世界のあの新しい姿、木々も、花々も、微笑も、すべて夜明け方ようやく僕らが取り戻した生命にみずみずしく色づいているではないか。この些細なものの合奏が僕らの労苦に報いてくれるのだが、しかもそれは黄金のよく購うところではない。
そしてまた、いま思い出にのぼってくる、不帰順族の領域内で過ごした、あの一夜にしても」(p42)
「僕らの邂逅は全かったのだ。長い年月、人は肩を並べて同じ道を行くけれど、てんでに持ち前の沈黙の中に閉じこもったり、よしまた話はあっても、それがなんの感激もない言葉だったりする。ところが、いったん危険に直面する、するとたちまち、人はお互いにしっかりと肩を組み合う。人は発見する。お互いに発見する。おたがいにある一つの協同体の一員だと。他人の心を発見することによって、人は自らを豊富にする。人はなごやかに笑いながら、お互いに顔をみあう。そのとき、人は似ている、海の広大なのに驚く開放された囚人に。」(p44)