R子さんへ
突然会えなくなって、11年が経ちますね。
天国で笑って過ごしていてくれるといいなあと思いながら、あまり笑うことの得意でなかったあなたの、思慮深い横顔を思い出しています。
この11年で、私の生活は大きく変わりました。
生活、というか、目ざす方向というか。
あなたが逝ってしまって、私は校正の仕事を辞めました。
家を売却し、カウンセラーの養成所に通い、通信制大学にも入学しました(後に無事、卒業)。
すべてがあなたのためではなかったし、たまたま大きな流れの中にいたのかもしれないけれど、あの年は私の人生の中で、かつてない、そしてこれからもないだろうと思うほどの変化の年でした。
夫が亡くなった時も勿論、大きな変化はあった。でも、それは、流れに巻き込まれるまま、なすすべもなく、ただ揉みくちゃになりながら流れていった、そんな自分であったと思います。
あなたを失って、それからの私は、勿論、打ちひしがれ泣いて立ち上がれない時期もあったけれど、揉みくちゃに流れていくのではなく、少しずつ、「泳ぐ」私になっていったように思います。
あなたとの別れがなければ、私は今も校正の仕事をしていたでしょう。
自分の人生の中で、大きく舵を切ることはなかったかもしれない。
夫を失いあなたを失い、私は立ち止まり、そして泳ぎながら、自分の道を選び取ってきました。
カウンセリングを学び、心理学を学び、それでも欲しい答えは見つからないけれど、追い求めながら、私は今、新しい仕事をしています。
あなたはつねづね、自分のことを発達障害だと言っていたよね。
診断は付いていなかったと思うけど、よくそう口にしていた。
私は一時なりたかった臨床心理の専門家にはなれなかった、というか、そっちに本当に行きたいのかなと立ち止まった時、それは違うかもと思って、選ばなかったんだと思う。
今、あなたが言ってた発達障害、そういう特性のある子どもたちと過ごしているよ。
ここへ私を連れてきたのはR子さんだと思っている。
あなたを忘れないよ。
ここに私がいるのは、あなたがくれた道標のおかげだからね。
ありがとう。