茨城県近代美術館は、小川芋銭とされる作品を多く所蔵している。
しかし、そうした作品に画賛があっても、今日ではそれを敬遠して読む人が少ないので、かつて私が読んでメモした同館蔵における作品の画賛等を以下に掲げておく。
中には読み間違いがあるかもしれないが、それは順次訂正していきたい。
字体は読みやすいように旧漢字を改めたものもあり、変体仮名は濁点を加えて読んでいる場合もある。
なお、括弧内に「読み有り」と表記してあるのは、同館の過去の研究で既に読まれている画賛であり、館内での作品解説キャプション等で確実な情報が得られるであろうから、ここでは省略した。
ここに掲げた作品の中には作品自体の帰属や制作年に再検討を要する作品があるかもしれないが、ここではそれは問題にせず、そこに書いてある画賛をともかく読んでみることにした。
こうして見ていくと、難しそうに思える同館蔵の彼の作品は、意外にも画賛が全く無かったり、あっても意外に短いものが多いことに気づくだろう。
(時に長い画賛のある作品や字数の多い書作品に近い作品もあるにはあるが、これらは漢詩や様々な古典籍など、出典が明確なものが多い。)
また、様々な芋銭関連本の図版などを比較対照することによって、他の類似作品にも同じような画賛があることに気づかれる人もいるだろう。
いったい、これらの作品は互いにどのような関係になっているのだろう?
実に解明すべき謎はまだまだ多いのであるが、先ずはここに掲げている作品を確認し、その画賛を読んでみることにより、重要な問題点に近づくことができるかもしれない。
以下、<作品名/画賛等(備考)/制作年>の順に掲げる。
断琴の夕(読み有り)明治37年
隠家(読み有り)明治37年
廻国行路(画賛無し)明治39年頃
羊/馬鈴薯は喰らふべからず羊毛は織るべからずと云ふ人あらんや 芋銭人 明治40年頃
糸瓜と狗子(画賛無し)明治43年頃
雷神(画賛無し)明治43年頃
長茄子と雛(画賛無し)明治43年頃
肉案/萬象森羅隻手中 芋銭癡 大正 6年
斬猫(画賛無し)大正 6年~7年頃
水草絵巻(読み有り)大正 7年
雪女/天機無線可通針 大正末期
大日本史食貨志/夫国以民為本 政在養民 故食以厚其生貨以利其用 然後施以正徳之教 使之知相生相養之道 風俗之所以淳厚 国力之所以強盛 莫不皆由于此也 大日本食貨志 芋銭子書画 大正10年頃
於那羅合戦下絵/昔日の鳥羽絵に物されたるかち画の様を今の世に目のあたり見る奇しき風俗ありけり 所は越後新潟の町に程近き里に年々放屁の競技会と云ふものあり 彼のベースボールなんどの如く夫々選手も定まりて其数百余りとなん いざ競技の場となれば勇士は尻に万力込めひりはなつ 其音ブウブウボツボツとして臭気百里の外に渡り黄なる霧野山を篭め凄じなんと云ふ計りなしとぞ こは予が目のあたり見しにはあらねど此巻の頼主が偽りならぬ物語を其儘画に起して後の笑草となすものなりけらし 越後客中 辛酉仲秋 芋銭子 大正10年
肉案/一円通 大正11年頃
黄初平(画賛無し)大正12年
水魅戯/癸亥臘月於沼畔之艸舎 大正12年
花咲爺/久方の天の原より春立ちて枯木の枝も花咲の翁が抱く篭の灰はいにはあらぬ葉那の雲むらむらとたちのぼれば妙香彩華天地に満ち遠近(をちこち)聞ゆる谷万槌見神(やまつみのかみ)の業があら不思議金殿玉閣夢の間に聳へたち再興る東の吾嬬の都の千秋万歳めでたき世春をば哥ひける 劫餘甲子吉春 芋の屋月麿識す 芋銭子筆 大正13年
月輪穿沼/月輪穿沼 大正14年
夢中野干燈/夢中所見水上野干燈 大正14年
安計呂の夢/阿計呂山中流転之夢山姨是為誰 大正14年頃
丁卯清平/丁卯清平 大正15年
千金方著述/千金方著述之図 高安国手清鑒 大正15年
観世音(画賛無し)宇筌子写 昭和 初期
老子(画賛無し)昭和 3年頃
寒巌二公(読み有り)昭和 4年
止水(画賛無し)昭和 4年
狐隊行/湖畔狐隊行 昭和 5年
閑古鳥(春)/下総の四国めぐりや閑古鳥 昭和 5年頃
蛍(夏)/捥白やしばられながらよぶほたる 昭和 5年頃
名月(秋)/名月の御覧の通りくず屋哉 昭和 5年頃
雪五尺(冬)/これがまあ遂の住家か雪五尺 昭和 5年頃
天下第一峯/天下第一峯 昭和 5年頃
まくら/香露吹焔紅蓮花雪裏片々紫牡丹凹凸煩悩即菩提両頭八手是仏身 芋銭酔夫並題 昭和 5年頃
猛虎(類似画像作品他に有り)昭和 5-6年頃
河伯(親子)/閑雲悠々 昭和 6年頃
河伯(画賛無し) 昭和 6年
大聖不動尊(画賛無し)昭和 6年頃
二公子(読み有り)昭和 7年
桃花源(読み有り)昭和 7年
海島秋来/海島秋来 昭和 7年9月
魚雨/刀河飆風魚雨之図 昭和7年頃
祭魚/千年古沼漁夫不知年 昭和 7年頃
祭魚/不及人間獺活計乍学魚龍食噉之闘 昭和 7年頃
四季四俳仙・蕪村句/公達に狐ばけたり宵の春 昭和 7年頃
四季四俳仙・芭蕉句/涼しさや岩にしみいる蝉の声 昭和 7年頃
四季四俳仙・一茶句/これがまあ遂の住家か雪五尺 昭和 7年頃
四季四俳仙・鬼貫句/によつほりと秋の空なる冨士の山 昭和 7年頃
若葉と水蒸気/若葉と水蒸気 昭和 7年頃
雲樹浄麗/雲樹浄麗 昭和 8年
龍巻/昭和八年秋九月銚子海上飆風起矣海潮騰数丈捲雲長垂恰似龍尾拂水面 昭和 8年
浮巣/とつくにハ みつくさ きよし ことしけき みやこの雲地は すまぬまされり 玄賓 昭和 8年頃
二公/従来是拾得 不是偶然称 別無親眷属 寒山是我兄 両人心相似 誰能徇俗情 若問年多少 黄河幾度清 昭和 8-9年
魚雨/昭和癸酉九月北総刀河之畔魚雨降多童子抃喜捕鱗図 芋銭子 昭和 8年頃
水村童子/童子魚鳥伴侶春日童子伴侶 昭和 8年頃
水国十二橋(画賛無し)昭和 8年頃
十二橋(画賛無し)昭和 9年頃
江村楽民/江村有福有歳多 昭和 9年
春日遅々(魚鳥と童子)童子与魚鳥春日遅々 昭和 9年
山悠々/山悠々水悠々 昭和 9年
早夏/早夏草木長 昭和 9年
秋光/雲山秋光 昭和 9年
嶽下千山雨/嶽下千山雨 昭和 9年
霞ケ浦(読み有り) 昭和10年
桃源/桃源夢美 昭和10年
園林三月/園林三月景詩酒百年身 昭和10年
芙蓉群峯(画賛無し) 昭和10年
六月の桜(奥の細道)(読み有り)昭和10年
落葉と小鳥/野晒しを心に風の入む身かな 芋 昭和10年
江村六月、雲巒烟水(読み有り)昭和10年
萬萬歳/萬萬歳 昭和10年頃
野渡春雨/野渡春雨之情 昭和10年頃
瓜小屋/小屋の月 昭和10年頃
河伯言(読み有り)昭和10年頃
眼食帖(12帖)(読み有り)昭和10年頃
水村七夕/二星昨宵会 昭和10年頃
二仙/重巌我卜居 鳥道絶人跡 庭際何所有 白雲抱幽石 住茲凡幾年 屡見春冬易 寄語鐘鼎家 虚名定無益 芋銭子 昭和10年頃
河童(画賛無し)昭和11年
緑雨/時雨濛々瑞穂緑潤 昭和11年
春野/麗日草木薫昭和11年頃
牧牛/飲牛山下渓 騎牛山上路 但知騎牛楽 不見牧牛苦 一笛倚風吹 有声無曲譜 日暮帰去来 南山北山雨 芋銭子 昭和11年頃
春日春風/春日春風 昭和11年頃
野狐/玉掻頭 昭和11年頃
刀江無月雨/刀河夜雨 昭和11年頃
馬肥/荒野小春 昭和11年頃
只識磨古今/只識磨古今 昭和11年頃
田神祭/升平萬年瑞穂州 昭和11年頃
菟玖波仙郷/菟玖波仙郷 昭和11年頃
秋嶺明浄粧/秋嶺明麗粧 昭和11年頃
暁霧/暁霧風景如有如無 昭和11年頃
雨餘山村/雨餘山村 昭和11年頃
一陽来復/一陽来復冬至之野 昭和11年頃
無用大用/無用大用大祥 昭和11年頃
筑波春雲/波山春雲 昭和12年頃
河伯/ゆく水に文字かくよりもはかなきはおのが心をたのむなりけり 良寛歌抄 昭和11年頃
採蓴(画賛無し)昭和11年頃
軽雨一犂(読み有り)昭和11年頃
虎溪三笑/笑山笑渓千年万年 昭和12年
河童百図<三味線のけいこ>(読み有り)昭和12年
河童百図<因指見月>(読み有り)昭和12年
河童百図<岩になった河童>(読み有り)昭和12年
河童百図<水戸浦のカッパ>(読み有り)昭和12年
河童百図<カッパ虫>(読み有り)昭和12年
河童百図<白藤源太>(読み有り)昭和12年
河童百図<かっぱのまぼろし>(読み有り)昭和12年
揺動紅蓼花/揺動一灘紅蓼花 昭和12年
砂丘瓜圃/砂丘瓜圃 昭和12年
待鶏鳴/待鶏鳴林間諸宿鳥 昭和12年頃
早夏人馬之野/朝靄将放晴 昭和12年頃
潮来(読み有り) 昭和12年
芭蕉句意 居守/此秋は何にとしとる雲に鳥 昭和12年
翁面(読み有り)昭和12年
千鳥/清冷如虚雲 昭和12年
ほにほろ(読み有り)昭和12年
烟霧/煙霧濡衣 昭和12年
小六月(読み有り)昭和12年
天池の水(読み有り)昭和12年頃
万木黄/万木蕭々向夕黄 昭和12年
涼気流/野色江色涼気流 昭和12年
寿老(画賛無し)昭和12年
ちさつんで/稚苣 ちさつんで貧なる女機による 昭和12年
引舟/引舟の昔は長閑な小梅にて 昭和12年
時雨/はは木に時雨るる日 昭和12年
湖上迷樹(読み有り)昭和12年
湖上迷林(画稿)湖上迷林 昭和12年頃
水国寒/霜落蒹葭水国寒 昭和12年頃
山湖清風(画賛無し)昭和12年頃
河伯(読み有り)昭和12年頃
煙水/江鮮野菜桃花飯 長歌一曲煙靄深 芋銭子 昭和12年頃
湖村早梅/湖村早梅 昭和12年頃
水光接天/薫風吹緑天如水 昭和12年頃
春の風(四幅対の一)春の風目高と遊ぶ心かな 昭和12年頃
浮草(四幅対の一)浮草のうきくさの千年沼の水すみて 昭和12年頃
雲や秋(四幅対の一)雲や秋風の袋の行衛かな 昭和12年頃
時雨山(四幅対の一)残月の明らかにして時雨山 昭和12年頃
色紙帖/初午 初雷す草庵のいも角いだせ おお春春大なる春と云ふ 五月雨 雲の秋 時雨 昭和12~13年頃
涛/時鳥銚子は国の突ぱづれ 昭和12年頃
桃/米寿賀 昭和13年
おけさ節古調/恋の古悲の己非の鯉の瀧のぼり 不詳
画帖(→要調査)昭和13年頃?
二神乃御山詣/葉山茂山 不詳
暁鷄声/群鳥待暁鶏図 昭和3年
山色新/山色新 瞑想嘗甲州旅中 所見芙蓉図也 于時昭和三歳首 昭和3年
加東洲十二橋/伊太古 轉之萬乃 萬故毛農 奈可耳阿夜面 佐九東八 都遊四良須(いたこ でじまの まこもの なかにあやめ さくとは つゆしらず) 加東洲十二橋 芋銭子 昭和9年
春隣/沼澤 春隣 昭和9年
津久波山/筑波岳 黒雲挂 衣袖漬 国是也 昭和9年
長沙散歩(読み有り)昭和10年
老子像/谷神不死 是謂玄牝 玄牝門 是謂天地根 大正12年頃
草刈図/鋤禾日当午汗滴禾下土誰知盤中餐粒粒皆辛苦 芋銭子 大正13~15年頃
鬼之洗濯図/涼しい処だふんどしでも洗ふべえ 芋銭子 大正13~15年頃
三万六千日/一身為軽舟 春寒野陰風景暮 三万六千日悠悠 芋銭子 昭和3年頃
春風秋月/光陰石中火 細観自然皆自得 春風秋月百年忙 昭和3年頃
黒龍/風雲神変 芋銭子 昭和3年頃
海潮音/梵音 海潮音 昭和4~5年頃
雨後温泉/雨餘温泉所→要改題 昭和10年頃
石室達磨/七顚八倒 覓心了不可得 我与汝安心竟 (画賛は公案集『無門関』第41則より)
手あぶり/花のふる日はうかれこそすれ 雪のふる日はさむくこそあれ
座右銘/自處超然處人靄然無事澄然有事嶄然得意淡然失意泰然 為篠目氏 芋銭子
天地/天地無私春又歸 為篠目孝氏 芋銭子
二行書/雲月是同 溪山各異 萬福万福 是一是二 為篠目氏 芋銭
甲州韮崎之不二/吾国土芙蓉千歳秀 応篠目氏之需写甲韮崎之不二峰 芋銭子
指月(画賛無し)
福神渡海/福神ハ心静かなり 順風に静かに逆風にも静かなり静かなる心は神の心なり 神の心を以て心となし渡世の海に臨む時 激浪怒涛吾を侵さず 為篠目氏芋銭子併題
蛙/水流如過箭 人生若浮萍
野狐狸/驚殺野狐狸
河伯/天下之美 悉在於河伯
霞ヶ浦/二尊降霊 幾万歳 豊幡潮光接蒼天
初日の出/日出国中 日出常陸 芋銭子
牛と馬(画賛無し)
八千歳/生生存存八千歳
雲下/雲下御題 芋銭子
新年新光放一声/新年新光放一声 芋銭子
(だるま)/不断天風送一葦
新年言志/新年言志 芋銭子
春山如笑/春山如笑 芋銭子
(新春:岩と人)(画賛無し)
一陽来福/一陽来福 芋銭子
柿紅葉/白山羊の乳 あたたかに 柿紅葉
さびしけれ/さびしけれ 葡萄落葉の 中に坐す 芋銭