毎年開く天文教室、今年の工作は既製品の「三球儀」とした。毎年オリジナルを考えてきたが、最近は仕事が忙しくてとても準備をする余裕が無かったためだ。それでも既製品を袋から出して組み立てるだけでは味気無い。そこで三つの球「太陽」と「地球」と「月」だけはリアルにペイントしたいと考えた。ただ作りかけたものの、真っ白な球に星の模様を描くのは難しい。特に海と大陸のある地上を雲が覆う地球は、かなり絵心が無くては大人でも無理だと周囲に言われてしまった。
仕方なく地球と月は手芸店で求めたビーズ球を流用し、太陽は一回り小さなスチロール球にオレンジ色のプラモデル用カラースプレーを吹き付けただけ。それだけ持って吉備中央町の大和公民館に出掛けた。
吉備中央町の大和地区は岡山県中部の山間地。過疎の進む地区だ。天文教室に参加してくれる子供たちが年々少なくなり、今年はコロナの影響もあって3人になってしまった。公民館のスタッフも含めて参加者は10人だ。
実際に製作に取り掛かったが、このキットはよくできている。合板をレーザーで切り抜いた精密なパーツを組み立てていくと月が地球を、そしてその二つの星が太陽の周りをまわる。それだけに、ほぞ穴への差し込みを少し力を入れてきっちり組まないと仕上がった星が暴走してしまう。みんな真剣に黙々と組み立てていった。
ただきっちり組み立てるためにはかなり力とコツが要る。小さい子は少し力が足りないのかも知れない。そこはスタッフが手助けをする。
そうして始めてからおよそ1時間半で全員完成した。
工作の時間が終わると次は夕方から観望会だ。ゲリラ豪雨と呼ばれるスポット低気圧があちこちに発生している中、気象レーダーの画像を眺めながらやや早めに望遠鏡を設置。時折のぞく上弦の月だけを狙う事にした。
今から25年前、この天文教室が始まった1997年当時は想像もつかなかったのがスマートフォンだ。観望会と言うとみんな大きな望遠鏡を覗いて、そこに見える月のクレーターや惑星、星雲などを珍しそうに眺めるだけだった。しかし今は違う。子供たちはそれぞれ大人から借りたスマートフォンやiPhoneを手に、望遠鏡を通して見える天体を何とか写し取ろうと頑張る。
空全体は雲に覆われてほかの天体を眺めることはできなかったが、子供たちも、スマホを子供に貸しながら自分たちも頑張って画像を手にしたお母さんたちも、みんな手の中のクレーター画像を眺めながら喜んで帰ってくれた。
ただ、校庭を借りたこの大和小学校は再来年度を持って廃校となる。児童の大幅な減少を受けて、役場の有る小学校に統合されることが決まったのだ。四半世紀にわたって続けてきた大和公民館天文教室は、星空の美しいこの地区で、天文家を目指す子供たちを育てるのが目的だった。しかし、公民館で一緒に工作をし星を眺めた子供たちは、その大半が町外の学校に進学し、就職口を求めて町を去っていった。それを責めることはできない。ここでは彼らが求める文化的で利便性の高い生活を送る事が出来ないのだから。
ではどうすればそれが出来るのか。国の政策や自治体の施策を責めるのは簡単だ。しかし僕自身考えてみて、その答えはまだ見つかっていない。