レンズを赤外線用のカメラに付け替えて空に向ける。そしてレンズの前に赤外線だけを通すフィルターシートと言うものをそっと載せた。ファインダーを覗いてみるが真っ暗。当たり前か。露出はいったいいくらにすればいいのだろう。とりあえずカメラ感度1600で絞り4とし、2分半シャッターを開いてみた。しかしこれではほとんど何も写らない。その後何度も露出を変えて撮影してみたがいい結果が得られなかった。そこで目で見える赤い光も少し通すSC66と言うフィルターに換え、カメラ感度を3200にアップしてみた。そしてシャッターを切ると、3分半後にオリオンの三ツ星を取り囲むようにぼんやりと光る帯がカメラのモニターに現れた。
そう、これがバーナードループ。ずっと前から捉えたかった水素分子の雲だ。ただピントが甘い。光は波長が長いほど屈折率が低い。だからピントの位置を少し手前にずらす必要がある。そうしたつもりだったのだが目分量ではうまくいかない。このままピントを追い込みたかったが明日は仕事だ。無闇にピント位置を変えて撮りまくるよりも、改めて昼間に明るい被写体で試し撮りをしたほうが良い。今日はこのまま帰ることにした。
という訳で家に帰って、普通に撮った写真に赤外線の写真を重ねてみることにした。ところがこれがまた難しい。撮像板の大きさが同じカメラに、同じレンズを取り付けて撮影した写真は難なく重なるだろうと高をくくっていたのだが、微妙に合わない。悪戦苦闘して「比較明合成」で重ね合わせ、さらにどうしてもズレてしまう部分をカットしたのがこの写真だ。
こうしてみると水素ガスの雲はオリオン周辺だけでなく、天の川全体に広がっている。中でも赤い玉のように見えるのがいっかくじゅう座のバラ星雲だ。そしてここにガスが集まったためにその周辺が希薄になっている。まあ、ピントは甘いけれども何とか肉眼では見えない水素ガスの雲を撮影できた。この写真が寒い夜に見上げた星空のもうひとつの姿だ。これから赤外線撮影の訓練をして、空一面を撮ってみたらどんなになるだろう。画像処理をしていてそう思った。