それはまだ雨が止まない冬至日、朝10時40分に始まった。
1年教室市場には、早くも関係スタッフの威勢の良い掛け声が響き渡り、オープン時刻である10時50分を今か今かと待ち望んでいる状態であった。
店によっては綿密なまでの事前ミーティング、隣の店では、今日のシフトについて喧々諤々の議論が・・。
あわよくば手を抜こうなどという後ろ向きなスタッフなど存在せず、来るべき激戦に向け周到な準備に余念がない。もちろん聖域であるバックヤードには、これまた顔認証付きの社員証を持たざる者入るべからず、である。
そして・・・、運命の10時50分!
一斉に上がる呼び込みの声。
ではここで、今回の素晴らしい商品を紹介しよう。ごく一部ではあるが・・・。
こん虫屋さん=希少価値の高いレアものは目立たないが、なじみ深い昆虫が店頭に並ぶ。
ブックショップ=図鑑から7コマ漫画まで、幅広い品目が店先を彩る。
服屋さん=やや季節外れのものあったが、注目してほしいのは、ご覧の様にトップとアンダーで”お揃”の商品がいくつもある。侮れない商魂。
最後は花屋さん=手入れと仕入れが大変だったであろうことは、見事に咲いた花の大きさと、今市場での最高額が提示されていることから頷ける。
以上4ショップ。オープン開始から、10分も経たないうちにあれよあれよという間に品数が減っていく。
もはや、鳥沢銀行トップであるトーリー総裁のコントロールも効かず、市場介入は失敗といえよう。
予想を上回る需要に供給が追い付かず、我が編集部にも届いたプレミアムチケット、残った分は最早紙切れ同然となるのであろうか。
11時を回る頃には、
完売の店が・・・。
熱量が一気に下がった頃、市場に現れた2人の影。
全店売り切れ状態では、手も足も出ず。既売品をなんとか購入しようと交渉するK林教頭先生。どうにか品物はゲットできたようだが、そこにトップバイヤーたちの情け深い慈悲があったのか、はたまた法外な値段で売りつけられたのか、事実は当人のみぞ知る、である。
願わくば、一部経済学者が唱えているMMT理論ではなく、TMT理論(とりさわみんなでたのしく)が存在していたと信じたい。
後日談ではあるが、一番の売り上げを見せたのは、花屋さんだったそうだ。しかしこん虫屋さんのスタッフは語る。
「こん虫があんなに売れるとは思わなかった。苦手の人も多いと思ったが・・・。」
そう、満足気にインタビューに応えてくれた表情を見る時、はたして商品をゲットできた者、最高売り上げの店が勝ち組で、そうでなかった者は負け組だ、などと単純に区別することのむなしさと同時に、仕事とは、幸せとは、と自問する15分間の出来事であった。
「行列のできる○○」が巷では流行っていると聞くが、ここ鳥沢市場には、行列すらできる前の、1980年代の映画「ウォール街」を想起させる一瞬の夢物語であった。ときに、某宝くじ販売も明日までかぁ・・・。