風の記憶

the answer is blowin' in the wind

雪原の夕暮れ

2007-01-18 | 

山形県遊佐町白井新田□□


渡せなかった花束


些細な出来事なのだけども、今でも忘れられないでいる事がある。

13年前、当時5歳の娘はピアノを習っていた。
妻の希望で市内の某ピアノ教室に通っていたが、そこのピアノ教室は年に1度、市内の大きな文化センターのホールを借り切っての生徒の発表会があった。
発表する生徒は幼年から中高生まで80名ほどで、とても豪華な生花が生けられた大きなステージ中央のグランドピアノで演奏する本格的なものであった。
幼年の部の発表は、会の前半に組まれており、我が娘の出番は確かその5~6番目だったと思う。発表会の始まったばかりの緊張感が会場にはあり、初めての発表会を経験する幼い娘には少し荷が重すぎるような気がした。
演奏を終えた生徒たちは、椅子から立ってピアノの傍らできちんとお辞儀をする。すると、その子の両親や兄弟や祖父母たちがすかさずステージ下にかけより花束を渡すのが恒例のようであった。

いよいよ、娘の演奏である。
たかが幼児のピアノ演奏だ、と思ってもそこは自分の子供のことである、心臓が高鳴り手が震えた。間違わないで無事終わってくれ、とそれだけを願う。
たどたどしい演奏もとりあえずミス無く無事終了した。
そして、椅子から立ってきちんとお辞儀をした、
その時である、
「しまった。」と思った。
なんと、私も妻も娘にあげる花束を用意していなかったのである。

娘はきちんとお辞儀をした後、もらえるはずの花束を待っているように暫しその場に佇み、チラリチラリと周囲を窺っている。そして、やがて諦めたように舞台袖にとぼとぼと歩いて退場した。
心が痛かった。
発表終了後、そのことを娘に詫びたがそこは幼児のことで、別に何とも思っていない様子であった。ほっとした。

月日は流れ、今その失敗談を娘に聞いてみると、案の定まったく憶えていないと言う。そして妻は、記憶はしているがそんなこともあったわね、程度だ。あの時も大騒ぎにならなかった事であり、つまりはその程度の出来事なのだ。

しかし、何故か私はその些細な出来事をいつまでも忘れられない。あの時、それほどの重大事でもなく、心に深く刻んだ憶えもないのに、よくその場面の夢を見るのだ。

あの日ステージ上でもらえるはずの花束を、自分だけもらえない事に戸惑っている娘の姿。
少しだけ不思議そうに小首を傾げ、そして諦めたようにとぼとぼと寂しそうに袖に消えた娘の姿。
その姿は、忘れたと思っていてもある日突然に私の目の前に現れる。そしてその寂しそうな姿は、何故か時が経てば経つほど私を切なくさせるのだ。

子は、日に日に大きくなってゆく。
親は、子の成長の過程で起きた些細な出来事までを無意識にたくさん心に刻むのだろう。そしてそれらは決して無くなったりはせず、記憶の断片のように心の中を彷徨い、やがて子が大きくなり巣立っていっても、親はそんな切なく温かい思い出たちと共に生きて行くのだろう。
5歳の娘、10歳の時の娘、17歳の想い出、それぞれがそれぞれに今も私の心の中で生きているのだ。

あの日、渡せなかった花束。それは、子が忘れ去ろうとも、誰が憶えていなくても、今も私の心の中を彷徨っている。


その後、毎年同じ時期に発表会があり、ステージ上の娘に忘れずに花束を渡したはずであるが、それは何故かほとんど記憶にはないんだよな~・・・。



愛の花束―身近な小さなことに誠実に、親切に

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春を迎える心

2007-01-01 | 季節


新年あけましておめでとうございます。

こちら山形庄内地方は、久しぶりに雪のまったく無いお正月を迎えています。
昨年は豪雪で、一年が除雪から始まったのですが、今年は雪が無いどころか例年になく温かいお正月です。本当にありがたいことです。

ところで、年賀状ですが私は毎年『迎春』と書くことにしています。理由は、昨年の元旦のエントリーで書いていますので参考までにご覧ください。

温かいお正月は本当にありがたいのですが、冬はこれからが本番です。温かいお正月を喜びながらも、厳しい季節は必ずやってくることを北国の人間は経験的に知っています。だからこそ、あえて新しい年を祝う言葉として「春」を使いたいのです。
本当の春はまだ3ヶ月も先の話です。しかし、それを重々知っていて、だからこそ1年の始まりのこの日を「春」と呼びたい、そんな北国の人間の春を想う特別な心を、私はとても愛おしく思うのです。

迎春~春を迎える特別な心

今年一年、よろしくお願い致します。




さくら横丁 中田喜直の世界~歌曲篇

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