風の記憶

the answer is blowin' in the wind

故郷の風に

2007-08-21 | 

山形県鶴岡市東栄□□
NikonD200+TAMRON 17-50□□


8月のはじめに娘が帰郷した。
今年の春に大学に行き、5月の連休に3日ほど帰ってきたので、およそ3ヶ月ぶりの帰郷と言うことになる。
しかし、5月の連休の時とは少し様子が違っていて、しきりに故郷を懐かしがっている。
5月の時はそうでもなかったのに、今回はやけに懐かしいというのだ。自分でも何故だか分からないらしい。

何が一番懐かしい?の問いに、彼女は間髪入れずに「田んぼ」と言った。
「鳥海山のトンネルをくぐって、吹浦駅を出たところで見渡す限りきれいな緑色の田んぼを見たら、何故だか涙が出ちゃって・・・。」

意外な応えだった。
こちらにいるときは、そういった地域の自然や風景の事にはあまり興味がないようだったからだ。
しかし、これは私にも経験がある。
自分も学生の頃、仙台から急行「月山」に乗り帰郷したときに、狩川駅を過ぎたあたりから広がる一面の田んぼの風景に感涙したことは、今でも忘れられない。

思わぬところで娘と同じ思いを共有して、何だかくすぐったい気持ちになってしまった。
時代が変わっても人の心は変わらないものだなと、あらためて思う。

先日、そんな話しを母にしたところ、自分にも憶えがあるとしきりに嬉しがり、自分が上京したときの事や、はじめての帰郷の話しを聞かせてくれた。
母は青春時代を神奈川県の横浜で過ごしている。

中学を卒業した母は、吹浦駅から汽車に乗って上京した。その時、母親(つまり私の祖母)が駅まで見送りに付いてきてくれたのだが、父親(祖父)はきてはくれなかった。母の父親は職人で無口で厳しい人だった。母が家を出るときに「行ってきます。」と言ったときも「ああ」と素っ気ない言葉を返しただけで仕事をしていたのだった。
駅に汽車が入り、少女だった母は乗り込んだ。発車のベルが鳴り、母親が心配そうにあれこれと言うのだが、これからはじまる新しい生活に対する期待と不安の方が別れの寂しさに勝ったのか、大好きな母親との別れにも不思議と涙は出なかった。
汽車はゆっくりとフォームを離れ、徐々に速度を上げ、吹浦の町を出ようとしていた。

その時である、汽車の窓から見える自分の家を何気なく見た母は、びっくりした。
家の屋根に人が一人立って手を振っているのが見えたのだ。

父親であった。

無口で派手なことが嫌いで素朴で物静かな父親が、今まで見たこともないような大きな身振りで、娘に見えるようにと一生懸命に手を振っていたのだ。

少女だった母は、母親と別れるときにさえ涙を見せなかったのに、父親のその姿を見た瞬間、涙がボロボロと、ビックリするほどボロボロと溢れ出て、大声で泣いたのだった。
季節は早春で、田んぼにはまだ雪が残っていた。

その後、お盆になるとすぐに帰ってきた。
あの時、大泣きで別れた故郷の灰色の田んぼの風景は、見事なほどに青々と輝き、まるで大草原のようになっていた。
見慣れたはずの故郷の風景に、少女の母はまた泣いた。

上京の時、見送ってくれた母親の姿、不器用だけど一生懸命に自分を勇気づけようとしてくれた父親の姿、そして、はじめて帰郷したときに見た、緑色に輝く故郷のきれいな平野の風景。
それらは知る人も居ない余所の土地で、少女が生活するのにどんなに心の支えになったことであろうと思う。

田んぼの風景は庄内だけのものではない。多かれ少なかれ日本中何処にでもある風景だ。
しかし、自分の故郷を象徴する風景は特別に懐かしいものだ。それは、自分の故郷の風景の中に、自分を愛してくれた人が居ることを、知らず知らずに感じるからではないだろうか。
自分を愛し育んでくれた人々、そしてその人たちが作り守ってきた故郷の風景。

遠く故郷を離れて暮らすとき、自分を意識の奥底から支えていてくれたものが、ここにあるのだと感じるからこそ、その青田は何処の風景よりも懐かしく輝いているのだと思う。




~ 風の名前 ~ 日本には 2,145 の風の名前がある。あなただけの風がきっと見つかる。

風の名前
高橋 順子,佐藤 秀明
小学館

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コメント (12)
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帰郷

2007-08-10 | 




“ ふ る さ と ”

心の中でいまでも優しく響いている

寂しさが染みついた夢の無い夜には

“ あ  な  た ”

を呼んでいる



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作詞:アンジェラ・アキさん





お盆で帰郷されているみなさんへ


“ お か え り な さ い ”





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