僕らの写した写真が、僕らの目にした風景の
特別な力を写し取っていることは、極めて希である。
僕らがそのときに目にして、そのときに心をかきたてられたものは、
もう戻ってはこない。
写真はそこにあったそのままのものを写し取っているはずなのに、
そこからは何か大事なものが決定的に失われている。
でも、それもまた悪くはない。
僕は思うのだけれど、人生においてもっとも素晴らしいものは、
過ぎ去って、もう二度と戻ってくることのないものなのだから。
-村上春樹-
「使いみちのない風景」より
風を超えて
2005-11-17 | 空
秋も終わりに近づくと、徐々に風が強く吹くようになる。
風は木々から枯れ葉をもぎ取り、上空では大きな雨雲をぐんぐん流してゆく。
ザーッと急に雨が降ったかと思うとすぐに止み、風に流されてゆく巨大な雲々の彼方には、吸い込まれるぐらいに真っ青な空が顔をのぞかせる。
陽の光はぶ厚い雲の固まりに遮られ、四方に放射するライトのようにめまぐるしく回りの風景を変えてゆく。
人々は、そんな光景に急き立てられるように、冬の準備に取りかかる。
陽の光を見つけて飛び出してきたように飛ぶ鳥が、一羽。
残り少ない光を目差して風を超える鳥の姿が、秋の終焉を告げている。
桜紅葉
2005-11-12 | 紅葉
紅葉もそろそろ終わりに近づいてきました。
山に行くと紅葉はもうほとんどピークを過ぎて落ち葉になっているんでしょうね。(今年もまた山の紅葉に行けなかったものですから・・・。)
街路樹の彩りもぼちぼち陰って、季節は一気に冬へと向かいます。
厳しい季節がやってきます。
ところで、山に行けないから負け惜しみで言っているのではなく、私は街の桜の紅葉が好きです。
桜は以外にも街では真っ先に紅葉しはじめて、徐々に紅くなっていきます。
同じ1本の木でも風が吹き付けるところとそうでないところがあると、紅・黄・黄緑・緑という彩りが楽しめます。
そして、秋の陽差しが桜の深紅の紅葉を透かすと、とてもきれいです。
桜葉は落ち葉もきれいです。
淡い桜花とは対照的な、深い朱色を道端で見つけると思わず足を止めて見入ってしまいます。
この真っ紅に燃えた葉が土に還り、大地に染み込み、それをまた桜木が栄養にして、春に見事な桜花を咲かせるのです。
薄紅色の桜花は、桜葉の紅色が咲かせるのかもしれません。
桜の落ち葉を巻き上げて、秋が足早に通り過ぎて行きます。