コミュニケルーム通信 あののFU

講演・執筆活動中のカウンセラー&仏教者・米沢豊穂が送る四季報のIN版です。

歎異抄 ふたたび 

2009-08-17 | Weblog




歎異抄とカウンセリング

歎異抄は極めて小部の書である。本文そのものはさほど古文に秀でていなくても読めるものである。またその解説書は宗門の学者や作家、知識人等から数多く出されている。後者の著は概ね「私と歎異抄」的、つまり味わい的な内容が殆どである。当然のことながら、それぞれの人生体験が影響していて興味深い。前にも記したように「信仰の書」であるからである。文庫本に新刊もあるのでお勧めしたい。


過日の公開講座はカウンセリング研究会の行事であるので、受講者はカウンセリングと歎異抄の接点にも関心を持たれたようであった。本稿でも記してみたいと思う。このことについて触れている書物を私は寡聞にして知らない。


2月の「我が心の歎異抄」の中に少し述べたが、カウンセラー(便宜上、相談を受ける者としておく)は、何とかしてクライエント(相談をする人としておく)の役に立ちたいと願っている。それは、悩みや問題を解決し、少しでも楽にしてあげたいということである。初心者ほどそのように思うものである。

しかし、他人がその人生で遭遇する悩みや問題がそう易々と解決出来る筈がないのである。

このように学び習ってきたのだが何故?
カウンセラーである自分に能力がないのだろうか?
いやいやそれはクライエント自身がしっかりしないからでは・・・
等々自問自答する。
そして時にはカウンセラー自身が病気になったり、カウンセリングを受けなければならなくなる。

そのようなカウンセラーは真面目でありナイーブでもある。中には、自分は精一杯相談に乗っているのだから、しようがない。或いは、それは所詮他人の悩みである。こちらがダメだったら別のカウンセラーか相談機関に行くだろう。などと思いカウンセラー自身が自己解決をして病気になどならない。
そのクライエントも、再びそのカウンセラーのもとを訪れることはない。

実際は前者と後者に明らかに分けられるものでもないが、何とか折り合いをつけてやっていることが多い。


私は現在はカウンセリングよりも、カウンセラーへのスーパーバイズが多い。その時いつも以下のような歎異抄の話をする。

人間の限界
「聖道の慈悲といふは、ものをあはれみ、かなしみ、はぐくむなり。しかれどもおもふがごとくたすけとぐること、きはめてありがたし」歎異抄第4章である。

更には「浄土の慈悲というは、念仏して、いそぎ仏になりて、大慈大悲心をもって、おもうがごとく衆生を利益(りやく)するをいうべきなり」といい、「今生に、いかにいとおし不便(ふびん)とおもうとも、存知のごとくたすけがたければ、この慈悲始終なし」と続く。

この世でどんなに愛おしい、かわいそうだと思っても思いのままに助けることは困難だから、人間の慈悲には一貫性がない、というのである。
そして「しかれば念仏もうすのみぞ、すえとおりたる大慈悲心にてそうろうべき」と結ぶ。
つまり、お念仏を申すしかない、ということに。


人事を尽くしてこそ
実は以前にも何度か歎異抄を講じていて、いつもこの辺りが判然としなかった時期があった。講義や講演をすると不思議なことに気づかされる。自分の理解の不確かなところが明確になるのである。

この章に入ると必ず質問が入る。
「カウンセラーは聖道の慈悲じゃなくて、お念仏することだけですか?」と。尤もな疑問である。
「私には何の知恵も力もありません。ただお念仏するだけです」
なんて言っていても始まらない。クライエントはあっ気にとられてしまうだろう。
カウンセラーは聖道の慈悲からスタート<している>のである。
憐れみも、悲しみも涌かない者はカウンセラーの資質に欠ける、と思って憚らない私である。

 クライエントのために何とかしてあげたいと、一生懸命に努力することが大切なのだ。人事を尽くすことなのである。
しかし、である。前述のようにカウンセラーとて現身の凡夫に過ぎないのである。非力な己を嫌というほどに知らされるのである。

すると、ふと念仏が口をついで出てくる。しみじみと念仏することだ。
それは、祈りと言い換えてもよい。

消えない悩み、解決しない問題が残っても、なお心穏やかに生きることが出来るようにしてあげることがカウンセリングなのである。
それはまた、慈悲と言っても愛と呼んでもよいと思っている。

いつの頃からか私はそのように思い始めた。いや、気づかされた。
すると、不思議とクライエントの問題が解決に結びつくことも多くなっていった。
感応道交ということかもしれない。
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