蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

猿でも分かる構造主義 3

2017年04月10日 | 小説

ソシュールの記号論は二重性(Dualiteデュアリテ)と相互性(Reciprociteレシプロシテ)に分解される。二重性とは現象や状況が2の構成で成り立つ状態を意味する。相互性ではいずれも相手に依存している、相手がなければ自己も成り立たない。記号論での二重性とは「意味する・意味される」で、これはお分かりの通りです。相互性とはイヌはイヌという言葉に依存し、その言葉にしてもイヌがいなければ意味がない。あい寄りそう依存関係=相互性=が「記号」という状況に見られる。

この考え方の斬新さをレヴィストロースが取り上げた。
意味するものを存在する形(Foemed’existance)、とし、意味されるものを思想イデオロギー(Ideologie)と置き換えた。社会、文化をこの二重性の構造の仕組みで考えた。

イヌという状況を構造主義的にとらえてみよう:
イヌは人間生活に密接に関係している。イヌという動物をどんな人も知っている。街中、どこにも見られる。個別のイヌは見た目千差万別である。大きさ形態、ベルジュシェパード成体は50kgの巨体だがチワワは1kgをかろうじて越すていどの小粒。尻尾が曲がるか垂れるか、鼻が伸びるかむくれるか。形態のみならず、人間社会との関係でもいろいろある。人はその多様性を「イヌ」とひとまとめにしている。
投稿子の友人K氏が目の前に歩いた耳が垂れている四つ足の毛皮付きはイヌとしては大きく異形だったが、彼は果敢に「イヌだ」と判断して隣人に褒められた。これはイヌというイメージを彼が持っていて、イヌへの判別力を生まれてこの方、社会生活で培ったからだ。人の頭にあるイヌと言うもの、投稿子は表象とするが、これがレヴィストロースの教える思想である。その思想を持つからこそ50kgも1kgも、尻尾が長かろうが垂れていようが「あれはイヌだ」と判別できる。
思想が成立する過程とはイヌが社会に、うろちょろと徘徊しているに尽きる。生まれてこの方幾十年、イヌを見て教えられて、イヌなる思想を温める事が出来たから、ちょっと目は異形だけど「イヌだ」とし、間違いを犯さなかった。自慢気なK氏の前を別の四つ足毛皮付きの一匹が通った。大きさも形態もイヌの範疇として許容できる。しかしK氏はわずかな差異を認識した。
「なんと言うのか」と隣人は迫った。K氏は焦った、額に汗を滲ませて発した言葉は
「ネコだ」
K氏がその四つ足をイヌとせずネコと峻別できた理由はネコの思想・表象を持つからである。ネコはイヌほど個体差は少ないが、形態泣き声歩き様で、細かく観察すればやはり千差万別である。それら個体をネコとしてひとまとめにする思想・表象を、日本文化の中で育った一員として、K氏は抱いていた。
「よく知っているな」と再び褒められた。
しかし、思想・表象を持たない場合の言語的混乱をK氏はすぐに経験した。
浅川の土手を散歩すると目の前に人だかりが。幼い子が抜け出てK氏に、
「野生の動物がいる、あれは何ですか」と質した。
やはり四つ足毛皮付き、ネコほどの大きさ。遠目に見たK氏は「ハクビシン」と答えた。すると隣人が「間違ったな」今度は、けなした。隣人がポツリと伝えるには;
「タヌキ、幼い」
「ワーイ、子ダヌキだって。ねえ、ウチで飼おうよ」
子は喜んで親に頼んだ。

隣人は多摩丘陵のとある谷戸に住む。幾本かの果樹を育てている。
「夜な夜な獣が尾根からおりてくる。木に登れるのがハクビシン、カキが実ると手をつける害獣だ。前足が強くかぎ爪があるのがムジナ、土に埋めた魚のわたを掘り返す、迷惑獣だ。タヌキは木登りも掘り返しも出来ないから散らかり残飯をあさるだけ、ほっとけ獣」
隣人は尻尾、耳の形状で3獣を区別する要点を続けた。
ハクビシンとタヌキに、そしてムジナにも、かく思想を持ち、個体に遭遇していたから隣人は区別できた。一方K氏は言葉としてそれらを知るのみ、いわば貧弱な思想・表象しか持ち合わせない上、これら獣に遭遇していない。存在する形と思想の二重性の構造を持ち合わせていなかった。
しかしこれを持ってK氏の思想が貧弱だとは非難できない。思想の地平線が、隣人と比べ、近視眼的に狭かっただけである。

さて前回に記したレヴィストロースの疑問
1 目の前の四つ足をイヌではないかと疑い、認識した仕組みとは何だろうか? 
=>その答えは二重性、相互性であると分かった。
2 人の頭が抱くイヌという思想(=レヴィストロースはイデオロギーと語るTristesTropiquesポケット版169頁、投稿子はこれを理解の方便として「表象」としたい。)とは一体なにか?
==>それが人の認識方法そのものであると今回、説明した。
3として1と2を結びつける知性はどこから来たのか。
===>知性の由来は後に語ります。

(猿でも分かる構造主義 3の了。次回の出稿は4月13日)
(これまでの出稿日は4月5,6,8日です)
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