蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造の結語章5 歴史人類学の視点 中

2021年10月13日 | 小説
(2021年10月13日)前回の最終行に引用される文(親族規則が社会そのもの)<Les règles de la parenté … lui-même>(562頁) は次の文に引き継がれる。
<Mais la société aurait pu ne pas être. N’avons-nous donc cru résoudre un problème que pour rejeter tout son poids sur un autre problème, dont la solution apparait plus hypothétique encore que celle à laquelle nous nous sommes exclusivement consacrés ? En fait remarquons-le, nous ne sommes pas en présence de deux problèmes, mais d’un seul.
訳:でもこの社会はそんな様態(婚姻規則が社会そのもの)でなくてもあり得たはずだ。故に我々(私、レヴィストロース個人)は(この反論を前にすると)近親婚の問題を解決したとは確信出来ない。問題とは、社会のすべてを別の(婚姻規則とは異なる)取り組み方に委ねたら、(私が)取りかかっている進め方よりも、試す価値をより強く持つかも知れないと反省してしまう。それでもこの点にだけは留意しよう、2が残るのではなく問題は1なのだ(=歴史と社会ではなく、社会のみ)(561頁)。

理解を深めるための鍵の語の2を取り上げる;
1 原則的立場:民族学人類学は社会を共時現象として仕組み、規則、構成を取り上げる。社会を時間の流れとして見る「経時」の視点は歴史学である。レヴィストロースはこの原則を貫く(Pensées Sauvages野生の思考のHistoire et dialectique章で明らかにしている)。

2「hypothétique」。名詞のhypothèseは仮説、あやふやな状態、未達後ろ向き語感がつきまとう。形容詞hypothétiqueは条件的、「試す余地が残る」さらには「確かめてみよう」より前向き姿勢を表す意味合いを感じ取る(個人的に)。Robert(仏語辞書)ではconditionnel条件的と同義。自説を検証するための前向き姿勢と見た。

3「problème」。第一義は解決すべき問題(question à résoudre)、第二義に結果に至るに困難な状況(difficulté qu’il faut résoudre pour obtenir un certain résultat, 引用はRobert)。
問題はこれだ(1=即物的)に対してこの問題の有様は明確だがそれを解くに難しさが残る(2=困難状況)。前者はモノ、後者は状態。ここでは後者、状態をとると上記訳の結論は<2の問題を抱えるのではない、2の問題が1の難しさに収斂されている>となる。この一の「難しい状態」がまさに前回投稿の<Les règles de la parente et du mariage…lui-même>(562頁)訳:親族婚姻の規則が社会状況の要に影響されるものではない。それが社会そのものなのだ=と重なることとなる。
すると;
解決すべき問題は2あるとする学説は、Riversが唱える歴史主義では、歴史法則と合わせ親族構造を上げる。すなわち「社会の発展につれて親族構造も変遷する、どの社会段階でどのような親族構造が紐付けされるのかを分析する」となる(本文を読み解いていた推察です。蕃神はRivers著作を読んでいない)
解決する手法1に収斂する。これが親族は社会構造とする学派、レヴィストロースの説く<Elles sont l’état de société lui-même親族規則は社会そのものなのだ>です。

<Nous devons donc nous refuser jusqu’au bout à toute interprétation historico-géographique, qui ferait de l’échange restreint ou de l’échange généralisé la découverte de telle ou telle culture particulière, ou de tel stade du développement humain>
訳:私として、歴史地理学的説明を 排除せざるを得ないと考える。その説明では限定交換、あるいは一般化交換をしてどこかの特定の文化と結びつけ、それを人類歴史の特定段階とつなぐ事になりかねないから。(532頁)
部族民蕃神が危うく落ち込んでしまう陥穽、アボリジニとカチン族を比べ文化の進化階段の位置と交換手順を歴史の色分けから決めつける。これは考える手順での誤り、婚姻制度に歴史を植え付けるのではない。婚姻が社会の基盤であると尊師が戒める。
続いて、
<Partout où l’échange restreint existe, il est accompagné d’échange généralisé, et l’échange généralisé lui-même n’est jamais libre de forme allogènes>
訳:限定交換の機能する地にても一般化交換が付随する例も珍しくはないし、一般化交換にしても限定交換を必ず排除する訳でもない。
限定、一般化の混淆交換はMurngin、Arandaなどアボリジニの親族構造に認められる。Murnginでは女を8のサブセクション間での限定で取り交わすと、子の交換は一般化になる。8サブセクを4の階層に組み替えして女を一般化交換に組み入れると、子の交換が限定となる。この仕掛けは前回のブログ投稿(2021年7月8日)Murngin族システム8で解説している。解析図(パワーポイント図)を掲載するので参照されたし。


Murngin族の交換体系


上図:女を限定交換する(赤の実線矢印)と子は一般化交換になる(弧の破線)。この流れを取らないと交換サイクルが成り立たない。


女を一般化交換すると子は限定交換となる。子を介在させて階層を形成し、その階層間で女を巡回交換(一般化)させる仕組み。黒のノンブル①~⑧、赤の①~⑧を追うと交換の仕組みが理解出来よう。子を介しての階層、こちらが自然で実態に近い(と思う)。

(図はホームサイトwww.tribesman.net ,Gooblogに既掲載、2021年6~7月 )

親族の基本構造の結語章5 歴史人類学の視点 中の了(2021年10月13日)次回は15日予定。

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