(2025年3月1日)コホートと呼ばれる調査手法をご存じと思います。この語が投稿基点なので説明をいれると、ある特定の要素を共通項に設定し、該当する多数を一集団にまとめ各個人の生活、健康、行動などを調査する。すると集団が抱える傾向が、この要素との関連で分かってくる。例えば喫煙する人をまとめ、健康を調査するとがんとの因果が明瞭に見えてくる(このコホート調査は1950年英国に遡る)。肥満と糖尿病についても幾つかの医学コホートで密接な関連が判明している。
「出生」コホートなる分野がある。特定の年、週を選び、その期間に「出生」した(原則全員の)子の生を追いかける。英国が先鞭をつけ、後に欧州各国、アメリカにも普及した。回数(英国では10年置いて7回、7万人を巻き込む)、規模の大きさでは英国が抜きんでている。嚆矢は1946年、3月の第一週に英国(正しくはUK)で生まれた子、全員を集団にくくった、出生時期を共通要素にした訳です。

上図の説明は拡大図とともに下に(本書の最大伝えかけです)

ピアソン著大田訳のライフ・プロジェクト
対象者は1万7千人あまり。生まれたときの家庭環境、自宅出産か病院から、難産だったかなど項目から始まり、年を経ても聞き取り調査(スウィープ整理と呼ばれる)は実施され、成長しての学業(11歳の全国選抜試験が重要)、就業、結婚などを追いかける。今、彼らは78歳を迎えている。幾割かは疾病に悩み、死亡に至ったかと。その原因、死亡時の環境なども調査されている。存命の方も含め、人生の一巡りを調査されていた。
さて雑学(金にならない知識)で、わずかな蓄積を持つと自認する投稿子(部族民渡来部)は、2025年1月まで「出生コホート」の存在を、実は知らなかった。無知を一旦は反省したが、恥じ入ることはなかった。ネイチャーのエディターにして新鋭サイエンスライターのヘレン・ピアソン女史(英国)も2010年まで、64年前から、自国で、これほどの規模で、展開されている調査、研究の存在を知らなかったと告白している(ライフ・プロジェクト、同女史著大田訳、みすず書房2017年刊。以下「…」引用は同書から)。広範に知らされない理由は調査者側(予算をつけ政府)に、調査結果に認められる不都合が拡散されては困るーに尽きる。著者は英国人なので、その不都合、英国の社会病理、を詳らかにしてないが、外部(日本人)ならば立ち所、見当がつく。それは後述するとして、膨大な調査結果の中から、本投稿の表題に沿う一点だけを紹介する。
その一点は表題「子は親を選べない」(ピアソン女史の名言、本書から)。
本書 222頁に掲載されている、一般的にファインスタイン・グラフと賛辞される図を簡略化した自筆写しです(頁のグラフのデジカメを投稿に利用するのは著作権に触れると判断した。この稚拙落書きなら、みすず書房さんの許諾を得られるかと勝手解釈。整った原図を見たい方は「ライフ・プロジェクト」を買ってください。「知識の地平を広げる」秀逸本です、ちょっと高いけど)。

本著作の圧巻がこの図(著作権を考慮し、デジカメ再生していない)
図の読み方は ;
縦軸は学業成績、上は優秀下が凡庸。横軸は調査対象者(出生コホート)の月齢。幼児期(月齢22)の知能検査に始まり、11歳の学業成績まで記録される。ファインスタインは対象者を4分類した。幼児期に優秀な知能を見せた1中流家庭出身(上の青線) 2労働者家庭出身(赤線、右上に始まり左下に落ちる) 3中流家庭出身(赤線、左下に始まり右に上がる) 4労働者家庭出身(青線、下位に低迷)。
メッセージは ; 多くの子は高い知能であれば学業も優秀。低い知能は学業も低迷のまま(上の青線1と下の4)。2の例外が見受けられる。中流家庭趣出身の凡庸幼児は学年が進むにつれ、学業が上がる(3の赤線)、労働者家庭出身の優秀な子は学年が上がると成績は下る(赤線2)。「本グラフは学術誌に発表され、広く周知されることとなった、世界中の講演で話題になった」(224頁)
人は親を選べない、だから自分を選ぶ。出生コホート考 1 の了(3月1日)
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