鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

山椒図三所物 古金工 Kokinko mitokoromono

2020-01-15 | 鍔の歴史
山椒図三所物 古金工





山椒図三所物 古金工

 山椒もまた薬でありスパイスであり、筆者は舌がしびれて味が分からなくなるので苦手だが、好んで料理に用いる人も多い。この三所物は、「山椒与右衛門」との言い伝えのある室町時代末期の京都の金工の作。この呼び名があるように山椒の図を得意としたそうだ。拡大目貫写真を見てもわかるように、かなり精巧である。古金工の時代、もちろん銘は遺されていないのだが、このような優れた三所物を製作した職人があったことを考えると、古金工と言って、銘がないからと言って、低い評価はできないだろう。幹は素銅、地を這うように意匠され、美濃彫のようにくっきりとした高彫描写からなる葉の様子、艶々とした種の様子、その実の表皮に施された微細な点刻が特に精密で質感描写に役立っている。総てが魅力的だ。下は「美濃」と極められている山椒図目貫。金無垢地容彫。古美濃の雰囲気を充分に湛えている。




茘枝図目貫 蝦夷 Ezo Menuki

2020-01-14 | 鍔の歴史
茘枝図目貫 蝦夷


茘枝図目貫 蝦夷

 ニガウリのこと。食欲の落ちた真夏に、少し苦いこの食べ物があることはとてもうれしい。表皮部分に凹凸があり、熟れて実が割れると中から赤く色付いた種が飛び出す。そんな様子を、魚子に似た点状に表現している。蝦夷と極められている。蝦夷と葉蝦夷地に居住した人々に好まれた文様表現からなる作で、山銅のような古風な素材を複雑な地透を伴う高彫にし、金の色絵を加えた後に表面を擦り剥がして時代感を付けるという特徴がある。時代の上がる作もあるのだろうか、このあたりはよく分からない、というのが正しいだろう。ただし、江戸時代後期にも、江戸埋忠派のような金工も、この手の金具を製作している。

山葵図目貫 Menuki

2020-01-11 | 鍔の歴史
山葵図目貫


山葵図目貫 

 腐敗を遅らせる、あるいは殺菌という点で利用されていたのが山葵。今でも普通に使われている、というより和食に欠かせない薬味である。もちろん旨味があるのが純然たる薬種と異なるところ。彫口が精巧で精密ながら、地金が山銅のような古びた風情で、金の色絵も擦り剥がしの手法でひときわ古調に感じられる。このような手法は、古い時代の(どの程度に古いのかわからないのだが)蝦夷金具の味わいがあるところから、江戸後期にも採り入れられた。下は古金工の笄。これが本当に古い彫刻である。


山葵図笄 古金工

丁子図目貫 古金工 Kokinko Menuki

2020-01-10 | 鍔の歴史
丁子図目貫 古金工


丁子図目貫 古金工

 クローブと言ったほうが今の人たちには分かりやすい。スパイスの一つである。胡椒などと同様に、これも古くは薬であった。我が国では文様としての存在感が強い。写真は古金工の目貫。赤銅地を打ち出してふっくらと仕立て、金の色絵を施している。下は美濃彫様式の縁頭。似ているが、丁子が文様化している。

南天図鐔 秋田正阿弥 Shoami_Akita Tsuba

2020-01-09 | 鍔の歴史
南天図鐔 秋田正阿弥


南天図鐔 秋田正阿弥

 雪の中に鮮やかに、そしてひそやかに佇む南天は魅力だ。秋田正阿弥派の作は、意外にも古風な趣がある。素朴でしっかりとしている。粒立つ赤い実がいい。銀が滲んでいるところなど雪の存在を匂わせており、味わい深い景色となっている。南天も古くから咳止め薬として用いられていた。「南天のど飴」なんてのが昔あったのだが、今でもあるのだろうか。

橘図鐔 赤坂 Akasaka Tsuba

2020-01-08 | 鍔の歴史
橘図鐔 赤坂


橘図鐔 赤坂

写真は時代の上がる赤坂鐔の例。文様散しの透かし鐔で、いずれかの武家の家紋として意匠されたものであろう。我が国でも古くから栽培された橘も柑橘類として薬として見られていたようだ。もちろん爽やかな香りが薬だ。橘は自然の風景図としてより家紋図とされることが多い。因みに、奈良県で、我が国の橘の固有種の株が数年前に見つかり、その保存と利用が模索されている。奈良県の大和郡山市で育成しているそうだ。




蜜柑図縁頭

この縁頭は、蜜柑類がたわわに実っている様子を描きあらわした作。濃い緑の葉もたっぷりと茂り、その中に明るく鮮やかな色合いの柑橘類が実る様子は、これも繁栄を暗示しているように感じられる。良くみると、橘紋をデザインしていることがわかる。

九年母図鐔 埋忠明壽 Myoju Tsuba

2020-01-07 | 鍔の歴史
九年母図鐔 埋忠明壽


九年母図鐔 埋忠明壽

 蜜柑の類も薬功が認められていたようだ。橙が正月飾りに用いられているのも、単に代々繁栄に語呂を合わせただけではない。我が国の柑橘類では、九年母や橘が良く知られている。埋忠明壽は桃山頃の金工で、鐔に芸術性を見出し、後の金工芸術の礎石となっただけでなく、味わい深い名品を遺している。この九年母図鐔も、墨絵のように平象嵌を駆使して表現した作。
 随分むかしのことになる。九年母の鐔を紹介したところ、大分県の方から、ご自宅に九年母の古木があると教えてもらい、後にその実を送っていただいたことがある。鐔などの図としては知っていたもの現物を見たのは初めてであった。食べてみた。今の蜜柑からすれば途方もなく酸っぱかったが、遠い祖先は、これをありがたくいただいていたことを考えると、今の時代の豊かさに改めて感謝の気持ちが生じた思い出である。

松樹図鐔 古金工 Kokinko Tsuba

2020-01-06 | 鍔の歴史
松樹図鐔 古金工


松樹図鐔 古金工

 全面に松葉を地文風に彫り描いた作。山銅地であろうか、赤銅地であろうか古色溢れる素材も魅力。浅い木瓜形に猪目を構成しているのも風雅だ。時代の上がる鐔の一つの形式。若松というより大きく成長した老松といった風情だが、松樹は千年の翠と言われるように長寿の象徴として好まれた。

若松図鐔 土屋守親 Morichika Tsuba

2020-01-01 | 鍔の歴史
若松図鐔 土屋守親


若松図鐔 土屋守親

 正月飾りの一つ、若松を描いた鐔。松は、その清浄な香りが人の生命に力を与えると考えられていた。冬においてもあおあおとした葉を茂らせているのもその自然の力が源。それゆえ、古くは若松の新芽を薬種として食する風習があったようだ。多すぎると松脂臭さが気になるが、確かに少量であれば爽やかな香りがいい感じだ。この鐔では、万両とカヤの実が描かれている。カヤの実も滋養ある食物として古くから尊ばれ、正月飾りに用いられていた。
 今年も、もう少しこのブログを頑張って続けてみようかと考えています。