酔漢のくだまき

半落語的エッセイ未満。
難しい事は抜き。
単に「くだまき」なのでございます。

昔、花山村があった頃

2010-10-07 11:04:43 | ああ宮城県な話
平成22年10月6日「読売新聞23面」より写真を抜粋掲載いたしました。
この記事を読んでおりました年下君です。
少しばかり彼を紹介いたします。シティラピッド氏の弟です。
現在中学三年生。身体を使う事を趣味としております。「体育会系文化部」を自称しております。湘南の海で得意な水泳を生かしてライフセーバーをやりながら、サーフィンとロードバイクを乗り回しております。しかもテニスの腕には覚えがあり、部活は科学部。実験なんてめんどうな奴でして、岩石採集とか野草を食べたり、もっぱらフィールドワークに勤しんでおります。ペットボトルでボートを作ってレースに参加したり。
ですから、この新聞記事も彼のテリトリーだったわけです。酔漢、昨日彼から起こされたのでした。

「親父、おやじ起きて!面白い記事が新聞に載ってるぜ!」
「なんだよいきなり、なんだぁ?」
「まぁこれ見てよ。親父のこった。この人知ってるんだろ?」
「俺だって知った奴なんてたかが知れて・・・・ああ・・先生!」
「ビンゴォォォ!やっぱり知ってた!これ宮城の記事だもんね」
「わきっつぁんでねぇか」
「どこで知った?」
「国立花山少年自然の家で俺たちの植物の先生だった。やっぱりな!今だ健在ってとこだな」

酔漢新聞記事を読みながら、あの当時の事を思い出しておりました。


昭和58年、酔漢大学一年。落語研究会に席を置きながら「国立花山少年自然の家のボランティアスクール」に参加しておりました。酔漢達はその五期生。全国から大学生が参加しての研修と施設内での非常勤としてボランティア活動をいたしておりました。
以前ロクモンスって何 本当になんだったんだろうとロクモンスの話題に触れました際、少しばかり少年自然の家での出来事を語りましたし、先の大地震の時には施設や花山周辺、そして栗駒山の様子などはとても気になりました。花山そして栗駒と語った経緯がございます。酔漢、このあたりの自然が大変好きなのでした。

ボランティアスクールは大学が夏休みの間に開講されます。施設の事はもちろん、社会教育の概念から学童教育などと言った大学の授業に近いものから、団体活動の運営そして野外フィールドワークまで様々な講義を受けなくてはなりませんでした。
自然の家周辺の植生についてのフィールドワーク。講師は写真の中央におられます「高橋和吉(たかはし わきち)先生」でした。僕らは早朝、施設の前通称「すりばちひろば」で先生(僕らは「わきっつぁん」と呼んでおりました。もちろん内輪での事です)を待っておりました。夏の盛りでしたが、長そで長ずぼんでした。
先生の到着。いでたちは掲載写真と全く変わっておりません。優しい笑顔で僕らの前に現れました。
「みなさんこんにちわ。たかはしわきちです。今日一日よろしくお願いします」
と挨拶の後。
「これから山に入りますが、最初に一言。みなさんの足元には草が生えています。これにもちゃんと名前があるんです。『雑草』という言葉はみなさんの頭から消して下さい。すべての植物にちゃんとした名前がある事を知っておいてください」
「酔漢、おめぇ、この草知ってっか?」
隣りにいた「ごとう君」が話かけてきます。
「おめぇ、俺だってしゃねぇおん」
「んで調べねぇとねぇなや」
こんな感じでした。酔漢、植物の名前には相当疎かったのです。
僕らは、「すりばちひろば」から自然の家キャンプ場へ向かいました。途中の植物をマップに記入しながらの観察会です。
途中植林された杉林を通過します。
「杉の木は背が高いですから、ほとんど日光が届きません。ですからシダ類が幅を利かせるんですね」
と、ふとそちらへ目をやりますと・・。
「先生あいず何っしゃ。変な色した筍のような葉っぱが見えっちゃ」
隣りにおりましたピンさん(はじめさんと言います。一でピン。渾名でした)が質問。
ふと先生の顔を見ますれば・・うっすらと笑みを浮かべております。
「珍しぃ植物には違いありませんが・・群生しないんですね。名前はねぇぇ・・」
先生いつもに増してニヤニヤしております。
僕らは何て言うのか気になりました。正直誰も知らなかったのです。
「『マムシ草』って言って強い毒を持っているんだ。毒草です」
「どくそう?すか?薬さぁなんねぇのすか?」
「槍なんかの先にマムシ草の葉の液を擦りつけて狩りをしたとも伝えられているんだ。ちょっと行ってみますか」
僕らはおそるおそるマムシ草に近づきました。
「誰か歯を一枚取ってみて。皮膚に付かないように気を付けて」
たかはし君がそのマムシ草から葉を一枚採取してきました。
「この葉についている液体が神経を麻痺させる効果があるんだ。まぁ少しくらいなら・・誰か毒草の効果を試してみますか?」
「効果を試すって・・先生なんじょすんのすか?」
「指で葉の表面をなぞって舌に付けて・・まぁ二時間もすれば元に戻るから」
「二時間なら昼食には十分間に合うべ」と酔漢は考えました。→これが間違いの元でした。
「んでやってみっぺ」と酔漢が葉の表面をなぞって舌でなめて見ました。
「何だや、もっと苦げぇかと思ったっちゃ。案外味なんてしねぇもんだべ」
と一安心したその瞬間!
「舌が麻痺したっちゃ!口のまわりが何も感じねぇべ。歯医者の麻酔と同じだべ」
回りの連中は僕の症状を興味を持って観察しております。
三宅島から参加のおきやまさんが僕の顔を覗き込んで、僕の頬を突っついてきました。
「酔漢君、感じる?」
「何も感じねぇべ」
皆で大笑いです。
ボトルから水でうがいをしようとしましたが、口を閉じている感覚がなく、口の脇から水がこぼれている状態。味もまったく解りません。
わきっつぁんは僕の顔を見ながら・・
「酔漢さんが一番いい経験をされました」
この一言でみんなが拍手。
「おい冗談じゃねぇ・・・ゾ!」
杉林をぬけミズナラやコナラの原生林に入り「目薬の木」だとか「もじの木」(箸の材料に最適な木。ほのかにいい香りがする)だとか説明されても、僕は口の中が気になってそれどころではなかったのです。
キャンプ場で食事。ようやく口がもとに戻ってきました。
「酔漢さんお昼には大丈夫そうですね」
「昼飯食えねがったらなんじょすっぺって思ってたっちゃ!」
昼食の定番、キャンプ場カレーライスはおいしくいただくことが出来ました。

翌年の春。「春の野草を食べる」と言う観察会。
僕らは少しの調味料と米だけの持参です。おかずは山から調達。
「つくし」「どくだみ」など「タラの芽」とかありましたが、先端部分だけの芽だったので採取はなし。ほとんどが知らない植物ばかりです。
「食えそうな奴を選んで捕ってきたっちゃ」
かなりいい加減な野草を食べる会です。
そこでの「わきっつあん」の解説。
「食べられるか食べられないかの区別ですが、例えば『とりかぶと』と『げんのしょうこ』の区別は知識としてもっていてもらいたいのですが、『朝顔』の葉には虫が付きにくいのです。朝顔の葉は薬草にもなるような成分があるので、昆虫はそれを知っているんですね。ですから、葉を見て虫が食べた跡がたくさんあるような植物は人間が食べても大丈夫なんです。昆虫はおいしい葉を知っているんですね」
「そうか、そういうもんなんだやな」
目から鱗の酔漢でした。

昨日の新聞。「生物多様性」に関する特集記事でした。
その冒頭。

「あーこんなにからいんだ」と声があがる。休耕田の生えたヤナギダテの葉は、かむと舌の奥がピリピリする。
「細かくきざんでワサビのように、刺身などにつけます」
9月21日午後、宮城県大崎市田尻大貫で「秋の草花調査研修会」が開かれた。NPO法人「田んぼ」が主催し、地域で自然環境を守る活動に携わってきた人たち7人が参加。同市の高橋和吉・野生植物研究所長(66)が先生役を務め、「田んぼ」から2キロ圏内にある水田や休耕田の周辺の草地3か所で、草花を摘んだ。
(中略)
参加者の関心が集中したのは、食べられる草。事務所の裏を流れる溝の縁にあったスイバ。かむと、実に酸っぱい。先生は、「生でぼりぼり、塩をつけて食べる」。紫のツユクサも、「天ぷらにするとおいしい」
(読売新聞平成22年10月6日水曜日 12版 23面 より抜粋)

記事を拝読しながら、ふと「なんだや、わきっつぁん。同じ事してんだなや」と思った酔漢です。先生の植物を語っているときの目の優しさをふと思い出しました。

再び年下君との会話。
「おやじ、これ見てくれ」と夏休みの植物観察会に参加したときの本人のノート。デジタルカメラで撮られた何点かの植物写真とその解説が掲載されておりました。
「これこれ!例のやつ」
「マムシ草でねぇか」
「そう。俺もなめてみたかったなぁ」
「バカ、そんな考えおこすんじゃない!えれぇ目にあうぞ!」
「そうなんだけどさぁ。『1m以内に近づくな』って言われた」
「危険な植物だけどさぁ。そこまで神経質になることもないと思うがなぁ」

「まずは手さぁ取ってやってみたらいいっちゃ」
「わきっつぁん」の言葉を思い出しました。

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14 コメント

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アレを口にされるとは。 (すず)
2010-10-07 13:51:24
 うふふ、このマムシ草、私も実際に見た事があります。ちょっと気持ち悪い色ですよね~。おばあさんが「この草が生えているところには、マムシが居るからマムシ草って言うんだ」と教えてくれました。桃生町のおばちゃんの家での話しです。

しかし酔漢様も勇気がおありですね、よくもまァ、あれを口にされたものです(苦笑)
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紅葉 (ひー)
2010-10-08 12:31:48
下の二つの記事もコメントしませんでしたが、拝読させていただきました。

ひょんな所から、昔の思い出が甦ったようですね。
昨日のニュースでは、栗駒山の山頂付近は、綺麗に色付きました。
猛暑が続いたと思ったら駆け足で冬が近づいて来るのを感じます。
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Unknown (takeda)
2010-10-09 17:14:00
懐かしいですねー
25年位前?

3月、花山まで塩釜から自転車で行ったこともありました。

寒さ凌ぎに、添加剤を飲みながら走った記憶が(笑)。
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神経毒でしたか (丹治)
2010-10-12 13:50:56
マムシグサの毒は神経毒でしたか。
「槍の先に塗って・・・」という植物の先生のお話だと、
マタギが獲物を仕留める時に使ったということもあるのでしょうか。
毒矢に・・・

薬草にしても毒草にしても、
昔の人は自然の知識を豊富にもっていましたね。

日本薬科大学の船山信次先生は
「毒薬同源」ということを唱えておいでです。
つまり植物の持つ性質としては変らず、
人間に有益であるか有害であるかで薬草か毒草かが分れるとのことです。
微生物の分解作用としては変りがなく、
人間にとって有益化有害化で発酵と腐敗が分れるのと同じでしょうか。

しかしトリカブトにせよマムシグサにせよ、
狩猟の際に使われるとすれば、
毒も使いようによっては人間にとって利用価値ありということでしょうか。
もっともボルジア家が得意としたような使い方は、
太陽が西から昇っても願い下げですが。

すずさんも書いていらっしゃいましたが、
酔漢さん、勇気(ゆうぎ)あんだごだ。
オラにはでぎねぇ・・・



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エスプに行ってきました (ぱるえ)
2010-10-20 15:11:48
中村ハルコさんの写真展を見てきました。
自然体な写真を撮られる方だったんですね。
光がとってもやわらかで、お人柄を感じられました。
河北新報掲載のフォトエッセイも素敵でした。
期間中に他の展示も見に行ければと思っています。
ご連絡いただきありがとうございました。
それから、トラバさせていただきましたのでよろしくお願いします。
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すず様へ (酔漢です)
2010-10-25 09:57:03
「マムシ草」の由来ですか。「マムシのように毒がある」からと「葉の模様が蛇に似ている」からだと思っておりました。
なるほど「近くには確かにマムシはおります」
マムシのいる環境と同じところに咲くのですね。次男に聞いたところ「マムシ注意」の立札があったそうです。

口にしたというより手についた樹液をなめた程度です。あの量でこれだけの効果。
あの毒は「おそるべし!」でした。
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ひー様へ (酔漢です )
2010-10-25 09:59:06
栗駒も紅葉真っ盛りですね。
紅葉=「芋煮会」です。
東北店舗限定の企画です。
「酔漢、芋煮ってなんだ?」と東京のスタッフから尋ねられます。
「一代イベントだべ」
と答える酔漢です。
返信する
takeda様へ (酔漢です)
2010-10-25 10:01:55
おめぇらみてぇなやろっこが一番おもせかった

と、キャンプの食事の事を思い出します。
あの闇鍋の正体は・・・「本当に蛙ば入れてたのすか?」
今だ、謎のまま。
ごとう君も言っておりました。
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丹治様へ (酔漢です)
2010-10-25 10:04:30
成り行き!勢い!身の程知らず!
これに尽きます。
でも、こんな経験、人生で二度とできないかも・・いや、出来ません!そして、やりません!やりたくないです!

「親父、俺でもやりたくない」
次男のセリフでした。
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ばるえ様へ (酔漢です )
2010-10-25 10:07:47
写真展の記事拝読いたしました。本日。
掲載ありがとうございました。
それと。
大和の話に、あの「Y字路」は出てくるのです。「右花渕」あの道が舗装される前。そんな戦後すぐの話を語ります。

河北に掲載されたのですね。
河北の彼も中村さんのファンだったのでした。
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