このくだまきは、フィクションであって実在の人物、実際にあった事などとは違っております。と、いたします。
五月病。五月になると元気のない新入生たちは、こう呼ばれることが多いのです。
が、演劇部には無縁です。
酔漢達がちょうど三年生だったころ、何故か?多くの新人を迎えることとなりました。
「今年は演劇同好会志望者が多いよなぁ」と、おおた君。
「ダメだよだまして連れて来ちゃぁ」と、ロコちゃん。
ちなみに、酔漢と飲み友達。ものすごく強い!日本酒の得意な彼女でした。
「まぁなぁ、騙してでもさぁ、連れてくればこっちのもん!だよなぁぁ」
猫写真家君は、こう話しております。
「それってねぇ拉致といっしょじゃん!」
「せっちゃん!拉致って言う?」
横浜生まれの横浜育ち。キタムラのバッグとミハマのシューズ。しかも、ワンレン。これは、福祉大キャンパスでは目立ちます。ですが、その見かけに騙されては・・・。
「だってそうじゃん!『話聞くだけでいいからさぁ』とか言いながら、女の子何人連れてきたのよぉ、みずま君!」
「それさぁ、拉致って言うかぁ・・・そのぉナンパの延長でねぇか!」と、けんちゃん(=ある友人君)が突っ込みます。
「でも、確率が低いっちゃ。20人に声かけたとすっぺ。実際に教室に来んのって11人だど」
全員で「じゅうぶんダ!」
「いいなや、やっぱし、演劇同好会だっちゃ。落研なんてまだ見学者3人だべ」
「酔漢君ねぇ、演劇志望者から落研に引き抜こうかなんて考えてないでしょうね」
「またぁ、どうして人の考えている事がわかんのすか?けいちゃん、御見通しだなや」
けいちゃん。会津出身。もう度胸のよさは天下一品。繊細な演技をする女性でした。
「そりゃね、酔漢君のことだからねぇぇ」
「ところで、新人君達には今日どんな事させる?」
「そうだなぁ・・屋上で発生練習して、キャンパスを走らせて・・・そればかりじゃぁぁなぁ」
「あれで、結構、高校演劇かじった連中が多くてねぇ」
新人リストを見ながら、みつえちゃんが話しております。
あのぉ・・ですね、とても綺麗な方でございまして、舞台で面と向かうと緊張する酔漢でございました。
「じゃぁこうしよう!ソルフェージュ!」
「ロコちゃん、いきなりなにっしゃ?」
「彼らに課題を与えてね、それで演技してもらうのヨ」
「それさぁ、おもしれぇぇ」
猫写真家君も乗ってきたご様子。
「きまりじゃん!準備しよう!」
せっちゃん、急いで教室を片付け始めました。
ソルフェージュは音楽用語です。演劇の場合は、ある一つの課題を役者に与えます。例えば「地面から顔をだしたばかりのカエル」とか。
これを自身の感性で消化し、自分の体を使って演技いたします。
結構、難しいものです。
「んで、おらいと、みずま。としお。猫写真家。おおた、せっちゃんとロコちゃんと正面で課題ばだすべ。みつえちゃんとけんちゃん、おけい(けいちゃん)は後ろさいでけねぇ」
酔漢が提案しました。
新人が十数名教室に戻って来ました。
「今もどりましたぁぁ」とジャージ姿の、なか君。
「先輩、発声練習ばかりで少し飽きてきたんですけど!」と、てるよ。
「演劇部って体育会系すか?」と、やす。
どやどや・・・・と口々にいろんなことを話しながら、とりあえず全員集合。
教室の椅子が片付けられている様子に全員が「いつもと違うぞ」と思ったと思います。
パンパン!せっちゃんが手を叩きました。
「ハイハイ!全員整列してネ。これからソルフェージュやろう」
「せ・・せん・ぱぁぁ・・いソ・ルフェ・ーじゅ?・・・って?」
「おれよ(ちゃん)か?まぁおめぇは後の方にすっから、まぁ見てたらいいっちゃ」
「おれよちゃん」。自己紹介の時に、あまりの緊張で名前が言えずに自分の事を「おれよ」と言ってしまった彼女。(とぉぉいくだまきに出てまいりました)
何やら(やはり)緊張しまくり。
「出たい順番に待機しててね・・・と!準備OKだよ。誰?課題出すの」
「俺!」と手を挙げたおおた君。
「トップ誰?」
「ハイ!」と挙手。
「あらやかぁ。お前度胸あるんだな。その度胸だけは買ってやる」とおおた君の目が光りました。
酔漢、いやぁぁな予感がいたしまして・・・。となりに座っております、みずま君に耳打ち。
「おめぇ、おおたが何かたくらんでんでねぇか?」
「酔漢もか。実はおれもなのっしゃ・・」と話が終わらないうちに・・。
「あらや君?(いつもは君づけしないのにぃ)君八戸だよね、出身」
「はいそうです」
「そうかぁ・・あの高校演劇で全国大会へ出た『八戸高校』のご出身(いつもは「ご」なんてつけないのにぃぃ)だね。高校で演劇は・・」
「やってました(ああああ)」声に出しませんが、(あああ)が聞こえてきます。
「ソルフェージュもお手のもんだ・・ネ!」
(うっ!「ネ」に力が入っているぅぅ)
「高校の時、やってましたカラ!」
(うっ!「カラ」に力がはいているぅぅ)
もう最初から火花バチバチの両者。
教室中に緊張が走ります。
おおた君、いきなり課題を言いました。
「じゃぁ。空飛んでもらおうか・・・ナ!」
(うっ!「ナ」に異様な力が入っているぅぅ)
「先輩?空・ですか?」
「そうそう、空を飛べばいいんだヨ」
彼はキョトンとしたまま。演技を始めました。
床にうつ伏せ。そして台詞を言いました。
「わたしは、自由だぁ。今こうして空を飛んでいる」と。
「みずま。台詞ってあったかや?」
「んなもんねぇど」
後ろを見ますと、けんちゃん、腹を抱えて笑いをこらえております。猫写真家君も同様。
「スオーーップ!あらやねぇ。台詞ってどこにそんな課題あるのよぉ!」
蜷川ばりの怒鳴り声が教室中に響きました。
「あのぉ先輩・・・少し言葉を入れて表現しようかと・・・・」
「課題はぁ『か・だ・い』だぁ!無言でヤレ!」
「はぁぁ・・・・ハイ」と、彼も本気モードで演技をしようとしています。
「酔漢。時計持ってる?」とおおた君。
「持ってんけど・・・何に使うのっっしゃ?」
「奴が飛んでいる時間、計ってね」
奴の魂胆が見えたような気がしました。
乗ってやろう!こう決心。(おもせぇごどになっと・・・)と。
「やめぇぇ!」
あらや、相当息を切らしております。
何せ、何十回と、両手をばたつかさせておりましたので。
「酔漢、時間は?」
「0.362秒(嘘デス!)」
「そうかぁぁ。としお!演劇部って役者志望は何秒飛べなきゃならないんだっけ?」
「そうだなぁ。1.5秒が標準タイムだな!記録は、猫写真家の2.378秒だった」
としお、言ってくれるんでねぇか!みんなおおた君が何を考えているのか分かったようで、腹抱えて笑っております。
が、あらや君、真剣です。
「じゃあもう一度やってみようか・・ナ!」
「ハイ!」再度の挑戦。
彼、両手をばたつかせながら、一生懸命、ジャンプしてます。
「今のでどの位?」
「さっきよりいいよ!0.786」
「まだまだだねぇ・・じゃぁもう一度やる前に、あらや少し休んでて。『おれよ』やってみぃ」
「お・・・・お・れ・・・?」
「いいから、やってみて?」
おれよちゃん。両手を広げて、空を飛んでいる?ふぅ?
「すごいねぇぇえええ。おれよ、俺初めて人が道具を使わないで空飛んでるとこ見た!タイムは?」
「3.789秒!記録だっちゃ!」
もう教室は俺ら笑いががまんできずに、おります。けんちゃんは壁に頭をつけながら涙流して必死にこらえておりました。
あらや君「ぽ・か・ん」としてます。
「先輩!今のが記録ですか!」
そろそろ頭に来ている。そんな感じ。
そんなあらや君の態度などお構いなしで、おおた君。
「あらやねぇ、もう一度!」
なんやかやでもう一時間近く経ってます。
「よぉぉしぃぃ。終わり!あらや!なかなかだった!」
後ろからあちこちから拍手喝采。
もう怒り心頭の彼。おおた君に食ってかかってきました。
「先輩、ひどいじゃないですかぁぁぁ」(ん?どっかで聞いたような・・・・)
「ん?何か文句あっか?」
「どうして俺のがダメで、『おれよ』のがいいんですか?」
そこでせっちゃんがダメ押しの一言。
「あのねぇ、高校のキャリアやプライドなんて、すてなきゃねぇ、大学は甘くないんだよ!」と喝!
再び教室しーーーん。
「あなたねぇ、高校演劇やってたのは私も一緒。だけどねぇ、一から作ろうって思わなきゃダメじゃん。自分が成長しないのよ!『おおた君』はそれをあなたに教えようとしたのよ!そんなのもわかんないの!」
あらや君、もう一生懸命、せっちゃんの話を聞いております。
「他の、新人も一緒だからね!そんなキャリアは関係ないから。みんなスタートは一緒なんだよ。『おれよ』もそう、あなたは逆!いつまでも、訛りにコンプレックスもってんじゃないの!」
おれよちゃん。もう泣きそう。
「じゃぁ、続きはやるよ!明日ね。解散しよう」
帰りの仙石線。仙石線組の酔漢、猫写真家、みずま君、けんちゃん。快速石巻行。
「あんな落ちがつくとはなぁぁ」と猫写真家。
「おらいも、せっちゃんがあんな事言うとはおもわねがったべ」みずま君が、ぼそっと話しました。
「でもさぁ、よぉぉく考えるとさぁ。『おおた』。そこまで考えてやる人間かぁ?」
「んだっちゃ。俺もそこは納得してねぇのっしゃ」
そこに、けんちゃんの一言。
「あのなぁ・・今の酔漢が正しい!おおたはそこまで考えてない!」断言してます。
みんなで、けんちゃんの顔を覗き込みました。
「いいかぁ、おおたは単に、あらやをいじめたかった・・・んだ!」
「おい!それって・・イジメ?・・かよ」
「まぁ、イジメってわけじゃないけんど、なんか、からかいたくなったんでねぇか?」
ドキッ!にし君の顔を思い浮かべます。酔漢でございました。
まぁ、そんな事件もありまして、それから一年後。
新人達が入ってきました。
「じゃぁ、ソルフェージュやろうか」と声かけているのは、あらや君。
彼は昨年、自分が受けた思いを後輩には(決してやらない!と言っておりましたが)・・・同じ事をやろうとしておりました。
が!しかし!
ある新人の女の子が演技をしております最中。
課題を出した彼ら達が一言も評価できないほどの演技力で迫っておりました。
挨拶したとたんに、回りを巻き込むオーラに、こちらが飲まれてしまう。
立つだけで、引き込まれそうな魅力の持ち主。
「あんだ・・・名前はなんていうのっしゃ?」
明るい笑顔で答えた彼女。
「タミーって呼んで下さい・・ね・・先輩方」
僕たちは、彼女の演技の目撃者一号だったのでした。
藤本喜久子さん。
彼女の放つオーラに圧倒されたのでした。
招かれざる客
登場人物
リチャード・ウォリック ウォリック家の当主
ローラ・ウォリック リチャードの妻 みつえ
マイクル・スタークウェッダー 深夜の客 猫写真家
ミス・ベネット リチャードの看護婦 おけい(けいちゃん)
ジャン・ウォリック リチャードの異母弟 なかだて
ウォリック夫人 リチャードの母 さとみ
メアリー・エンジェル リチャードのメイド てるよ
キャドワラダー部長刑事 みずま
トマス警部 としお
ジュリアン・ファラー 酔漢
演出 ある友人(=けんちゃん)
助演出 おおた・せっちゃん
舞台監督 いその
ドラマはすべて、ブリストル海峡に近い、サウス・ウェールズにある、ウォリック家のリチャードの書斎で進行する。
五月病。五月になると元気のない新入生たちは、こう呼ばれることが多いのです。
が、演劇部には無縁です。
酔漢達がちょうど三年生だったころ、何故か?多くの新人を迎えることとなりました。
「今年は演劇同好会志望者が多いよなぁ」と、おおた君。
「ダメだよだまして連れて来ちゃぁ」と、ロコちゃん。
ちなみに、酔漢と飲み友達。ものすごく強い!日本酒の得意な彼女でした。
「まぁなぁ、騙してでもさぁ、連れてくればこっちのもん!だよなぁぁ」
猫写真家君は、こう話しております。
「それってねぇ拉致といっしょじゃん!」
「せっちゃん!拉致って言う?」
横浜生まれの横浜育ち。キタムラのバッグとミハマのシューズ。しかも、ワンレン。これは、福祉大キャンパスでは目立ちます。ですが、その見かけに騙されては・・・。
「だってそうじゃん!『話聞くだけでいいからさぁ』とか言いながら、女の子何人連れてきたのよぉ、みずま君!」
「それさぁ、拉致って言うかぁ・・・そのぉナンパの延長でねぇか!」と、けんちゃん(=ある友人君)が突っ込みます。
「でも、確率が低いっちゃ。20人に声かけたとすっぺ。実際に教室に来んのって11人だど」
全員で「じゅうぶんダ!」
「いいなや、やっぱし、演劇同好会だっちゃ。落研なんてまだ見学者3人だべ」
「酔漢君ねぇ、演劇志望者から落研に引き抜こうかなんて考えてないでしょうね」
「またぁ、どうして人の考えている事がわかんのすか?けいちゃん、御見通しだなや」
けいちゃん。会津出身。もう度胸のよさは天下一品。繊細な演技をする女性でした。
「そりゃね、酔漢君のことだからねぇぇ」
「ところで、新人君達には今日どんな事させる?」
「そうだなぁ・・屋上で発生練習して、キャンパスを走らせて・・・そればかりじゃぁぁなぁ」
「あれで、結構、高校演劇かじった連中が多くてねぇ」
新人リストを見ながら、みつえちゃんが話しております。
あのぉ・・ですね、とても綺麗な方でございまして、舞台で面と向かうと緊張する酔漢でございました。
「じゃぁこうしよう!ソルフェージュ!」
「ロコちゃん、いきなりなにっしゃ?」
「彼らに課題を与えてね、それで演技してもらうのヨ」
「それさぁ、おもしれぇぇ」
猫写真家君も乗ってきたご様子。
「きまりじゃん!準備しよう!」
せっちゃん、急いで教室を片付け始めました。
ソルフェージュは音楽用語です。演劇の場合は、ある一つの課題を役者に与えます。例えば「地面から顔をだしたばかりのカエル」とか。
これを自身の感性で消化し、自分の体を使って演技いたします。
結構、難しいものです。
「んで、おらいと、みずま。としお。猫写真家。おおた、せっちゃんとロコちゃんと正面で課題ばだすべ。みつえちゃんとけんちゃん、おけい(けいちゃん)は後ろさいでけねぇ」
酔漢が提案しました。
新人が十数名教室に戻って来ました。
「今もどりましたぁぁ」とジャージ姿の、なか君。
「先輩、発声練習ばかりで少し飽きてきたんですけど!」と、てるよ。
「演劇部って体育会系すか?」と、やす。
どやどや・・・・と口々にいろんなことを話しながら、とりあえず全員集合。
教室の椅子が片付けられている様子に全員が「いつもと違うぞ」と思ったと思います。
パンパン!せっちゃんが手を叩きました。
「ハイハイ!全員整列してネ。これからソルフェージュやろう」
「せ・・せん・ぱぁぁ・・いソ・ルフェ・ーじゅ?・・・って?」
「おれよ(ちゃん)か?まぁおめぇは後の方にすっから、まぁ見てたらいいっちゃ」
「おれよちゃん」。自己紹介の時に、あまりの緊張で名前が言えずに自分の事を「おれよ」と言ってしまった彼女。(とぉぉいくだまきに出てまいりました)
何やら(やはり)緊張しまくり。
「出たい順番に待機しててね・・・と!準備OKだよ。誰?課題出すの」
「俺!」と手を挙げたおおた君。
「トップ誰?」
「ハイ!」と挙手。
「あらやかぁ。お前度胸あるんだな。その度胸だけは買ってやる」とおおた君の目が光りました。
酔漢、いやぁぁな予感がいたしまして・・・。となりに座っております、みずま君に耳打ち。
「おめぇ、おおたが何かたくらんでんでねぇか?」
「酔漢もか。実はおれもなのっしゃ・・」と話が終わらないうちに・・。
「あらや君?(いつもは君づけしないのにぃ)君八戸だよね、出身」
「はいそうです」
「そうかぁ・・あの高校演劇で全国大会へ出た『八戸高校』のご出身(いつもは「ご」なんてつけないのにぃぃ)だね。高校で演劇は・・」
「やってました(ああああ)」声に出しませんが、(あああ)が聞こえてきます。
「ソルフェージュもお手のもんだ・・ネ!」
(うっ!「ネ」に力が入っているぅぅ)
「高校の時、やってましたカラ!」
(うっ!「カラ」に力がはいているぅぅ)
もう最初から火花バチバチの両者。
教室中に緊張が走ります。
おおた君、いきなり課題を言いました。
「じゃぁ。空飛んでもらおうか・・・ナ!」
(うっ!「ナ」に異様な力が入っているぅぅ)
「先輩?空・ですか?」
「そうそう、空を飛べばいいんだヨ」
彼はキョトンとしたまま。演技を始めました。
床にうつ伏せ。そして台詞を言いました。
「わたしは、自由だぁ。今こうして空を飛んでいる」と。
「みずま。台詞ってあったかや?」
「んなもんねぇど」
後ろを見ますと、けんちゃん、腹を抱えて笑いをこらえております。猫写真家君も同様。
「スオーーップ!あらやねぇ。台詞ってどこにそんな課題あるのよぉ!」
蜷川ばりの怒鳴り声が教室中に響きました。
「あのぉ先輩・・・少し言葉を入れて表現しようかと・・・・」
「課題はぁ『か・だ・い』だぁ!無言でヤレ!」
「はぁぁ・・・・ハイ」と、彼も本気モードで演技をしようとしています。
「酔漢。時計持ってる?」とおおた君。
「持ってんけど・・・何に使うのっっしゃ?」
「奴が飛んでいる時間、計ってね」
奴の魂胆が見えたような気がしました。
乗ってやろう!こう決心。(おもせぇごどになっと・・・)と。
「やめぇぇ!」
あらや、相当息を切らしております。
何せ、何十回と、両手をばたつかさせておりましたので。
「酔漢、時間は?」
「0.362秒(嘘デス!)」
「そうかぁぁ。としお!演劇部って役者志望は何秒飛べなきゃならないんだっけ?」
「そうだなぁ。1.5秒が標準タイムだな!記録は、猫写真家の2.378秒だった」
としお、言ってくれるんでねぇか!みんなおおた君が何を考えているのか分かったようで、腹抱えて笑っております。
が、あらや君、真剣です。
「じゃあもう一度やってみようか・・ナ!」
「ハイ!」再度の挑戦。
彼、両手をばたつかせながら、一生懸命、ジャンプしてます。
「今のでどの位?」
「さっきよりいいよ!0.786」
「まだまだだねぇ・・じゃぁもう一度やる前に、あらや少し休んでて。『おれよ』やってみぃ」
「お・・・・お・れ・・・?」
「いいから、やってみて?」
おれよちゃん。両手を広げて、空を飛んでいる?ふぅ?
「すごいねぇぇえええ。おれよ、俺初めて人が道具を使わないで空飛んでるとこ見た!タイムは?」
「3.789秒!記録だっちゃ!」
もう教室は俺ら笑いががまんできずに、おります。けんちゃんは壁に頭をつけながら涙流して必死にこらえておりました。
あらや君「ぽ・か・ん」としてます。
「先輩!今のが記録ですか!」
そろそろ頭に来ている。そんな感じ。
そんなあらや君の態度などお構いなしで、おおた君。
「あらやねぇ、もう一度!」
なんやかやでもう一時間近く経ってます。
「よぉぉしぃぃ。終わり!あらや!なかなかだった!」
後ろからあちこちから拍手喝采。
もう怒り心頭の彼。おおた君に食ってかかってきました。
「先輩、ひどいじゃないですかぁぁぁ」(ん?どっかで聞いたような・・・・)
「ん?何か文句あっか?」
「どうして俺のがダメで、『おれよ』のがいいんですか?」
そこでせっちゃんがダメ押しの一言。
「あのねぇ、高校のキャリアやプライドなんて、すてなきゃねぇ、大学は甘くないんだよ!」と喝!
再び教室しーーーん。
「あなたねぇ、高校演劇やってたのは私も一緒。だけどねぇ、一から作ろうって思わなきゃダメじゃん。自分が成長しないのよ!『おおた君』はそれをあなたに教えようとしたのよ!そんなのもわかんないの!」
あらや君、もう一生懸命、せっちゃんの話を聞いております。
「他の、新人も一緒だからね!そんなキャリアは関係ないから。みんなスタートは一緒なんだよ。『おれよ』もそう、あなたは逆!いつまでも、訛りにコンプレックスもってんじゃないの!」
おれよちゃん。もう泣きそう。
「じゃぁ、続きはやるよ!明日ね。解散しよう」
帰りの仙石線。仙石線組の酔漢、猫写真家、みずま君、けんちゃん。快速石巻行。
「あんな落ちがつくとはなぁぁ」と猫写真家。
「おらいも、せっちゃんがあんな事言うとはおもわねがったべ」みずま君が、ぼそっと話しました。
「でもさぁ、よぉぉく考えるとさぁ。『おおた』。そこまで考えてやる人間かぁ?」
「んだっちゃ。俺もそこは納得してねぇのっしゃ」
そこに、けんちゃんの一言。
「あのなぁ・・今の酔漢が正しい!おおたはそこまで考えてない!」断言してます。
みんなで、けんちゃんの顔を覗き込みました。
「いいかぁ、おおたは単に、あらやをいじめたかった・・・んだ!」
「おい!それって・・イジメ?・・かよ」
「まぁ、イジメってわけじゃないけんど、なんか、からかいたくなったんでねぇか?」
ドキッ!にし君の顔を思い浮かべます。酔漢でございました。
まぁ、そんな事件もありまして、それから一年後。
新人達が入ってきました。
「じゃぁ、ソルフェージュやろうか」と声かけているのは、あらや君。
彼は昨年、自分が受けた思いを後輩には(決してやらない!と言っておりましたが)・・・同じ事をやろうとしておりました。
が!しかし!
ある新人の女の子が演技をしております最中。
課題を出した彼ら達が一言も評価できないほどの演技力で迫っておりました。
挨拶したとたんに、回りを巻き込むオーラに、こちらが飲まれてしまう。
立つだけで、引き込まれそうな魅力の持ち主。
「あんだ・・・名前はなんていうのっしゃ?」
明るい笑顔で答えた彼女。
「タミーって呼んで下さい・・ね・・先輩方」
僕たちは、彼女の演技の目撃者一号だったのでした。
藤本喜久子さん。
彼女の放つオーラに圧倒されたのでした。
招かれざる客
登場人物
リチャード・ウォリック ウォリック家の当主
ローラ・ウォリック リチャードの妻 みつえ
マイクル・スタークウェッダー 深夜の客 猫写真家
ミス・ベネット リチャードの看護婦 おけい(けいちゃん)
ジャン・ウォリック リチャードの異母弟 なかだて
ウォリック夫人 リチャードの母 さとみ
メアリー・エンジェル リチャードのメイド てるよ
キャドワラダー部長刑事 みずま
トマス警部 としお
ジュリアン・ファラー 酔漢
演出 ある友人(=けんちゃん)
助演出 おおた・せっちゃん
舞台監督 いその
ドラマはすべて、ブリストル海峡に近い、サウス・ウェールズにある、ウォリック家のリチャードの書斎で進行する。
どれもこれも、いつもですが酔漢さんの宮城への思いが感じられますね。
藤本喜久子さんのその後はご存知の方は多いと思いますが、彼女を選んだ仲代達也さんの眼力ですね。ですが、僕らは、その存在感に圧倒されっぱなしでした。
普段はバカ騒ぎ?してましたが。
演技となると目の色の変わる彼女でした。
ご活躍は、僕らの励みになります。
「それ、知らんかっとんてんちんとんしゃん」
なるセリフを何度も駄目出しされた役者が、
そのたびに
「お前、出身どこだ?」
と聞かれて
「文学座です」
って答えるコントを思い出しました。
酔漢さん、覚えてますか?
それと大学一年の時、
週に二時間ある英語の片方(山中鹿之助先生でない方)のテキストが
アガサ・クリスティの『検察側の証人』でした。
一年かかって最後まではゆきませんでした。
しかも検察側の証人が出てくる前に終ったという
オチがついています。
その証人
伊武さんがデスラー総統のお声で持ってやってました。
「『それしらんかっとんてんちんとんしゃん』これ、じゃぁ言ってみようか」
「ハイ!『これしらんかっとんてんちんとんしゃん!』」
「・・・・・・ダメだなぁ・・お宅どこ?」
「ハイ文学座です」
「俳優志望?」
「そ・・・そうですが・・・」
「じゃぁさ。見本じゃないけど、一度聞いてみて・・『これしらんかっとんてんちんとんしゃん』!」
「ハハハハ!!!!そう、そうこの感じネ!これ!これでやってみて!」
ハイ分かりましたぁ!やってみます『これしらんかっとんてんちんとんしゃん』」
「・・・・ダメ・・・だなぁ・・お宅どこ?」
「はぁ。文学座ですぅ」
「俳優志望?」
「そ・・・そう・・デス・・が・・」
上記、何回も繰り返します。
そうだよなぁ。
考えれば・・同じようなことしてたんだなぁ。
反省・・デス。
検察側の証人は、台詞の量が半端じゃなくて、翻訳も大変だったと思います。お察しいたします。最後の最後のどんでん返し。
そこからが一番面白いところなのにぃ。
最後まで読まれましたでしょうか。
結果が気になりませんでしたでしょうか?
先輩のもんもん(心の)が気になりました。