*ナンシー・シュロスバーグ(1929~ )
1961年にコロンビア大学のスーパー博士のもとで教育博士号を取得し、メリーラン
ド大学で長年にわたりカウンセラー教育に携わってきました。現在は名誉教授でありコン
サルタント・グループの代表を務めています。1999年に全米キャリア開発協会(NC
DA)会長を務めるなど、アメリカを代表する理論家、実践家で来日実績もあります。
*シュロスバーグの理論
多くのキャリア理論は、人生を時間軸上の連続として捉えています。 しかしシュロス
バーグは人生をさまざまな転機(トランジション)の連続として捉えるところに大きな
特色があります。人生に大きな変化をもたらすような転機に注目して、これらひとつひと
つの転機をのりこえるためのノウハウを体系化したものがこの理論です。
シュロスバーグは転機に対処するための3段階として①転機を見定める。②リソース
(資源)を点検する。③受け止め、対処する 以上3つのステップを挙げています。
(1)転機を見定める(識別・プロセス)
1.転機の識別(転機のタイプ)
・人生に大きな変化をもたらす転機は大きく次の2つに分けられます
①イベント(予期したり、予期しなかった物事が起きる)
就職、転職、失業、引越、結婚、出産、離婚、病気、親族の死など
②ノンイベント(予期したり、期待したことが起きない)
希望した会社に就職できない、昇進できない、結婚できない、子どもができな
い等
・転機がもたらす変化は次の4つです
①役割の変化
②人間関係の変化
③日常生活の変化
④自己概念の変化
2.転機のプロセス
・現在転機のどの位置にいるかを見極めることが重要です
①転機の始まり(喪失や否認)
②転機の最中(空虚と混乱)
③転機の終わり(嘆き、受容)
「転機を見定める」段階では、以上のような視点に基づいて、現在直面している転機につ
いて客観的に把握します。
(2)リソースの点検(4S点検)
・転機に直面した際にこれを乗り切るために利用できる内的資源を「リソース」と
呼びます。この段階ではこうしたリソースをどの程度利用可能かを点検します。
①状況(Situation)
原因は何か
予期可能なことであったか
一次的なことなのか
過去に経験したものか
前向きに捉えているか
②自己(Self)
個人的特徴(性、年齢、健康状態、社会的地位等)
心理的資源(性格、価値観、信念・信条、行動様式等)
③支援(Support)
身近の関係者(家族、親族、友人、上司、同僚等)
専門家、専門機関
④戦略(Strategies)
状況を変える対応
認知・意味を変える対応
ストレスを解消する対応
(3)受け止め対処する
この最終段階では、前段階で明らかとなったリソースを強化し、活用するための具
体的な行動計画を策定し実行します。
シュロスバーグは転機をうまく乗り越えるためのの重要ポイントとして次の3点を付け加
えています。
①豊かな選択肢:転機をのりこえるための多様なな方法を知っている
②豊かな知識:自分自身を良く理解している
③主体性:転機を乗り切るための各種リソースを主体的に活用することができる
*エドガー・シャイン(1928~ )
米国の心理学者。組織開発(オーガニゼーションディベロップメント:OD)キャリア
開発、組織文化の分野で、支援や補助を提供するさまざまな専門職の発展にも大きな貢献
をした。現在マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校経済学部名誉教授。
著名な著書に「キャリア・サバイバル」「組織文化とリーダーシップ」がある。
出典:ウィキペディア
エピソード:ユダヤ系ハンガリー人の父(母はドイツ人)の影響があって、初めは物理学
に興味を持ち、野球フアンでもあったそうです。
*シャインの理論
(1)キャリアの定義
「人の一生を通じての仕事、生涯を通じての人間の生き方、その表現の仕方」
(2)キャリアアンカー(キャリアの錨)
1.その概念
キャリアを選択する際に最も大切な(どうしても犠牲にしたくない)価値観や
欲求のことで、周囲が変化しても自己の内面で不動な(これだけは譲れない)もの
のことを言う。
2.3つの問い(構成要素)
①何が出来るのか?(can):才能・能力
②何をやりたいか?(will):動機・欲求
③何をなすべきか?(must):価値・態度
3.8つのカテゴリー(タイプ)
①専門(特定) 専門職・職人気質
②経営管理 集団を統率・管理
③安定(安全) 長期的な安定志向
④起業家的創造性 クリエーター
⑤自律・自立 独立志向、企業内ではマイペース
⑥社会への貢献 世のため、人のため志向
⑦全体性と調和 ワークライフバランス志向
⑧チャレンジ 常に挑戦し続ける
(3)キャリア・サバイバル
キャリア・アンカーが個人ニーズの明確化であるのに対して1995年の著作
「キャリア・サバイバル」では組織ニーズの分析の必要性を強調している。
すなわち個人のキャリアが順調に開発され発展するためには、個人ニーズと組織
ニーズが互いにマッチしていることが重要であり、そのためにはだれもが自分の
職務と果たしている役割を定期的にチェックすべきであると述べている。
*ジョン・クランボルツ
現在スタンフォード大学教育・心理学部教授。米国心理学会フェロー、米国科学推進協会
会員。数度の来日実績があります。
*クランボルツの理論
(1)キャリア開発と職業選択に関する社会学習理論
「人は生涯学習し続ける存在であり、キャリアはこうした生涯にわたる学習によって
形成される」としています。
そしてカウンセリングの基礎手法として①強化、②ロール・モデル、③シュミレー
ションを提唱しています。つまり、キャリアカウンセリングの役割は、パーソンズや
ホランドに代表される特性因子アプローチのように、「人と職業のマッチング」を目
指すのではなく、「問題解決のための学習援助」であると考えるのです。
(2)キャリアカウンセリングプロセス
次の7段階のステップに分けています。
①解決すべき問題の明確化、可能な選択肢を明らかにする。
②問題解決のための行動計画をたてる。
③キャリア選択において大切にしたい価値を明確にする。
④その他の代替案も作成する。
⑤予測される結果を考える。
⑥さらに情報収集し絞り込む。
⑦実行・行動に移す。
(3)プランドハプンスタンス(Planned Happenstance : 計画された偶然性)理論
「キャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって形成される」というこの理論は
1999年に発表されるや大きな反響をよびました。激しい変動の時代に有効な理論と
評価され、欧米のみならず日本にも大いなる影響を及ぼしています。
2005年来日時の講演冒頭のエピソードからご紹介しましょう。それによれば博士は小学
生の頃、幼稚園時代の旧友と「偶然」再会し、友人の勧めで「偶然」テニスを楽しむよ
うになりました。そしてそのまま大学に進んでからもテニスに全力投球する日々を送り
学校当局から、3年時の専攻を決めないと除籍処分にする旨の通告を受けたのです。唯
一の親しい教授だったテニスコーチに相談したところ「そりゃあ心理学だろう」と。
なぜなら彼は「偶然」心理学の教授だったから。そういう理由で彼は「偶然心理学の
世界に足を踏み入れ、心理学者になった私ですが、いまではこれが自分にとって最高の
キャリアだと確信しています」と述べています。
*3つの骨子
1.個人のキャリアは予期せぬ出来事により左右される。
2.予期せぬ出来事を避けるのではなく、起きたことを当人の主体性や努力によって最
大限に活用する。
3.偶然をただ待つのではなく、自ら行動を起こすことによって積極的にチャンスを創
り出しキャリア形成の力とする。
*「偶然」をチャンスに変える5つのスキル
1.好奇心: 新しい学習機会の模索。
2.持続性: めげない努力。
3.柔軟性: 目の前の状況を既成概念にとらわれず、ありのままに受け入れる。
4.楽観性: 困難や障害は当たり前と気楽に考える。
5.リスク・テイキング: リスクを恐れず行動に移す。
*ジョン・L・ホランド(2008年没)
米国の心理学者。ネプラスカ大学卒業後、第2次大戦の間(1942~46年)陸軍に
従軍し、他の多くの心理学者と同様、戦時下において兵士を適材適所に配置する人事的仕
事に従事しました。
従軍中多数の兵士の職業経歴書を分析するうちにそれらに多くの規則性があり、その規
則性は数個のタイプに分類できるであろうという仮説に至ったのです。戦後リサーチをと
おして、自分の仮説を検証すべく新しい分類法の研究を続け、オマハ大学で修士号を、ミ
ネソタ大学で博士号を取得しました。
その後3年間ウエスタンリザーブ大学で心理学を教えながら同時に職業カウンセラーも
勤めています。その後メリーランド州の復員兵病院の職業カウンセリング・サービスのカ
ウンセラーを歴任しましたが、1957年以降は研究者としてのキャリアが長く。特にジ
ョンズ・ホプキンス大学では長く教授を務めました。
エピソードとしては もともと興味の対象が美術・音楽であったものが 自分の才能に
限界を感じ、芸術は職業ではなく生涯の趣味として、美術作品の収集、ピアノ演奏、ヴォ
イストレーニングを続けたとのことです。
*ホランドの理論(6類型論、RIASECキャリア・ディベロプメントモデル)
この理論はパーソンズやウイリアムソンの特性因子論の流れを色濃く継いでいます。
個人の性格と仕事環境をそれぞれ①現実的(R)②研究的(I)③芸術的(A)④社会的
(S)⑤企業的(E)⑥慣習的(C)の6つのタイプに類型化しました。そして、性格特性
と一致するような環境で仕事をすることによって、より安定した職業選択をすることがで
き、その職業満足度も高く、成果をあげることによって社会にも貢献できると考えました。
このタイプは1つに限定するのではなく、自分に近い順に3つのタイプの頭文字(スリ
ー・レター・コード 例:I-S-E)で表します。
ホランドの理論に基づき 職業興味検査(VPI)、適職診断検査(CPS)等が開発
されるなど、キャリアカウンセリングに最も実践的な影響を与える理論と言えましょう。
*ワークタスク・ディメンジョン(Work Task Dimension)
プレディガーはホランドの研究を継承し、ホランドの6タイプの基礎をなしているのは
4つの次元(ディメンジョン)であるとし、全ての職業・職種はこの4つの次元で分類でき
るということを提唱しました。
①もの→現実的
②アイデア→研究的・芸術的
③人間→社会的
④データ→企業的・慣習的
「データ対アイデア」「人間対もの」は2次元の相反するものであり、反対に位置する
仕事を人は好まないと考えました。しかし、仕事は1つのワークタスクから成り立っている
ものではなく、「人間とデータ」「データともの」「ものとアイデア」など隣り合ったワー
クタスクが組み合わさっています。また、この2次元のうち正反対のタスクが組み合わさっ
たものはほとんどないと考えられます。
*ドナルド・スーパー(1910-1994)
父親がYMCAに勤務していたため転勤が多く、それが彼のキャリアにも大きな影響を
与えました。ホノルルで生まれ、6歳でニューヨークに転居し小学校教育、12歳でポー
ランドに渡り、スイスで中等教育、オックスフォード大学に進学し、主として哲学、政治
学、経済学、歴史を学びました。心理学も学んだのですが主専攻ではなかったのです。
卒業と同時にアメリカに戻り、大学の非常勤講師を務める傍らYMCAで職業紹介を担
当、25歳のとき、クリーブランド・ガイダンス・サービスという施設の所長に就任して
から、職業心理学を生涯のテーマとすることを決意しました。その後コロンビア大学の大
学院に学び、学位を授与され、3年間の空軍勤務(乗務員選抜プロジェクト)後コロンビ
ア大学教育学部教授に就任しました(1945-1975)。
大学引退後もキャリア・カウンセリング関連の多くの研究所長、学界・協会会長を歴
任、来日も3回を数えました。
*スーパの理論
スパーは、キャリア形成の社会・文化的要因を研究し、人生のライフステージとキャリア
発達を関連づけて考え、キャリアは青年期に選択され決定されるのではなく、生涯に亘って
発達し変化し続けると述べ「ライフキャリアレインボー」を発表しました。
そして、キャリア発達を「成長・探索・確立・維持・衰退」の一連のサイクルで捉え、こ
のサイクルが大小の螺旋状に繰り返されキャリアは発達するとしたのです。
またキャリアは人生役割(Life Role)と密接な関係からなるとし、その役割は
キャリア選択、意思決定において重要な役割を果たす。
そして、人生役割として9つ(子ども、学生、余暇人、市民、労働者、伴侶、家庭人、
親、年金生活者)をあげ、これらの複数の役割構造が個人のキャリアパターンであるとし
ました。キャリアカウンセリングにおいてもライフステージとその役割・責任、キャリアサ
イクル上の位置づけなどを明確化することが必要になります。
*出典:渡辺三枝子「キャリアの心理学」、宮城まり子「キャリアカウンセリング」
今回からキャリアカウンセリングの主要な理論について取り上げたいと思います。
第1回目は「特性因子理論」理論(人と仕事のマッチング理論)です。
これはフランク・パーソンズが提唱した理論です。
キャリアカウンセリングの歴史の稿でも述べましたように、パーソンズは産業革命以降
のボストン(アメリカ)で職業指導運動に取り組みました。
この支援活動を通じて パーソンズは定職につくまでに何度も転職を繰り返す若者の問題を
技能だけの問題ではなく、場当たり的な職探しが多くの失敗の原因であることに気付きまし
た。そこで1909年「職業選択」を著し「特性因子理論」を発表したのです。
この「特性」とは個人の趣味・適性・価値観・性格を意味し、「因子」とはその職業・仕事
が求める要件(仕事内容・必要能力など)を意味しています。
要約するならば「人には個人差、職業には職業差」があり、両者をうまくマチングさせる
ことが大切であるという考え方です。
この特性因子理論は次の3つの仮説に基づいています。
1.個人は、必ず他の人とは異なる能力又は特性をもっている。しかもこの能力・特性は
測定が可能である。
2.個人の能力・特性と職業に求められるスキルが一致すればするほど、個人の仕事におけ る満足度は高くなる。
3.個人は、自分の能力・特性にもっとも相応しい職業を選択する。
パーソンズはこれら3つの仮説にもとづき、個人のキャリア選択に当たっては自己理解と
、仕事知識を踏まえた次の「3段階プロセス」が必要だと考えました。
1.ステップ1-自己分析
自己の性格、適性、能力、興味、関心、希望などに関して明確に理解し
2.ステップ2-職業(職務)分析
仕事の内容、条件、報酬、求められる能力、メリット・デメリット等の知識・情報
を収集
3.ステップ3-理論的推論
1.2を合理的に推論して自らに最もマッチした仕事を選択する
ミネソタ大学で学生の進路指導を担当していたウイリアムソンはパーソンズの理論にもと
づく心理検査の結果は、学生生活全体の適応状況を改善するためのカウンセリングにも有効
であるとし、これをを発展させて「特性因子論的カウンセリング」を提唱しました。
そして「特性:人を構成する特性」「因子:仕事内容や要件」の他に①選択しなかったこ
とによる課題 ②不確かな選択 ③賢明ではない選択 ④興味と選択のずれ を加えた6段
階カウンセリング を展開し「学生相談」の基本的概念をつくりました。彼は「人の個性や
適性は開発され、発見され、測定される」という立場をとっています。
アメリカにおける キャリアカウンセリング、キャリアガイダンスの歴史を概観してまいりま
したがここで日本に目をむけたいと思います。
日本における職業指導活動の始まりは1920年からというのが定説です。
すなわち
1920年 大阪市立少年職業相談所設立
1921年 東京市中央職業紹介所に少年相談部が設置
1922年 旧文部省が職業指導講習会を実施
1923年 高等小学校においても職業指導が始まる
1927年 旧文部省が「児童生徒ノ個性尊重及職業指導ニ関スル件」という訓令を発し
職業指導を公式に学校教育の中に位置づけた
このように日本では、労働行政と学校教育においてほぼ同時期に職業指導がはじまり、
いずれも青少年を対象としていました。アメリカで不況による失業対策、復員兵の復職支援、
移民に対する就労支援等もっぱら社会問題や社会的ニーズに対応する形で開始されたのに比べて
日本においては社会や学校教育における職業指導の重要性を認識する中で開始されたところに
その特徴があります。
1973年 アメリカで「職業教育法(Vocational Education Act)」を制定して
高校における職業指導と職業カウンセリングの充実を図りました。
1993年に誕生したクリントン政権のもと
1994年に「学校から職業への機会法(School-to-Work Opportunities)」
1998年に「労働力投資法(Workforce Investment)」
が制定され
豊富な資金援助のもと就業活動支援を積極的に展開し、就業支援のための求職情報の
提供を行うインターネットの開発にも注力しました。
そのサイトの代表的なものには
「Career Info Net 職業・求職・企業の賃金情報サイト」
「America’s Job Bank 求人情報サイト」
があります。
その後、地域の成人向け就業支援センターとして「ワン・ストップ・センター」が
作られ、総合的な就業支援を行うサービス機関の充実が各地ではかられました。その支援
内容は幅広く、失業中の人の補助金申請から訓練費用の受け取り、職業紹介まで就業に
関することはなんでも扱う便利なセンターとして機能しました。
近年のITの発達に伴い インターネットを利用したキャリア情報収集、カウンセラー
との相互通信、豊富な情報をデータベースに、自宅においても簡単にアクセスすることが
できる時代になりました。これによって、従来のキャリアカウンセリングの方法やその
技法は多様化されるとともに、プロセスがこれまで以上に簡便化され、非常に便利になって
きたともいえます。
1950年代には 朝鮮戦争(1950-53)の時代背景のもと
キャリア心理学のD.E.スーパーらは職業発達理論の立場から
「職業(Vocation)」という言葉を拡大し、今日一般的に用いられている「キャリア
(Career)」に置き換え「職業指導カウンセリング」は「キャリアカウンセリング」と
称されるようになりました。その後、キャリアカウンセリングは単なる就業支援の
カウンセリングから「全人格的なカウンセリング」へ移行し、同時にカウンセラーの
専門職化が始まりました。
1960年にはベトナム戦争が勃発(73年アメリカ軍撤退)、60年代から
70年代の市民権・ヒッピー運動・女性の社会進出問題等さまざまな時代背景のもと
「キャリア教育」の重要性は認識され、発展していったのです。
1970年代には行動療法を問題解決や創造性開発にまで展開したJ.D.クランボルツ
によって「行動カウンセリング」提唱される一方で、最近では「認知的アプローチ
(論理療法・認知療法)キャリアカウンセリングのなかで盛んに用いられるようになって
きました。
1913年にパーソンズの遺志を受け継ぎ「全米職業指導協会」が設立されました。
現在は「キャリア開発協会(NCDA)」と改称され活動しています。
この協会では職業指導カウンセラーの能力の向上、訓練の標準を作成、倫理綱領の策定な
どを行いこの分野の発展に重要な役割を果たしてきました。
当時職業指導カウンセラーの役割はもっぱら心理診断テスト、職業・興味テストなど
各種のテストを用いた診断(アセスメント)に重きをおいており、カウンセリングによる
面接過程はあまり重要視されていませんでした。しかしこの時期に今日使用されている
アセスメントツールのほとんどができたといえます。そのため、この時代にはカウンセラー
は、カウンセリングよりも主に心理テスト等を用いて診断する「テスターの役割」を果たす
ことが重要でした。
1914年に第一次世界大戦(1914-1918)が勃発しました。その際、米国の陸軍では
多くの人間が必要となり、150万人程の人を能力別に分類、選抜し兵役訓練を施すことに
なりました。
陸軍のために開発された「アーミー・アルファ&ベータ検査」は従来の筆記を中心
とした検査とは異なり、作業検査も取り入れたもので、そこで測定された結果は、軍隊内の
配属決定等に活用されました。
大戦終了後、多くの退役軍人が民間の仕事に就くにあたり、「職業復帰プログラム」と
して米国政府から提供され、仕事面の相談やメンタル面のフォローといった内容に発展して
いきました。
また学校教育においても「テスト」が一般的に広がり、成績の評価や職業選択の指導に
利用されるようになりました。
1929年から10年間大恐慌にみまわれ、失業者の数が膨れ上がり、就職支援が国の
最重要課題の一つとなりました。そのためにさまざまな方策が講じられ、こうした社会的な
労働者支援活動がカウンセリングの発展をますます後押しすることになったのです。
その後第二次世界大戦が終わりを迎えた1945年頃には、母国アメリカに戦地から
続々と帰還した多くの復員兵の就業が国家的緊急課題となると、E.G.ウイリアムソンが
「職業指導カウンセリング(Vocational Counnselinng)を展開し、特性因子論を基に
現代のキャリアカウンセリングの基礎となる「特性因子論的カウンセリング」を提唱
しました。