レンタルDVDで観賞した『護られなかった者たちへ』の感想です。
東日本大震災から10年の仙台で、全身を縛られたまま餓死させられた状態で見つかった殺人事件が相次いで発生し、その捜査線上から利根(佐藤健さん)が浮かび上がります。刑事の笘篠(阿部寛さん)は二人の被害者から共通項を見つけながら捜査を進めていく間に、第三の殺人が行われようとしていました。10年前の東日本大震災で出会った遠島けい(倍賞美津子さん)とかんちゃん(石井心咲さん)と利根の3人は、震災後、「おかえり。」「ただいま。」と身を寄せ合って生活をともにして生きてきた家族のような間柄でした。温かくいつも見守ってくれていたけいが結局生活保護を受けずに餓死してしまい、3人の温かい繋がりがどれだけ尊く、堅く、生きていく上でのなくてはならないものだったということや生活保護の申請と支給についての諸々の問題点、大切な人や大切なものを失った人々の切なく哀しい思いがひしひしと伝わってきた映画でした。
町の保健福祉センターで働く円山幹子(清原果耶さん)が生活保護に真剣に向き合う姿とその思いが映画の中で時折挟まれながらストーリーが展開して行きました。円山幹子が自身の仕事に熱心だった理由が見続けていると段々紐解かれて行くような展開になって行きました。幹子は10年後のかんちゃんでした。
最後のほうのシーンで笘篠が生活保護の担当者として自らの仕事を一生懸命していた円山幹子に「なぜそんなに強いのですか。」と問いかけるシーンがありました。強いように人に感じさせるほど頑張らないと行けなかった円山幹子の哀しみが深くまで浸透しているのがよくわかりました。また、最後のシーンで、自身が震災で受けた本当の気持ちを書き留めていた手紙では、本当に困っている人々にもっと声を上げてほしいという痛切な思いが訴えられていました。
「死んでいい人なんていない。」という利根が大人になった幹子に語っていたシーンがありました。利根はこの一連の事件の容疑者が誰だったかを気付いていたのですね。この言葉はいろいろな深い意味を持っていて辛くてもその辛さを別のエネルギーに変えて行って生きて欲しいというような心の底から叫びと切ない哀しみを含んでいたようにも思いました。利根の言葉は、印象的ではありましたが、引き戻すことがもうできないと思っていた幹子の心を救った言葉は、「おかえり。」という言葉でした。「おかえり。」というたった四語の言葉にいろいろなものが凝縮されている言葉だったのですね。震災で大切な人たちを失い、多くのものすべてを失って、自らも心の傷を背負いながらも、護れなかった人への思いもすべて背負って寄り添ってくれる人々と逞しく強く生きていくことが護られなかった人たちの思いを永遠に繋げていく尊い生き方なのかもしれないでしょうと物語っていたかのようにも思いましたが、頭の中で思っていてもなかなか心が付いていかないことなのでしょうとも思いました。
10年前の震災で幼かった幹子に差し伸べてくれたけいへの思いとリンクして心を閉ざさず声にしてほしいと訴え続けたその思いの延長線上にあった幹子の果てしない哀しみが深過ぎてとても悲しく切なく感じましたけれど、幹子の哀しみに寄り添ってくれている利根と一緒に逞しく強く生きて行ってほしいと思いながら見終えた映画でした。