〈私〉はどこにいるか?

私たちは宇宙にいる――それこそがほんとうの「リアル」のはずである。この世界には意味も秩序も希望もあるのだ。

ありうる近未来の3つのシナリオ

2018-07-29 | 持続可能な国づくり

 いつものように岡野守也先生のブログから転載する。
 以下の記事の再録は12年前の記事からのもの。その後の日本・世界の歩みは見事に第三のシナリオ(問題先送り)をひた走ってきたのは明らかだ。
 個々の環境を保全したいという善意はあっても、社会全体がまるで別の方向を向いているのだから、残念ながら無力であった。
 問題先送りのツケが、当時の予測通りの姿で、しかし時期を前倒ししてやってきた。それが現在の逆走するかつてない台風などの気候激変なのだ。
 ぜひとも、改めて全体が方向転換することを願う。
 
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 早くから環境の危機に警鐘を鳴らし続けてこられた石弘之氏が、『地球環境報告Ⅱ』(1998年、岩波新書)で「2020年ごろがひとつのヤマ場となると考えている」と書いておられました。
 不幸にして予測は前倒しでみごとに的中してしまったと思われる昨今の状況です。

 経験したことのない猛暑が少し和らいだら、経験したことのない台風が接近中。被害が最小限であることを祈るばかりです。

 そうした中、改めて「では、ありうる近未来のシナリオはどうなのだろうか」と考えてみて、かつて書いたことがそのまま当てはまると思われましたので、これも再録します。

 近未来の「ソフトランディング(軟着陸)」を望み、なんとしても「ハードランディング(墜落)」を避けたいと思われるみなさん、ご一緒に考えてください(前掲の西岡先生はソフトランディングは無理だろうとおっしゃっていますが)。

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 「ありうる近未来の3つのシナリオ」‘06.9.7

 このような現状のまま進むと、どういうことが起こるか、大まかにみて3つのシナリオが描けると私は考えています。

 第1は、環境危機の本質をはっきり認識して、ではどこへ向かうべきなのか明確に目標設定をして、本格的な実行をして、実際に持続可能な世界秩序を創り出すというもっとも望ましいシナリオです。

 後でもう少し詳しくお話しますが、こういうシナリオの手法はスウェーデンが採用しているもので、「バックキャスト」ないし「バックキャスティング」といいます。

 このシナリオは、先にお話ししてきたような日本の条件を考えると、そうとうに困難ですが、不可能ではないと思います。日本政府の環境関係者も、最近、手法としては「バックキャスティング」で行くことを決定したそうです。問題は、目標が「循環型社会」では不十分だと思われるという点ですが、それでも大きな前進であることはまちがいありません。

 ところが、繰り返しお伝えしているとおり、幸いかつ驚くべきことに、スウェーデンを代表とする北欧諸国は、第3のシナリオを着実に実行しつつあるようです。

 実は、1999年の初版では、このシナリオはきわめて困難で実行不可能かもしれないという思いがあって、第3にあげたのですが、スウェーデンの実例をとおして、これは条件次第では実行可能だと考えるようになり、第1に変更しました。

 もちろん、このシナリオはまだ少数の「環境先進国」で採用されているもので、世界全体としてはまだまだですが、しかし確実に実行されつつあり、国際社会の世論形成に影響を与えつつあるということは大きな希望です。

 第2は、一見それに近いのですが、形式上「対策策定」をして「実行」していることになっている、というシナリオです。

 特に先進国ではどこでも、環境問題に対してそれなりに対策を策定して、実行していることになっています。

 日本も、環境庁ができて、環境省に格上げになり、いろいろな研究機関が作られ、そこにたくさん優秀な官僚や研究者がおられて、いろいろ資料を作りあげて、環境基本法が制定され、環境基本計画などいろいろなプランを作っておられるのですが、それは、実行といっても、残念ながらある程度の実行であるように見えます。

 問題が起こってからそれに対応して対策を立てるという手法を「フォアキャスト」「フォアキャスティング」といいますが、従来の日本の「公害対策」「環境対策」はこの手法で行なわれてきました。

 これは、次の100パーセントの問題先送りよりはましですが、結局のところ、崩壊の若干の先延ばしにしかなっていないのではないか、と私は見ています。

 第3は、問題先送りです。

 環境問題を最優先課題にしていない人々が主導権を握っている国では、当然問題は実質的にはかなり後回し―先送りになっていきます。

 経済大国としてはまずアメリカ、それから大きな人口を抱えこれから経済大国になろうとしている中国やインド、そして残念ながら実質的には日本も、そしてもっとたくさんの国がそうであるようです。

 1998年の時点で、国連環境計画の顧問、東大大学院の国際環境科学の教授を経て、現在北海道大学大学院の公共政策の教授をしておられる、日本の代表的な環境問題専門家の一人である石弘之氏が、『地球環境報告Ⅱ』(岩波新書)で、「この『先伸ばし』の限界は、いつごろ世界的に顕在化してくるだろうか。私自身、さまざまな分野の研究者と将来の見通しを検討しているが、2020年ごろがひとつのヤマ場となると考えている。……このままでは生産や人間生活を支える基本となる水、森林、土壌、水産資源などがそのころまではもちそうもないからだ。」(p.208)と書いておられました。

 そして、最後に「日本はタイタニック号ではないだろうか、と思うことがよくある。だれもが、前方に氷山があることは知っている。まさかこの不沈艦は沈むことはない、科学技術をもってすれば容易に回避できる、と氷山の存在をことさら無視しているのではないだろうか。氷山の破片が漂いはじめている事実は本書中で報告したとおりである。」(p.213)と書いておられましたが、基本的には状況は変わっていないのではないでしょうか(石氏自身、その後もブログでそういう趣旨のことを訴え続けておられます)。

 そうすると、早めにみてまず2020年くらいと予測される世界的な環境危機による大混乱の中に、日本も巻き込まれていくことが想定されます。

 国連大学が昨年10月に発表した警告によれば、「2010年、5千万人もの人々が地球環境の劣化による問題から逃れることのできない生活を強いられているであろうという予測がされている。これを受け、国際連合大学の専門家達は、この新しい『難民』の分野を定義、認知、そして支援することが緊急課題であると考えている。」

 「地球環境の影響を受けて移住を余儀なくされる人々は、すでに、現在およそ1,920万人程度と計算されている『援助対象者』と同程度の人数であり、近い将来、この数字を上回るとされている。また、赤十字の調査でも戦争による移民よりも地球環境問題を原因とし、住む場所を失う人々の方が多いという調査結果が出ている。」ということです。

 人類が突然絶滅するというSFパニックもののような事態を想定するのは現実的ではないと思いますが、世界全体として大きな混乱が生じることはまちがいないでしょう。

 そしてそういう状況が急激に進むと、100年以内に世界全体がそうとう悲惨な状況になり、人口が非常に少なくなって、荒廃しきった環境条件の中でわずかな人類が細々と生き残るという事態に到ることも、まるで想定できないことではありません。

 とはいっても、それまでの国の政策の違いによって、それぞれの国の状況にはかなり大きな格差が出るでしょう。

 バックキャスティングで政策的に対応した国は「ソフトランディング(軟着陸)」できるでしょうし、フォアキャスティングで対策的に対応した国やさらにほとんど先送りした国はさまざまな程度の「ハードランディング(墜落)」をすることになりそうです。

 これからの世界は、大まかにいってこの3つシナリオしかないだろうと思います。

 といっても実際には第1から第3まではグラデーションですから、人類全体としてどのあたりに到達できるか、それが問題だ、ということになります。

 ぜひ、まず日本の、そして世界の国々すべてのリーダーたちが、「エコロジカルに持続可能な社会」に向けて、バックキャスティングの手法を採用し、最善のシナリオを選択するように働きかけていきたいものです。

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