〈私〉はどこにいるか?

私たちは宇宙にいる――それこそがほんとうの「リアル」のはずである。この世界には意味も秩序も希望もあるのだ。

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 13

2018-09-10 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
「政治的合理化」の経路による近代化  この結果、普遍主義―遂行のパターンの「経済価値」が最優先される「経済的合理化」の経路によって近代化を成し遂げた、典型的には著者の母国・米国のような社会に対し(「経済価値」も同様に抽象化された、一般的な「経済」の意味を超えた概念であり重要だが、ここでは省く)、日本では徳川時代にはすでにそれとは別の価値領域である政治価値が支配的となっていた。日本における近代化は . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 12

2018-09-02 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 「特殊主義―遂行」という価値軸  本書の構造―機能主義社会学の概念図式を用いた説明によれば、前近代の宗教倫理による精神が社会を合理化していった過程では、西欧におけるプロテスタント・キリストのもとでの「普遍主義―遂行」というタイプの価値軸に対して、日本においては伝統的日本宗教による「特殊主義―遂行」という別のタイプの価値軸が主要な原動力となったとされている。    家族であれ、藩であれ、全体とし . . . 本文を読む

会報『サングラハ』第160号(2018年7月)について

2018-08-05 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 サングラハ教育・心理研究所HPから転載する。  PDF版で購読いただけるので、ぜひご一読いただければと思う。 *********************************  隔月刊の会報『サングラハ』について、160号(2018年7月号)の発行をお知らせします。  各会員には8月初旬に到着予定です。  会員以外の一般の方でもご購読いただけます。当HPフォームメールまで号数・冊数を記載し . . . 本文を読む

8月のコスモロジーセラピー講座

2018-08-05 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 サングラハ教育・心理研究所のHPから転載する。  マルクス・アウレーリウス『自省録』は、ローマ皇帝にしてストア派哲学者による古代の有名な本で、戦争や陰謀の中生きざるを得なかった哲学者皇帝の、にもかかわらず高邁な精神が感動的で、それがストア派哲学のコスモロジーに裏付けられた本気の人生哲学であったことが『ストイックという思想』(岡野守也著、青土社)を読むと実感的に理解できる。  ぜひ東京での講座ご参 . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 11

2018-07-11 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(承前)  このように、本書の分析で第一に重要とされている「政治価値」という用語は、一般に使われている政治という言葉よりも広く抽象化された概念として、「集合体の目的が最優先され、権力関係が支配的であり、そこでは政治的上位者への忠誠が最重要の価値とされる」といった、ある社会の中心価値の方向性を意味している。  したがって、ここで言われている「政治価値」とそこに埋め込まれた「忠誠」を、世上ありがちな反 . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 10

2018-07-06 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(承前)  そのように本書は、人類的視点からの明確かつシンプルな問題設定に沿って、西洋とは異なるタイプの近代化過程の一つのモデルケースとして徳川時代を見出し、それを可能にした徳川時代の中心価値体系という抽象化された大枠を、研究のゴールとしてまず冒頭で提示している。その上で、後続の章において、そのように読み取ることが果たして妥当か、主に同時代人の引用により証拠を積み上げていくという叙述の方法を採っ . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 9

2018-05-19 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 本書の目的と叙述の枠組みについて  本書は一般に「欧米人のすぐれた日本論」(岩波文庫版表紙の短評)、「日本の近代化をめぐる歴史社会学的な学際的研究」(訳者解説)の一つと目されているようだが、一読すれば明らかにように、著者の関心は特定日本よりも、むしろ人類一般の近代化というより広く普遍的な目的にこそあると見るのが適切である。そのように本書の研究の前提には「社会・経済の近代合理化をもたらすこととな . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 8

2018-05-15 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 こうした現在圧倒的な主流を占める外面還元主義の根底には、自覚されざる「言葉への不信」があると見えてならない。言葉はただ世界を表現し報告するだけで、それ以上の「力」はない。だから言葉が担う価値とは結局幻想にすぎない――しかしその判断もまた、どこまでも言葉に依っているのである。自己矛盾の迷路に嵌まり込み、盲点と化した根深い信念がここにある。  価値そのものの存在を疑わない本書の叙述から逆算することで . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 7

2018-05-12 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
 研究方法について(承前)  ところで先に触れたように、本書では過去の日本人の中に生きていた内面的諸価値が値引きなく扱われている。つまり著者は人間にとっての価値の実在を疑ってはいない。今一つ押さえておきたいのは、価値相対主義が自明化した現代にあって、その点を再検討しなければ、本書の洞察の核心部分の理解を妨げられかねないことである。価値の存在が結局相対的で最終的に無意味な幻想にすぎないのなら、本書 . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 6

2018-05-09 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(承前)  その「戦果」は、劣等文化として自国を語らないではいられなかった戦後の日本知識人の強度の条件反応に、ストレートに結び付くと見える。それについて、例えば先に見た渡辺京二氏がその偽善性を繰り返し強調し、批判して止まないところであった。徳川時代とは抑圧的で差別的で貧窮の極みにあったはずだと決めつけた、奇怪な「江戸時代暗黒史観」の淵源はそこにあったのだろう。これは今なお私たちの社会心理の根深いコ . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 5

2018-05-06 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(承前)  一方、本書はまさにその点で、日本人の勤勉のエートスを形づくったのが、日本宗教が営々と形成してきた中心価値体系にほかならなかったと、幾多の根拠を挙げて論証している。かくして、なぜ徳川時代に「文明としての江戸システム」が成立しえたのか、そして何がいかにして近代に連続したのか、鬼頭氏の歴史観ではブラックボックスとされていた歴史の動因が、本書によって初めて見えてくる。反対に、一九五〇年代の段階 . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 4

2018-05-03 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
私たちにとっての本書の意義  日本人にとっての本書の意義を考えるにあたり、解説として奇妙にもまるで意味をなしていない巻末の「訳者解説」に注目したい。詳しくは述べるまでもない。かつて本書を批判した丸山眞男の視点を奉じて(それ自体が忠誠―献身の「中心価値」の表明となっているのは何とも皮肉である)ヴェーバーの概念の「誤用」を論い、結局自説の宣伝に終わるその文章は、著者の示している洞察に対し、なんと小さ . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 3

2018-04-30 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(承前)  「忠誠」「無私」「献身」――いずれも戦後意味が反転し、「封建的」と白眼視され、時代錯誤として冷笑の対象にすらなってきた言葉であり、現代日本人にとってはすでに意味を失った実質的な死語にほかならない。そのように「忠義」や「孝行」、「恩」や「報恩」等々、一見してなんと大時代的だろうと思われる言葉が、学問的な研究対象としてごく真面目に論じられている。ここで読者は、そうした言葉にまつわる負の意味 . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 2

2018-04-27 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
本書が目指したもの  本書の目的は、例えば次の一文に要約されている。「宗教と近代西欧社会との発展、とくに近代と経済との関係について、マックス・ヴェーバーの偉大な著作に影響された社会学者は、当然、日本の場合にも宗教的要素が含まれるのかどうかを問題にする。大胆にいうと、この問題は、日本の宗教のうちで、何がプロテスタントの倫理と機能的に類似しているのかということである」(三四頁)。本書はこの目的に沿っ . . . 本文を読む

書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー) 1

2018-04-24 | 書評『徳川時代の宗教』(R・N・ベラー)
(サングラハ教育・心理研究所会報『サングラハ』から、ブログ筆者による書評記事を転載します。)  本書は、前近代日本の宗教が生み出し、日本の近代化の主たる推進力となった精神的核心を究明する、現代を代表する宗教社会学者による著作である。これは単なる日本論という枠にとどまらない、人類史的視点による近代化論の記念碑的業績といって過言ではない。当の研究対象となっているわが国でこれまで一般に顧みられることの . . . 本文を読む