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私たちは宇宙にいる――それこそがほんとうの「リアル」のはずである。この世界には意味も秩序も希望もあるのだ。

河野良和氏の心理療法について③~革命的な「暗示論」

2020-05-02 | 二つの心理療法について
 新型コロナウィルスの感染拡大により、今後さらに1か月にわたり多くの人が自宅での逼塞生活を余儀なくされる状況となっている。
 インドア生活が苦手な人や家族内の人間関係に問題がある人などにはストレスフルな事態であり、その上経済的にも苦境に陥りかねないのだから大変である。

 このストレスへの対策が求められているとの報道が多くなされている。
 しかしそれらメディアで取り上げられているのは、せいぜい運動か暇つぶしかといった外面的情報に終始していて、内面的なストレス対策としては本質を外しているように見えてならない。

 ここで取り上げている岡野守也先生や河野良和氏の心理療法は、本を読んだだけでセルフヘルプができるよう整備されており、いずれもこうしたかつてない事態への、本質的な対応となるものであることは間違いない。
 これを機会に、ぜひ一読され試されてみてはいかがだろうか。

 私もぜひ学びなおしたいと思うが、妻ともども勤務先がBCPの体制となり、保育園も自粛を求められているので、お互い子どもを見ているだけで時間が終わってしまう。
 時間があった若いころなら、これを機会にそうしたいわば修行を詰めて行いたいところである(それはそれとして子供の成長というのは楽しいが)。


 さて、前回は心理療法家である故・河野良和氏の、一般の常識を覆すセラピーの骨子を紹介した。
 長々書いたような気がするが、河野氏のこの最終的な洞察を一言でいえば、要するに

「私たちのあらゆる『思い』が強力な自己暗示として働いている」

ということに尽きると思う。

 あまりに常識に反していて、前提なしにこの言葉を読んだら、自分であってもきっと失笑してしまったことであろうと思う。
 なので、これを読んでいる方にとってもにわかに信じがたいだろうことはよくわかる。しかしこれが事実であることはおいおいご理解いただけると思うので、即断せずどうかお付き合いいただきたい。

 河野氏自身、この発見について次のとおり新鮮な驚きを率直に述べている。
 なお、もちろん河野氏の心理学・心理療法上の業績の積み重ねは単純なものではない。この到達点の独自の暗示論もまた、後述の自律訓練法の改良・発展過程の積み重ねの上に成り立った、最終的な核心的洞察であることにご留意願いたい。


 ありふれた日常での意識、思いには、驚異的な作用が潜んでいます。
 この、思いに潜む強力な作用に気づいたとき、私は本当に驚き呆然としてしまいました。

 それは私だけではありません。相談に来られた人には、話の流れに沿いながら、折を見て、この思うことによる強い影響の話をし、実際に体験してもらっています。それらの人々も、その体験の中で、それぞれの知り方に応じてショックを受けるようです。

 しかし、この思いの作用の話は、誰にも簡単には通じませんでした。当初は私にも容易に信じられなかった話です。これが確実で、安全であることも分かり、心理治療に用い始めて、心理臨床の専門家たちにも折々に話してきましたが、彼らにも簡単には通じませんでした。この通じにくさを、ずっとこれまで二十年ほど体験してきましたから、通じにくいことはよく分かります。

 でも、通じると、来談した人々でも専門家たちでも、とたんに目をみはるような動きが始まりました。心の中に大革命でも起きたようです。
(後掲書200頁)


 河野氏は、外面世界の合理的条理、いわば常識の「第一条理」と異なる、心・内面の世界の独自の法則に注目し、これを「第二条理」と名付けている。
 そして、盲点に入ったように私たちの意識から隠れている、第二条理の「心の秘密」について語っているのである。
 以下、そのことをさらに紹介していきたい。


 ところでその前に、肝心の河野良和氏の著作について紹介しておく必要がある。
 氏は複数の一般書を刊行しておられるが、ここで注目している一書は1996年、今を去る四半世紀近くも前に刊行された、

 『悩みに負けない』(PHP研究所)

という一般向けの本だ。すでに絶版となっているのはたいへん残念なことである。



 題名だけ見ると何か心理学の通俗的なハウツー本のようで、実際装丁も本のつくりも安っぽく、ぱっと見どこかで見たようなものとなっているが、これは内容との著しい食い違いからして、編集サイドの都合によるものであるに違いない。

 しかも、当ブログで紹介を試みるその洞察を全面展開しているのは、全体で240頁ほどのこの本の第4章、ちょうど200頁以降である。
 おそらく、自律訓練法の河野氏独自による発展「新自律訓練法」、それをさらに改良した「感情モニタリング法」(いずれも後述)の本を依頼してきた編集側と交渉し、この最後の章に氏の到達点のエッセンスを詰め込んだのだろうと見られる。

 (なお、この本を世に出したという点では感謝しているが、それにしてもこのPHPという会社、定見がないこと甚だしい。売れないとなったらすぐ絶版にするのは、別で紹介する岡野守也先生の本も同様である。まあ商業主義とはいずれそういうものなのだろうが、それではピースもハピネスもまず期待はできまい) 

 この河野氏のたどり着いた「暗示論」は、以降書籍が出ておらず、また確認した限り同氏の論文にもはっきりと記されてはいない。
 氏が主宰していた河野心理教育研究所の今も残存しているサイトでも、そのことはどこかあいまいな形で記されているように見受けられる。

 河野氏が物故されたのは最近のことらしく、その間、誤解を懸念し一般に語るのを差し控えられたか、その内容で引き受ける出版社がなかったのかは判然としない。時間があればこの間の経緯を調査したいものである。


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