『完全自殺マニュアル』完全批判１３

〔これまで前のブログで、ベストセラー『完全自殺マニュアル』（鶴見済著、太田出版、１９９３）と批判を繰り広げてきた。
この本はいまの社会の裏にある通俗的なニヒリズムをあまりにもわかりやすく露骨に語ってみせており、これを撃墜することでそんなニヒリズムがじつは幻想であることを示せると思ったからだ。
ようするに自分も、この本をダシに言いたいメッセージを語っているにすぎないのだろう。そういう意味ではこの本はじつに批判しやすく、適当な踏み台を用意してくれた著者に感謝しなければならないというものだ。
しかし学生の頃にこんな本を真に受けて元気を失っていたこと、そして現に売られ続け多数の自殺者を生み出し続けていることから、やはりこの著者の「バカさ加減」（１０年以上経ってちょっとはマシになっていればいいのだが）に怨恨を禁じ得ない。これは葬り去られるべき有害図書である。
前ブログを読み返すと、なんだか狭い視点からしつこく同じようなことを語っているように見えるが、逆にそんな粘液質の持続力が長所なのだとポジティブに捉えよう。お読みいただけるととても嬉しい。〕



自殺をあげつらうのはなぜか？


さて、さきに『人格改造』で見たように、著者・鶴見氏自身が、“暗くて内向的な”自分の性格傾向を、学校の教室的な価値尺度に合わせて完全変革し、“明るく外向的”に文字通り生まれ変わるべく、不自然に歪んだ努力を延々と繰り広げているのであった。

それはおそらく彼自身が、自分の内に抱えた暗さ・内向性・非社交性、要するにこの社会の「明るさ」あらねばならないとするような強迫的な風潮に乗っていくことのできないそんなホンネを、よく自覚しているからなのであろう。

そうでなければ「完全に生まれ変わる」といった“人格改造”の動機は、そもそも生じようはずもないのだから。

そんな彼なりの価値判断が、それに先立つ『完全自殺』にすでにはっきりと表れていることをこれまで見てきた。
こうして辿ってくると、そんな恥ずべき「暗い」動機自体を無きものにしたいというのが、この著者の執筆に関わる基本的な動機であるように見える。

この『完全自殺』は、社会的不適応に陥った者、とりわけいじめによる自殺者の死のストーリーに特異な関心を示し、それを「暗く内向的＝劣等で無価値」にほかならないものとネガティブに価値付けている。

この点にとりわけ著者自身の価値観にもとづく関心が露骨に打ち出されているのは、ようするに本書が“人格改造”で目指したのと同じような欲求と動機に基づいていることの表れにほかならないだろう。
つまりそういう「暗い」人間のあり方ないしは存在自体を貶めておこうとしているのである。

そんなふうにこの著者が、自身がそういう劣等感からはまったく無縁の存在であるかのように“弱者”の物語を語ることで、見ようとしているもの・立とうとしている立場とは、いったいどのようなものだろうか。そもそもそんな無意味きわまりないはずの言動に彼を駆り立てた動機はなんだったのか。

それは本書を一瞥しただけでも、あまりにも明らかであると思われる。
自殺者へのデリカシーを欠いた彼の無遠慮な関心の視線とは、明らかに自分が劣っていると見なす人間に対する優越心であり、自覚されざる歪んだかたちの“敵視”であると読める。
そしてそういう対象を設定し、あげつらい貶めることで自分が心理的に優位に立とうとしているのだ。

そんな自己の隠微な動機に忠実に、彼はこの社会に適合することのできない存在、とりわけいじめられて自殺するような人間は、競争主義社会における自然淘汰の掟に従い然るべく死んだにすぎないと、無前提な価値判断を下しているのである。


人気blogランキングへ