僕の感性

詩、映画、古書、薀蓄などを感性の赴くまま紹介します。

文芸雑誌『海』

2014-02-04 21:00:53 | 文学
今は廃刊になったが、嘗て中央公論社に『海』という文芸雑誌があった。
1969年7月創刊で、1984年5月まで続いた。

『海』とは随分陳腐な名前にしたと思っていたが、実は名の由来はかなり深い。
諸橋轍次郎の『大漢和辞典』の中の「海闊従魚躍、天空任鳥飛」という字句から取ったということだ。

「天空海闊」という四字熟語もある。清の歴史学者であり文学者であった趙翼(チョウヨク)と言う人の、学問的随筆である『陔余叢考(ガイヨソウコウ)』が元々の出典であろう。

  海闊従魚躍
     海、闊(ひろ)くして魚の躍(おど)るに従い
     海は広々として自由に魚をおどらせ
  天空任鳥飛
     天、空(クウ)にして鳥の飛ぶに任す
     大空は雲一つなく鳥が飛ぶのにまかせている

つまり、魚が縦横に躍ることのできるような広い器にしたいという文芸雑誌の目的を表したのだ。
この『海』には三島由紀夫の「癩王のテラス」という戯曲や唐十郎の戯曲、武田泰淳の「富士」などの作品が掲載された。