弘知法印御伝記
江戸孫四郎正本
貞享2年(1685年)
大英博物館所蔵
この古説経は、昭和37年に早稲田大学の鳥越文蔵先生が大英博物館で発見されたものである。この正本は、日本国内にはもう存在していないということであるので、大変貴重な資料ということになる。この古説経を300年ぶりに復活上演をしたのが、「越後猿八座」であり、平成21年から22年にかけてのことであった。当時の太夫、越後角太夫(鶴澤淺造)が浄瑠璃を作曲している。
平成23年に角太夫が退座して、後を引き受けたのが私であるわけであるが、弘知法印は、お蔵入りとなっていた。道具や人形は揃っていても、私が浄瑠璃を付けない限り再演の可能性はほとんと無いと言っても良いだろう。しかし、全六段の長大な古説経を作曲するには、それなりの覚悟が必要である。
外部からの弘知法印上演の声もあり、この貴重な古説経を埋めたままにはしておけないなあと、浄瑠璃の作曲に取りかかったのは6月の下旬であった。しばらくブログに手がつかなかったのは、この作業に没頭していたからであった。
今回の作曲は、ここ一年で育ててきた文弥節を基調とした「猿八節」をさらに発展させて、謂わば、これまでの研究の総決算のような様相となってきた。まだ、これから改善していくべき所が多々あるとは思われるが、ようやくここで全六段分、おおよそ4時間分の浄瑠璃が完成した。
これまでの手に、新しい手を付け加えながら、めまぐるしく展開していくこの物語を、どうテンポ良く運んでいくかが、最大の課題であるが、それは、また人形との摺り合わせをしながら改善をしていかなければならないであろう。
今後、上演の予定があるわけでは無いが、これで「弘知法印御伝記」再演の可能性はゼロではなくなった。