「私、休学する」

ようやく雪はその言葉を口にすることが出来た。
目の前に居る聡美と太一は、キョトンとした顔で雪を見つめている。

数秒後、太一が口を開いた。続いて聡美。
「ロッカーもらうっ」「あ!あたしが言おうと思ってたのにっ。それじゃあたし教科書もらうっ」
「あんたら‥
」

そして物語は冒頭へと戻る。
この先は、そこに描かれていなかった詳細を辿って行くことになる。

雪、聡美、太一の会話は続いた。
「最近学費のせいで休学する人多いッスけど、もしかして雪さんも?」
「まぁね‥奨学金、ちょっとは貰えたけど、あれじゃ焼け石に水だし‥」
「うんうん、確かに学費高すぎ!あんだけ金取るならエスカレーターくらい設置しろっての!」

「てかあんたマジで学費分の奨学金貰えなくて落ち込んでんの?」
「あんた達に私の気持ちが分かる?もぉマジ疲れた‥」

雪は再び青田淳の方をチラリと見て、苛立ち、
またしてもビールを飲み干した。

そして呂律の回らない舌で、二人に向かって精一杯叫んだのだ。
その大声に、思わず淳や柳もそちらの方を向く。
「あたしゃするよ!また休学してやる!」「うわー本気デスねこれ」

彼らは聞こえて来るその会話に耳を澄ました。
「あいつら何だって?」「休学するみたいですね」
「あ、そーなの?」「誰が?赤山ちゃん?」

そんな会話が繰り広げられているとは知らない雪は、
口元を押さえながらソファに凭れ掛かっていた。
「一緒に卒業したいのにー」「それじゃまたバイト地獄デスか」

しかし”赤山雪休学”のニュースは、柳達の気を引くほどのものではなかったようだ。
彼らはメニューを開いて飲み物を吟味している。
「そんじゃもう顔合わすこともねーのか。なぁ、もう一杯頼もうぜ」
「何頼みます?」

淳以外は。
「ねぇ雪、アンタ休み中またバイトすんでしょ?どこでやるの?」
「‥XX企業に願書送っ‥」

一瞬、目が合った。しかし雪はそれと同時に吐き気が込み上げる。
「マーケティン‥グ‥ぐうぅっ‥」

思わず吐きそうになり、急いで席を立つ雪。慌てる聡美と太一。
「ちょ、出る!出る!」

ドタバタと駆けて行くそんな雪達の様子を、淳は白けた顔で傍観していた。
「ついてこない‥で‥っ」「ここで吐いたら休学一年で済みませんヨー!」
「すんませーん」「赤山、ありゃ吐きに行くな」

近づいたと思うと逃げられ、向き合おうとすれば、それは適わない。
物事は想像もしなかった方向へと転がって行く。
そしていつだって、彼女にとって自身は敵だった。
「どうしていつも俺を見る度‥」

そう不満気にボソッと呟いた淳を見て、不思議そうな顔をする柳‥。
「うっ‥うぇぇっ‥うぇっ‥」

雪はトイレにて、胃に入ったものをひとしきり吐いた。
洗面で顔を洗いながら、鏡に映ったその疲れ果てた顔を見つめる。
「‥‥‥‥」

蛇口から流れ出る水の音が、やけに個室内に響いていた。
まだ酔いは残っているようで、周りの風景がぐにゃりと歪んでいる。

ふと、先ほどの太一の声が蘇った。
「それじゃなんでまた休学するんスか?」


水は吸い込まれるように、渦を巻いて排水口へと流れて行く。
「これからは気をつけろよ」

それを見ていると、あの日の青田淳が蘇る。
あの日そう言われる前も、こうしてトイレで一人怯えていた。

ぐにゃぐにゃと歪む床。
思い描いていたキャンパスライフは、今の視界のように滅茶苦茶になった。
あんなに頑張って大学通ったのに‥。
何がいけなかったんだろう‥なんでこんなことになっちゃったんだろう‥

思いつくのは、あの出来事しかなかった。
全ての発端は、あの時、自分が‥
嘲笑ったから?

「‥‥‥‥」

誤解だったとしても、悪意は無かったとしても、それが始まりになってしまった。
あの時以来の彼との因縁が、雪の現状を作っている。
結局全額奨学金も貰えずに、空白の期間だけが増える。
休学も無駄に二回することになって‥

ざぁぁと、水が流れる音だけが響いている。
聞こえないけれど、時間もこの水と同じようにずっと流れ続けているのだ。
理由はなんであれ、結局は‥

私は逃げてるだけだってこと‥

雪の心に、虚しさが広がる。
無駄に流れて行くとりとめのない時間を思うと、ただ言い様のない虚しさばかりが募るのだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<雪と淳>閉講パーティー(3)でした。
時系列、戻りましたね。
そしてその先は描かれていなかった隙間の描写を交え、進行していくみたいです。
じっくり読めて嬉しい半面、現在での物語の進行が気になる‥!あの保健室の続き‥!悶々‥
次回は<雪と淳>閉講パーティー(4)です。これで閉講パーティーは終わります。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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ようやく雪はその言葉を口にすることが出来た。
目の前に居る聡美と太一は、キョトンとした顔で雪を見つめている。

数秒後、太一が口を開いた。続いて聡美。
「ロッカーもらうっ」「あ!あたしが言おうと思ってたのにっ。それじゃあたし教科書もらうっ」
「あんたら‥


そして物語は冒頭へと戻る。
この先は、そこに描かれていなかった詳細を辿って行くことになる。

雪、聡美、太一の会話は続いた。
「最近学費のせいで休学する人多いッスけど、もしかして雪さんも?」
「まぁね‥奨学金、ちょっとは貰えたけど、あれじゃ焼け石に水だし‥」
「うんうん、確かに学費高すぎ!あんだけ金取るならエスカレーターくらい設置しろっての!」

「てかあんたマジで学費分の奨学金貰えなくて落ち込んでんの?」
「あんた達に私の気持ちが分かる?もぉマジ疲れた‥」

雪は再び青田淳の方をチラリと見て、苛立ち、
またしてもビールを飲み干した。

そして呂律の回らない舌で、二人に向かって精一杯叫んだのだ。
その大声に、思わず淳や柳もそちらの方を向く。
「あたしゃするよ!また休学してやる!」「うわー本気デスねこれ」

彼らは聞こえて来るその会話に耳を澄ました。
「あいつら何だって?」「休学するみたいですね」
「あ、そーなの?」「誰が?赤山ちゃん?」

そんな会話が繰り広げられているとは知らない雪は、
口元を押さえながらソファに凭れ掛かっていた。
「一緒に卒業したいのにー」「それじゃまたバイト地獄デスか」

しかし”赤山雪休学”のニュースは、柳達の気を引くほどのものではなかったようだ。
彼らはメニューを開いて飲み物を吟味している。
「そんじゃもう顔合わすこともねーのか。なぁ、もう一杯頼もうぜ」
「何頼みます?」

淳以外は。
「ねぇ雪、アンタ休み中またバイトすんでしょ?どこでやるの?」
「‥XX企業に願書送っ‥」

一瞬、目が合った。しかし雪はそれと同時に吐き気が込み上げる。
「マーケティン‥グ‥ぐうぅっ‥」


思わず吐きそうになり、急いで席を立つ雪。慌てる聡美と太一。
「ちょ、出る!出る!」

ドタバタと駆けて行くそんな雪達の様子を、淳は白けた顔で傍観していた。
「ついてこない‥で‥っ」「ここで吐いたら休学一年で済みませんヨー!」
「すんませーん」「赤山、ありゃ吐きに行くな」

近づいたと思うと逃げられ、向き合おうとすれば、それは適わない。
物事は想像もしなかった方向へと転がって行く。
そしていつだって、彼女にとって自身は敵だった。
「どうしていつも俺を見る度‥」

そう不満気にボソッと呟いた淳を見て、不思議そうな顔をする柳‥。
「うっ‥うぇぇっ‥うぇっ‥」

雪はトイレにて、胃に入ったものをひとしきり吐いた。
洗面で顔を洗いながら、鏡に映ったその疲れ果てた顔を見つめる。
「‥‥‥‥」

蛇口から流れ出る水の音が、やけに個室内に響いていた。
まだ酔いは残っているようで、周りの風景がぐにゃりと歪んでいる。


ふと、先ほどの太一の声が蘇った。
「それじゃなんでまた休学するんスか?」


水は吸い込まれるように、渦を巻いて排水口へと流れて行く。
「これからは気をつけろよ」

それを見ていると、あの日の青田淳が蘇る。
あの日そう言われる前も、こうしてトイレで一人怯えていた。

ぐにゃぐにゃと歪む床。
思い描いていたキャンパスライフは、今の視界のように滅茶苦茶になった。
あんなに頑張って大学通ったのに‥。
何がいけなかったんだろう‥なんでこんなことになっちゃったんだろう‥

思いつくのは、あの出来事しかなかった。
全ての発端は、あの時、自分が‥
嘲笑ったから?

「‥‥‥‥」

誤解だったとしても、悪意は無かったとしても、それが始まりになってしまった。
あの時以来の彼との因縁が、雪の現状を作っている。
結局全額奨学金も貰えずに、空白の期間だけが増える。
休学も無駄に二回することになって‥

ざぁぁと、水が流れる音だけが響いている。
聞こえないけれど、時間もこの水と同じようにずっと流れ続けているのだ。
理由はなんであれ、結局は‥

私は逃げてるだけだってこと‥

雪の心に、虚しさが広がる。
無駄に流れて行くとりとめのない時間を思うと、ただ言い様のない虚しさばかりが募るのだ‥。
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<雪と淳>閉講パーティー(3)でした。
時系列、戻りましたね。
そしてその先は描かれていなかった隙間の描写を交え、進行していくみたいです。
じっくり読めて嬉しい半面、現在での物語の進行が気になる‥!あの保健室の続き‥!悶々‥

次回は<雪と淳>閉講パーティー(4)です。これで閉講パーティーは終わります。
☆ご注意☆
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