
暫し雪は授業に集中していた。
教授の話を聞き、真剣にノートを取って‥。

しかし背中に、何やら視線を感じる。

ひしひしと感じる違和感。ノートを取る手がピタッと止まった。
「‥‥‥‥」

鋭敏な彼女ならではの敏感な感覚(だてに何度もストーカーに合ってないな)。
雪はそっと振り返った。

すると。

三つ程後方の席から注がれる視線、それはなんと青田淳だった。
雪は驚きのあまり、息を飲んだ拍子に机に膝をぶつけてしまう。


彼の突然の来校にオタオタと慌てる雪。
ビックリするわ膝は痛いわ‥。もう滅茶苦茶である。
だが慌てふためく雪とは対照的に、淳はニッコリと笑って彼女に手を振っている。

しかし次の瞬間雪の目に留まったのは、
包帯ぐるぐる巻きになった彼の右手だった。

「!」

雪は思わず目を丸くしながら、
ジェスチャーで淳に手のことを問う。

淳は彼女の言いたいことを察して自身の右手を見、

庇うような仕草で痛む旨を伝えた。
痛々しい怪我とは裏腹に、その仕草はどこかコミカルで仰々しい。

しかし雪は笑いもせず、ただ真っ青になってあんぐりと口を開けた。
昨日は大丈夫だと言っていたのに、どう見ても重傷ではないか‥。
「‥‥‥」


そんな雪のリアクションを見た淳は、頃合いを図って席を立った。
ボストンバッグと赤い箱を抱え、ササッとすばやく移動する。


よいしょ、と小さく声を出し、淳は雪の隣の席に着席した。
そしてニヤリと笑みを浮かべると、おどけながら挨拶を口にする。
「おはよ~ん」

彼は至って軽い調子だが、どう見てもその手は痛々しい。
近くで見れば尚の事、怪我の具合は芳しくなさそうだった。

依然として青い顔をしたままの雪は、すばやい動作でノートに文字を書き込む。
バババッ!

そしてその文章が彼に見えるよう、彼にノートを差し出した。
手、どうしてそんな状態なんですか?!
昨日は何も言ってなかったじゃないですか!


淳はそれをキョトンとした顔で見つめると、何やら嬉しそうな顔になった。
「雪ちゃんと筆談かぁ。初めてだね~!ドキドキ」と呑気なものである。

淳は雪が文章を書き込んだページの端に、左手でゆっくりと文字を書き込んで行った。
そうして書き終えたページを、雪は手元に引き寄せて読む。
重傷じゃないよ。ちょっとヒビ入ってるだけみたい。
手もこんな状態だし出席に厳しい教授だし、今日は会社には配慮してもらって、休み貰ったよ。
俺も単位取らなきゃ卒業出来ないしね

↓教授への贈答品

彼が持っていたその赤い箱は、教授へのお土産であるらしかった。
大手を振って会社を休み、この講義での単位もちゃっかり獲得するであろう彼の、余裕の笑み‥。

淳はニコニコ笑いながら、左手で雪の頭をいい子いい子した。
掛け値無しにまず淳の手を心配した心優しい彼女の頭を、淳は嬉しそうに撫でている。


雪はそんな淳の顔をじっと見つめた後、再び筆談を始めた。
「また?それでそれで?」と淳は相変わらず嬉しそうだ。

二人のやり取りは続く。
本当に大丈夫なんですか?

再び手を心配する雪に、
大丈夫だから、授業に集中してくれませんか?

おどけて敬語で返す淳。雪は更にこう続けた。
最近ずっと怪我続きだったから、
ご実家、すごく心配してるんじゃないですか?

その文章を見た後、淳はすぐには返答を書き込まなかった。
含みのある笑みを口元に浮かべながら、彼女の方をじっと見る。


一瞬の間の後、キョトンとした顔で淳を見つめる雪に向かって、淳はニッコリと笑って見せた。
彼の脳裏に、この怪我のことを報告した時の父親との会話が蘇る‥。
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<彼、突然の来校>でした。
休載空けぶりの淳、登場!
イケ淳ジャケット着てますね~。

イケ淳ジャケットとは:以前亮の元職場の社長が大学に雪を探しに来ていた時にも着ていた淳のジャケット。
この後のコマの淳が近年稀に見るイケてる淳だと話題になった(当社比)

そして教授への贈答品はアリなのか‥。
なんと根回しの良い‥
↓イメージ

次回は<脱却へ>です。
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