翌日。
教室の中で、あの人の後ろ姿を見掛けた。
柳瀬健太。
雪は彼の背中をじっと凝視している。
誰よりも先に連絡が来るべき人からの連絡は、来なかった。
健太は若干挙動不審の体で、コソコソと席へと歩いて行った。
雪と目が合うとギクッと身を揺らし、速攻で顔を背ける。
申し訳なかったとか、大丈夫かとか。
謝罪の言葉も、気遣いの言葉も、あの時口先だけで発せられたあれだけだった。
雪が心から聞きたい言葉は、健太の口から出て来ない。
保健室に行った時も特に連絡は無かった。私が来るなって言ったわけだけど‥
先輩には個別に謝罪しただろうか?してないだろうな。
授業終わったら行ってみるか‥。
前方の席に座る健太。
出来ることならすぐにでも行って問い詰めたい気分だ。
けれどとある考えが、雪を止める。
‥いや、
今回もそうだし、英語塾の時もそうだった。
私が無鉄砲にぶつかって行ったから、
河村氏にも先輩にも結局ケガをさせて‥
雪は思う。
それって突き詰めれば、私のせいなんじゃないのか?
自分の行動のせいで誰かが怪我をすること。
それはどう考えてもよろしくない事態だった。
とりあえず、様子を見よう
雪は一旦時間を置くことに決めた。
だが、胸の中に揺蕩う靄は依然としてそのままだ。
でも様子を見てからどうするの?今回のことは‥
「ねぇ雪にうちらのこといつ言う?」「ハァ‥」「今はちょっと取り込み中だからなぁ~」
ただ水に流すってこと?
靄は胸中に広がり、先が見えない。自身が進むべき方向も、未だ曖昧なままだった‥。
そして雪がそんな考えに頭を悩ましている隣で、聡美は太一と付き合い始めたことに胸を弾ませていたが、
太一はというと‥。
幸せ顔の聡美とは対照的に、青い顔をして口を噤んでいる。
そんな太一を見て、不思議そうな顔をする聡美。
「どしたの?どっか悪いの?」「イッ‥イエ‥」
太一は怯えたようにビクッと身体を強張らせると、
口元を押さえて黙り込んだ。
そして恐る恐る、聡美に向かって話を切り出そうとする。
「あ‥あの‥聡美さん‥」
「ん?」
しかし、嬉しそうに微笑む聡美の顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
震えながら後ろを向いて、小さな声でこう口にするのがせいぜいだ。
「あ‥後でちょっと話が‥」「??」
聡美は小首を傾げながら、不思議そうな顔をして太一を見ていた‥。
授業が終わり、学生達は皆退席の準備を始めた。
柳瀬健太はギクシャクしながら急いで立ち上がり、
目にも留まらぬ早さで教室を出て行った。
そんな健太を見て、聡美は「うーわあの人ナイわー」と顔を顰める。
雪は去って行く健太をじっと見つめていた。
このまま雪が何も言い出さなければ、健太からの謝罪は永遠に得られないだろう。
そんなモヤモヤとした考えを胸の中に秘めながら、雪はただその場に立ち尽くしていた‥。
授業後のキャンパス内を、若干険しい表情を浮かべて歩く聡美。
けれど目の前には太一が居て、昨日彼氏となったその人と、聡美は手を繋いで歩いている。
彼の背中を見ながら、聡美の胸の中はモヤモヤと煙った。
何だろ
何か変じゃない?
どうしていきなりキョドってんの‥?
今日は終始オドオドしている太一。聡美の脳裏に、ふと昨日の出来事が蘇る。
まさか告白したの後悔してるんじゃ‥
一瞬不安要素が胸を過ぎったが、昨夜鳴り続けた携帯を思い出して、すぐにそれを打ち消した。
‥ないよね、絶対
「聡美さん!映画観に行きましょうこれはデートですネ初デート聡美さ~ん」
嬉しそうなメールが次々と届いた。
そして今繋いでいる手は温かく、太一の手の平にぎゅっと力がこもるのを感じる。
くくく‥と思わず笑いが零れた。
そして太一が立ち止まったその場所を見て、聡美は合点がいったという顔をする。
「あっ!何よも~~」
「ここ告白した場所じゃん?なに~?何の話よぉ~?」
ピアスピアスね と聡美の胸の中はバラ色だ。
以前太一の携帯を見てしまった時に目にしたあのピアスを、
プレゼントしてくれるに違いない‥。
しかし目の前の太一を見上げると、
青い顔しながら聡美と目も合わせない。
一体何があったのだろうか?
暫し固まっていた太一だが、覚悟を決めると、ようやく話を切り出した。
「聡美さん‥俺‥実は‥」「ん?」「俺‥」
次の瞬間太一の口から飛び出したのは、
聡美が世界で最も聞きたくない類の言葉だった。
「軍隊に行くことになりまシタ」
え‥
え‥
え‥
兵役の期間は約二年。
ようやくカップルになった二人の元に、最大の試練がやって来たー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<聞きたい言葉と聞きたくない言葉>でした。
さ、聡美‥
ようやく上手く行ったと思ったのに‥。また一波乱ですね
韓国のカップルは兵役で引き裂かれ破局するケースが多いらしいですが、
この二人にはぜひともそれに打ち勝ってもらいたいですね。
そして健太‥。安定のダメ男
本当終わってますね‥。どうなることやら‥。
さて次回はとりあえず4部34話の最後まで記事アップします。
また35話が更新され次第、記事に追加しますのでよろしくお願いします~。
次回は<白紙の準備>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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教室の中で、あの人の後ろ姿を見掛けた。
柳瀬健太。
雪は彼の背中をじっと凝視している。
誰よりも先に連絡が来るべき人からの連絡は、来なかった。
健太は若干挙動不審の体で、コソコソと席へと歩いて行った。
雪と目が合うとギクッと身を揺らし、速攻で顔を背ける。
申し訳なかったとか、大丈夫かとか。
謝罪の言葉も、気遣いの言葉も、あの時口先だけで発せられたあれだけだった。
雪が心から聞きたい言葉は、健太の口から出て来ない。
保健室に行った時も特に連絡は無かった。私が来るなって言ったわけだけど‥
先輩には個別に謝罪しただろうか?してないだろうな。
授業終わったら行ってみるか‥。
前方の席に座る健太。
出来ることならすぐにでも行って問い詰めたい気分だ。
けれどとある考えが、雪を止める。
‥いや、
今回もそうだし、英語塾の時もそうだった。
私が無鉄砲にぶつかって行ったから、
河村氏にも先輩にも結局ケガをさせて‥
雪は思う。
それって突き詰めれば、私のせいなんじゃないのか?
自分の行動のせいで誰かが怪我をすること。
それはどう考えてもよろしくない事態だった。
とりあえず、様子を見よう
雪は一旦時間を置くことに決めた。
だが、胸の中に揺蕩う靄は依然としてそのままだ。
でも様子を見てからどうするの?今回のことは‥
「ねぇ雪にうちらのこといつ言う?」「ハァ‥」「今はちょっと取り込み中だからなぁ~」
ただ水に流すってこと?
靄は胸中に広がり、先が見えない。自身が進むべき方向も、未だ曖昧なままだった‥。
そして雪がそんな考えに頭を悩ましている隣で、聡美は太一と付き合い始めたことに胸を弾ませていたが、
太一はというと‥。
幸せ顔の聡美とは対照的に、青い顔をして口を噤んでいる。
そんな太一を見て、不思議そうな顔をする聡美。
「どしたの?どっか悪いの?」「イッ‥イエ‥」
太一は怯えたようにビクッと身体を強張らせると、
口元を押さえて黙り込んだ。
そして恐る恐る、聡美に向かって話を切り出そうとする。
「あ‥あの‥聡美さん‥」
「ん?」
しかし、嬉しそうに微笑む聡美の顔を見ると、何も言えなくなってしまった。
震えながら後ろを向いて、小さな声でこう口にするのがせいぜいだ。
「あ‥後でちょっと話が‥」「??」
聡美は小首を傾げながら、不思議そうな顔をして太一を見ていた‥。
授業が終わり、学生達は皆退席の準備を始めた。
柳瀬健太はギクシャクしながら急いで立ち上がり、
目にも留まらぬ早さで教室を出て行った。
そんな健太を見て、聡美は「うーわあの人ナイわー」と顔を顰める。
雪は去って行く健太をじっと見つめていた。
このまま雪が何も言い出さなければ、健太からの謝罪は永遠に得られないだろう。
そんなモヤモヤとした考えを胸の中に秘めながら、雪はただその場に立ち尽くしていた‥。
授業後のキャンパス内を、若干険しい表情を浮かべて歩く聡美。
けれど目の前には太一が居て、昨日彼氏となったその人と、聡美は手を繋いで歩いている。
彼の背中を見ながら、聡美の胸の中はモヤモヤと煙った。
何だろ
何か変じゃない?
どうしていきなりキョドってんの‥?
今日は終始オドオドしている太一。聡美の脳裏に、ふと昨日の出来事が蘇る。
まさか告白したの後悔してるんじゃ‥
一瞬不安要素が胸を過ぎったが、昨夜鳴り続けた携帯を思い出して、すぐにそれを打ち消した。
‥ないよね、絶対
「聡美さん!映画観に行きましょうこれはデートですネ初デート聡美さ~ん」
嬉しそうなメールが次々と届いた。
そして今繋いでいる手は温かく、太一の手の平にぎゅっと力がこもるのを感じる。
くくく‥と思わず笑いが零れた。
そして太一が立ち止まったその場所を見て、聡美は合点がいったという顔をする。
「あっ!何よも~~」
「ここ告白した場所じゃん?なに~?何の話よぉ~?」
ピアスピアスね と聡美の胸の中はバラ色だ。
以前太一の携帯を見てしまった時に目にしたあのピアスを、
プレゼントしてくれるに違いない‥。
しかし目の前の太一を見上げると、
青い顔しながら聡美と目も合わせない。
一体何があったのだろうか?
暫し固まっていた太一だが、覚悟を決めると、ようやく話を切り出した。
「聡美さん‥俺‥実は‥」「ん?」「俺‥」
次の瞬間太一の口から飛び出したのは、
聡美が世界で最も聞きたくない類の言葉だった。
「軍隊に行くことになりまシタ」
え‥
え‥
え‥
兵役の期間は約二年。
ようやくカップルになった二人の元に、最大の試練がやって来たー‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<聞きたい言葉と聞きたくない言葉>でした。
さ、聡美‥
ようやく上手く行ったと思ったのに‥。また一波乱ですね
韓国のカップルは兵役で引き裂かれ破局するケースが多いらしいですが、
この二人にはぜひともそれに打ち勝ってもらいたいですね。
そして健太‥。安定のダメ男
本当終わってますね‥。どうなることやら‥。
さて次回はとりあえず4部34話の最後まで記事アップします。
また35話が更新され次第、記事に追加しますのでよろしくお願いします~。
次回は<白紙の準備>です。
☆ご注意☆
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