※大阪労働者弁護団が大阪維新の会・大阪府議会議員団が府議会に提出した「労使関係に関する条例案」「職員の政治的行為の制限に関する条例案」および「政治的中立性を確保するための組織的活動の制限に関する条例案」の廃案を求める声明を出しました。
労働者弁護団のみならず、違憲・違法の条例案廃案は、広く私たち市民にとっても課題です。大きく声をあげましょう。
大阪維新の会・大阪府議会議員団提出の三条例案の廃案を求める声明
2012年11月19日
大阪労働者弁護団
代表幹事 丹羽雅雄
第1 はじめに
本年10月,大阪維新の会・大阪府議会議員団は,大阪府議会に,「労使関係に関する条例案」「職員の政治的行為の制限に関する条例案」および「政治的中立性を確保するための組織的活動の制限に関する条例案」を提案した。
これら条例案,とりわけ前2条例案は,以下に述べるとおり,憲法19条,21条,28条に抵触する違憲・違法なものであり,即時の廃案を求める。
第2 「労使関係に関する条例(案)」
本条例案は,以下のとおり違憲・違法なものである。
1 第1に,本条例案は,「適正かつ健全な労使関係の確保」(1条)を目的としているが,何故かかる条例が今必要とされるのか,その必要性が全く不明である。
具体的な根拠もなく,あたかも現在「不正常な労使関係」があるかの如き前提で,ただ労働組合の存在,活動にいたずらに制約のみを加えようとする条例案は,憲法28条に反するものである。
2 第2に,団体交渉に関する3条及び4条の問題である。
本条例案は,3条において「交渉事項」を定めながら,4条においては,1号から14号まで,交渉対象にできない極めて広範な「管理運営事項」を定めている。この内容からすれば,現実には,本来の交渉事項のほとんどが4条の「管理運営事項」とされ,団体交渉が拒否される可能性が極めて高い。例えば,大阪市においては,労働組合事務所の貸与の問題が,本来は3条6号の「労使関係に関する事項」であり,労使間の交渉の対象となる事項となるはずであるのに,現実には,「管理運営事項」として交渉が拒否されている状況にある。
このような条項は,憲法28条,地方公務員法(以下「地公法」という。)55条,労働組合法(以下「労組法」という。)7条2号に反するものと言わねばならない。
更に,4条2項においては,「管理運営事項」については,「意見交換」すら禁止している(転任等の任命権の行使に関する事項については説明すらされないこととなっている)。「管理運営事項」に該当する事項に関しても,現場の意見を的確かつ効率的に収集し,反映させるためには,むしろ労働組合との協議ないし意見交換は不可欠であるか,少なくとも望ましいことである。しかるに,懲戒処分の強制力をもって(7条),話し合いまでも全面的に禁止することは,現場の意見が府政に反映される重要な機会を喪失することになり,府民にとっても多大な不利益を及ぼすこととなる。
3 第3に,交渉内容の公表等に関する6条についての問題である。
6条2項は,交渉を報道機関に全面的に公開すると規定している。労使交渉の結果については,透明性確保の見地から公開するのが望ましいということはできよう。しかし,交渉である以上,交渉当事者が萎縮することなく率直な意見交換を行うためには必ずしも公開しないことが相当な場合があることは当然であり,例外なく全てを公開することは,交渉の趣旨に反する。当局がこのような公開交渉でなければ交渉に応じない(5条による交渉方法の取り決めに応じない)とすれば,これは団交拒否行為に他ならず,憲法28条,地公法55条,労組法7条2号に反するものである。
4 第4に,8条(適正かつ健全な労使関係の確保),9条(違法な組合活動を抑止する措置),10条(収支報告書等の提出)および11条(職員団体の登録の取消し等)の問題である。
これらに関する規定は,地公法53条であるが,条例案は地公法の規定を遙かに超えて,職員団体に対する不当な干渉の根拠を与えようとするものである。これらの規定は,正に労組法が禁じる支配介入を条例という形で合法化しようとするものと言わねばならず,明白な憲法28条,上記地公法,労組法7条3号違反と断ぜざるを得ない。10条は,人事委員会が職員団体に対して,収支報告書の提出を求めることができると規定しているが,これは明らかに支配介入の不当労働行為(違法行為)である。11条に定める人事委員会の措置が,地公法53条6項に定める内容と同じであるならば,改めて条例で定める必要はないし,それ以上の措置を定める趣旨であるとするならば,いずれにしても労働組合をただ規制するためだけの規定としか考えられず,明らかに地公法に反し,憲法28条に抵触するものと言わねばならない。
5 第5に,便宜供与について定める12条の問題である。
この規定は,労働組合等の組合活動に対して,今後原則として便宜供与を行わないと規定するものである。便宜供与はILOの「企業における労働者代表に与えられる保護及び便宜に関する条約」(135号)で労働組合に認められている権利であり,労使で話し合って決定していかねばならない事柄である。それが,労働者・労働組合の団結権に基礎を置いていることは,最高裁判決を含め,異論のないところである。原則として便宜供与を認めないことを予め宣言することは労働者及び労働組合に対する明確かつ不当な敵意の表れである。継続されてきた便宜供与について,使用者が合理的理由なく一方的に廃止することは典型的は不当労働行為であることは,多くの裁判例・労働委員会命令例において認められてきたところであるが,現在大阪市においては,本条例案と同内容の市条例を根拠としてこの不当労働行為が行われている。断じて許されざるところである。かかる規定は前代未聞であり,到底許されるものではない。
6 労使間の問題は,本来,相互理解の上に立って話し合いを重ねることにより解決されねばならない。
労働組合,労働組合員を敵視し,労使関係をいたずらに硬直化させ,労働者の団結権,団体交渉権を不当に一方的に制約し,ひいては府民サービスに悪影響を及ぼすこととなる本条例案は直ちに廃案とされねばならない。
第3 「職員の政治的行為の制限に関する条例(案)」
本条例案は,「地方公務員法第36条第2項第5号の条例で定める政治的行為」を規定するものである。
しかし,そもそも政治的行為は民主主義社会において最も基本的かつ最大限尊重されねばならない重要な権利であり,公務員と言えどもその制限は必要最小限に留められねば憲法19条及び21条に違反にするとの謗りを免れない。
そのため,地公法36条も一定の目的をもって行われる限定された政治的行為のみを禁止するにとどめ,かつ,違反に対して何らの罰則も設けていないのである。地公法36条5項が,「本条の規定は,職員の政治的中立性を保障することにより,地方公共団体の行政及び特定地方独立行政法人の業務の公正な運営を確保するとともに職員の利益を保護することを目的とするものであるという趣旨において解釈され,及び運用されなければならない。」と規定しているのもその趣旨である。公務員の政治的行為の規制については,国公法と地公法において異なっていることは条文上も明らかなところである。
ところが,本条例案4条は,地公法36条に違反した場合,「懲戒処分として……免職の処分をすることができる」と明記しており,被処分者は刑事罰を受けるにも等しい重大な不利益を受けることとなる。また,本条例案で新たに規制の対象とされた政治的活動の中には,地公法では禁止されていない軽微な行為(政党または政治団体の発行する機関紙の発行を援助すること(2条3号),政治的目的を有した署名・無署名の文書・図画・音盤・形象の著作・発行・編集,および配布・回覧すること(同6号),政治的目的を有する演劇を演出し若しくは主宰し又はこれらの行為を援助すること(同7号),政治上の主義主張などの表示に用いられる旗・腕章・記章・襟章・服飾その他これに類するものを製作・配布すること(同8号)等)が含まれており,これらの行為に対して,懲戒免職を含む懲戒処分を定めることは規制手段としての相当性に欠ける。
また,本条例案2条が列挙する「政治的行為」の個別の項目において,例えば,本条例案2条5号は制限される行為として,国家公務員と同様に,「ラジオその他の手段を利用して」公に政治的目的を有する意見を述べることを挙げている。しかし,地方公務員は国家公務員と異なり,自らが属する地方公共団体の区域外においては自由に政治活動を行えるのであり,かかる規定は,地公法36条を超える制限を課すものとして違法無効であるといわざるをえない。
以上より,本条例案は,総体として違憲違法である。
当弁護団の見解は以上のとおりであるが,このような民主主義社会における基本的な権利がなし崩し的に規制されていき,いずれ近い将来に一般市民の権利にまで規制が及ぶことをも危惧するものである。
よって,本条例案は,憲法上の重要な基本的権利を侵害するものであり,条例として制定されることがないよう強く求めるものである。
以上
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