不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Pala di Camaldoli

2007-04-10 07:59:23 | アート・文化

1400年代のフィレンツェを中心に活躍した画家の一人、
フィリッポ・リッピ(Filippo Lippi)の
Pala di Camaldoli(カマルドーリの祭壇画)の修復が完了。

作品のテーマは「幼子イエスの生誕と三位一体」。
修復には8ヶ月を要し、「Amici degli Uffizi」の
アメリカ支部からの寄付金34000ユーロが費やされました。
4月7日までウフィツィ脇の
San Pier Scheraggio(サン・ピエル・スケラッジョ)に
一時的に展示されていたこの作品は
5月よりウフィツィ美術館のリッピ一族の部屋に展示となります。

Pala_camaldoli_4

作家の晩年(1463年)に描かれたこの作品は
現在ベルリンのGemardegalerieに展示されている作品と
ほぼ同じ構図となっています。
サンタ・クローチェの礼拝堂のために依頼した
本作品の出来具合に驚嘆した、依頼主であるメディチ家が
当時の自宅(Via Larga)用にも同じものを依頼したため
似た構図の同テーマの作品が作製されたのです。

画面上部の「父なる神」の開かれた両手から
右側の洗礼者ヨハネ、聖ロムアルド、
そして左サイドの聖母マリアへと
トライアングルの構図が取られ、
画面中央には「父なる神」の両手から
精霊の白いハトを通して
金の光筋が伸びて草原に横たえられた
幼子イエスに降り注いでいます。
1400年代の風景画家の中でも
もっとも繊細といわれたフィリッポ・リッピらしく
画面全体には岩山の自然が細かく描き込まれており、
幼子イエスの横たわるやわらかな草むらに
描かれる草花の様子は
弟子であるボッティチェッリの描いた
有名な「春」の草花描写に非常によく似ています。

カマルドーリ会は作品の中に描かれる
「聖ロムアルド(San Romualdo)」が
1012年にアレッツォの山の中に創設した
ベネディクト会に属する宗派。
依頼主であるルクレツィア・トルナブオーニ
(Lucrezia Tornabuoni)が
作品の背景として指定したその山中の場所は
フィリッポ・リッピにもなじみの深い場所だったらしく
このアレッツォの山のごつごつした岩肌の感じや断崖絶壁、
そこに生える草花などの植物生態について
彼はかなり通じていたといわれています。
その画家の知識が画面上に描かれる自然に
反映されているのです。

岩山の殺伐とした風景の中に
ひざまづく聖母の寂しげで物憂げな視線が
とてもフィリッポ・リッピらしい一作です。
どちらかというとルネッサンス絵画としての要素よりも
後期ゴシック的な緻密な作風が
より濃くでている静かな作品。