夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『ベルファスト』

2022年04月11日 | 映画(は行)
『ベルファスト』(原題:Belfast)
監督:ケネス・ブラナー
出演:カトリーナ・バルフ,ジュディ・デンチ,ジェイミー・ドーナン,キアラン・ハインズ,
   コリン・モーガン,ジュード・ヒル,ララ・マクドネル,ルイス・マカスキー他
 
自宅の雨漏り修理のため、平日に休みを取りました。修理が完了したのが14時頃。
死に体の阪神タイガースの試合を観るのもツライので、
逃避すべくTOHOシネマズ西宮へ向かい、日付が変わるぐらいの時間まで3本ハシゴ。
 
封切り後まだ2週間経っていないのに、すでに1日1回の上映になっている本作。
この日観られたことに大感謝したくなりました。
ガッカリさせられた『ナイル殺人事件』より100倍イイ、ケネス・ブラナー監督。
100倍は言い過ぎかなぁ。でも個人的にはそれぐらい良さが違いました。
 
ベルファストと聞いて私がすぐに思い出すのは『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)。
アレン・リーチ演じるマネージャー、ポール・プレンターが自らのことを
「ベルファスト出身でカトリックでゲイ」とぼやくシーンがありました。
それがどれくらい生きづらいことなのか、本作を観れば歴然とします。
 
1969年、北アイルランドの首都ベルファスト。
この地区で生まれ育った9歳の少年バディは、家族4人暮らし。
大工の父親はロンドンへの出稼ぎで週の大半不在だが、
美しく優しい母親と頼もしい兄ウィルがずっと一緒。
すぐ近所には愛情とユーモアに溢れる祖父母も住んでいる。
 
しかしある日、暴徒化したプロテスタントの若者が、カトリック系住民への攻撃を開始。
それまではここで平穏に共存してきたというのに、対立は激しさを増すばかり。
争いなど微塵も望んでいないバディ一家だが、カトリック系住民の排除に手を貸せと言われて……。
 
どんだけ宗教に疎いんだ私、と思うのですが、
最初はバディ一家がプロテスタントなのかカトリックなのかがわからず。
そうですか、ベルファストというのはプロテスタントが多い地区で、
でももともとは宗教に囚われずみんなが家族、という子育てにとって理想的な場所でもあったのですね。
 
誰の子どもに限らず、子どもがそこを通れば大人はみんな声をかける。
子どもも大人もみんな仲が良くて、知らない人は誰もいない。
そんな場所に一瞬にして憎しみが充満する。どうしてこんなことになるのでしょう。
 
ケネス・ブラナー監督の故郷もこのベルファストで、これは自伝的ドラマ。
自身の幼少期を投影したらしいバディ役、ジュード・ヒルがめちゃめちゃカワイイ。
もっと暗い作品を想像していたら、そこここで笑ってしまう。
バディの目から見た世界は、暴力と恐怖に包まれつつも、人の優しさが感じられるから。
教会の牧師の説教を聴くバディの顔なんて最高。
 
クラスでいちばんの秀才キャサリンに恋するバディ。
成績で席順が決まるから、キャサリンの隣に座るには2番にならなきゃいけない。
キアラン・ハインズ演じる祖父は、「算数と恋は厄介」だと説きます。
その後に伝授する「良い成績を取る方法」が可笑しすぎる。
数字を曖昧に書くようにすれば、先生が良いほうに解釈してくれると言うのですから(笑)。
 
音楽もすごくいいし、映画へのオマージュもいっぱい。
特に『真昼の決闘』(1952)は効果的に使われていますが、
個人的に嬉しかったのは祖母役のジュディ・デンチの口から『失はれた地平線』(1937)の名前が出るところ。
ベルファストはシャングリラになり得るのか。
 
キャサリンの家はカトリック。
「大人になったら結婚できるのかな」とつぶやくバディに、父親は言います。
「カトリックであろうとプロテスタントであろうと、ヒンドゥー教であろうと、
お互いを尊敬しあう気持ちがあれば大丈夫」。この言葉が今とても心に染みます。
 
いちばん笑ったのは、洗剤をかっぱらってきたバディが、
暴動の中で「どうして洗剤!?」と怒り心頭の母親から訊ねられ、
「環境に優しいから」とキョドりながら答えるシーンでした。
ケネス・ブラナーのこういうセンス、大好きです。
アイルランド人はもともと旅人だから、旅の途中で立ち寄れるように世界中にパブがあるんだよというのも素敵な話。 
 
第94回アカデミー賞の脚本賞を受賞しています。大納得。

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