Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー

2015-05-25 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」



この場から立ち去ろうとしていた淳の足は、固まってしまったかのように動けなくなった。

父と母の口論が、淳の耳に雪崩れ込んで来る。

「たった今話したじゃないか。友達の髪を掴んで、レンガにぶつけようとしたと!」

「そんなの、単なる喧嘩の流れでしょう?!」



それは数カ月前、亮と岡村泰士の喧嘩に巻き込まれた時のことだった。

淳は岡村の髪を掴み、レンガにぶつける寸前で手を止めたのだった。



口論は続いていた。

「それに西条社長の息子にしたことも聞いてただろう?結果上級生達から袋叩きに遭わせてー‥」



それは去年、西条和夫が上級生に殴られた時の話だった。

淳は西条に実質的な手を加えたわけではない。ないけれど‥。



開いたドアの隙間から、二人の声が漏れる。

「淳は今反抗期なんです。あの年頃の子はそんなものでしょ?

それにその子達の方が、先に淳にちょっかい出して来たっていうじゃありませんか!」


「いやお前‥だとしても、こういった形で対処して良いと思うのか?!」

「ええ。私は淳の判断は間違ってないと思ってる」



「‥‥‥‥」



母は父の言葉を基本的に取り合わず、終始彼を責める口調で口論を重ねた。

黙る父に向かって、母の高い声が続く。

「それよりも子供の学校生活を逐一監視する親がどこにいますか?!

一体誰が監視してるんだか!」




「それはお前、あちらこちらでー‥」

「は、白々しい。よく分かってますわ」



そして母親はキッパリとこう言った。まるで全て分かっていたかのような口調だった。

「その為に河村教授の孫を同じ学校に通わせてるくせに」



淳の頭の中で、過去の場面場面が急激に蘇って来た。

岡村泰士にレンガをぶつけようとした淳を見て、戸惑ったような顔をした亮。



西条が入院したとクラスの皆が騒いでいた時、

疑うような視線を送って来た亮。



「お前なんでここにいんの?!」



そうだ、それまでにも亮はそういう目で自分のことを見ていた。

疑うような、怪訝そうな、理解出来ないものを見るかのようなー‥。








なぜ今日二人は家に来たのだろう。

淳が出掛けていることを知りながら。自分はコンクールの帰りだというのに。



何かを言い争っていた。

もしそれが、自分のことを父に報告する関連の件で揉めていたのだとしたら?



それならば辻褄が合う。どこかよそよそしかった父の態度にも納得がいく。

一つ一つの点が、線になって繋がって行くー‥。


「何てことを言うんだ!」



母だけでなく、とうとう父も荒い口調で話し始めた。淳はその場から動けない。

「亮と静香は純粋に淳を友達としてだな!」

「たとえあの子達はそうだとしても、現にあなたが変だと思ってるじゃないですか!

もういい加減あの子達に執着するのは止めて。私達の子供は淳ですよ?!」




「それは私も当然分かっているさ。淳の為なんだから」



”淳の為”、父はその免罪符を掲げ、妻にその行動の理解を求める。

「河村教授から言われたこと、お前も知っているだろう?

淳はおかしな問題のある子だって!」




脳裏に、幼い頃会った教授の姿が浮かんだ。

穏やかな笑みを浮かべながら、頭を優しく撫でられた。

「やぁ」



「私は淳の社会性が心配だった。それで幼い時から注意して‥」

「河村教授が、淳の面倒を見てくれたとでも?せいぜいあなたはあの人の言葉を鵜呑みにしてー‥」

「お前だっていつも外国にいて、淳を見てなかったじゃないか!」



責任を押し付け合いながら、夫婦は口論を続ける。父は河村教授のことを信じ、己のことも信じていた。

「私は見て来たさ。私が見ても、あの子は幼い時から普通ではなかった」

「だからそれは‥他の子たちよりも淳がちょっと頭の回転が早いってだけでしょう?!

問題なんてないわ!」




母はそんな夫のことが気に食わなかった。河村教授のことを盲信しているようにしか思えないのだ。

「いい加減その河村教授河村教授っていうのは止めて。

いきなり人の子を変わり者扱いした挙句、それを口実に自分の孫を押し付けて!」




「一番狡猾なのはあの人よ」「止めないか。そんな人じゃない」「あのヤブ医者」



「ヤブ医者とは何だ!私を治療して下さった方だ。お前も分かっているだろう?」

「治療?あなたは私が見る限りどこも治ってなんかないわ。河村教授の治療とやらは失敗ね」

「お前‥!」



母の暴言に、父が歯を食い縛る表情が見て取れるようだった。

そして母は父に向かって、彼の根本を指摘する言葉を口にした。

「あなたは怒りを表に出しこそしないけど、その矛先をいつも変な方向へ向ける」



「他人を勝手に判断して、強引に操作して!」



「挙句自分の子供にまで烙印を押した‥!」



淳はそのままフラフラと自室へと歩いて行った。どうやって帰ったのかは覚えていない。

耳の奥でノイズが鳴っている。

母の高い声が鼓膜の裏に反響し、感覚が麻痺していた。

「淳に問題はありませんわ」



「何の問題も」



机の上に乗った楽譜が、ふと目に入った。

To Ryo Kawamuraと入れてもらった、サイン入りの楽譜が。







先程耳にした母の言葉が蘇って来る。

「それよりも子供の学校生活を逐一監視する親がどこにいますか?!

一体誰が監視してるんだか!」




岡村泰士の一件も、西条和夫の一件も、そのどちらにも亮が絡んでいた。

今手元にあるこの楽譜にさえも、自分ではなく亮の名前があるー‥。



ノイズは徐々にボリュームを上げ、既に身体の内部まで侵害されていた。

幾分乱暴な仕草で、淳は楽譜を本棚に仕舞う。

バンッ



ザワザワ、ザワザワと、徐々に己が侵されて行く。

最近よく家に来るな‥



家族用の通用門から当たり前のように出てきた二人。

最近よく喧嘩してる‥



彼らが自分の家族を狂わせて行く。


ジワジワと、奪われて行くのだ。

自分も、自分の家族も。




母親の甲高い声が自分を責める。

「おかしいわ」




父親の低い声が自分を責める。

「おかしいんだ」




いつか優しい笑みを浮かべていた老人も、自分を責める。

「おかしな子供」




塗装の剥げた壁。

僕だけが知らなかった。




僕だけがおかしいのか?

他の皆ではなく僕だけがー‥


おかしい! おかしい! おかしい! おかしい!




僕だけがー‥





ノイズが頭の中で、叫ぶように鳴っていた。


おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい

おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい




おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい

おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい




淳は頭を抱えてうずくまった。

それは少年が己を奪われゆく時に無意識に取る、己を守る姿勢だった。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー でした。

今回はガッツリ書かせてもらいました。ふー‥


裏目夫妻の口論‥自分の子供を「おかしい」と言う父と、ただ闇雲に「おかしくない」と否定する母。

どちらも淳を理解しようという気持ちがうかがえないと感じるのは‥私だけでしょうか?


前回出てきた壁の剥がれた箇所というのが今回に繋がって、

「自分だけが知らなかった→自分だけがおかしいのか?」という考えを示唆するモチーフになってますね。


そして今回すごいな、と思ったのがここ↓

「淳に問題はありませんわ。何の問題も」


何の問題もない、と淳を肯定する言葉が書いてありながら、このコマの淳の表情には絶望しかない。

それだけ母が淳を理解した上でこの台詞を言っているわけではない、ということが分かりますよね。


ここで歪んでしまった淳→亮への感情が、どう左手事件に繋がって行くのか‥気になります。


さて次回から現在に戻ります。<他者であるということ>です。



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<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー

2015-05-23 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
「ただいま帰りました‥」



靴を脱いで家に上がると、ふと視線を感じた。

淳が顔を上げると、そこに父親が立っていたのだった。



親子は何気ない会話を交わす。

「帰ったか」

「はい。ここに居られたんですね」



淳がそう声を掛けた後、父は無言で息子に背を向けた。

淳はそんな父の態度を不思議に思う。



父はそのまま歩いて行こうとしたが、淳はその背中に話し掛けた。

「亮が来てたみたいですね。コンクールの話をしたんですか?」「ああ。よく弾けたと言っていた」

 

そっけなく答える父。そして父は自室へと向かって行く。

向けられた背中に、微かな無言の拒絶を感じる。



どこか胸が騒いだ。

淳は父に向かってもう一度声を掛ける。

「何かあったんですか?」



「ん?いや」



父はそう口にして、早々に階段を上った。

口元に湛えたその微笑は、その場をやり過ごす為の虚飾のそれだった。

淳は即座にそれを感じ取る。



階段を上がる父に向かって、淳は先程のことを話題に出した。

父は、足を止めることなくそれに答える。

「ところで‥門の横隅の塗装が剥げていること、ご存知ですか?」

「あぁ、そうらしいな。あそこだけ塗り直さないと」

 

「ご存知だったんですね」



淳がそう言った後、父は自室へと姿を消した。

淳は頭の後ろに手をやりながら、耳の奥で鳴るノイズを聞く。



誰も居ないリビング。淳は一人呟いた。

「俺はそのことを今日知ったんです」



「この家で幼い頃から育って来たのは、俺の方なのに」









自分の家のことなのに、淳は壁の剥がれた箇所を知らなかった。

でもあの二人は当然のように知っていたのだ。

そう、まるで家族のように。






勉強の為に机に向かった淳だが、内容は全く頭に入って来なかった。

耳の裏側で鳴るノイズが、心に不安の陰を落とす。







気分転換がてら、淳はコーヒーを取りに台所へと向かった。

ゆっくりと廊下を歩いていると、不意に母親の声がした。

「なんですって?!」



立ち止まると、両親の部屋のドアが少し開いているのが見えた。

室内から漏れる明かり。声はそこから聞こえて来る。



「父親ともあろう人が何を言っているんですか!」



母親の声は大きく、それは廊下に居る淳の耳にもハッキリと入って来た。

聞いてはいけないかと思い、足早にそこから立ち去ろうとする淳。

最近よくケンカするな‥



前にもこんなことがあった。

確か両親は、河村姉弟のことについて口論していた。

「あの子達はあたし達の子供じゃないわ」



亮と静香が原因で、しばしば口論するようになった両親。

耳の内側で鳴るノイズが、徐々に大きく心を掻き乱して行く。


そして次の瞬間母親が言った言葉に、淳は耳を疑った。

「うちの淳のどこがおかしいって言うんですか?!」







心を侵食する、不快なノイズ。


それは徐々に、加速して行く。




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<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー でした。

塗装の剥がれた壁を、淳だけが知らなかったというこのエピソード。

本当の家族に憧れる亮と、本当の家族なのに満たされない淳。

二人の関係性の歪みが、このエピソードから露呈して行くんでしょうね。


しかし淳も淳父もよくカップ持って歩いてますよね。

いやだから何だって言ったら何もないですが‥(苦笑)この光景よく見るなと思って見てます。。


次回は<亮と静香>高校時代(20)ーおかしな子供ー です。


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<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ー

2015-05-21 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
コンサートからの帰り道、空を見上げると細い月が出ていた。



亮の代わりに聴きに行った、有名ピアニストのコンサート。

サイン入りの楽譜を鞄に入れて、淳は一人家路へと急ぐ。



家の前の通りを歩いていると、不意に門が開くのが見えた。家族が通る為の、小さい方の門が開く。

淳は思わず「あ」と声を漏らした。

 

そこから出てきたのは、河村亮と河村静香だった。

姉弟は会話をしながら、実に自然に淳の家から姿を現す。



淳は二人の姿を前にして、思わず立ち止まった。

最近よく家に来るな。

コンクールが終わってその足で来たのか?




今日は亮のピアノコンクールがあったので、その結果報告だろうか。

淳はそんなことを考えながら二人を見ていた。がしかし、今日は彼らの雰囲気が幾分いつもと違っている。



「?」



何やら言い争っているのだ。そんな二人を見て、不思議そうな顔をする淳。

あ、そうだ楽譜‥。



そして淳は、鞄の中に入れてある楽譜のことを思い出した。片手を上げ、亮の名を呼ぼうとする。

「りょ‥」



しかし淳は、その名前を最後まで口にすることが出来なかった。

なぜならば亮が、ある箇所をじっと見つめて立ち止まっていたからだ。



亮は外壁のある部分を、一人凝視していた。

静香は弟の見ている場所を追って、そこへ視線を落とす。



姉弟はその場所を見ながら話をした。

淳の耳に、その会話が切れ切れに聞こえてくる。

「ここんとこさぁ‥」「あーそこ前からよ」「また塗り直して‥」



すると亮は二三歩下がり、下がった場所から壁を見上げた。

先程の場所のように塗装の剥げたところが、他にも無いものかと。



そして今度は壁に近寄り、その剥げた部分にそっと手を這わせた。

まるで古くなったその場所を、労るかのような仕草で。



それは何てことのない一場面だった。

青田淳以外にとっては、本当に何気ない平凡な一場面。

古い家だからしゃーねーな



てかオレさぁ‥








亮と静香の声が、徐々に小さくなって行く。

淳は消え入る声を聞きながら、じっとその場に立ち尽くしていた。



辺りは静かで誰一人居ないというのに、耳の内側でノイズが聞こえる。

ザワザワザワザワと、神経に障る音が聞こえる。

「あ、楽譜」



そんな感覚に気を取られて、サイン入り楽譜を渡しそびれてしまった。

もう二人の姿は見えない。

ま、いいか。明日渡せば



そう自らを納得させて、淳は家に入ろうとした。

そして目に入って来たのだ、大きな門と小さな門が。



家族用の小さな門から、河村姉弟は出て行った。

まるで当然のような顔をしてー‥。



心の中で、小さなノイズが鳴っている。

ノイズはじりじりと、心の一箇所を侵食して行く。

「‥‥‥‥」



先程亮が、労るように手を添えていた場所。そこは確かに剥がれていた。

いつも目にしていないと分からないくらい、ほんの小さな箇所だった。



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<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーでした。

今回の箇所は絵だけでは分からなくて、亮が何しているのか最初かなり謎でした‥。

ハングルがパッパッと読めたらいいのに‥!とジリジリします^^;

でも文字を翻訳機にかけ、翻訳ボタンを押す瞬間のドキドキも、かなりクセになります(笑)

こんなことが出来るのも最終回までと思うと、寂しいです(涙)


次回は<亮と静香>高校時代(19)ー僕だけが知らなかったー です。



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<亮と静香>高校時代(17)ーサインー

2015-05-19 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
あれは高校三年生の、秋のことだった。



有名ピアニストの来日公演。河村亮は心底その演奏を聞きたがっていた。

しかし彼は自身のピアノコンクールに出席せねばならず、代わりに淳が足を運んだ。



目を閉じ、その音色に耳を澄ます。

鮮やかに奏でられるシューベルト「楽興の瞬間」。亮の弾けるようなそれとはまた違う、重厚な音の響きー‥。






遠目に見えるピアニストの横顔は、髪も肌も白人種のそれであり、彼の横顔に淳は亮の面影を見る。

脳裏に、いつか自分を肯定してくれた時の亮の姿が浮かんだ。

「お前はいっこも間違ってねーぞ?」



ずっと集めていた野球のボールをクラスメートに譲ることになった時のことだ。

亮は何の疑いもなく淳を肯定した。

「何がおかしいんだ?全然おかしくなんかねーだろ?」



嬉しかったのだ。

自分のことを肯定してくれる幼馴染の存在が、あの時何よりも嬉しかった。

「あ~~~つーかマジコンサートよぉぉぉ!お前代わりに行けよ!」



だからそんなに興味があるわけでもないコンサートにも、亮の代わりに足を運んだのだ。

今日のこの演奏の感想を口にした時、亮はどんな顔をするだろう‥。



コンサートは盛況の内に幕を閉じた。

ステージの中央に立ち頭を下げるピアニストに、豪雨のような拍手が鳴り響く‥。







演奏後、淳はピアニストの楽屋に足を運んだ。

青田家が有するスポンサーの特権で、入ることが出来たのであった。

「あれ?」



淳が手にしていたのは、「楽興の瞬間」の楽譜だった。

それを見たピアニストは嬉しそうに、淳に向かって話し掛ける。

「これは僕の楽譜じゃないかい?素晴らしい!」「ファンですので」



淳はニッコリと笑顔を浮かべ、更に言葉を添える。

「”楽興の瞬間”、原曲も良いですが、この編曲の方が好きなんです」



淳のその言葉を聞いて、ピアニストは豪快に笑った。

「僕にもスゴイファンがいたもんだな!ハハハ!」



そして彼はペンを取り、淳に向かって口を開く。

「そうそう、サインの依頼だったね。名前は?」



「河村亮です」



淳は自身の名前ではなく、亮の名前を口にした。

ピアニストは聞いた通りに、楽譜に亮の名前をサインを共に書き落とす。

「河‥村‥亮‥と」



サインを終えたピアニストは、ニッコリと笑って淳に楽譜を手渡した。

「僕の演奏を聴きに来てくれてありがとう、河村亮君」



そしてTo.Ryo Kawamuraと入ったそれを、淳は笑顔で受け取ったのだった。

「いえ、こちらこそ。お時間を割いて頂いて、ありがとうございました」





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(17)ーサインーでした。

かなり短めな記事で失礼致しました。


演奏を聴きながら、目を閉じて亮のことを思い出す淳。

良い友達なのになぁ‥。この後だんだんと関係が歪んでいくのですね‥(T T)


次回は<亮と静香>高校時代(18)ー剥がれた壁ーです。


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<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(8)ー

2015-05-11 01:00:00 | 河村姉弟2<西条編~おかしな子供>
「くっそーーー!!兄貴のせいで俺まで門限早まって、

監視までつけられたじゃねーかよぉ!狂っちまうっつーのマジで!」




亮のクラスの副級長、城崎仁は叫んでいた。そんな仁の話を、亮はジュースを飲みながら耳を傾ける。

「ふーん」

「西条のヤツのせいで‥。あ~ムカつくぜマジでー。あの野郎、前は兄貴の仲間に入りたくてヘコヘコしてたくせによぉ!

なんでチクるような真似すんだよ!くそっ」


「そんで先生たちが店に押し入った時に、運悪く仁のお兄さんだけ捕まったと」

 

仁は兄の不運と事件による自分への余波を思い、その場で地団駄を踏んで悔しがった。

しかし亮にとっては所詮他人事。「運悪ぃのなー」と軽く受け流す。



「あん時職員室で聞いたヤツが全部情報流して、兄貴とその仲間達が西条をボコったってわけ」

仁は、西条が兄達に殴られることになった顛末を話し出した。亮はじっとそれを聞いている。

「西条のオヤジがうちの家に文句言えるレベルじゃねーから丸く治まったけど‥、

危うく兄貴、留置場行きになるとこだったぜ」
「ふーん」



「てか西条マジふざけてんよ。アイツ、兄貴じゃなくて淳が酒を飲みに行ったからチクったんだってよ。

マジで頭おかしいんじゃねーか?三年と淳っていったら三年も捕まるに決まってんじゃんかよ」




「兄貴達の仲間に入れてもらえなかった腹いせだってバレバレだっつーの」

「‥だよな」「しかも今回のことまで淳のせいにしやがって‥マジイッてるって」



「俺と淳がクラス代表で見舞いに行ったら、淳に向かって

「なんでお前行かなかったんだ」って大騒ぎ」


「なんだその八つ当たり。自分がチクったくせに」



ふぅん、と亮はそれに相槌を打ちながら、微かに胸が騒ぎ出すのを感じていた。

仁は事件に関するファクターを一つ一つ明らかにしていく。

「兄貴から聞いたけど、淳は初めから行くとは言ってなかったらしい。

メール履歴に「すみませんが行けません」ってメールも残ってた」




心の中がざわめく。

思い出すのは、西条のせいで職員室に呼び出された淳の姿。

「あなたが横領してるって聞いて‥」



淳に対する常日頃の西条の態度。

「偉そうに金出せだの言いやがって何様かしらねーけどよー」



クラスメートが西条に対して思っている心の内。

「西条のことだから、あの性格のせいで三年をムカつかせて殴られたんだろ」

「いつかこんなことになると思ってたよ」「青田にも無駄に突っかかってたもんなー」




そしてあの日、西条に向かって言った淳の言葉。

「無闇に人に喋るんじゃないぞ」



「俺も呼ばれたんだ」「お前は行かないのか?」



「西条も行く?」「お前と俺の仲が良くないって知ってるんじゃない」



巧みな言い回し。確実な証拠となる発言は何も無い。

亮は再度心の中で思う。

‥そうだ。確かに「行く」とは言ってねぇ。


そして先ほど目にした、口元に浮かぶ微かな嘲笑ー‥。





ふぅん‥



数々のファクターが、全て一つの線で繋がっているような感覚を亮は微かに覚えた。

心のどこかで感じる、じわりと漏れる毒。仁も微かにその毒を感じる。

「でもちょっと話が無理矢理すぎねぇ?」



「んな嘘一発でバレんじゃん。西条ってそこまでバカだったっけ?」

「ヤツは仁の兄貴達と仲良くしたがってたからな」

「淳の話によると、「自分は行けないから西条だけでも行って来たら」って言ったんだって。

けど西条の言い分としては、淳は西条に「行け」って言ったわけじゃなく、「淳自身が飲みに行くって言った」ときてる」




じわり、じわりと毒が漏れる。

この事件は偶然ではなく、誰かがもたらした必然であるかのように、うまく出来過ぎているのだ。

「おい亮、お前何か知らねぇ?」

「え?」



「マジで淳が酒飲みに行こうなんて誘ったわけじゃねーよな?」

「でも青田が最近急に仁の兄貴達と仲良くなったのは事実なんだ」



仁と友人は亮に質問を投げかけた。

この事件において最も疑われることのない、その当事者のアリバイについて。

「あの日淳がどこにいたか知ってるか?」「教室には居なかったよな」

「二人の言い分が噛み合わねぇから、どっちが正しいのか分かんねーんだ」



おそらく毒は回り出す。

亮が見聞きした西条と淳の会話を今口に出せば、きっと確実にー‥。




「あ‥」




しかし亮は選択した。

真実を話さずに、毒が回ることの無い未来を。


「おいおい、淳がどんなヤツかってのはよく知ってんだろ?

仁、お前の兄貴だから仲良くしてたってだけで、一緒に酒飲みに行くなんてー‥」




亮は思った。

ここで自分が下手なことを言えば、淳の分が悪くなるー‥。

「そういえば前の集会ん時、淳は兄貴と会ったんだったな」

「つーかオレ見たんだよ。西条と淳が口喧嘩してんの。そん時確かに淳は行かねえっつってたよ」

「やっぱりかー!だよなぁ、淳に限って!」



毒が回り出さぬよう、その為の予防線まで亮は張った。

「「西条が行きたいなら行けば」とか言ってたっけな?」



オレが片をつけてやると思いながら、亮は淳を庇う小さな嘘を吐いた。

そしてその嘘は、淳の常日頃の人間性を証拠として、立派な真実として仁達を納得させる。

「やっぱり西条のヤツ、淳に因縁つけたくてしゃーねーのな」

「それじゃ青田はまた罪もねーのに担任に呼び出しくらったってわけか」

「そーゆーこったな」



西条と上級生達の事件を受け、職員室に呼び出された淳はこう言ったと言う。

「先輩達に誘われましたが、当然断りました。

先輩達が罰を受けるんじゃないかと思って、言えなかったんです。すみませんでした」




淳の言葉を仁が反復し、「アイツは義理堅い男だ」と言って笑った。

仁の友人も、亮もつられて笑う。



笑顔の裏で、亮は思った。

淳のヤツ、自分でもここまで事が大きくなるとは思ってなかったんか?



さらりと発された、あの台詞。

西条も行く?



そうだよな、確かに自分が”行く”とは言ってなかったけど‥。

西条”も”か‥。




亮はフッと笑いながら、その意味深な言葉をそれ以上気にすることを止めた。

毒は心の中に押し込めて、苦労の多い幼馴染を慮って。

ま‥わざとか言い間違ったのかは知らねーけど‥。

たまにはお人好しのカモは止めて、ストレス発散ってとこかねww




亮はククッと笑いながら、そのまま教室まで歩いて行った。


西条和夫に関する事件は、これで幕を閉じることになる。

真実は闇の中に葬られ、毒だけが閉じ込められたまま、亮の中にこびりついた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<亮と静香>高校時代(1)ー西条のエピソード(8)ーでした。

これで西条のエピソードはおしまいです。

しかし淳は、人を陥れる才能ありすぎですねぇ‥。

子供の時も高校生になってからも、”線を超えた”者に対する制裁が半端ないですね。

頭が切れすぎる不幸、という印象を受けます。


さて次回はタイマン勝負からの続きですね。

<深い溝>です。

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