Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

彼との対話(3)ー虚偽ー

2016-01-30 01:00:00 | 雪3年4部(彼との対話~健太との対決)
「本当に何とも思ってなかったんですか?」



雪が発したその言葉は、亮の心を突き刺した。

亮は瞬きも忘れたように、雪のことを凝視し続けている。



そしてその視線を外さぬまま、亮は雪の方へと一歩踏み出した。



思わずビクッと反応する雪。



亮は何も言わない。

ただ、雪の方へと一歩一歩踏み出してくる。






雪は幾分動揺しながらその場に突っ立っていた。

自分の方に向かって来た亮が、たった数歩残して立ち止まる。






亮は険しい表情のまま、ただじっと雪のことを見ていた。

雪は何も言うことが出来ないまま、ただ亮のことを見つめている。

「‥‥‥‥」



すると亮が、一言発した。

「オレの感情‥」



先ほど雪から問われたその言葉が、亮の脳内を駆け巡る。

「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?」







依然として押し黙っている亮を前にして、雪は彼から目を逸らした。

何も言うべき言葉が見当たらない。



亮は先程の険しい表情とは打って変わって、ただ静かに雪のことを見ていた。

やはり何も口にはしない。



二人の間に、しんとした沈黙が落ちる。

雪はもう一度顔を上げ、言葉にならない声を漏らした。

「あ‥」



亮はスローモーションを見ているかのように、

彼女の形の良い唇が、僅かに開くのを見つめていた。



そして再び俯いた彼女の耳元で、柔らかな髪が揺れるのも。



蓋をして押し込めた”感情”が、徐々にその顔を覗かせる。

亮はいつかの亡霊に取り憑かれた時のように、ぼんやりと雪のことを見つめている。



「河村氏‥」と自分を呼ぶ声が微かに聞こえた。

亮はその声に誘われたかのように、そっと彼女に手を伸ばす。






ゆっくりと、雪の方へと伸びて行く右手。

雪は目を見開いたまま、彼の一挙一動をただ見つめている。







ゆっくりと伸ばされたその手は、やがて雪の耳元へと近付いて行った。

その手が微かに触れるか触れないかといった時、雪がビクッと身を竦める。

「あ‥」



すると、亮の手が再び彼女から離れた。

少し下方へと手が下る。



そして亮の手は、その柔らかな頬に触れる代わりに、

雪の腕を強く掴んだのだった。

ぐっ‥







突然強い力で腕を掴まれた雪は、驚きのあまり目を見開き、亮の顔を見上げた。

彼は何の感情も読み取れないような表情をしている。

「?」



その行動の真意が掴めず、困惑する雪。

亮は右手に力を込めながら、元同僚の男が言った言葉を思い出していた。

「結局は捕まって、ズルズル付きまとわれるだけだと思う‥絶対‥」



覗いた感情が、再び奥の方へと逃げていく。

亮は抑揚のない声で、ポツリとこう呟いた。

「感情なんて凍っちまったよ」



ガッ!



雪がその言葉を聞き返すより早く、亮はより一層強く雪の腕を掴み、彼女の方へと身を乗り出した。

「誰が何と言っても出て行くから、今後オレに連絡すんじゃねぇ。待ってても無駄だ」

「か、河村氏?!」

「どうせ淳の傍に居る女がどんなもんか見に来ただけなんだ」



「もう用無しなんだよ。オレが無意味にお前の周りをウロチョロしてるとでも思ったか?」



口元に嘲笑いを浮かべながら、彼は”淳の女”に向かって意地悪く言葉を続ける。

「淳の女の好みがどんなもんか、結局この程度だってのが分かったからもういいんだよ。

今は自分の人生の方が大切だからな。あの野郎の近辺をうろつくのも時間のムダだって気づいたし」




「つーかこれ以上お前に何の用もねぇんだよ」

「何ですって?!」



その失礼な物言いに、雪は青筋を立てて言い返した。

しかし掴まれた腕はびくともしない。

「お前さぁ、どうしてこんなひつこくつきまとって来んだよ。

オレになんか未練でもあんのか?」




蓋をした感情を押さえつけるかのように、亮はより一層強くその腕を握る。

「もう止めろよ。そろそろムカついて来てんだよ」

「うっ‥」



腕に痛みを感じた雪は、思わず声を上げた。

「ちょっと待って!ちょい待ちちょい待ち!」



しかし雪のその声のトーンは、どこか緊迫感の無いものだった。

思わず眉を寄せる亮。

「んだよ」「河村氏、」



そして雪は亮を見上げて、彼の虚偽を見抜いたのだった。

「今わざとイチャモンつけてるでしょ?」







思わず目が点になった。

この女は、どうしてこんなに鋭いんだろうーー‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼との対話(3)ー虚偽ー>でした。

亮さん‥!バレバレ‥!!

最後の目がテンの亮さんが微笑ましいですね。


さて次回、彼との対話は最後です。


<彼との対話(4)ー決別ー>です。

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彼との対話(2)ー悪役ー

2016-01-28 01:00:00 | 雪3年4部(彼との対話~健太との対決)
「どうしてオレが?」






まるで突き放すかのようなその亮の言葉に、思わず目を丸くする雪。

しかし亮は自身の態度を変えることなく、その理由を淡々と説明し始めた。

「おい、オレがもう店辞めたってのは知ってんだろ?一度辞めたらフツーもうグッバイだろーがよ」

「はい?いえあの‥それは分かってますけど‥私が言いたいのは、少しの間でも‥」

「あーもういいよ。つーかお前んちの店な、給料安すぎんだよ」



降って湧いたようなその亮の言葉に、雪は驚きのあまり言葉を失った。

「な‥」「だから新しいバイトも見つかんねーんだって」



「ぶっちゃけ、あんな雀の涙ほどの給料で誰がもう一度働きたいと思うよ?

お前だってイヤだろ?」




ペラペラと喋る亮は、まるで今までと別人のようだった。

というか、辞めた理由が給料云々だなんてまるで寝耳に水なのである。

「いきなり‥どうしちゃったんですか?

河村氏、時給のことで抗議したことなんてなかったじゃないですか」




「てか最初にそれを了承して、オッケー出したのは河村氏でしょ?!それに最低時給は軽く超えてますよ?!

しかも今までバイト抜けてピアノ弾きに行ってたのも、配慮してたじゃないですか!」




「私は、うちの店のバイトは悪く無いって思うんですけど!」

「いや配慮もクソも‥」



正当な雪の抗議。

しかし亮はそれを聞いても、面倒くさそうに答えるだけだ。

「はー‥現実が分かんねぇガキだなぁ。

社長がどんだけクソだったとしても、とにかく金払いが良い所はサイコーよ」




「なぁ?」



亮はそう言いながら、雪の目の前に自身の顔を寄せた。

思わずビクッと身構える雪を、舌打ちをしながら見下ろす亮‥。



雪は相変わらず戸惑っていた。

しかし亮はそんな雪の様子に構わず、先ほどから続けるその主張を尚も口にする。

「つーか給料が低いから辞めんのはオレの勝手だろ?どーしてお前がケチつけてくんの?イミフだっつーの」



「つーかお前、仕事続けろって頼みに来た人間の態度にゃ‥」

「私がただバイト続けて欲しいって言いに来ただけだと思います?!」



雪は亮の方を真っ直ぐに見ながら、遂にその本音を口にした。

今までと違うその態度を受けて、思わず亮は黙り込む。



雪は声を上げながら、彼が自身や赤山家から背を向けるその理由を知ろうとした。

「本当に分からないんですか?!」



「どうしてわざとそんな冷たい態度取るんです?!」



そう叫ぶ雪を、亮は半身を残したまま振り返ってじっと見ている。

雪はずっと心に抱えていたその疑問を、不器用なくらい真っ直ぐに彼にぶつけた。

「私ともそうですし、うちの家族ともそうです!

社長と従業員じゃなくて、人と人との立場で話をしてるんじゃないですか!」


「あーったく!ひつけぇなぁ!!」



すると今度は亮が、大きな声で雪の言葉を遮った。

亮は元来の自信過剰な態度を全面に出して、赤山家への答えを口にする。

「おい、オレも自分が人気者だってのは自覚してんだ。

お前ら家族が勝手にオレに入れ込んじまうのは分かるが、オレのせいじゃねーよ。

オレはそれ分かって上手くやってんの。今までもこれからもな」




亮はうざったそうに溜息を吐きながら、わざわざ敬語でこう問うた。

「つーかアンタ、何が不満なんすか?」



「今何て‥」「あーもういーわ」



問い返す雪の言葉にも取り合わず、一方的に別れを告げる亮。

「オレ行くわ。新しい仕事あるし、もうそっちには戻んねーから。

二度とグチグチ言いに来るんじゃねぇぞ。面倒くせぇからよ」




「あーあ今日のレッスンはパーに‥」



そう言って去ろうとした時だった。

冷静なまでのその声が、亮の後方から聞こえて来たのは。

「そんな言い方しか出来ないんですか?」



亮は後ろを向いたまま、そのリンと響く声を聞いた。

「何かあったんでしょう?」



強い眼差しで亮を睨む雪。意図的に隠された真実を、探り当てようとする言葉が続く。

「父さんも、母さんも、蓮も!

皆河村氏が居なくなるの寂しく思ってるのに!」








亮の脳裏に、赤山家の面々の顔が浮かんだ。それでも彼は動かない。

「理由も何も言わないで、新しいバイトも探さずに突然辞めるって店を出て!」



「どうしてバイトだけじゃなくて、縁まで切るような態度取るんですか?!」



雪は家族の思いと共に、胸の中に満ちる感情のままに言葉を続けた。

「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?!」



すると一つの単語が、亮の胸に響いた。亮は無意識に、その言葉を口にする。

「感情?」



雪はそれを肯定しながら、今まで彼と構築したその関係性を改めて言葉にした。

「そうです。喧嘩したわけでも何か問題があったわけでもない。

あんなに上手くいってた関係を、こんな風に断ち切る必要は無いじゃないですか。

父も母も行ってほしくないって本気で思ってるんですよ!」




「どうしてこんなことになっちゃったんですか?」



怒気を含んだその言葉が、だんだんと哀愁を帯びたトーンに変わる。

亮は何も口にしないまま、ただ雪の言葉を聞いている。



「私だって‥」



「蓮と同じく、河村氏のこと家族みたいに思ってたし‥。

河村氏だって‥本当の家族とまではいかないだろうけど、

うちに愛着感じてくれてるんだろうなって思ってましたよ」




雪の言葉の節々から滲み出るのは、寂しさだった。

「そうじゃなかったんですか?」



何も言わずにただ背を向けた彼に対して覚える寂しさ。

まるで伸ばしていた手を振り払われたかのような、圧倒的なそれを。



しかし雪は確信していた。

そう感じているのは、自分だけじゃないということを。

「本当になんとも思ってなかったんですか?」







真実を突きつける雪の言葉を聞いて、亮は思わず振り返った。

演じていた悪役の仮面が、その言葉の前に剥がれていく‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼との対話(2)ー悪役ー>でした。

話し合い続きますね~。

亮の給料云々を主張する悪役キャラは、雪の発した「感情」という言葉の前に崩れそうです。

押し込めていたその気持ちが、どうここから発展するのか‥?!


次回は<彼との対話(3)ー虚偽ー>です。

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彼との対話(1)ー静観ー

2016-01-26 01:00:00 | 雪3年4部(彼との対話~健太との対決)
「はぁ?オレのこと待ってたって?」



叔父のカフェから、ピアノが置いてある倉庫へと移動した雪と亮。

亮は自分のことを待っていたという雪を、訝しげな目付きで見つめる。

「はい。課題しながらですけど」

「んじゃ連絡くらい‥」「電話出ないから‥」「う」



言い返せず、思わず口を噤む亮。

一息吐くと、亮は雪が自分を待っていた理由を早速尋ねた。

「‥で?」



「あ、はい!これ‥」



雪はそう言うと、鞄から一冊の本を取り出し、亮に向かって差し出す。



「えっ?」



思わず目を丸くする亮。身に覚えの無い話だ。

すると雪は、すかさずその本の説明を始めた。

「静香さんに渡して下さい。この前私がコーヒー零して台無しにしちゃった本なんですけど‥」



「佐藤先輩が‥」



佐藤からは「自分の名前は出すな」と言われていたが、雪は正直にそれを伝えた。

佐藤のその細やかな気遣いに触れた亮は、素っ頓狂な声を上げる。

「ほ~お?!」



「おい!マジでか!いやー信じらんねぇ!なんだよクソッ‥!」



亮は雪の手から本を奪うと、大きな声で感情を口に出した。

そんな亮を雪は怪訝な顔で見つめ、そんな雪からの視線で亮は正気に返り、気まずそうに黙り込む‥。

 

「‥‥‥‥」



しんとした静寂が、二人の間に重く漂った。

雪は頭を掻きながら、意味もなく軽く笑う。



気を取り直した雪は恐る恐る、近況について亮に尋ね出した。

「あ‥最近どうですか?ピアノ、頑張ってます?」

「は?お陰さまで熱~心にやっとりますが?」



あ、ハイ‥



他人行儀にそう答える亮との間に、再び沈黙が落ちる。

けれど雪は、諦めはしなかった。



「あのですね‥まだ新しいバイトの人が、入ってないんですよ」

 

黙っている亮に向かって、雪は店についての話を切り出す。

「河村氏が忙しいのも分かってるんですけど‥もしちょっとでも時間が出来るなら‥」



「店の仕事、続けてもらえないですかね‥?」



話を続ける雪の口元を、亮はじっと見つめている。

「あ、勿論ピアノの練習の邪魔にならない範囲でいいですから‥」



「最近父の腰の調子が良くなくて‥店が上手く回らないんです‥」



腰が痛くて店に立てない雪の父、一人で厨房に立つ雪の母、独楽鼠のように動きまわる蓮や雪‥。

亮の脳裏に、苦労を滲ませながら働く赤山家全員の姿が浮かぶーー‥。



しかし亮は次の瞬間、雪に向かって言い放った。

「どうしてオレが?」







素っ気ないその言葉が、だんだんとこの場の空気を変えて行く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼との対話(1)ー静観ー>でした。

「静香に渡す為の本を託す」という名目で亮を待っていた雪が、

「家が困ってるから店を続けて欲しい」という理由で亮を呼び戻そうとする‥という回でした。

が、亮さんからは冷たい返事‥。

彼との対話は、まだまだ続きます。


次回は<彼との対話(2)ー悪役ー>です。

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温かな痕跡

2016-01-24 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)


夕闇迫る大学のキャンパス。

ここ最近は、日が落ちると本当に寒く感じる。

「うう‥」



雪は寒さに震えながら、外の道を駆けていた。

目の前には図書館があるが、そこは通り過ぎるだけだ。

図書館‥は‥PASS



残りは家帰ってからやろ。最近はかどってるから大丈夫そう



そう思いながら、とある場所を通り掛かった時だった。






そこにあるのは、一脚のベンチ。

そこに座っていた時の場面が思い出される。



鼻から喉へと、流れる痕跡。

あの時初めて雪は、彼の気持ちを自覚したーー‥。








雪はベンチを眺めながら、亮のことを思い出していた。

もう長いこと、きちんと会話すらしていない。

そういえば‥河村氏は頑張ってるのかな?



以前この道で音大へ向かう亮の背中を見たことを、ふと思い出した。

ちょうどこのアングルで、カーキ色のジャンパーを着た彼の姿を見かけたことを。

 

今日はまだスケジュール的には余裕がある。

雪は時計にチラと視線を走らせた後、音大の建物へと足を踏み出した。





「今日は来なかったが」



そこで出会ったのは亮のお師匠さん、志村教授であった。

志村教授は最近の亮の様子を雪に教えてくれた。

「何か用事があるのか、最近忙しいらしい。呑気なヤツだ」

「忙しい‥?」「ああ」



そう聞いた雪に志村教授は頷き、代わりに雪に質問を返す。

「君もよく知らないの?」



「はい‥」



雪はそう答えるしかなく、若干気まずそうに首元を掻いた。

すると志村教授は雪の顔をじっと見た後、思い出したように声を上げる。

「あ」



「君が名刺を渡してくれたんだよね。ありがとう。アイツはあれでも頑張ってるよ」



志村教授が亮のことを語る声は、それは優しいものだった。

「キッカケがなければ、あのプライドの高さだ。ピアノを始めさえしなかっただろう。

アレでも練習は頑張っていて、この間は一曲まるまる通して弾いたんだよ」




志村教授の脳裏に浮かぶのは、初めて自身のところに訪ねて来た時の亮の姿だった。

プライドを捨てることが出来ず、それでもピアノへの未練が断ち切れなくて、いつも足掻いて見えたその姿‥。

「ありがとうね」



志村教授はそう言って、はははと笑った。

その温かな言葉と表情に触れて、雪の心は自然と綻ぶ‥。











日が落ちてすっかり暗くなった空に、街灯の明かりがぽっかりと浮かんでいる。

ジャンパーのポケットに両手を突っ込んで歩いているのは、河村亮その人だった。



一歩一歩踏み出す足が重い。

それは寒さのせいで身が縮こまっているからというわけではなさそうだ。



亮の脳裏では、先日自身の元を訪ねて来た元同期の男の言葉が何度もリフレインしている。

「ねぇ亮、お金‥返せそうなの?社長、本気で狙ってるけど‥」



「あの人、前は組のメンバーだったでしょ‥。俺が思うにお金を返しても‥」



「結局はズルズル付きまとわれるだけだと思う‥絶対‥」



路地裏で聞いた男の言葉は、そのみすぼらしい容姿と相まってリアルに響いた。

男は身体を震わせて、自分が置かれている状況を憂う。

「俺だって同じだもん‥」



そう言って涙を浮かべる男に対して、亮は苛立ちを隠し切れなかった。思わず拳を振るう。

「オレだって分かってんだよこの野郎!だから連絡すんなっつったのによぉ!」

「うわああ!」



男を何度殴っても、気が晴れることは無かった。

そして、今自分が直面しているこの現実が変わることも‥。





亮は店の前まで来ると、気を取り直してそのドアを開けた。

「オレっす‥」



そう言ってキャップを取った途端、亮は息を飲んだ。

思いも寄らない人物が目に飛び込んで来たからだ。

「やぁ」



雪はノートPCや教科書を机に広げながら、叔父のカフェで勉強をしていた。

そんな彼女の姿に動揺した亮は、少し後退りながら声を上げる。

「な、なんだよ!」



「河村氏‥」



雪は幾分気まずそうな表情で彼の名を口にした。

亮は未だにこの状況が理解出来ず、ただその場で固まっている‥。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<温かな痕跡>でした。

登場人物それぞれが持つ亮さんへ対する温かな気持ちが、今回の話を繋げている感じがしますね。

だからこそそっけない亮さんがもどかしい‥!


さて次回は<彼との対話(1)ー静観ー>です。


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私の傍には

2016-01-22 01:00:00 | 雪3年4部(賭け~温かな痕跡)
先ほど柳が健太に言った言葉が、脳裏に何度も反響する。

どうして‥最近急に‥なれなれしくしてくるんでしょ~ねぇ‥

わりと仲良かったのに誰かさんも貰えなかったですもんねー




どうしてそれが何度も浮かんで来るのか、その答えは明確だ。

そうだ。健太先輩はおかしかった。今の今までずっと



心の奥で叫ぶ自身の声が、その柳の言葉に全面同意しているからだ。

そもそもあの人は、他人に感情を隠せるほど演技が上手い人間じゃない。

佐藤先輩のノートPCの時だって、ただただ怒鳴ってばかりだった








考えれば考える程、疑心は募って行く。

けれど雪は気づいているのだ。そんな考えは、何の意味も持たないということが。

だけどすべてのことは心証にすぎない。確信なんて、何の役にも立たない。



真実を確認出来ないから、ただ単純に直美さんが犯人だって考えれば済む話なのに、

それがどうにも上手く行かない




雪は皆の後について歩きながら、この重苦しい気持ちを持て余していた。

だって‥



頭の中に、以前健太に言われた言葉が蘇る。

お前はもう変わっちゃったもんだと結構マジで思ってたんだけどなー?



その言葉を受けて、帰りの地下鉄の中でこう思った。

私も確かに変わった



変化した周りの人達との関係性と共に、自分自身も変わったのだと思っていた。

けれど再びこうして頭を悩ませている自身を顧みると、結論は自ずとハッキリする。

私は結局、一つも変わることが出来なかった



超然としては居られないまま、ずっと直美さんを気にして‥。



そして、このとっ散らかった考えをどこかに吐露したいけれどー‥







心の中に、冷たい風が吹き込んでくる。

顔を上げた先には、急ぎ足で次の場所へ向かう皆の背中が見える。



雪は再び俯いた。

気軽に話し掛けられそうな人なんて、一人もいない。

「‥‥‥‥」



皆が良い人達なのは確かだけど、明確な目的にただ集まって来ただけ。

私と心から打ち解けてるわけじゃない。私が集めたんだけどさ‥




こんな時、傍に居てくれたらと思う二人が居た。

伊吹聡美と福井太一‥。

聡美はどうして授業に出てこないのよ‥



太一は‥ 「バイトモード。最近特に頑張ってマス」



全ての人が、自分の傍を通り抜けて行く。

皆それぞれに、どこかを目指して進んでいるのだ‥。



雪の脳裏に、親しい人の後ろ姿が次々と浮かぶ。

先輩‥



彼は自分よりも更に忙しく、複雑な社会で生きている人間だ。

その背中が、振り返らずに去って行く。


河村氏‥



きっと彼ならこう言うだろう。「お前の知ったこっちゃねーだろ」と。

細かいことや居場所に頓着しない彼も、また雪から去って行く。





様々なトラブルを抱えながら、仕事場へと向かう両親。

彼らに悩みなど打ち明けたことなんて無いし、打ち明けようとも思わない‥。





蓮と恵。彼らこそ今から色々な問題に向き会わないといけない。

自分の問題に引きずり込むのは違うし、二人に負担を掛けたくはない。





萌菜へ断りのメールを入れたことも思い出した。

確かに今自分の目の前には、やるべきことが山のように溜まっている‥。




秋風の中を、雪は俯きながら皆の後についてただ歩いていた。

とっくに気づいていたことを、自身に言い聞かせるように心の中で声にして。

皆それぞれに背負っているものがある。

私の抱える問題が、一番重要なわけじゃない




だから今‥



私の傍には誰も‥



気がつけば、一人だった。

それを実感した途端、肚の中に居る臆病の虫が、微かにざわめき始める。



しかしそれを自覚する前に、雪は仲間から声を掛けられた。

何事も無かったかのように、笑顔を浮かべて応える雪。

「どうしたの?行こう」

「あ、うん」






そして雪は歩いて行った。

大勢のざわめきの中で重い荷物を抱えて、たった一人で‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<私の傍には>でした。

「私は変わった」と思っていた雪ちゃんが、結局いつもと同じようにウジウジ悩んでしまう現状に触れて、

「やっぱり変わってない」と思い直すという場面‥。

以前それを見越していたかのように、呟いていた先輩の背中が思い出されますね。



チートラの抱えるテーマって、「人間は所詮独り」というものなんでしょうかねぇ。

そこからどう上手く生きて行くか、みたいなものを雪ちゃんを通して描かれているような気がしますね‥。


次回は<温かな痕跡>です。

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