Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

ずっと一緒に

2014-05-21 01:00:00 | 雪3年3部(グルワ発表~ずっと一緒に)


淳は雪の方を見ながら、ずっとニコニコと笑っていた。

彼女の気持ちが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。

ずっと一緒に、同じ場所で、二人きりで‥。

彼の願いはそれだけだった。





駐車場に着いた時、淳は口を開いた。

心をなぞるように、自分の気持ちを彼女に伝える。

「俺、雪ちゃんがうちの会社に来てくれたらいいなって思う。

俺と、ずっと同じところを見ていて欲しいなって思う」


 

これから先、同じ目線で同じ物を見て、そして時に思いもつかない行動で驚かせて欲しい。

淳の言葉には、そんな願いが込められていた。

ずっと一緒に、同じ場所で、二人きりで‥。





雪は彼を見上げた。

しかし彼の言葉の意味を深く考えることはせず、額面通り受け取り返答する。

「もちろん行けたら嬉しいです!良い会社ですから!」



雪の返事に、淳が「マジで?」とおどけて言った。雪も「マジで!」とおどけて返す。

「とか言って後々私がZ企業を受けることになったとしても、コネで引き抜くとかはナシですよ。

まぁ実際引き抜かれたら入るかもですが‥」
 「はは、そうなんだ」



舌を出しつつそう言う雪に、淳は笑い返した。

二人の間には、優しい空気が漂っている。



先ほどからずっと、二人は手を繋いでいた。

いつの間にか、隣を歩く時はいつも手を繋いでいる。どちらからともなく、自然な流れで。



繋いだ手から、体温が溶け出していく。

雪は心の中がほっこりするのを感じ、自然と笑みがこぼれた。

あ、手あったかい‥。好‥



しかし雪がその続きをなぞるより先に、彼のポケットから携帯電話の呼び出し音が鳴った。

しんとした駐車場にコール音が鳴り響き、やがて彼は電話に出る。

「もしもし? はい‥はい。まだ大学です」



どうやらインターン先の会社からのようだった。会長である父親からかもしれない。

通話中の彼の横顔は険しかった。その表情から、雪は彼の多忙を推し量る‥。



電話を切った淳は、「もう本当に行かなくちゃ」と申し訳なさそうに言った。

雪は”自分のことは気にしないで”という意味で、何度も首を横に振る。



淳は幾分俯き、呟くようにこう言った。

「ただのインターンだったら、辞めればそれで終わりだけど‥」



そう言って言葉を濁す横顔に、とてつもなく大きな物を背負っている彼を知る。

彼が今取り組んでいるのは、単なる就職のお試しインターンではない。

やがてその大企業をまとめて経営していく為の、重要な足掛かりなのだ‥。



それを感じ取った雪が何も言えないでいると、淳はもう一度雪の手を握って微笑んだ。

「それじゃ、もう行くね。送って行けなくてゴメン。気をつけて帰ってな?」



淳はそう言ってギュッと雪の手を握った後、そっと手を離した。

雪はじっと、その手の動きを見ていた。だんだんと離れて行く、彼の温かな手を。



溶け合っていた体温が、徐々に自分一人のものへと戻っていく。

彼の手が、離れて行く。



ふと雪は、言い様のない寂しさに襲われた。

いやそれは寂しさというよりも、恐怖に近い感情だった。



背筋がヒヤッとして、雪は何かに衝かれたように無意識に手を伸ばした。

「!」



突然強く手を掴まれて、驚いた淳は雪の方に振り返った。

彼女は両手で彼の手を握っていた。まるで何かに縋るかのように、必死な様子で。



淳は暫しそのまま雪の様子を見ていたが、

彼女と目が合うと再びニッコリと微笑みを浮かべた。



離れて行く手を掴まれたのは、これで三度目だった。

淳はその行動の裏に彼女の孤独を感じ取り、優しい口調で言葉を掛ける。

「何だよ~ 俺が行っちゃったら嫌?」 「‥当たり前でしょ」




「本当に?」    「本当に‥」




含みある表情で微笑む淳を、雪は幾分気恥ずかしい思いで見つめていた。

こんな風に微笑まれると、そこにある思いを露わにされるようでどうにも体裁が悪い。

雪は少し怒ったような口調で口を開いた。

「電話下さいね!」 「うん。いつも夜してるじゃない」

「そんでもって、話して下さい」 「ん?何を?」



そう問うた淳に、雪はこう言った。

「大変なのは、会社や仕事だけじゃないと思うから‥」



そう雪が口にした台詞に、淳はキョトンとした表情を浮かべた。

目を丸くして、彼女をじっと見つめる。



雪は言葉足らずだったと思い、少し気まずそうに言葉を続けた。

「あ‥会社のことでも、人間関係でも、何でもいいんです。

私も清水香織や健太先輩のこととか、小さなことまで全部話したから‥。恥ずかしくなるほど幼稚でも、全部話したから‥」




雪は俯いたまま、小さい声で彼に伝えた。

ずっと思っていて、でも図々しいかと思って言えなくて、飲み込んでいたその気持ちを。

「先輩も全て話して下さいよ‥。そういうの、全部‥」




電話で弱音を吐く度に、忙しい彼を煩わせているかと思って気が咎めた。

けれど愚痴った後はすっきりしている自分もいて、それがまた申し訳なかった。



まだ一度も耳にしたことのない彼の愚痴や小言を受け止めることで、少しでも彼に報いたい。

大きなものを背負って立つ彼が抱える孤独を、少しでも共有出来ればいい‥。

そんな健気な気持ちが、雪にその言葉を言わせたのだった。





雪の言葉を聞いて、淳は微笑みながら頷いた。

その言葉の真意を理解したわけではなかったが、彼女が自分を思いやってくれるのが嬉しかったのだ。


そして二人はその場で別れた。

二十分間の、慌ただしいデートを終えて。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ずっと一緒に>でした。

一見プロポーズのような先輩の台詞‥!本当に雪ちゃんのこと好きですなぁ。

全然伝わらなかったですが‥(汗)


あと変な柄のベスト、一瞬柄を失くしちゃってます‥。




次回は<彼女との繋がり>です。


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遠くなった記憶

2014-05-20 01:00:00 | 雪3年3部(グルワ発表~ずっと一緒に)
ドドン!



登場したのはおもちゃの銃だ。雪はそれを握りながら、目を閉じてこう語る。

「ストレスとは‥私はストレス過多なんでよく分かるんですが、

その都度解消しなければならないのです‥!」




雪が言うと、何だか凄い説得力である。

二人が前にしているのは、シューティングゲームだった。

”地獄からやって来たアウトローウサギ”‥。それがこのゲームのタイトルだ。



雪は戦闘を前にニヤリと笑ってウサギを見据える。

「まぁ‥普段それを実践するのは大変ですがね‥。

思い立ったが吉日、今日は一緒にストレス解消しましょ!二十分間燃え上がりますよ~~!」




限られた時間内で、彼と自分が抱えたストレスを手っ取り早く解消出来る方法‥。

その条件で雪が思いついたのが、このシューティングゲームだった。

雪と淳は彼の車を走らせて、このゲームセンターまでやって来たのだ。

「これやるの、本当に久しぶりです!」



明るくそう口にする雪を前に、淳は少し意味深な表情だ。

以前自分と一緒にやったじゃないか、という感想か、彼としては静かに彼女と過ごしたかったのに、といった気持ちなのか、

ストレス発散というその発想がそもそも珍しいのか‥。



兎にも角にも、ゲームはスタートした。

二人はウサギに照準を合わせ、バッタバッタと敵を倒していく。



流れるような動作で射撃する彼と、アタフタしつつもそれをサポートする彼女。

以前一度やった時は淳の独壇場だったが、今回は雪も健闘した。

 

いつの間にか二人の周りにギャラリーが集まって来た。

最高スコアでどんどんステージをクリアして行く二人を、皆が応援する。



敵をガンガンやつけて行くのは爽快だった。

二人は顔を見合わせ笑い合う。

 

以前このゲームをしたのはほんの数カ月前だが、遠い昔のような気がした。

彼だけが叩き出したハイスコア、ぎこちなく交わしたハイタッチ。その記憶は、もう随分遠くなった‥。





「うわっ!」



ゲームの得点画面には、Congratulation!と新記録を祝う文字が踊っていた。

雪はピョンピョンと飛び跳ねながら、二位と圧倒的な差をつけてのハイスコアを喜んだ。

淳も笑顔で彼女と喜びを分かち合う。



そしてその記録を持って、雪はカウンターに向かった。そして何かを交渉し始める。

彼女が何をしているのか分からない淳は、その背中を眺めながら不思議そうな表情だ。

 

やがて交渉が終わった雪は、嬉しそうな顔をして淳の元に戻って来た。

「先輩!」



そして彼女は、淳の前に手を差し出した。二つの小さな物体が揺れる。

「これ!」



差し出されたそれは、何と形容して良いか迷うような、(おそらく)犬のマスコット人形だった。

どこか自分に似たその人形を前に、淳は目を丸くする。



それは図らずもライオン人形を初めて目にした雪と同じ表情だった。

目を丸くして、キョトンとして。



ようやくお返し、とばかりに雪はニヤリと笑う。

「駄々こねて貰って来ちゃいました!おひとつどーぞ!」



カワイイでしょ?と言って雪は人形を差し出した。微妙な表情で彼がそれを受け取る。

雪はちょっと照れながら、そして少し申し訳無さそうに首元に手を当てた。

「先輩がくれた人形、失くしちゃったから‥。せめてこれを‥」







雪がライオン人形を失くした時、淳は「もっと良いものを買ってあげる」と言った。

けれどそんな淳に、彼女は言ったのだった。

「そういうのって、金額が問題じゃないでしょう?」







少しはにかんだように微笑む彼女を前にして、淳はようやく雪があの人形にこだわっていた理由が分かった気がした。

今まで手にしてきたどんな高級品よりも、大事だと思えるその何か。

同じ物を共有するという、その温かさー‥。


そして二人は肩を並べて歩いた。冗談を口にし、肘をつつき合いながら。

「スコアは俺が全部出したけどね?」

「一緒に出したじゃないですか!ったく‥」



彼女が隣に居ることが、いつの間にか当たり前になっていた。

嬉しい気持ちが溢れ出して、淳は自然と笑顔になる。



二人は歩調を合わせながら、肩を並べて共に歩いた。

ずっと一緒に、同じ場所で、二人きりで‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<遠くなった記憶>でした。

ウサギのシューティングゲーム、淳に似た人形のプレゼント‥。

まるで昔の二人をなぞるかのようなエピソードが並びます。

「あのぎこちなかった二人が、今はこんなに距離が縮まったんだよ」ということを意味する描写ですかね。
(根本的なところの距離、という話は置いておいて)

笑い合う二人が微笑ましいです^^


次回は<ずっと一緒に>です。

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色付いた木の前で

2014-05-19 01:00:00 | 雪3年3部(グルワ発表~ずっと一緒に)
雪と聡美は顔を見合わせた。

二人はたった今、教授室から出てきたところだ。



結局、清水香織は教授室に現れなかった。おそらく彼女はこの授業の単位を落としたことだろう。

聡美が「あの子、あんたに勝つってあんなに燃えてたのにね」と言ってククッと笑う。



二人はもう一度顔を見合わせて、今度は大きな声で笑い合った。

ヤッタヤッタとはしゃぎながら、ハイタッチをして喜び合う。



度々清水香織にイライラさせられてきた二人にとって、今回の結末は胸のすく思いがした。

色々と深く考えると微妙な気持ちになるものの、とりあえず今はただスッキリとした気分で笑い合っていたい。

「あんた先輩と久しぶりに会うんでしょ?グルワも終わったことだし、

ちょっとデートでもしてくれば」




聡美はそう言って上機嫌で雪と腕を組んだ。聡美はこれから父親のお見舞いに行くらしい。

夏休みに脳出血で倒れ、一時はどうなることかと思った聡美の父も、今は治療も上手くいき順調に回復しているそうだ。

もう少しで退院出来るらしく、聡美の表情も明るかった。



久しぶりに見た互いの笑顔が、なんだか嬉しかった。

そして二人は腕を組みながら、仲良く昼下がりの廊下を歩いて行った。






風が冷たくなったな、と呟く雪の髪の毛を、秋の風がたなびかせていく。

課題にアルバイトにと必死で日々を生きている間に、季節は移ろいすっかり秋の最中だった。



傾斜の低い秋の陽射しが、色付いた木々に降り注いでいる。

雪はぼんやりとその風景を眺めながら、自身の心の中の海が、すっかり凪いだのを感じていた。



雪は携帯を取り出し、メールを一通打った。

先輩 どこに居ますか?と一文だけ。



すぐに返信が来た。

XX館近くの木の前にと、やはり一文だけ。







秋の陽射しは明るかった。

それは彼と付き合い始めた夏のそれのように眩しくは無いけれど、どこか柔らかくほっとする光だ。



雪は先輩が待っているという建物の前まで、息を切らせて走って行った。

そして遠目から彼を見つけた。大きな木の下で、携帯に視線を落とす長身の彼。



色付いた木々の前に佇む彼の、サラサラとした髪を秋の風が撫でていく。

美しく秋に染まった背景に、彼の端正な横顔が浮かび上がっていた。



大学の構内に居る彼を見るのは、何だか久しぶりのような気がした。

軽く息を吐きながら、雪は淳の前に姿を現す。



携帯から顔を上げ、淳が彼女に気がついた。

彼はニッコリと微笑んで手を上げる。目尻の下がった、あの懐かしい笑顔で。

「ここだよ」



淳は雪に、

「一週間ぶりだね」と声を掛ける。



付き合い始めてから、一週間も会わないのは初めてだった。

雪はなんだか少し緊張し、「お久しぶり‥」と何故か挨拶を口にした。



ちょっとオーバーだったかなと、頭を掻きながらぎくしゃくする雪を見て、

淳は可笑しくて目を細めて、笑った。

「はは」



電話で何度もその笑い声は耳にしていたが、実際目にすると心がぎゅっとなった。

彼は電話先で自分と話をしながら、こんな顔をして笑っていたんだ‥。



雪は心の従うままに、彼に向かって手を伸ばした。

ガチガチに着込んでいた鎧を脱ぎ捨てて、裸のままで彼の胸へと。

「もう‥顔忘れちゃうかと思った‥」



甘えるようにそう口にする彼女に、淳は「俺の顔忘れる人、見たこと無いけど?」と笑顔で返した。

膨れる彼女に笑いかけ、冗談だよと口にする。



彼は背を屈めると、ぎゅっと雪のことを包み込むように抱き締めた。

俺に会いたかったんだね、と口にして、愛おしそうに抱き締めた。


二人はその姿勢のまま、暫し囁くように会話を交わした。

元気だった?とか、会いたかった、とか、きっと内容は何気ないものだっただろうけど。



そしてそんな二人に、灼けつくような視線を送る人物が居た。

草の影から彼等を睨みつけるのは、不服そうな顔をした横山翔だ。



しかし雪はその視線には気づかず、埋もれていた彼の胸から顔を上げ、そのまま彼を見上げた。

「‥‥‥‥」



少し気がかりなことがあったのだ。雪は申し訳なさそうな口ぶりで、彼に小さく謝った。

「あの‥ごめんなさい」 「ん?何が?」



目を丸くする淳に、雪は謝った。

自分のせいで先輩の班の発表が、メチャクチャになってしまったと。

 

それを聞いた淳はニッコリと笑って、優しく雪の頭を撫でた。

「皆一生懸命やってるのに、一人だけ近道しちゃ駄目だろう」と言って。


「それに、」



淳は雪を抱き締める力を強め、彼女の顔を自分の胸に埋めるようにして抱え込んだ。

そして先ほどから嫌な視線を送ってくる横山を見据えると、彼の方を見てキッパリと言い切った。

「自分も同格になれるなんて勘違い、愚の骨頂だと思うね」



横山が手に入れられなかった赤山雪を抱きながら、淳はその台詞を言い切った。

清水香織のことを言っているようでありながら、実質横山翔に向けたその台詞を。

「え?」



その言葉の意味を汲み取れなかった雪は聞き返したが、淳は笑顔で首を傾げるだけだった。

雪からは見えない角度に居る横山が、くさくさしながらその場を後にする。



誰かが去って行く気配はしたものの、今がどういう状況なのか雪は掴めずに居た。

頭に疑問符を浮かべる雪の前で、先輩が大あくびをする。



「あ~疲れた‥」と言って、彼はそのまま雪に凭れ掛かってきた。

どんどん力の抜けていく彼を支えながら、雪は「ちょっと待ってと慌てふためく‥。






二人はその後ベンチに移動し、缶ジュースを片手に暫し休憩した。

「会社はどうですか?」

「まぁ疲れるよね。ルーチンワークだし」

「来年私も就職かって考えると‥うぅ‥」

「とか言って実際上手くやるくせに」 「そうですかねぇ?」



仲良く肩を並べる二人は、カップルであると同時に同じ学科の先輩後輩だ。

淳は彼女の優秀さを認めて、先輩としてアドバイスをする。

「躊躇うのは、やってみたことがないからだよ。ほら、今日だって上手くやったじゃないか」



きっと全部上手くいくよと、彼は度々そんな意見を口にするが、それは自分の正しさを信じている彼故の自信だ。

いつも霧の中を手探りで進むような日々を送っている雪には、その言葉はどこか自分の心とは噛み合わない。

「‥‥‥‥」



雪が黙りこんでいると、彼はゆっくりと彼女の方へ身を寄せて来た。秋の風はさわさわと、二人を包んで駆け抜けていく。

すると不意に、雪が大きな声で提案を始めた。

「お昼食べに行きましょっか!私奢りますよ!」



心地良い疲れに身を委ねていた淳は、雪の声にビクッと幾分驚いた。

久しぶりに彼に会えたことが嬉しい雪は、ハイテンションで何を食べに行くかの会話を続ける。

デート!デート!



疲れているならスタミナのある物を食べに行こう、その後一緒にあそこに行こう‥。

雪は心を踊らせながら彼に向かって色々提案した。しかし彼は、申し訳無さそうに声を落とす。

「ごめん、すぐに戻らなきゃいけないんだ」



実は彼は、今日もインターンに行っており、先ほどのグループワークの発表だけ特別に抜けさせてもらって大学に来たらしい。

あと二十分程しか居られない、と続けて言われ、雪はキョトンとした表情で彼を見た。

「あ‥」



弾んだ心がしぼんでいく。彼はもうすぐ行ってしまう‥。


しかし、雪は諦めなかった。

限られた時間の中で、精一杯彼と一緒に楽しみたいと。


雪は彼の手を引っ張って、足早に大学を後にした。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<色付いた木の前で>でした。

先輩の持っていたファイルが消える件(笑)

前も持っていたビタミンウォーター消しましたし、先輩はきっと魔法使いなんでしょうね!(作者様には寛容に)


次回は<遠くなった記憶>です。


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笑う群衆

2014-05-18 01:00:00 | 雪3年3部(グルワ発表~ずっと一緒に)
「あ‥」



香織は力なく淳の服から手を離すと、その冷淡な眼差しの前で絶句した。

足元が何かに捕らえられているかのように動かない。まるで罠に嵌った動物のように。

てか、マジでコピペかよ



不意に聞こえてきた声に、ビクッと香織は身を強張らせた。そろりと教室内を窺うと、学生達がヒソヒソと話をしている。

バカじゃねーの てか清水、何でまた赤山のを‥

私も時々あのサイトで買うことあるけどさぁ、文章完全パクるなんてありえないって



彼等は顔を顰めながら、思い思いのことを口にしていた。

ヒソヒソと話す言葉が、バカにしたように嗤う声が、まとまり集まってノイズとなる。

そしていつしか、香織の目には彼等がこう見えていた。



顔のない群衆が、皆こちらを向いて笑っている。

香織は身を震わせながら、必死に弁解の言葉を口に出そうとした。

「ち、違うの‥私は‥」



暗い空間の中に、不気味な笑い声が反響する。

そして笑う群衆の中から、彼女の姿が浮かび上がって来た。



彼女はゆっくりと香織の方へと向かってくる。

身の竦んだ香織はその場から動けぬまま、群衆を引き連れて近付いて来る赤山雪を前にした。



雪は香織の全てを見透かすように、彼女のことを真っ直ぐに見据えていた。

切れ長の大きい瞳は鏡のようで、雪の前でたじろぐ自分が映って見える。



自身にかけた魔法が、だんだんと解けていく。

素敵なドレスを着ていた自分は再び貧しい衣服に身を包み、冴えない現実に戻されるのだ。


そして赤山雪はそんな香織を目にしながら目の前で、嗤った。








「いやぁぁぁーっ!」



頭を押さえて絶叫する清水香織を前にして、雪を始めとする学生全員が驚いた。

一体何事かと、皆一様に香織の方を見る。

「わ‥私が何で‥何でアイツを真似して‥私が何で‥」



香織は震えながら、ブツブツと独り言を口にし俯いていた。

学生達は一体何が起こったのかさっぱり分からず、眉を寄せて香織の方をじっと窺う。



香織が目にした彼等は、先ほどの暗闇の中で笑っていたあの群衆では無かった。

見慣れた同期や後輩、先輩達からの視線に我に返った香織は、そのまま走って教室を後にする。



雪は呆気にとられながら、バタバタと駆けて行く香織の後ろ姿を見ていた。

隣で聡美が、「メンヘラ女、メンタル崩壊ね」と吐き捨てるように口にする。



依然として教室は騒然としていたが、当事者である香織が居なくなったことで徐々に普段の空気に戻って行った。

お‥終わったのか‥?これで‥?



清水香織が引き起こしたレポートパクリ事件‥。一応その問題には決着がついたものの、何とも後味の悪い終わり方だった。

曰く言い難い感情を抱えながら雪が立ち尽くしていると、不意に彼と目が合った。



淳は先ほどの事件など無かったかのように、スッキリとした顔をしていた。

そして雪が自分を見ていることに気がつくと、彼女の方を見て穏やかに、笑った。



彼はおそらく心の中で、「スッキリしたでしょ?」と彼女に向けて言っているはずだ。

雪が抱えるこの後味の悪さなど、きっと露ほども知らぬまま。



そして雪には、彼が微笑んだ意味が分からなかった。

何か不穏なものを感じながらその場で立ち尽くしていると、同期達が雪の方へと駆け寄って来た。

「超ざまぁ!よくやった雪!」 「スカッとしたよぉ!」



彼女達は興奮しながら、雪に労いと賞賛を浴びせた。

「あたしなんてレポート徹夜したのに!

他人のを丸々出して単位貰おうなんて虫が良すぎだって!」
 

「あの子、一度痛い目見ないとって思ってたんだぁ。

けど最後までパクリ認めないなんてありえなくない?」




彼女らの勢いに圧倒され何も言えない雪の周りで、彼女達は口々に香織を悪く言って笑った。

するとそんな彼女達の言葉を聞いていた直美が、「やめなよ」と声を上げる。

「皆言い過ぎだよ!それに雪ちゃん、あなたこそありえないよ。

わざわざ皆が見てる発表の最中に、話さなきゃいけないことだったの?」




話すなら授業が終わってから個人的に話せば良いことだと、直美は雪に意見した。

皆の前で晒し者にするように香織を問い詰めるなんて、同じ学科の同期同士でひどいじゃないか、と。



聡美が反論しようとし、雪が気まずい気持ちで頭を掻く。

直美の言うことにも一理あるが、雪だって最初からそうしようと思って今の状況になったのではない。

全ては成り行きなのだ。

「さっきの健太先輩のことにしてもそうよ」



雪が黙っていると、直美は続いて健太先輩の除名のことについてまで話を広げ始めた。

「普通ああいう場合、柔らかくスルーして済ませるでしょう?

敢えて除名までして戦う必要あったの?」


「そりゃお前も無賃乗車したんだからそこはスルーよなぁ?」



ククク、と笑いながら柳が去り際に言った。

直美は赤面しながら黙りこみ、それきり雪への意見を飲み込む。



そして彼等は口々に、各々が思うところを口にし始めた。

清水のしでかしたことには賛成しかねるけど、衆人環視の中でフルボッコはなぁ‥

ちょ、レポートパクったのもアリだって?

パクったのは勿論ナシだけど、皆が見てる前で晒すのはちょっとさぁ‥



様々な意見が飛び交っていた。

雪はザワザワと騒がしい教室の中に立ち尽くしたまま、今の状況と自分の気持ちを省みる。

皆が見ている前で、ひどいことをしたということは分かってる。



脳裏に、頭を抱えて絶叫した香織の姿がこびりついている。

自分が決して褒められた存在ではないということを、雪は自覚していた。

そして自身が販売した課題を購入した人に対して、何も言う資格は無いということも。

立ち上がって話したことで、こんな風に騒がしくなることも予想していた。





けれど‥




雪はただ闇雲に、こんな騒ぎを起こした訳ではなかった。

それは清水香織に於いても言えることだし、柳瀬健太に於いても言えることだった。

雪は強い決意を持って、大波の押し寄せる高い塀を自ら開門したのだ。


清水香織に対しても柳瀬健太に対しても、これ以上は耐えられなかった。

他の人々が私の事を何と評価しようが、どのような目で眺めようが。

あの瞬間、全てが吹っ飛んだ。他人の視線なんてどうでも良かった。




立ち尽くしたまま、ぎゅっと強く拳を握った。

私から、離れてくれさえすれば‥。

そのくらい私は、彼等のことが嫌いなのだ。




どうしても譲れないものが、握り締めた手のひらの中にあった。

それを守るために雪は、いつもは何よりも気にする他人の目や評価を捨てた‥。


私は雪ちゃんの行動理解出来るけどな 

清水香織って最近雪ちゃんの真似してたじゃん。結局課題までとはね~

そんで、それがウザかったから袋叩きってこと? え?誰がどうしたって?



雪に賛成する意見、反対する意見、様々な意見が口々に囁かれた。

そして更なる議論がなされようとした瞬間、鶴の一声が発せられた。

「止めよう」



よく通る凛とした声が、皆を一瞬で黙らせた。

全員の視線が集まる中、彼は真っ直ぐに皆を見据えて口を開く。

「どんな場合でも、他人の物をそのまま出した方が間違ってると思うけど。

違う?」




有無を言わせぬ威厳と、口にされたその正当性。

青田淳に意見しようとする学生など一人も居なかった。彼等は口々に言葉を濁し、皆散り散りに教室を後にする。



時刻はもうすでに次の授業の開始時刻に迫っていた。

「雪!あたしらも教授室行こ!」「あ、うん」



ガヤガヤとした流れに乗るように、雪は聡美と連れ立って教室を後にする。

教授室に向かう聡美は、どうやって香織を痛めつけてやろうかとワクワクしていた。



雪は先輩の姿を探した。キョロキョロと先ほど彼が居た辺りを見回す。

しかし思わぬところから、雪は肩を叩かれた。



振り返ると、いつの間にか彼がそこに居た。思わず雪はビックリだ。

「後で連絡して?」 「はっ、はい!」



いつも彼は気がついたら現れ、気がついたら消えている。

去って行く雪を見送る彼は、じっと彼女を見つめて微笑んでいた。



雪は心の中に何か気になる刺が刺さっていたのだが、教授室へ行くほうが先決でそれについて考える暇が無かった。

目には見えない大きな海流に押し流されるように、雪は学生の間を泳いで教授室へと向かって行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<笑う群衆>でした。

最後の淳の満足そうな顔ときたら!

ミッションコンプリート、といったところでしょうか。


そして香織の妄想‥やばいですね^^;

空想と現実の区別がつかず、どんどん変な子に‥。

雪もまさか自分が彼女の妄想の中でブラックに笑っているとは思っていないでしょうね‥。



次回は<色付いた木の前で>です。

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美しき策略

2014-05-17 01:00:00 | 雪3年3部(グルワ発表~ずっと一緒に)
青田淳は、笑顔の仮面を剥ぎ取ったまま清水香織と相対していた。

彼の瞳の中には深い闇が広がっていて、それはまるで暗く冷たい深海のようであった。



一度嵌まり込んだら抜け出すことが出来ぬような‥。まさに袋のネズミだ。

香織はその視線に捕まったまま、身動きが出来なかった。






一方淳は、ここに至るまでの経緯を思い出していた。

罠を仕掛けるに思い至った始まりは、香織から送られてきた資料を目にした時だった。

数週間前の、あの夜の記憶が蘇る。



添付されてきた資料を見る限り、それは一見良く出来ているように思えた。

最初は確かに淳も上等だと思ったし、実際その出来を評価して香織に返信も送った。



しかし、である。

数多く添付された資料を一つ一つ見ていく内に、その本質が見えてきた。

カチカチとマウスをクリックする度に、自分の中のその考えが確実になって行く。



そして全部読み終えた頃には、結論が出ていた。

淳は「ふぅん」と口にして納得すると、一人その結論を呟く。

「やっぱりね‥。一生懸命寄せ集めたな‥」



そういうことであった。

香織のレポートは一見上等な見かけをしていたが、

それは全てどこか他の所からコピーされペーストを重ねた、寄せ集めのそれだった。

そしてそこに香織自身の意見が何一つとして入っていないことを、淳は見抜いたのだ。


そしてそういった香織の性質に関する証拠を、その後淳は続々と手にすることになる。




雪本人から、清水香織が雪の格好を真似するということを聞かされた。

携帯電話に、自分が雪にあげたはずのライオン人形が付いているのを目にした。



憧れを超えて、まるで本人を飲み込んでしまうかのような香織の執着。

常軌を逸した視線を雪の背中に送る香織の顔が、淳の脳裏にこびりついていた。





そして数日後の夜、淳はPCを広げながら、見抜いた香織の性質をどう料理しようか考えていた。

本人に取って代わろうとするほどの執着を持つ香織だが、彼女にその器があるとはどうしても思えない。



寄せ集めのレポートなど、デリートキーを一度押せば消える。そして彼女にそれを書き直す力量など、全くない事は分かっていた。

淳は香織の調査しているレポートの、キーワードを幾つか入れて検索する。

”Q社 女性CEO C インタビュー” と打ち込む。



検索結果の中で、優れたものを見つけて彼女に教えるつもりだった。

情報の寄せ集めしか出来ない彼女は、おそらくそれも丸々コピーするだろう。

淳の手がマウスをクリックし、彼女に仕掛ける罠を着実に手に入れて行く。



香織と自分は同じグループだが、どうせ最終的には個人点数の授業だ。

そして万が一、香織の完コピがバレた時の為に、責任を取らされるグループリーダーは佐藤になるように仕向けておいた。



一つ一つ確実に、彼女を破滅へと導く算段が彼の頭の中にあった。

しかしどこかそれは不完全で、身の程知らずな彼女をやり込める策略としては美しくなかった。

どうするか‥



そう考えた時、とある記憶が淳の頭の中に思い浮かんだ。

それは去年受講した、何てことのない授業風景の一コマだったー‥。




「過去とは異なり、女性の社会進出が増加するにつれて、女性のリーダーシップに関する研究も活発に行われています」



去年の秋、青田淳はとある授業を受けていた。

目の前でプレゼンをしているのは、淳が嫌う後輩の一人、赤山雪だった。



赤山は流暢にプレゼンを進めていた。

「したがって私は、今回の発表主題にQ社の女性CEOを‥」



きちんと構成が組まれたレポート、熱心に調べたであろう沢山の資料、そしてそれを元に考察された実のある内容‥。

赤山雪のプレゼンは、文句の付けようがなかった。

 

一番前の席に座り、彼女のプレゼンをじっと見ていた淳であったが、不意に彼女と目が合った。

赤山は一瞬その動きを止めたが、次の瞬間目を逸らして再びプレゼンを進行する。



眉を寄せて自分から目を逸らした彼女を見て、淳はいけ好かない思いがした。

俺が何をしたっていうんだと、小さく呟きながら彼女を睨み返す。



赤山は淳にとって、前々からどこか引っかかる存在だ。

彼女はもう自分の方を見ようともしない。淳はくさくさしながらその背中を眺めていた。



プレゼンは順調に進行した。

その内容もさることながら、資料は背景も自作しフォントも凝っていて、いつの間にか淳は再び見入っていた。



彼女が優秀であることは、どうやら事実のようだった。

淳は彼女の整った横顔に目を留めながら、胸に抱えている悪感情を差し置いても認めざるを得ないその実力に思い至る。



なかなかやるね‥





あの日彼女のプレゼンを目にして、そう思ったことを淳は思い出していた。

そして今回清水香織は、偶然にもあの日の彼女と同じ議題を調査している‥。



清水香織が憧れてやまない赤山雪のレポートをコピーさせ、終わらせる。身の程知らずの彼女に、格の違いを見せつけて。

淳の頭の中に、そんな美しき策略が思い浮かんだ。



そして脳裏を過る記憶が、もう一つ。



「せ、先輩!授業行かれるんですか?昨日私が送った資料、見て頂けましたか?!」



先日淳が中庭を歩いていると、清水香織に声を掛けられた。淳が当たり障りの無い返事をしていると、

香織の隣に座っていた横山翔が、聞えよがしに声を上げる。

「先輩と同じ授業かぁ~。いいよなぁ?落とす心配ナシだもんなぁ。

先輩の言うことを良く聞いて従うだけで、点数がついてくるようなもんだもんな?」




横山が口にする辛口の言葉に、香織はその裏を読まず「いいでしょう」と返して微笑んだ。

淳もそこに乗っかりながら、「過大評価だよ」と謙遜して見せる。



それじゃ俺はこのへんで、と言って淳が三人に別れを告げて歩き出すと、

横山は身を屈め、香織の肩を組みながら彼女に耳打ちした。

「おいお前、先輩とお近づきになれるチャンスじゃんか!

先輩にちょいちょい話しかけたりしてさぁ!親しみアピール!な?!」




横山から乗せられた香織は、戸惑いながらも頷いた。

チラ、と淳の方を窺う。



淳は香織の方を見ていた。先ほどの横山とのやり取りが聞こえていたのである。

淳は香織と目を合わせると、目を細めて微笑んだ。



聞こえていたことに気づいた香織が、ビクッと身を強張らせた。

そして誤魔化すように、頭を掻きながらヘヘヘと笑う‥。




彼女は下心を持って自分に近付いて来る。それは自分の言うことを何でも聞くと、そう確約されたようなものだった。

後は、破滅へと続く道にチーズを置いておくだけだ。するとネズミは自らそこを辿って罠に嵌って行く‥。





罠に陥り動けなくなったネズミを観察するような眼差しで、今淳は香織を見下ろしていた。

身の程知らずのコピーキャットには、似合いの格好だった。



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<美しき策略>でした。

久々に淳視点の記事となりましたが、なんだか‥改めてこの人コワイと思いました^^;

文字にすると一層その恐ろしさが際立つというか‥。

いや~怖かったです。


そして去年の雪がプレゼンしている時の台詞↓

「過去とは異なり、女性の社会進出が増加するにつれて、
女性のリーダーシップに関する研究も活発に行われています」



これ、香織のプレゼンの時と台詞同じなんですよね。

「現代社会においては女性の社会進出も増え、
それに応じて女性のリーダーシップも浮かび上がって来ています」




雪の書いたレポートを見ながら喋っているのが如実に見て取れます。

こういう細かい所まで作りこんでありますね~~やっぱり凄いですチートラ。


次回は<笑う群衆>です。

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