Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

<雪・幼少時>懺悔

2015-06-24 01:00:00 | 雪・幼少時


祖母は、帰らぬ人となった。

遺族は皆黒い衣服に身を包み、祖母の墓前で涙を流す。



雪はぽかんと口を開けたまま、じっと祖母の墓を見つめていた。

大好きだったおばあちゃんが亡くなったということを、幼い雪はまだ実感出来ていないのだ。

「ううっ‥お母さん‥」



雪の隣で泣いていた親戚のおばさんが、不意に雪の手を取った。

「雪、こっちへいらっしゃい」



おばさんは雪と蓮を両脇に抱えると、涙を流しながら墓前で母へと話し掛ける。

「母さん、雪と蓮のこと大好きだったでしょう?

逝く前に沢山見ていって下さいな‥うっ‥かわいそうな母さん‥」




おばさんは子供らの肩を抱く力をぐっと込めながら、二人に向かってこう言った。

「お前達も挨拶しなさい。静かにお眠り下さいって‥」



肩に回されたおばさんの腕は温かかった。健康な人間の体だ。

けれどあの日雪が触れた祖母の手は、まるで死んでいるかのように冷たかったのだ。







手を放した、そこにあったのは単純な恐怖だった。

死を恐れる感覚。何を考えるより先に、身体がそれを拒否していた。



身を捩りながら叫んだ雪が最後に見たのは、弱々しく呻く祖母の横顔だった。



変わり果てた姿になった祖母。

それでもおばあちゃんはあの時、まだ生きていたのに。



雪の目から、止めどなく涙が流れた。

おばあちゃんは死んでしまったのだ。

もう二度と、あの手を繋ぐことは出来ない‥。







その日、雪は一人で街を歩いていた。

目の前に、おばあちゃんと手を繋いで歩く少女の姿がある。



チクリと胸が痛み、雪はその少女から目を逸らした。

ほんの数ヶ月前まで、自分もおばあちゃんとああやって手を繋いで歩いていたのだ。



ふと、いつか耳にした誰かの言葉が甦った。

おばあちゃん、雪にすごく良くしてやってただろう?



誰の声かは分からない。分からないが、それは真実を話す声だった。

そうだったか? すごく好いてたじゃないか。

あの子がおばあちゃんおばあちゃんって付いて行くから、あの偏屈だったばあさんもだんだん丸くなっていって‥




握った手に力を込めると、自分を見て笑ってくれた。

蓮に内緒でお菓子を貰った時なんて、この世のすべてを手に入れたような気になった。

最初は蓮しか見てなかったあのばあさんがねぇ‥



なのに‥。



ふっくらしていたおばあちゃんの頬はこけ、身体は骨と皮だけになってしまっていた。

あの時、最後の力を振り絞って、手を伸ばしてくれたのかもしれないのに‥。

 

頭の中で声がする。

真実を話す声が。

雪、おばあちゃんは亡くなったのよ



あぁ‥可哀想な母さん‥





あれが、最期だったのに。





頭の上から徐々に徐々に、重たく冷たいものがのしかかってくる。

雪は涙を浮かべながら、亡き祖母に向けての懺悔を口にした。

あれが最期だったのに‥あの時手を振り払わなければ‥

「ご‥ごめんなさい‥ごめんなさ‥」




すると突然、声が聞こえた。

それは祖母の声だった。

厳しく雪を叱る、昔よく聞いたあの文句ー‥。



泣くんじゃない!悪い子め!何を偉そうに泣いてるんだい!




ビクッ、と雪は身を竦めた。

”悪い子”という言葉が、上から重くのしかかる。








”悪い子”は泣いてはいけない。

”悪い子”は、その罪を背負いながら、涙を飲み込んでしまわなければー‥。




雪は涙を拭うと、そのまま一人で歩いて行った。

もう手を繋いでくれるおばあちゃんはどこにもいない‥。





そして雪は泣けなくなった。


ただ、涙が込み上げるたびに、頭の中で祖母の声がするだけだ‥。


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<雪・幼少時>懺悔 でした。

雪の抱えた心の傷の原因となった出来事が、ついに明らかになりましたね。

やたら病院を怖がるのも(聡美のお父さんが病院に運ばれた時も)、

離れて行く手を咄嗟に掴むのも(先輩の手を何度も掴んでますね)、そして涙を流せないのも、

すべてがこのおばあちゃんの手を振り払ってしまったところから来ているようです。

相手が亡くなってしまっているからこそ、その罪を赦してもらうことが出来ず、

今でも背負ってしまっているんですよね。(それが罪なんて、きっとおばあちゃんは思ってないだろうけど)

小さい雪ちゃんにはあまりにも重く、辛い出来事です‥。


次回から現在に戻ります。<握った手>です。


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<雪・幼少時>冷たい手

2015-06-22 01:00:00 | 雪・幼少時


季節は流れ、再び祖母は伯父の家へと出掛けて行った。

そしていつもなら雪の家に戻ってくる時期になっても、祖母は帰って来なかった。

「おばあちゃん家に来ないの?どうして最近来ないの?」

「おばあちゃんはご病気だから、ずっと伯父ちゃんの家に居るのよ」



母に尋ねても父に尋ねても、答えは同じだった。

雪は口をへの字にして、しゅんと下を向く。



祖母といつ会えると誰も教えてくれないまま、再び日々は流れて行った。



「お義母さんが倒れたって‥!」「何だって?!もう一回電話してみろ!」



「車のキーはどこだ?!」



それは突然の出来事だった。

伯父から祖母が倒れたという知らせを受けた赤山家は、バタバタと支度をして病院へ向かう。




病院の廊下で、大人達は祖母の容態について話し合っていた。誰もが皆余裕の無い表情をしている。

心臓発作が‥前から入院させとけば‥でも本人が拒んで‥と子供には理解しがたい言葉が切れ切れに聞こえる。



雪はそんな大人達の姿を、蓮と並んで座りながらただ黙って見ていた。

何の説明も受けていない雪は、普段と違うその雰囲気をただ不思議に思うのみだ。





「ちょっと一服しに行くわ」「雪、ここで蓮と一緒に座ってなさい。何か食べるもの買ってくるわ」



大人達はそう言って、皆その場から席を外した。

雪は大人しく言いつけを守り、蓮と一緒に長椅子に座って待っている。



するとそこに、親戚のお姉さんがやって来た。

「雪」



お姉さんは雪に向かって、優しくこう提案する。

「おばあちゃんに会いに行こっか」



「うん!」



お姉さんは雪を抱え上げると、駆け足で病室へと向かった。

すれ違った看護師が、子連れの彼女を見て注意する。

「あら!子供は入室禁止ですよ!」



しかしお姉さんは止まらなかった。

彼女は雪を抱っこしたまま、祖母の居る病室に入室する。



その部屋は、何の音もしなかった。

幼い雪は初めて見るその光景に、なんとも言えない空気を感じ、目を見開く。



雪はお姉さんの首に回した手に、ぎゅっと力を入れた。

彼女は静かに寝台の波間を歩きながら、祖母のそれを見つけて雪に知らせる。

「あそこよ」



「おばあちゃん、雪が来ましたよ」



お姉さんは立ち止まり、寝台に寝ている祖母に声を掛けた。

雪はキャッとはしゃぎながら、おばあちゃんの方に身を乗り出す。

「雪のこと可愛がってたでしょう?」



雪は嬉しかった。

長い間会えていなかった、大好きなおばあちゃんにようやく会えるのだからー‥。



寝台を覗き込んだ雪の目に飛び込んで来たのは、

まるで同じ人とは思えない程やつれた、祖母の姿だった。



もう喋ることも出来ないのか、祖母は呻きともつかない低い声を出し、

震えながらその手を上げる。



骨ばって皺の寄ったその手が、

ゆっくりと雪の方へ近づいて来た。



それを見たお姉さんは、雪に向かってこう言った。

「おばあちゃん、雪の手を握りたいみたいね」



お姉さんは、青ざめた雪の手を取ると、祖母の手の方へと伸ばした。



雪はただ促されるまま、祖母と手を握らさせる。



骨ばった冷たく固い手が、雪の小さな手の上にのしかかる‥。




「うわああああっ!」



バッ、と思い切り手を振り払った。雪はパニックを起こし、叫びながら身を捩る。

「うわああ!うわあああっ!」

「雪?!突然どうしたの?!」



突然叫び出した雪にお姉さんが驚いていると、その騒ぎを聞いて看護師が駆けつけた。

「子供は入っちゃダメですよ!」



「い、行こう行こう」「うわああん!」「お静かに!」



二人が退室しても、いつまでも雪は泣いていた。

背中からせり上がってくる怖気を放出するように、雪は声を上げて泣き続ける。

怖い! 冷たくて! 固くて!



怖いよ‥!




そしてこれが、最期になった。

大好きだった祖母との、それが最後の記憶ー‥。



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<雪・幼少時>冷たい手 でした。


今回の記事は<臆病の虫>の後半部分を再び載せてます。あしからず‥。


大好きだったおばあちゃんが変わり果てた姿になり、その姿に恐怖を感じてしまった雪ちゃん。

その手を振り払ってしまったことが、拭えない傷になってしまいます。


次回<雪・幼少時>懺悔 です。

次回で雪の幼少期編終わります。



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<雪・幼少時>祖母の記憶

2015-06-20 01:00:00 | 雪・幼少時


暗闇の中で、声が聞こえていた。

あれはまだ涙を流すことが出来ていた頃の、幼き自分の泣き声ー‥。




「うぁああん!うぁあああん!」



小さな雪は、声を上げて泣いていた。

しかし泣いているのは雪だけでなく、隣で更に小さな蓮が泣いている。

「雪!あんたがちゃんと見てないから、蓮が怪我しちまったじゃないか!」



膝を擦りむいた蓮を庇いながら、祖母は雪を責め立てた。

雪は嗚咽を漏らしながら、シクシクと涙を流している。

「雪お腹が痛かったの‥お腹痛いんだもん‥」



そう言ってメソメソと言い訳する雪に、祖母からきつい喝が飛ぶ。

「泣くんじゃない!悪い子め!何を偉そうに泣いてるんだい!」



その大きな声に、雪はビクッと身を竦める。

「ご‥ごめんなさい‥」「お義母さん、もう止めて下さいな」「まったくもう‥」



この頃の祖母は、雪に対して厳しかった。

けれどその厳しさを差し引いても、雪はこの祖母が大好きなのであった。


「あたしゃ老人会へ行ってくるよ」

「雪も行く!」



雪は、出て行こうとする祖母の後を追いかけて靴を履く。

「子供が来る所じゃないよ。老人会に行くんだよ。スーパーに行くんじゃないんだ」

「雪も行く!行くの!行くったら!」



迷惑そうにする祖母を押し切って、雪は祖母に付いて行った。

母はそんな娘を見て、不思議そうに一人呟く。

「あの子ったら‥さっきあれだけ叱られたのに、

どうしてあんなに付いて行きたがるのかしら?」









ゆっくりと歩く祖母の後ろを、雪は心底嬉しそうにしながら付いて行った。

ニコニコと自分を見上げる雪を見て、祖母は若干居心地の悪そうな表情を浮かべていた。



「まったく‥どうしてわざわざ老人会なんかについてくるのかね」



そう呟く祖母の隣を、雪はワクワクしながら歩くのだった。

おばあちゃんステキな靴履いてる。かっこいいなぁ!



叱られても、蓮の方が優遇されても、それでも雪はおばあちゃんのことが大好きだった。

あの頃は、夜寝る前に読む絵本だって、強いおばあちゃんが活躍する絵本だった。

 

それは絵本の中のスーパーおばあちゃんが、怖い虎から子供達を守るお話で、

最後、子供達を抱き締めるおばあちゃんの絵を見るたびに、雪も同じように抱っこされているような気になった。

 

絵本の中のおばあちゃんを眺めながら、雪は大好きな自分のおばあちゃんを思い出す。

どのおばあちゃんもみんな優しいなぁ。でもうちのおばあちゃんは、ゴムの靴なんて履かないんだよ。

ステキな靴を履いてるの。おしゃれなんだから!




雪は祖母のことが誇らしく、大好きだった。まるで自身の一部のように、祖母を大切に思っていた。

だから祖母と離れる時が、この世のどんなことより嫌だったのだ。



「それじゃそろそろアンタの兄さんのとこに行こうかね」

「あぁ、そうしようか」



祖母のことは、雪の父の家と雪の父の兄‥つまり雪の伯父の家で、代わる代わる面倒を見ていた。

そして今日は、雪の家から雪の伯父の家へと移動する日なのである。

祖母と父の会話を聞いてしまった雪は血相を変え、祖母の元に駆け寄る。

「行っちゃうの?!」



目を見開いてそう聞いてくる雪に、大人達は何も言えずに押し黙った。

しん‥。



雪は青い顔をしながら、強い力で祖母の手を握る。

「おばあちゃん行っちゃうの?!ねぇ!」



今にも泣きそうな雪。すると横に居た雪の母は穏やかな口調で、娘に優しい嘘を吐いた。

「ううん~おばあちゃんはスーパーに行くだけよ~」

「おばあちゃん、伯父ちゃんのところに行っちゃうんでしょ?」「違うぞ、ほら‥」



しかし大人達の言葉では雪を欺くことは出来ず、雪は祖母が居なくなることが嫌で、涙を溜めて歯を食い縛った。

そしてある作戦を思いついた雪は、玄関まで行くと祖母の靴を手に取ったのだった。



そしてそれを持って部屋に戻ると、ガチャンと音を立てて鍵を締める。



「うわあああああああ!!」



溜めに溜めた、雪の絶叫が響き渡った‥。

「おばあちゃん行かないでー!行っちゃダメー!うわあああ!」



父は「もう行かないと」と言って退室し、祖母は溜息を吐いた。

母は雪の部屋をノックしながら、優しい嘘を続ける。

「雪~おばあちゃんはスーパーでお菓子を買ってくるだけよ~。

靴隠したら行けなくなっちゃうでしょ~?」




その嘘に祖母も乗る。

「そうだよ。おばあちゃんとスーパーに行ってお菓子を買おうか」



母が言っても聞かなかった雪だが、祖母から直接そう言われると心が揺らいだ。

結果、部屋のドアは開き、そこから涙を流しながら靴を抱えた雪が出て来た。



「ほんと?」



母は笑顔で頷くと、雪の手から靴を取り上げる。

「うん、ほんとほんと」



見上げると、そこで祖母が笑っていた。

まったく‥と言いながら息を吐く祖母は、いつものおばあちゃんだ。雪の顔にパッと笑顔が浮かぶ。

 

「それじゃあみんなでスーパーに行こっか!」

「ねぇなんでおばあちゃん大きな鞄持ってるの?」

「お菓子をいっぱい買うためだよ」



祖母は雪達と共に、大きな鞄を持って外へ出た。

そして外で待っていた伯父の車に乗ると、笑顔で手を振ったのだった。



「うわあああん!おばーちゃーん!!」



雪は地面にひっくり返って泣いた。雪の父が手を焼き、母は笑ってそれを見ている。

祖母が伯父の家に行くときは、毎回一苦労だった‥。





季節が一つ流れ、再び祖母が雪の家にやって来た。

祖母はお菓子を食べる雪の頭を撫でてやっている。それに蓮が文句を言った。

「おばあちゃん!俺のお菓子は?!」

「お姉ちゃんが先に食べる日があってもいいじゃないか」



その光景を見ながら、雪の叔父に雪の母がこう説明する。

「あの靴の一件があってから、おばあちゃんてば雪に甘くなっちゃって‥」

「わはは!そりゃー面白いとこ見逃したなぁ」



家父長的な祖母が変わったことに、皆不思議な思いを抱きながらも、微笑ましく見守っていた。

雪は心から笑顔を浮かべ、甘い甘いお菓子を頬張る。



雪の胸の中にある、甘く温かな祖母との思い出。

しかしその記憶を辿れば辿るほど、だんだんと暗い影が落ちて行く‥。


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<雪・幼少時>祖母の記憶 でした。

小さな雪ちゃんかわいい‥ 

本当におばあちゃんのことが大好きだったんですね。

そして絵本の中のおばあちゃんの辺りで出てきた「ゴム靴」とは、

韓国独特の「コムシン」という靴らしいです。



お年寄りは大体これを履くのかな?気になりますね‥。


あとここで出てきた雪の叔父さん(雪のお父さんの弟)は↓



今はカフェをやってるこの人なんですね。



若い頃、結構イケイケですね 笑



次回は<雪・幼少時>冷たい手 です。


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