Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

因果

2017-02-20 01:00:00 | 雪3年4部(本意と不本意〜因果)


雪が駆けて行ってからも暫く、淳はその場で立ち尽くしていた。

しんと静まり返った路地。

先に言葉を発したのは亮だった。

「くっ‥」



「ぶはっ!」



「ぶははははっ!」



一部始終を見ていた亮は、笑いを耐え切れずに一人腹を抱えた。

淳は振り返り、笑う亮を見て目を丸くする。

「ははっ!ははははっ!くはははは!」






ゆっくりと顔を上げた亮は、その指の隙間からチラリと淳の方を見た。

嘲るようなその目を見た瞬間、淳の胸に炎が燃える。

「この‥っ!」



淳は思い切り亮の胸ぐらを掴み、瞳孔の絞られた瞳で彼を睨んだ。

しかし亮は口元を緩ませながら、やり返しもせず淳のことを見ている。



亮は激昂する淳を、挑発するかのように口を開いた。

「どうした、殴んのか?顔怖ぇぞ」



「お前、わざと‥!」



「はぁ?」



ニヤニヤと笑いながらはぐらかす亮に、淳は胸ぐらを掴む手により一層力を込めた。

「お前‥!」「んだよ。オレは何も言ってねーぞ」



被っていた亮のキャップが地面に落ちる。

けれど亮は気にも留めず、正論で淳に切り返した。

「てめーがどんな話すんのかなんて、オレが知るわけねーだろ」



「んだよ」



「自分の感情に押し流されて口滑らしたんはテメーだろ?」



それは今までの亮とは違う切り返し方だった。

まるであべこべになったかのような立場、形勢。

淳は言葉を見失う。



亮はゆっくりと淳の手に自身の手を伸ばした。

「つーか、」



「こんなことしてる場合か?」



強い力で胸ぐらを掴むその手を、より強く掴んで引き離しこう言った。

「さっきのダメージの態度、全部諸々、」



「テメーが撒いた種だろうが」







亮に向かっていつかそう言った淳は、全ての因果が自分に返ってくるのを感じていた。

言い返す言葉を紡ぐことも出来ずに、ただ俯いて立ち尽くす。







亮はニヤリと口元を緩めると、皮肉るように尚も言葉を続けた。

「あーウケるぜその顔。生きてる内にそんな顔拝めるなんてな」



ゆっくりと淳に近付き、肩に手を置く。

それはいつもの淳の常套手段だった。

「せいぜいダメージと腹割って話し合って、まぁ仲良くやるこったな」



「これは本心だぜ」



淳の表情が険しく歪む。

淳は肩に置かれた亮の手をバッと振り払った。







亮に背を向け、淳は雪が走り去った方向へと駆けて行った。

長いコートが翻る。



亮はその場に佇みながら、遠ざかって行くその背中に声を掛けた。

「テメーあん時笑っただろ!」



「笑ったよな!オレの手滅茶苦茶にした時よぉ!」



淳は振り返らなかった。

亮の声は暗い夜空に吸い込まれて行く。






亮は上を向きながら、乾いた笑いを一人立てた。

辺りには誰も居ない。

「はは‥」



今淳が一番大切にしているものを壊せば、この胸の淀みも晴れるはずだった。

淳のやり方、その常套手段を模倣して見事制裁を加えた喜びに、胸が打ち震えるはずだった。

けれど今亮の目に映るものは‥。







星も月も無い夜空。

それは輝かしい未来が消えたあの日に見たあの空と、何ら変わりはしなかった。

世の中全て思い通りにしていると思っていたあの男が見ていた風景は、

暗く深い闇だったー…。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<因果>でした。

まさかの亮さんまで黒淳化‥!

結局雪を呼んだのも亮さんだったのですね。


そして最後の亮さんが見上げる空のカット。

高校時代に手を潰された日に見上げた空のカットとかぶります。

 

人を陥れても何も得ることが出来ない虚しさを、描いているような気がします。


次回は少し短めです。<消えた兎>です。


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手の楔(2)

2017-02-18 01:00:00 | 雪3年4部(本意と不本意〜因果)


雪は思わず地面に手を付いた。

通りから見えるその場所に。

今まで忘れていたその記憶が、雪の心の襞を揺らす。









骨ばった祖母の白い手を、振り払った小さな自分。

雪の心は、千切れそうなくらい締め付けられるー‥。





「雪ちゃん‥?」







無言で座り込む雪の元に、音も無く淳が現れた。

そこに言葉は無い。







淳は暫く目を丸くしていたが、やがて静かにこう聞いた。

「居たの?」



「ここで何して‥」







手を伸ばし身を屈める彼を、無意識に雪は避けた。

早口で言い訳する。

「あ‥ごめんなさい、うっかり聞いちゃって‥わざとじゃないんです‥」

「雪ちゃん」



「お二人、まだお話の途中みたいなんで、

私はこれで‥先家に帰ってますね」




淳と目を合わせずに、雪はそのまま背中を向けた。

淳は咄嗟に手を伸ばす。

「雪ちゃん、今のは‥!」



ガシッ




バッ!



突然強い力で掴まれたその手を、雪は反射的に振り払った。

「あ‥」



「あ‥」



二人の間に沈黙が落ちる。



どちらからも動けなかった。

聞こえるか聞こえないかのような小さな声で、雪はごめんなさいと口にし、



淳は彼女の口元がそう動くのをただ見ている。



雪は両手を握り締めながら、定まらない視線のまま口を動かした。

「あの‥今度じゃダメですかね」



「今日はもう‥」



「雪っ‥!」



そう言って、雪はそのまま淳に背を向け走って行った。

一度も振り返らずに。







走れば走るほど、胸に不安が広がって行く。

思い出した古い記憶と振り払った手の感触が、心臓の鼓動を加速させるー‥。








淳はその場で自身の手を見つめていた。

振り払われた、自分の手を。



彼女を繋ぎ止めていたその楔は、自身が漏らしたその一言で外れてしまった。

彼女は背を向け去って行く。

胸の中に不安の芽が、その蔦と葉を伸ばして茂る。

開かれた扉の隙間から入ってくる光が、だんだんと閉ざされて行くー‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<手の楔(2)>でした。

短めの記事で失礼しました!

あ〜手を振り払われちゃった。。最後の手を握る淳が切ない!


次回は<因果>です。

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手の楔(1)

2017-02-16 01:00:00 | 雪3年4部(本意と不本意〜因果)
雪の頭の中に、先程淳が言った言葉が何度もリフレインする。



「そして雪はその手を離せない」



手を離せない‥?



雪の脳裏に、様々な場面の記憶が蘇り始める。

最初に手を握られたのはあの日だった。



あの夏の日。



「雪ちゃん 俺と付き合わない?」



そう言われてぎゅっと手を握られた。

雪が戸惑えば戸惑うほど、強く。



「わ、私は‥大学に入ってから彼氏とか考えたことなくって‥

そういう余裕も無いし‥その‥」


「そっか。分かった」



先輩はそう言って、握った手の力を緩めた。

指先に伝わる体温が消えて行く。







離れて行く手。

何を考えるより先に、身体が動いていた。

「ま、待って下さい!」



彼を引き止めて、結果頷いた。

その後家に帰ってから、雪は暫く呆然とした。



「私ったら何考えてんの?!!

どうしてOKなんてしちゃったんだよー!しかも手まで握って!」






思い出してみるとあの時も手を握られた。

夏休みに先輩の紹介でやることになったボランティアで、二人きりになった時。



「やりづらい?」



平井和美との一件でギクシャクしていた雪を呼び止め、彼はそう聞いた。

先輩はいつも、手を握りながら雪の名を口にする。

「雪ちゃん」



溢れて来る記憶。

奨学金の為にレポートを捨てたことが詳らかになった時。

「雪ちゃん!」



河村氏と一緒に帰ったことがバレてしまった時。

「雪ちゃん‥」



彼女の異変を感じ取ると、すぐに彼は手を握る。



その名を呼びながら。

「雪ちゃん」



あの時もそうだった。下着泥棒を捕まえた時。

雪に向かって手を伸ばした。



あの時、先輩のことを恐ろしいと感じたのに、抗えなかった。

怖いのを押し込めて、平気なふりをしてその手を受け入れたのだ。






「あ‥緊張しちゃって‥」



初めてキスされそうになった時もそうだった。

緊張して固まってしまった雪から、先輩が手を離そうとすると、

「ごめん」



「ちょっと待って!」



飛びつくようにその手を引き止めた。

どうしてそうしたのか、自分でもよく分からない。

ただ衝動的に身体が動く。








先輩は柳瀬健太と会話した後、薄ら笑いを浮かべていた。

雪と目が合った途端、凍りつくように表情が消えて行った。



その後、音も無く近付いて来た彼は、強く雪の手を握る。

「もう行くんだよね?」



それ以上詮索するなと、手の楔がストップを掛ける。

実際、それ以上考えることは出来なかった。



「それじゃ、もう行くね」



束の間のデートの後、先輩から手を離した時も、

雪の方から追い縋るようにその手を引き止めた。



振り向いた彼が微笑む。

まるで雪がそうすることを、分かっていたかのように。









両親と大喧嘩して家を飛び出して来たあの夜。

握っていた雪の手を、彼がそっと離したあの時。

「そろそろ帰ろうか、雪ちゃん」



「離しちゃやだっ‥!」



恐怖にも似た感情が襲って来て、必死に縋り付いた。

どうして今まで気が付かなかったのだろう。

「先輩!」



離れて行く先輩を、その手を掴んで引き止めたあの時。



「今日はもういい」



初めてその手を払われた。

遠ざかって行く背中。



まるで身体中に穴が開いて、そこから風が吹き抜けていくような、寂しさを覚えた。

言い様のない哀しさが、指先から零れて行くようで‥。









雪は自身の手をじっと見つめていた。

先輩の言葉にショックを受けながらも、どこか納得している自分がいる。

そうだ、考えてみたらおかしかった



どうして私は離せないんだろう



手を‥



手を離すことが出来ないなんて、明らかにおかしい。

けれど今まで、そのことに気づきもしなかった。

一体どうしてこうなってしまったのかー‥。








突如、古い記憶の扉が開いた。

病院の匂い、並んだベッド、そこに横たわる祖母の、

骨ばった白い手‥。





祖母が伸ばしたその手を、思わず振り払ってしまった、幼い自分。





声が聴こえる。

泣きながら嗚咽を漏らす、小さな声が。


「あ‥たしが悪いの‥ごめんなさ‥」






”泣くんじゃない” ”悪い子め”







その手を引き止める冷たい楔が、ようやくその正体を現した。

雪はただただ、目を見開く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<手の楔(1)>でした。

手に関する回想回でしたね〜。

ようやく雪ちゃんがそのトラウマに思い至ることに。

これをどう克服するのか‥先が楽しみですね。

次回は<手の楔(2)>です。


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握り締めた拳(2)

2017-02-14 01:00:00 | 雪3年4部(本意と不本意〜因果)


淳は亮と相対したまま暫く口を噤んでいた。

面と向かって自身のことを嫌いだと言う亮を前にして、

その瞳の中の光がだんだんと消えて行く。



目元を強張らせながら、淳は低い声で問い始めた。

「それで?何が言いたい?」



「お前が俺を嫌ってることは今更言わなくとも分かってるさ」



「けど俺から先に被害を与えて人を利用したことがあるか?

先に始めるのはいつだって俺じゃない」




「どうしていつも俺に突っかかって来る?

高校生の時は俺の性格に対してとやかく言うことなんて無かったのに、どうして今になって?」




そして淳は、暗い瞳で彼を睨めつけた。

「分かってんだろ」



昔も今も、無遠慮に一線を越えて来る彼を。

「結局こんな俺が雪の傍にいることが許せないんだよ、お前は」







雪の名前が出たことで、亮は若干目を見開いた。

キャップのツバで隠れた瞳を、ちらりと覗かせる。

淳は今まで口にしなかった雪と亮との関係について、客観視を交えて話し始めた。

「感情をストレートに表現しろだの言葉にしないと分からないだの

もっともらしいことを言っておきながら、お前は雪に対して正直であると言えるのか?」




「全部捨ててここを去ると騒いでおきながら、結局ここに俺が残っていることが我慢出来ずに、

またこんな風に俺を呼びつけて吠え掛かる」








亮は何も言わず、ただぐっと拳を握った。



下を向いたまま、拳に怒りを込めたまま、冷静を纏った声でこう問う。

「だったら、お前は今まで自分がしてきたことに満足してんのか?」



「恥ずべき点は何一つ無いって言うんだな?」



淳はそんな亮に対し、抑揚のない声で即座に答えを出した。

「俺のしたことが周りに何か迷惑をかけたか?」



「そうやってお前はいつも自分中心に物事を考えてばかりで、

人のことを知ろうともしなかった」




亮の拳に目を留めながら、淳は暗い瞳で過去を辿って行く。

「人の感情を利用したからって、それが何?」



「俺がお前達姉弟に対する態度を変えた時だって、お前は俺の行動の理由を考えることさえしなかった。

ただ単純に拗ねただけだと片付けて」




”変な奴”と不用意に放った亮の一言が、今もずっと淳の神経に障り続けている。

「今回だって同じことだ」



そして遂に、主観が客観視を越え前に出る。

そこには雪が絡んでいた。

「雪の手助けでピアノが弾けるようになったことが嬉しくて、

傍に居る雪に好意を感じたんだろうがー‥」




「で?」



「お前は雪がどういう時に苦しむのか、何に悩むのか、どんなタイプが好きなのか知ってるのか?

雪のことをどのくらい考えたことがある?」




矢継ぎ早に質問を繰り出され、亮は拳を下げて立ち竦んだ。

雪に関することは、不可侵として来た領域だ。

「いや、オレは‥」

「お前は結局そこまでだ」



淳は亮が言葉を紡ぐより先に、そう言い切った。

真っ直ぐに亮を見据え、強い眼差しで彼を射る。

「雪が苦しい時その手を掴むのは、俺だ」







普段感情を顔に出さない淳の本心を、亮は目の当たりにして目を見開いた。

線の向こうで立ち止まる亮に、淳はその自負を掲げる。

「雪が誰かに頼りたい時、味方になって欲しい時、俺はいつも手を握ってやった」



その行く末が現状の雪を作ったとしても。



それが予測もつかない変数を引き連れ、今も淳を揺さぶり続けているとしても。







そして淳は口にした。

今まで秘めて来た、彼女との始まりを作ったその秘密を。

「そして雪はその手を離せない」


















建物の隙間の細い路地で、

彼女は立ち止まっていた。



音を立てぬようゆっくりと、震える手を壁に付ける。







雪は心臓の鼓動を感じながら、軽い目眩を覚えていた。

携帯を握り締めた指先から、徐々に体温が消えて行く。



脳裏に蘇って来る光景があった。

あれは夏の終わりの暑い夜だった。



埃っぽい路地の先で、殴打と呻きが響いて消える。

ゆっくりとこちらを向くその視線を、あの時雪は咄嗟に避けた。






心臓が痛いほど鳴っていた。

あの時の末端から冷えて行くような感覚が、再び雪に降りかかる。

どうして‥

どうしてこんなに心臓がドクドクするんだろう








冷や汗が頬を伝い、異様に喉が乾いていた。

雪は壁に背を付けた体勢のまま、ゆっくりと座り込む‥。





しんとした路地の向こうに微かに気配を感じた淳は、

そのまま暫くそちらの方向を見遣っていた。

一方亮は特に気を留めることなく、呆れたように口を開く。

「そりゃご立派なこって。一体何のヒーロー気取りだか‥」



そう言って無意識に手の平を上向けた亮は、

先程淳が話したその言葉の意味が引っ掛かった。



離せないって?どうしてだ?



淳はそれが何か深い意味を持つかのように言っていた。

まるで何かのキーワードのように。

もしもそれが、淳が雪に対して仕掛けた罠なのだとしたらー‥。



古傷が疼き出す。

亮は暗い眼差しを淳に向け、低い声でこう問うた。

「ダメージにも何かしたのか?」



淳は答えない。

ただ黙っているだけで、肯定も否定もしない。



「お前‥」



亮の胸の中で炎がチリチリと燃え始めた。

両方の拳に、再び力がこもって行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<握り締めた拳(2)>でした。

淳の本心が出ましたね〜。しかしよく喋るな淳‥。

一方亮は雪に関しては一歩引いちゃいますよね〜。ドラマはもうちょっと踏み込んでましたが。

もどかしい!

そして雪ちゃん、聞いちゃいましたね〜。物語が動いていきますね。

次回は<手の楔(1)>です。


皆さまハッピーバレンタイン〜


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握り締めた拳(1)

2017-02-12 01:00:00 | 雪3年4部(本意と不本意〜因果)


淳の車は麺屋赤山の近くの路地に到着した。

運転席から出てくる淳。



顔を上げて店の辺りを窺った。






麺屋には明かりが灯っていた。

淳が一歩踏み出そうとしたその時、背後から声が掛かる。

「早かったな」



「事故るぞ。気をつけろよ」



「お前、どうして‥」



突然現れた亮を見て、淳は目を丸くしそう問うた。

「雪に会う為麺屋に行く」とメールに書いてあったのにー‥。



淳は辺りを見回してみた。

雪の姿はない。



「‥はっ」



淳は今の自分の状況が把握出来ると同時に、口元を歪めながら息を吐き捨てた。

亮の居る方向へとゆっくりと踏み出す。

「どういうつもりだ?」「どうせフツーに呼び出しても来ねぇだろうが」

「まだ話があるのか?」



「この前で全部終わったんじゃなかったのか」



淳は不満気にそう言うと、神経質そうに前髪を払いながら亮を睨んだ。

亮はポケットに入れていた両手をそこから出すと、握っていた拳をゆっくりと開いていく。

「ああ。最後に一つだけ聞いときてぇことがあってな」






高校時代以来封じ込めた感情を、今亮は剥き出しにしようとしていた。

思い出すだけで痛みを伴うその過去を、もう一度掘り起こして。



先程静香から聞いた、姉とショパンとの一幕を思い出す。

「僕はただ淳君の言うとおりにしただけなのに‥衝動的にやってしまっただけなのに!

まさかこのことで援助まで無くなるなんて思いもしなかったさ!こんな風に捨てられるなんて!」




そしてあの時の、淳の背中を。



「お前‥笑ったか?」



ふと見えた、その口元が嘲笑うのを。






「お前、わざと‥」







しかし亮は、その先を続けることは出来なかった。

剥き出しの心を、拳を握り締めることで再び隠す。

「‥お前、人の感情弄んで、」



「面白かったか?」「何?」



「人がお前の意のままに動くのが、面白かったんだろ」



亮は再びポケットに両手を入れると、そう言って言葉のナイフを淳に向けた。

淳は顔を顰めながら、うんざりしたようにこう返す。

「何を言ってる」



「そうやって皮肉るんならもう行くぞ。何もしなければ俺からは何もしない」

「それじゃいつも誰が先にお前に手出ししたって言うんだ?」



「お前が誤解して受け取ったことは一度も無いってのか?」



「いい加減にしろ。こんな話ももうウンザリだ」







斜に構えるその目つきを、亮は強く真っ直ぐに睨み付けた。

脳裏に再びショパンの姿が浮かぶ。



少なくともショパンは淳のことを慕っていた。

淳はその気持ちを手玉に取ることで、アイツを駒のように動かしたー‥。







亮はハッキリと強い口調でこう口にする。

「オレは反吐が出る程嫌いだ」



「お前のそういう所が。人の心を見透かして、それを利用して捕って喰うのがな。マジで許せねぇよ」



亮はストレートにそう言って、真っ直ぐに淳のことを見た。



淳は斜に構えたその体勢のまま、目を見開くー‥。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<握り締めた拳(1)>でした。

淳と亮、二人の話し合いアゲイン!ですね。

亮が手を開くことが感情の出し隠しのメタファーになっていたり、亮が真っ直ぐ淳に相対するのに対し、

淳が常に斜に構えていたりするのが二人の関係性を表していたりと、作画も神がかってます。

<握り締めた拳(2)>へ続きます。


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