Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

意識

2014-04-12 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)


結局雪は河村亮と別れた後、そのまま家に帰ってきた。

シャワーを済ませてからベッドに寝転がると、淳に向けて一通のメールを打った。



どこか落ち着かない気分のまま、とりあえず気になっていることだけメールする。

無事帰れました?



送信ボタンを押してから、雪はしばらく携帯を持ちながら返信を待ってみた。

しかし一向に携帯は鳴らない。



雪はもう一通だけ、短く用件を打つ。

寝ます?



時計を見ると、もう深夜一時を回っている。

既に彼が寝ていたとしても不思議ではない時刻だ。

しかし雪は携帯を見つめながら、じっと返信を待っていた。



雪は携帯を持ちながら、そのままゴロゴロと転がった。

「先輩ちゃんと帰れたかなぁ‥タクシー乗るまでは大丈夫だったけど‥。

何で返信こないのかなぁ‥」




雪はソワソワした気分で携帯を持ち、返信を待ち続けた。

気になっていることが、つい口をついて出る。

「酔った勢いでキスしといて‥次会った時記憶が無いってことはないでしょうね‥?」



キス、という単語を出すだけで頬が染まっていくのを感じる。

雪は高鳴る鼓動を抑えることが出来ないまま寝転がっていると、不意に携帯が鳴り返信が入った。

うn ゆきちゃんmおやすみ



恐らく片手で打ったであろうその簡素な返信を見て、雪は力が抜けていくのを感じた。

そして、どこか残念なような苛立たしいような、形容しがたい感情が彼女の胸を騒がせる。

「あ~なによも~!寝るの?!寝れるの?!よく平気で寝れるよねぇ?!」



雪はとてもじゃないけれど、眠れそうになかった。

ふと我に返るとすぐ、浮かんでくる場面があった。



大きな手が頬に触れた。

酒臭い彼の熱い吐息がかかり、唇が燃える‥。

「うぅ‥」



雪はぎゅっと枕を抱きしめると、唇にその感触が蘇ってくるようだった。

全身が熱くなり、心臓が早鐘を打つ。もう自分で自分がコントロール出来なかった。

「うわあああああ!」



また部屋で叫んでいる姉に、蓮の怒号が飛ぶ。

しかし雪は一人赤面しながら、ベッドにバタバタと足を投げ出した。

「もー!!どーしよーー!!!」



夜は更けゆくのに、高揚のせいでちっとも眠れそうにない。

窓から空を見上げると、丸い月が浮かんでいた。

そして同じ月夜の空の下で、彼女を悩ます彼はベッドに横になっていた。



こちらは彼女と打って変わって、早くも熟睡中だ。スヤスヤと赤ん坊のような安らかな寝息を立てている。

大瓶四本の焼酎とキスの酔いが、彼を深い眠りの世界へと誘っていく。



おやすみ、先輩。

おやすみ、雪。

月の光は皆を包み、時は平等に巡って夜は更けゆく‥。








一夜開けて大学では、居場所の無くなった横山翔が一人悔しさを噛み締め項垂れていた。

俯きながら、ギリリと歯を食いしばっている。



畜生、と呟いて思い出すのは、先ほどの同期や先輩達の態度である。

「みんな!先輩も‥!今日は俺が飲み代持つっスから、腹を割って話を‥」



横山は彼らにそう声を掛けたが、同期や先輩達の自分を見る目は冷ややかだった。

「お前青田に謝ったのかよ?一度じゃ飽きたらず二度も噛み付きやがって‥」



そう言って彼らは背を向けた。

いやらしそうに嗤う声が、耳に残って心をざわつかせる。

アイツマジ変わってねーじゃんww



昨日まで自分をチヤホヤしていた彼らは、一度も振り返らずにその場から去って行った。

そして横山は悔しさを噛み締めながら、中庭にて彼女を待ち、ようやくその腕を捕まえた。

「直美さん、話を聞いてくれ!本当に誤解なんだって‥!」



しかし直美は腕を振り払うと、あんたと話すことはないと言って顔を顰めた。

「直美さん‥俺のこと、信じられない?」



横山は潤んだ瞳でそう問いかけるが直美は、

「ま‥またほとぼりが冷めたら話そ‥」



そう言って駆けて行ってしまった。

取り残された横山を指差して、ヒソヒソと話す声が聞こえる。

アイツまたやらかしたってさ マジ青田をなんだと思ってんだろ?

手が先に出るとか、本気で頭悪ぃよな



大学生にもなって、先輩の胸ぐら掴むとかありえねーよ

ウケるww



浴びせられる嘲り、嘲笑、自分を馬鹿にする彼らの心無い言葉達。

横山は震えるほど拳を握りしめながら、青筋を立てて憤った。

クッソ‥”先輩”だと?闘う理由があってこそのあの状況だろうが!

たった何歳か年食ってるってだけで、偉そうな顔して吠えやがって!クソが!




横山は頭を抱えて悶絶した。

クソ‥こんな大学に大した伝統と上下ルールなんてあるかよ‥。

青田のクソ野郎も、先輩として敬うべきだっていうのか?!




しかしどんなに頭を抱えて不満を蓄えたところで、状況は何も変わらない。横山は苛立っていた。

とにかく‥どうやって挽回すればいい?

やっと学校生活が変わってきたところだってのに‥




夏休みから水面下で自分を株を上げる努力をしてきたのに、ここに来て白紙に戻ってしまったことに横山は焦りを感じていた。

思い悩みながらふと顔を上げると、あの男の姿が目に入った。



長身のその男は、ゲームをしながら構内を歩いていた。

女の子に挨拶されて、手を振って応えている。



ケッ、と吐き捨てるように言った横山は彼から目を逸らした。

いけ好かない思いが胸を支配する中、一つの考えが浮かぶ。

もう一度、彼の姿をその視線が追った。

「おっとぉ‥」



前々から気に入らないあの後輩を貶めて、自分が株を上げる方法を横山は思いついた。

彼はニヤリと意地悪い笑みを浮かべると、その後輩の後をこっそりとついて行った‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<意識>でした。

雪ちゃん可愛いですね~(*^^*)連載史上最高の”オトメ度”だったんじゃないでしょうか?



そして‥この先何日も萌えない展開が続きます‥。orz

皆様お辛いでしょうが、私も辛いですから‥!頑張ります‥(テンション低)

次回は<太一への陰謀(1)>です。

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心ここにあらず

2014-04-11 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
夜も更けたこの時刻に、一人笑いながら歩いている女が居た。

「ハハハハ‥ハハハハ‥」



そう、赤山雪だ。雪は一人、笑っていた。

「ハハハハ‥ハハハハ‥」



彼女は帰路の間中、笑い続けた。

地下鉄も、階段も、彼女の家の近くの道でさえ。

  

胸の中がこそばゆく疼いて、とても頭や理論では整理出来なかった。

高揚する感情にまかせながら雪は、ずっと一人で笑い続けていた。



二杯飲んだ焼酎の仕業では、勿論無いだろう。

それ以上に刺激的な体験が、雪を少しおかしくさせる‥。





ふぅ、と亮は秋の空気の中に煙を吐き出していた。

ここは店の横の細い路地。亮は煙草を吸いきると、地面に捨てたその火を足で揉み消した。

「とにかく静香には言葉が通じねぇ‥」



その独り言からすると、一緒に暮らし始めた姉に亮は手を焼いているようだった。

この数日くさくさしている亮を見て、今日は蓮が煙草をくれたのだ。肺の中を煙が燻る。



燻っているのは煙だけではない。

亮は今の自分の状況を思い、俯きながら小さく舌打ちした。



ふと顔を上げると、大通りを歩いて行く彼女の姿が見えた。

亮の脳裏に、先日期せずして思い出した思惑が蘇る。

‥そうだ‥お陰で思い出したぜ。忘れていたことを‥



雪に近付いた本来の目的を、亮は先日思い出したところだったのだ。

亮は急いで路地を出ると、歩いて行く雪の背中に声を掛けた。

「おい!ダメージヘアー!」



わりと大きな声で呼んだのだが、彼女は振り返らなかった。

亮は不思議に思い彼女に近付くと、軽くその髪の毛を引っ張った。

「おいってば!」 「うわっ!」



そして雪は、突然の出来事に心底驚いた。口にする言葉も切れ切れだ。

「んなっ‥なっ‥なっ‥!」「んだよ?」



顔を青くして驚く雪。

亮はそんな彼女に近づくと、あることに気がついた。

「お前なんか酒臭ぇなぁ?焼酎と焼肉のニオイがプンプンするぜ」



そう言って身体を近づける亮と、少したじろぐ雪。

二人はそのまま並んで歩き出す。

「最近は日が落ちんのも早ぇし、早く帰ってこいよ。親心配してたぞ」 「ん‥」



亮はそう雪に声を掛けるが、彼女は心ここにあらずといった体で、どこか上の空だ。

ポケッと空を見つめて、ぼんやりと歩いている。



亮はそんな彼女の後ろを歩きながら、どこかいつもと違うと感じていた。

「あー‥今日は店寄らねぇのか?」



亮が投げた問いかけにも、

「はい‥」



と小さく返事をするだけだ。

「あ‥そう?」



亮はそう言って頭を掻くが、依然として雪は亮の方を振り返りすらしない。

亮は少しきまり悪い気分で彼女を見つめた。



それならこれならどうだと、亮は話題を変えることにした。

「あのよぉ‥ピ‥ピアノのことなんだけどよ」



しかしいざ口に出してみると、思うように喋れない。

亮は軽い調子を装って言葉を続ける。

「お前の叔父さん、アレもう処分しちゃったか?カフェの片付けもそろそろ終わりだしよ‥」



亮はピアノに執着する理由を言い訳しながら言葉を続けた。

白々しく頭を掻いて笑う顔が、なんともぎこちない。

「いや~その、あれだ!一度言った言葉を取り消すのは男として‥なぁ?」



けれどやはり雪は何も反応しない。

ぼんやりとして上の空のままだ。



亮は頭を掻きながら言葉を続ける。

「‥だからその‥」



そして次の言葉を口に出した途端、雪は弾かれるように振り返った。

「淳に言われたからじゃなくて‥」「えっ?!」



これまでどんなに話しかけても耳から抜けていっていた雪なのに、

彼女は淳の名前を聞いた途端反応した。



亮はそんな彼女の反応に目を剥いたが、なぜ雪がそんな反応をしたのかに、詳しく気づいてはいなかった。

雪は驚いた顔をした亮を見て、少し我に返った。

「いや‥え?何‥?」 「いや‥だからピアノを‥」



再びピアノを口にする亮だが、なんだかそれ以上言葉を続ける気がなくなった。

そしてドギマギしている雪を眺める内、彼女の髪に何かついているのに気がついた。

「おいお前何かついてっぞ? 顔に‥」



そう言って亮は雪に向かって手を伸ばした。

「いや頭か‥」 「えっ?!口に?!」



雪は意識するあまり、口を押さえて飛び上がった。

亮は目を丸くして手を止め、雪は「しまった」という表情で口を噤む。



二人の間の空気は微妙な雰囲気になっていく。

とりあえず亮は雪の髪についていたゴミを取ってやったが、気まずい空気はそのままだ。



雪は変に意識した自分が恥ずかしく赤面した。

「ハハ‥ハ‥あり‥ありが‥」



数々の挙動不審な行動を繰り返す彼女に、今や顔を顰める亮‥。

しかも加えて、次の瞬間雪はしゃっくりをし始めたのだ。

ひいっく!



ひっくひっくと、雪のしゃっくりは止まらなかった。

口を押さえて顔を背ける彼女を前にして、亮はドン引きだ‥。



亮は息を一つ吐くと、彼女から背を向けて後ろ手に手を上げた。

「あーもーいーや。行け行け」



雪はどこかきまり悪い気持ちで、背を向けた亮に声を掛けた。

「あ‥ハイ‥それじゃあ‥」



そう言って雪は小走りで駆けて行った。

彼女が走り去ってから、亮はどこか不審だった雪の影に視線を送る。



いつも何か企みを持って彼女に近づくと、上手くいかない。

亮はどこか煮え切らない気持ちのまま、店に戻って行った‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<心ここにあらず>でした。

雪ちゃん挙動不審‥(@@:)

そして初の喫煙亮さんですね~。気怠いですね‥。



次回<意識>です。

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秋夜のキス

2014-04-10 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
「雪ちゃん」



暫し雪の肩に頭をもたげていた淳であったが、不意に彼女の名を呼び顔を上げた。

淳の心は弾んでいたのだ。今彼女が自分の隣に居ること、静かな場所で自分の理解者と共に居ることに。

「あ、はい‥」




そして雪は彼の方を向いた。

何か話があるのかと思って。





チュッ、と淳の唇が雪のそれに軽く触れた。





何が起こったのか分からない雪と、嬉しくてニコニコ笑う淳と。





何、と言いかけた彼女に、再びキスをする彼。

二回目のキスは、一回目のそれより深く触れた。



えっ?



見開いたままの瞳の先に、超至近距離で彼の顔があった。

今さっき何をされたのか、そして今何をされているのか。

雪はようやくそれに思い至る。


「@#%$?!せせせ先輩ーーー?!?!」



雪は大赤面し、思わず唇を両手で押さえた。

そんな動揺しまくりの雪に対して、淳は一つも取り乱さず彼女のことを見つめている。

「い、い、い、い、いきなりなにっ‥!」



雪の心臓は早鐘を打ち、全身に変な汗が噴き出していた。

しかし淳は尚も雪に近づくと、優しく彼女の頬に触れる。

「どうして? 誰も見てないじゃない」



淳は囁くようにそう口にした。

先ほど皆にキスを強要された時に、彼女が何度も口にしていたその言葉‥。

だから何でみんなの前で‥!



ということは、皆が見ていないところならば良いことになる。

そんな根拠を味方につけて。






未だ目を見開いている雪に、ゆっくりと彼の影が覆いかぶさる。

淳は左手で雪の頬を撫ぜながら、もう一度その柔らかな感触を味わう。





秋の夜。

夜の路地。

涼しい風が吹いていた。どこかで秋の虫が鳴く声が聞こえた。

もう、何も見えなかった。

目を閉じていたから。










ネオンが溶けたような都会の夜空はぼんやりと明るい。

その空の下で、今日も人々は行き交いすれ違い、思い思いの場所を目指す。



世界は何も変わらず、今日も地球は回っている。

けれどその世界を見つめる自分の目は、何かのきっかけで変わることがある。



見慣れた道。

石畳の敷かれた細い路地。

聞こえて来るのは遠くの喧騒、秋に鳴く虫の声。

そして、隣で眠る彼の寝息。



規則的な、けれど温かなその吐息を感じながら、

雪はポカンと口を開けていた。

先ほどまで、その唇は彼のそれと触れ合っていた。



雪は膝を抱えた体勢のまま、じっとその場に座っていた。

肩にかかる彼の重さすら、気にならないくらいだった。



ポケッとした表情で、彼女は空を見つめている。

丸い月とネオンの光で、ぼんやりと光ったその夜空を。






そして雪はその夜空に、先ほどのことを思い出してその記憶をなぞってみた。

すると自然に、彼の方に顔を向けた。よく眠っている。



雪はぎこちなく彼に手を伸ばした。

柔らかなその髪に触れると、さらさらと指の間から零れ落ちるようだ。



そして気がついたら再び、唇を押さえていた。

色々な感情が胸の中を騒がせ、変な笑いとなって溢れ出るのだ。

「は‥」



一度口から笑いが溢れると、それは止まらなくなってしまった。

「ははは‥」



はははは‥と、その後も雪はその場で笑い続けた。

静かな寝息を立てる彼の横で、変な高揚が彼女の笑いをいざなう。



紅葉し色付いた葉が、様々な光を受けて淡く煌めく。

秋の夜の澄んだ空気のせいだけじゃなく、雪の目にそれはとても美しく映った。

ぼんやりと光るネオンの空、その遥か上に、眩いばかりの満月が輝く。



世界は変わらず今日も回っている。

けれど彼とのキスが、雪が見る世界を少し変える‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<秋の夜のキス>でした。

いや~~雪と淳もここまで来ましたね!!読者としては長かった‥!
(漫画の中では付き合って二ヶ月ですが、読者にとっては一年半ですって^^;)

先輩の嬉しい気持ちが溢れてましたね‥。初キス、おめでとう~~


次回は<心ここにあらず>です。




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彼の本心

2014-04-09 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
居酒屋から一歩外に出ると、少しヒヤッとした初秋の空気が二人を包んだ。

アルコールと店の中の熱気で火照った頬にその風は心地良く、

見上げるとネオンが溶けた空が、ぼんやりと光っている。



路地を歩く淳と雪は、始めこそ並んで歩いていたものの、先輩は次第に雪に凭れ掛かった。

雪はヨロヨロしながら彼を支え、静かな場所を探して彷徨う。

「お‥重‥」



酔って力の抜けた身長180センチ強の先輩を支えるには、身長160センチ強の雪には辛かった‥。

しかし淳は雪に凭れ掛かりながら、特に気にせず彼女に向かって話し出す。

「雪ちゃん、君が連れて来てくれたの?」



彼は酔ってはいるものの、その口調は割とまともだった。

雪はハイハイと返事をしながら、よろめきながらゆっくり歩く。



すると淳はフフフと笑いながら、ほぼ全体重を雪の背中に覆いかぶさるように掛けてきた。

嬉しさのあまりか、酔いの仕業か‥。どっちにしても雪には堪らない。



雪は暫しその重さに耐えていたが、遂に限界が来て手頃な場所に先輩を投げ出した。

「まさかここまでベロベロになるとは‥」



間違いなく代行を呼ばなければならないだろう、と息を吐きながら思う雪であったが、

ふと隣を見ると淳は笑っていた。それはもう、ニッコリと。

「‥‥‥‥」



何とも言えず雪が黙っていると、淳はニコニコと近付いて来た。

「雪ちゃ~ん」



ハイハイ、と雪が応える。

彼の方を向いてみると、なんだか嬉しそうにずっと笑っている。



それを見ていたら、なんだか雪も笑えてきた。

二人は肩を並べながら、互いにフフフと笑い合う。



雪は気持ちが少し落ち着くのを感じた。

幾分ほぐれた雰囲気で、立てた膝の方に小首を傾げて口を開く。

「私達、このまま抜け出しちゃいましょうか?あの人達の分にお金払うの嫌だもん」



そう言って本音を漏らす雪を、淳は依然として微笑んだまま見つめる。

「お金?」



そう無邪気に聞き返す淳に、雪は顔を顰めながらその理由を口にした。

「同席してきたところを見れば、食い逃げしようって魂胆見え見えですよ。

人を良いカモみたいに‥」




淳は「カモ」という言葉を聞いて思わず笑った。なんだか懐かしかったのだ。

「ハハハ、高校の時俺のことをそう呼ぶ子が何人かいたよ」



「先輩をですか?」と、雪は幾分驚いてそう口にする。

しかし思い起こしてみれば雪だって最初は、

自らカモになる彼のことを、ただのお人好しのバカなのかと思っていた‥。



淳はそんな彼女の表情が言わんとしているところを汲み取って、本音を口に出す。

「物に限らず‥俺に近付いて来る人達の目的って、大体知れてるから‥」



初めて聞く彼の本音。酒のせいで幾度も漏れ出してくる、彼の心の声。

いつも人々に囲まれる彼は、色々なものを望まれる。それは物質的なものに限らず精神的な物も含まれていて、

彼はその性分で、彼らの下心を全て見抜いてしまうのだ‥。


何かを諦めたようにそう語る彼を、雪はただじっと見つめていた。



淳は再び、雪の肩に凭れ掛かる。そして小さな声で話を続けた。

「俺もそれに合わせる方が楽だから‥」



そして淳は消え入るような声で、彼女にこう質問した。

「雪ちゃん、俺のこと好きだよね?」



雪は突然の彼からの問いに思わず驚き、少し赤面した。

「えっ?」



しかしその問いかけの本当の意味は、今雪が思っているような意味合いではなかった。

「本気でそう思ってるよね?」








常に淳の周りを取り囲む、顔の無い人々。

彼らが彼に望むもの。



一緒に居ればご飯をおごってくれるとか?

授業で同じグループになると良い成績を取ってくれるとか?

つるめば自分の価値が上がるとか?



合わせれば楽だと自らをコントロールし、果てに疲れて沈み込む。

本心の無い関わりの中に、ふと感じるその虚しさ‥。

雪は彼のつぶやきのような問いの中に、彼の孤独の片鱗を見る。

「あ‥」



雪が言葉を紡げずにいると、不意に淳がパッと顔を上げた。

「考えてみれば、初めから雪ちゃん俺のことチラチラ見てただろう?」



唐突にそう聞かれた雪は、思わず「はっ?!」と声を上げる。

しかし淳はジトッとした眼差しで、尚も雪を見つめてきた。

「チラチラ見てただろ~~」   「そ、それは‥」



雪の記憶の中に、およそ一年半前の彼に対する感情が蘇った。

同じ復学生なのに、彼だけチヤホヤされるのがやたらムカついて‥。

変に負けん気出して挨拶しようと姿を探したりしたし‥




そして挨拶しても素っ気なくされてからは、変に観察するようになっていた‥。

嫌悪感から来る強烈な意識があったことを、雪は思い出していた。



しかしそれが今淳の言うような意味だったかは‥。雪は少し考えてみた。

そういうネチネチした気持ちで見てたことはあったけど‥。

違うのか?あれはこの人に気があったってこと?最初から??




「見てたでしょ?見てたじゃない」

白目で彼を見つめる彼女に、淳が怒涛の「見てたでしょ」攻撃をかける。

しかし雪は何とも言えず黙り込んだ。自分でも自分の気持ちが分からない‥。



すると彼はニッコリと笑った。

ニッコリと笑って、思いも寄らないことを言ってのけた。

「俺も見てたよ」



「考えてみれば、俺ら密かに互いを見てたんじゃないのかな」



唐突な彼の言葉に、雪は思わず身を乗り出して反復した。

「見てたって?!私を?!」「違うの?そうでしょ?」



淳は彼女のテンションとは真反対に、冷静にあの頃を分析する。

「俺ら互いに気づいて、互いを見抜いたよね?」 「‥‥!」



雪はサラリと黒歴史を口にする彼を前にして、当惑した。

二人の間に横たわる去年の記憶は、これまで暗黙の了解的に互いに口にしなかったのに。

「けど、最近は俺のこと見てくれないよね?もう冷めちゃった?」

「え?いやその‥」



酔いのせいで、淳の記憶は過去と現在がごっちゃになっているらしい。

しかし彼女の反応と今の状況を見て、淳の頭はようやく整理された。

「あそっか、今はそんな必要無いのか」



そう言った淳は一人で納得し、一人で満足していた。

甘えるようにして雪の肩に凭れ掛かり、独り言のように本心を呟く。

「あ~‥最初は大嫌いだったのにな~それがこんな‥考えてみたら笑えるよなぁ。ねぇ?」



ハハハ、と淳は小さく笑った。

ここは自分が自分らしく居られる場所。

しかし、暗闇ではない。一人ではない。

淳の心は弾んでいた。

「いや私は‥はははははは」



しかし雪は、そんな彼に戸惑うばかりだ。一体何を言っているのかと、もう訳が分からない‥。

「雪ちゃん」



そして淳は、凭れていた彼女の肩から顔を上げると、彼女の名を呼んだ。

彼女が彼の方を向く‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼の本心>でした。

ハイ、いいとこで切っちゃいました~^^;

酔っ払った先輩もオツなものですね。二人が笑い合うカットは、なんだかこちらもほっこり‥。



そしておまたせしました、次回はついに‥!


<秋夜のキス>です。



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静かなところへ

2014-04-08 01:00:00 | 雪3年3部(秋夜の二人~意識する雪まで)
「ほ~れ飲んで飲んで!」



更に夜は更けていき、宴もたけなわである。

しかし健太達からの飲め飲め攻撃はとどまることを知らず、

結局雪は断り切れずに二杯程度飲むこととなった。

「いやもうこれ以上は‥」



更に杯を重ねることを断ろうとする雪だが、「寂しいこと言うなよ」と健太は尚も酒をすすめてくる。

雪が困っていると、淳は再び雪の手からグラスを取り上げ飲み干した。もう何度目のイッキだろう。



赤山の代わりにまた飲んだ、と健太を始めとする経営学科四年男子は淳を見て息を吐く。

しかし雪は気が気じゃなかった。思わず彼に声を掛ける。

「先輩、大丈夫ですか?さっきからすごい量飲んでるけど‥」



そう言って彼の方を窺うと、淳は雪の方を見てただ微笑んだ。

何も言わないが、顔色はそう変わらない。大丈夫なのだろうか‥。



そして淳が何か言う前に、柳が先に口を開いた。

「あ~大丈夫大丈夫!俺コイツが酔っぱらったとこ見たことないもん!」



そう言ってケラケラ笑う柳だが、雪はやはり心配だった。

テーブルの上を見ると、空き瓶が一本二本三本四本‥。



アルコール度数もそれなりに高く強い酒だ。

「でもこれはあまりにも‥」



飲み過ぎ‥と続けようとした雪の肩に、次の瞬間彼の頭が凭れ掛かってきた。

その突然の淳の行動に、雪は思わず固まる。



そして固まったのは雪だけでは無かった。

四年間学友として何度も飲み会を共にしてきた彼らもまた、驚いていたのだ。



こんな風につぶれた淳など見たことがなかった。彼らも思わず目を丸くし、沈黙した。

そんな彼らに対して淳は、子供のような目でキョロリと見つめる。



彼らは一呼吸置いた後、爆笑した。

今日は二人に当てられてばかりだと、やいのやいの騒いでいる。



相変わらず固まっている雪に、淳は「少しこうさせて」と言って凭れたままだ。

一同は淳が酔っ払ったのを笑いつつ、しばし彼を休ませることにした。

そしてそのまま、雪と淳を置いて宴会は続いていく。



雪は身動きすることも出来ず、手持ち無沙汰のまま暫しそこに座っていた。

するとじきに淳が身体を動かして、頭を押さえる仕草をする。

「雪ちゃん‥頭痛い‥」「えっ?頭ですか?!」



雪は慌てて淳の方を向くが、彼は額を彼女の肩に付けているのでその表情は窺えない。

淳はそのままの姿勢で、小さく彼女に呟いた。

「ここ‥すごいうるさい‥頭痛い‥」



少し呂律の回らない、子供みたいな彼の呟き。

雪は淳の口にしたその意味を図りかねて、どういうことなのかと考える。

ど、どうしたんだろ‥酔っ払ったのか?酔って頭が痛いってこと?



雪が淳の顔を覗き込もうとした矢先、不意に淳がパッと顔を上げた。

ビクッと雪は少し驚き、若干彼から身体を離す。



すると淳は雪に近づき、耳打ちするように彼女の耳に手を近づけ囁き出した。

その声は小さく、何を言っているのか分からない。雪はその呟きに耳を澄ます。



ブツブツ‥ブツブツ‥ブツブツ‥

「うるさいうるさいうるさいうるさいマジうるさい超うるさい

うるさいうるさいうるさいうるさい‥」




ブツブツとうるさいうるさいと連発する淳‥。明らかに普通じゃない。

これは相当キテる‥!



雪は改めて彼の方を向いた。

淳はぼんやりとしながら、時折眠いのか首を傾げている。



雪は幾分慌てた。ここで倒れられたり粗相することになると色々と厄介だ。

どうしようかと周りを見回した後淳を窺うと、先ほどまでと雰囲気の違う彼がそこに居た。



いつも周りの空気を誰よりも読み、その場に最適な態度を取ってきた彼。

しかし今の彼はまるで違っていた。



まるで暗い所に一人で座っているような、その姿。

そしてその瞳は、瞬きもせずに暗闇を見つめていた。



フラフラする彼を見て、雪はマズイと感じた。

少しでも早くこの場から、一旦離れた方が良い。

「あ、あの‥!頭、酷く痛みます? ちょっと外出ましょっか?」



雪は彼を自分の方へ向かせると、顔を覗き込むようにして声を掛けた。

淳はぼんやりとしていたが、雪の言っていることは分かっていそうである。

そして雪は彼の顔を見ながら、その提案を口にした。

「静かなところへ行きましょう」



優しくそう問いかける雪を見て、淳は目を見開いた。

ノイズが溢れたその世界のドアを、彼女が開けてくれるのだ。



しかし思考回路は酒のせいで上手く回らない。

そのまま沈黙し続ける淳に、雪は内心苛つきながらも再び声を掛ける。

「私と一緒に、ここから出ましょう?」



ニコッと微笑みを浮かべた雪の顔を淳は暫し見つめていたが、

やがてコックリと頷いた。



ふぅ、と雪は息を吐くと、淳の腕を掴んで立ち上がる。

「あの、外に出てちょっと風に当たってきますね」



そう雪が言うと、皆了承して二人を送り出した。

「いってらっしゃ~い!」



雪は足元のおぼつかない淳の腕を取ったまま、外へと歩を進めた。

秋の夜空には、まん丸い月が浮かんでいる。



二人は肩を並べて歩き出した。

騒がしいことのない、静かなところへ‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<静かなところへ>でした。

焼酎四本‥先輩頑張りましたね‥^^;

繰り返す「うるさい」と「頭が痛い」は、幼少時のこのカットを思い出します。

親戚の誕生日パーティーにて、ラジコンを壊された時ですね。



この時は、この後笑顔の仮面を被って自分で解決してましたね。


しかし今回、騒がしい場所から優しい彼女が連れ出してくれました‥。



先輩、これは嬉しかったと思います。よかったね‥(ホロリ)


次回は<彼の本心>です。



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