Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

線の中

2016-03-24 01:00:00 | 雪3年4部(二度目の闇~線の中)


淳は瞬きもせずに、雪のことをじっと凝視していた。

相変わらず、彼女の紡ぐ言葉は淳の耳には入って来ない。



彼が自分の話を聞いてないことに気付いた雪は、若干苛立ちながらこう問い質す。

「ねぇ先輩、私の話流し聞きしないで‥」







淳はその言葉に応える代わりに、そっと雪へと手を伸ばした。

傷の無い左手で、彼女の肩を抱き寄せる。雪は、突然接近して来た彼に思わず驚いた。

「それより‥」「?!」



「どうしてまた話してくれなかったの‥?」



淳はそう言って、至近距離で彼女の瞳を見つめた。

雪はいきなりのその問いに、動揺を隠し切れずにたじろいだ。

「え‥?」



淳は更に雪を自身の方へと抱き寄せた。雪の額に彼の唇が触れる。

「危うく大変なことになるところだった。健太先輩の話、どうしてしてくれなかったの?」

「あ‥」



「それは‥」



狼狽える雪を、淳はじっと眺めていた。

雪はなんと言って良いか分からず、彼の唇が触れた額に手を伸ばす。

「‥‥‥‥」



やがて雪はバッと彼から身を離すと、正直なところを口に出した。

「だって証拠とか何も無かったから‥。

まさか健太先輩があそこまでやらかすなんて、本当に思いもしなかったんですもん!」




そしてその勢いで、雪は彼に対して聞きたかったことを切り出した。

「てか先輩はどうしてこのこと分かったんですか?!どうして大学に‥」

「ん?俺も教えない」「えぇ?!」






まさかの秘密返しに、雪はあんぐりと口を開けたまま固まった。

なんなのよぉ、と文句を言っても尚、彼は笑顔を崩さず話してはくれなかった‥。






教えてくれてサンキュ



淳からのメールが、柳楓の携帯に届いていた。

柳はその文面に対して、一人夕焼け空に返事を呟く。

「ありがたきお言葉~」



普段雪の傍に居られない淳が配置した、”目”としての役割。

その役割を見事果たした柳は満足そうに、そのまま一人帰路についたのだった‥。




「これからは証拠なんか無くっても、全部話してよ」



淳はそう言葉を続けた。

雪と向かい合いながら、自分達の間にある決め事を改めて口に出す。

「お互い何でも話そうって決めたろ?あの夜、」



「俺の家で‥」



”あの夜”、そのキーワードが出た途端、雪は血相を変えて淳の口を塞いだ。

こんな明るい時間から大学内で何を言い出すんだと、気が気じゃなかったのだが‥。

「? 話しただろ?」「あっ」



雪が思い出した”あの夜”の前半部分の話を、先輩はしていたのだった。

「あ‥そう‥ね、そうですね、話しましたね‥」

「うん。でしょ」



雪は自分が”あの夜”の後半部分を思い出していたことに赤面し、何度か咳払いをしてやり過ごした。

しかし今彼から言われた言葉は、まるで雪が常に秘密を抱えているかのようだ。

それを素直に聞き入れるには、どこか釈然としない思いだった。

いやいや‥最近毎日電話でつまんないことも全部話してたじゃん‥。

なぜよりによって今日に限って‥




しかもこの過去問盗難事件に関しては、簡単に口には出せない理由があった。

雪は慎重に言葉を選びながら、ゆっくりとその理由を説明する。

「ん‥でも今回は人を犯人として疑うようなケースだったから‥ちょっと慎重になる必要が‥」

「いや、雪ちゃんが疑うってことはある程度根拠があるってことだよ。

だから話してくれて構わない」




しかし淳はそんな雪の懸念など何も気にしないかのような、そんな言葉で雪を肯定した。

これには雪も少し笑ってしまう。

「えぇ~?」



冗談ぽくポンポンと肩を叩きながら、彼の発言に対してこう返した。

「どうしてそう言い切れるんですか!私、めっちゃ信頼されてるってことですか?w」

「当然でしょ」



けれど淳は笑わなかった。

雪のことをじっと見つめながら、その細い腕を掴む。



「俺以外の誰が、君の言葉を信じて君の味方になってくれるの?」



「だろう?」







真っ直ぐに自身を見つめる淳の瞳から、雪は目を逸らせずに固まった。

彼の瞳の中には、目を見開いて固まる自分が映っている。







それきり何も言わない淳を前にして、尚も固まる雪。

そしてどこか照れ臭さを感じながらも、やがて雪は小さくこくりと頷いた。








ゆっくりと、手を伸ばす。

淳は自身の領域の中へと、彼女を招き入れた。

「ほら、やっぱり」



ここは、線の中。

彼が大切にしているテリトリーの、最も重要な場所ー‥。

「俺しか居ない」







雪は目を見開きながら、いつの間にか身動きも取れない程彼の傍にいることに気がついた。

自分のせいで傷を負った彼の右手が、手の上に置かれている。



首元に置かれた左手。

彼が触れる自身への接点は、まるでピンのように雪を固定する。

まるで気に入った蝶の標本を、そこに留めるかのように。



「だろう?」





耳元でそう囁かれた途端、脳裏にとある記憶が蘇って来た。

雪の心に暗雲が立ち込める。

遠くで聞こえる雷鳴が、雪を過去へと引き摺り込んで行く。







一年前の回想を終えた雪の中で、あの言葉が蘇った。

取って食われる



目の前には自身をじっと見つめる彼の姿。

取って食われてしまう



あの頃雪は、彼から異常なほど影響を受けていた。

どんなに逃げても逃げ切れない彼の前から姿を消すために、休学まで決意して。







まるでピンで固定されているかのように、彼の左手が触れた箇所が動かない。

目を見開く雪に向かって、淳は目を細めながらこう言った。

「だろう?」



蘇る。

本気で取って食われてしまう



あの頃の言葉が、感情が、雪の心を縛り付けるー‥。





雪は僅かに顔を上げた。

そこには、穏やかに微笑む”青田先輩”の姿があった。




暗雲が立ち込めていた雪の心の中に、ふと一筋の光が差し込む。


‥と、思っていた。







雪は淳のことを凝視したまま、そっと彼の左手に自身の手を伸ばした。

手は動く。当たり前だ。

本当に、ピンで固定されているわけじゃない。




雪は自身が辿って来た数奇な運命の軌跡を、彼の手に触れながら思い出していた。

いつか思い描いていた理想の幻の体温は、随分と温かかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<線の中>でした。

主人公カップルがこんなに触れ合っているというのに、どうしてこんなに怖いんでしょう‥。

耳元で囁くラストは、「これからは気をつけろよ」のあの場面を彷彿とさせますよね‥。



この保健室では、淳が常に雪を観察しているというか‥。

自身が撒いた種が雪の中に芽を出しているかを確かめているかのような、どこか不気味な印象を受けました。

この後は再び過去回想です。また過去に隠された真実が、新たになるのでしょうか‥。


次回は<<雪と淳>あの日の続き>です。

カテゴリは<学祭準備>に入ります。


2016.5.12

4部33話の最後の8コマを加えました。
  
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彼と彼女・保健室

2016-03-22 01:00:00 | 雪3年4部(二度目の闇~線の中)


ここはA大学内にある保健室。

そこにあるベッドの上に、淳はキョトンとした顔で座っている。



彼が見つめる先には、慌ただしく動き回る彼女の姿があった。

「薬ぃ!」



「薬!薬どこだっけ?!絆創膏!絆創膏は?!包帯はぁ?!」

  

保健師不在の保健室内を、雪は薬を求めて走り回った。

しかし淳はというと、のんびりとその室内を見回している。






今自分が座っているベッド。

去年はここに寝ている彼女のことを、静寂の中で見つめていた。



眠る彼女の疲れ果てたその顔を、今もありありと思い出す事が出来る。

あの時淳は、現在へと繋がる第一歩を踏み出したのだ‥。







淳はあの時のことを回想し、どこか懐かしい気持ちになって一人口角を上げた。

見つめる先には、今や自分の為に奔走する彼女が居る。

「そういうのってギブスとかで固定しなきゃじゃなかったですっけ?!

ここにはそういうの無いみたい‥」


 

「どうしよう~~?!」



心配そうな表情の雪を見つめながら、淳は一人満足そうに微笑んでいた。

やがて薬を見つけた彼女は、傷ついた彼の右手を介抱する。

「あーもう‥」



雪は室内で見つけた軟膏を手に、不満そうにこう漏らした。

「この軟膏、なんか古いみたい‥」



「先生もいないし、ソッコーで薬局行って新しいのを‥」

「え?いいよいいよ」



雪のその提案に、淳はただ首を横に振った。

まるで良いことでもあったかのように、嬉しそうに微笑みながら。






雪はなぜ彼がそんなに笑顔なのか分からなかった。笑ってる場合じゃないはずなのに‥。

とりあえず気持ちを落ち着けるために、「ふぅ、」と一つ息を吐く。



そして雪はその傷ついた右手を、改めて見るよう彼に促した。

「ほら、見てみて」



「全然腫れが引かないじゃないですか。本当に大丈夫なんですか?

どう見ても普通じゃないですよこれ」




「でしょう?」



しかし淳は、自身の右手など見ていなかった。

真剣な表情で言葉を続ける、彼女の顔をじっと見ている。

「今からでも大学病院に行ってちゃんと‥」



「ん?大丈夫だよ」「何が大丈夫なんですか」



大丈夫を繰り返す彼を、雪は少し諭すように注意した。心配そうに見上げながら。

「後ででもいいから、ちゃんと病院行って検査受けて下さい。絶対ですよ?」



「うん。分かった」



そう言ってニッコリと微笑む淳。

雪はそんな彼を見て、やはり納得いかないといった表情を浮かべる。







傷ついた右手に、雪はそっと自身の手を添えた。

そして細心過ぎる程の言葉で、切々と彼にその傷の状態を伝える。

「時計のお陰で傷が殆ど無いのは幸いだけど‥

ぶつかった衝撃で骨に異常が出る場合もあるから‥」







伏目がちに言葉を紡ぐ雪。

しかし雪が紡ぐ言葉は、ほとんど淳の耳には入って来なかった。



小さく動くその口元を、淳はじっと凝視し続ける。



今雪は、淳のことだけを見て、淳のことだけを考えている。



その伏せられた睫毛も、知的そうなその眉も、その柔らかで豊かな髪も、

雪の全てが、その全てが今、淳に注がれている。



彼女の大腿の上に置かれた自身の手。

傷ついたその手を、雪がゆっくりと癒して行く。







優しく自身の手に触れる雪のことを、淳はただじっと見つめていた。

胸の中にあるその考えが、彼女を見つめる内にだんだんと膨らんで行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼と彼女・保健室>でした。

終始笑顔か目をくりっとさせて雪を見る淳‥。

夕方の保健室に二人きりのこの状況、普通ならちょっとときめき展開だと思うのですが‥

何だか変な雰囲気ですね。

続きます。

次回は<線の中>です。

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あの日の彼女

2016-03-20 01:00:00 | 雪3年4部(二度目の闇~線の中)


項垂れながらベンチに座る聡美に、太一は缶ジュースを差し出した。

しかし聡美は頭を下げたまま、一向にそれを受け取ろうとはしない。

太一は缶を持ったその手を、ゆっくりと引っ込めた。



あと一歩でケガをしていたかもしれない雪の姿が、聡美の脳裏に何度も浮かんでいた。

聡美は重たい胸の内を持て余しながら、ポツリとこう口を開く。

「あたし、雪が健太先輩ん所に話しに行ったことさえ知らなかった‥」







寂しそうにそう呟いた聡美の顔を、太一は何も言わずに見つめていた。

すると彼女は、突然太一のマフラーを引っ張りながら声を上げる。

「ていうか、どうしてあの子あたしに何も言わないの?!ねぇどうして?!」

 

しかし太一が口を開く前に聡美は自分でその理由に気づき、息を吐いた。

「ううん、違うよね。あたし、知ろうともしてなかった‥」



頭を抱えながら、眉を寄せ俯く聡美。太一はそんな彼女をじっと見つめている。

「最近テンパってて‥。あたし、この頃変なの」

 

その表情は、幾分何かに怯えているようにも見える。

「雪のことどうでもよくなっちゃったのかな」



「ううん、そんなこと無い‥絶対‥」



聡美は何度も頭を横に振りながら、そのまま目を閉じた。

瞼の裏に、去年のあの日の光景が浮かんで来る。







「雪!!!」



泣きながら彼女の名を呼ぶ聡美の声が、廊下に響いた。

太一におぶられた雪に向かって、聡美は大きな声で呼びかけている。

「死なないでぇぇ!あたしを置いて死んじゃイヤァァ!」

「死にませんヨ。とりあえず病院に‥」「いや‥病院はちょっと‥」



パニックになる聡美とは対照的に、太一と雪は冷静だった。

特に雪は、先ほど腹部に激痛を覚えて倒れたというのに、自身の体調を冷静に客観視してこう口にする。

「ちょっと寝てれば良くなるからさ‥」

「それじゃ保健室に行きまスか」



自分の身体は自分が一番良く分かってる、と雪が言うので、

太一は行き先を大学病院から保健室へと変更した。

しかし保健室で横になっても尚、雪は苦悶の表情を浮かべて苦しんでいる。

「どうしてこんなことになっちゃったのぉ‥」



聡美は雪の傍らに座りながら、ポロポロと涙を零して声を震わせた。

「最近なんかやたら大変そうだなと思ってたら‥アンタって子はもう‥!」

「俺、ちょっと温かいもの買って来まスね!」



太一はそう言って保健室を出て行ったが、聡美の耳には何も入っていなかった。

辛そうに喘ぐ雪。聡美は彼女の額に手を当てる。

「熱あるじゃん!」



「ここって薬は‥」



そう言って立ち上がりかけた聡美だったが、いつの間にか握られていた手に引き止められた。

布団の間から出た雪の手が、聡美の手をぎゅっと掴んでいる。



心配そうに覗き込む聡美に、雪は掠れる声でこう声を掛けた。

「いいからもう授業行きな。私は一眠りすれば治るから‥」



「でも‥」「聡美」



雪は力なく微笑みながら、聡美に温かな言葉を掛ける。

「優しいね。どうしてそんなに泣くの」



「私は大丈夫だから」



「本当に大丈夫だからね‥」



瞳を涙で潤ませる聡美のことを、雪は熱に浮かされたぼんやりとした顔で見つめていた。

この時のことを、聡美はこう回想している。

手を繋いでいたのに、どうして一人ぼっちで居るみたいに感じたんだろう‥



あの日の雪は、あたしには温かい言葉を掛けておきながら、



雪は一人、ぺしゃんこになっているように見えた



その姿が‥









「全然「大丈夫」には見えなかった。あんなに熱があったのに、氷みたいに手が冷たかったの」



あの日の彼女のことは、まるで昨日のことのように思い出せる気がした。

胸が潰れそうになるあの思いも、熱で朦朧とした雪の顔も、繋がれたその冷たい手も。

「だからあたしは誓ったの。雪の傍にいるって、絶対一人きりにしないって。なのに‥」



胸の中に、後悔の波が押し寄せては自身を責めた。

聡美はぎゅっと目を瞑りながら、懺悔するように言葉を紡ぐ。

「雪が健太先輩にああされてた時に、あたし‥太一と喧嘩なんかしてたよ‥」



「そうだよ、雪は何度も話そうとしたのに、あたしは他のことに気を取られて‥もおっ‥あたしっ‥!」

「落ち着いて」



取り乱す聡美に、ようやく太一が声を掛けた。

彼女の肩を両手で掴みながら、真っ直ぐに瞳を見つめてこう話す。

「雪さんはいつも一人で乗り越える人です。今はあの時よりも、もっと上手に乗り越えてる」



「だから聡美さんが毎回心配する必要はありませんよ。

それは別に雪さんを一人きりにするって意味じゃないと思います。

それに今は青田先輩もいることだし‥」




「だから大丈夫です」



「本当に」



太一の言葉は、まるで魔法のように聡美の気を落ち着かせる。

聡美は真剣な太一の顔をじっと見つめながら、彼の話す言葉を静かに聞いていた。

「あと‥俺も、一人で乗り越える派の人間です。

恋愛に関しても、自分で決めますから‥」




太一はそう言って、改めて聡美のことを見つめた。

互いの間に絡んでいた誤解を乗り越えた今、正直にその気持ちを言葉にする。

「恋愛に関して、俺は、」



「俺は、上手くやって行ける自信があります」



「あとはもう、聡美さんの気持ちだけです」



そして太一は、真っ直ぐに彼女が抱えるその問題を口に出した。

「何がそんなに怖いんですか?」






太一のその真剣な眼差しの前で、聡美の胸はぎゅっと押し潰されるように鳴った。

今まで避けてきた問題とその答えの在り処を、彼は心から知りたがっている。






暫く太一と目を合わせていた聡美も、やがて目を逸らして俯いた。

怖い。

口に出して、全てが壊れてしまうのがすごく怖い‥。



それでも聡美は決心した。その真実を口にする決心を。

ぎゅっと自身の手を握った後、再び太一の方を見上げる。

「あんたが‥」








気がつくと、聡美は太一の胸の中に居た。

ドクンドクンと、彼の高鳴る鼓動を感じる‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<あの日の彼女>でした。

太一と聡美、盛り上がって参りましたね~~!

このまま幸せになってもらいたい!!頑張れ太一!!



そして今回回想で出て来た場面は、「去年雪がストレスで倒れた」時ですね。

時系列では「私休学する」の前になるのかな?



そして雪のこの言葉‥

「私は大丈夫だから」



手を怪我した時の先輩と一緒ですね。

「俺は大丈夫だから」



雪にそう言われた聡美の表情と、先輩にそう言われた雪の表情も被ります。

 

で、今気づいたんですが「私休学する」の時のコートと泣きそうな雪の着てるコート、一緒ですね。

 

しかしこうして見ると絵柄、結構変わっていますね~。もう連載開始から6年ですもんね。

月日の流れるのは早い‥。


次回は<彼と彼女・保健室>です。

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彼らの誤解

2016-03-18 01:00:00 | 雪3年4部(二度目の闇~線の中)
「ちょっと!」



夕焼け空に、聡美の声が響いた。

しかし太一は構わず、彼女の手を引きズンズンと進んで行く。

「何よこれ!離してよ!ちょっと!

あの人放っとくの?!何なのよマジで!」




先ほど起こった健太と雪との問題。

聡美はあと一歩のところで雪がケガをしていたと思うと、堪らない気持ちだった。

未だ健太に食ってかかろうとする聡美を、太一は強く引き止める。

「だから‥」



「あっちは青田先輩に任せて、もう止めましょう」



太一は聡美の肩に手を置きながら、彼女の気持ちがどこにあるのかを見極め、こう言った。

「聡美さん、今怒ってるのって健太先輩に対してだけじゃないでしょ」







聡美は太一のその言葉で、少し前の自分達のやり取りを反芻する。


<約10分前>

「だーかーらー!どうして聡美さんが萌菜さんに対して俺のことよろしくとか言うんスか?!

俺そういうの、ムカついて辛抱たまらんのですよ!ムキーッ」




まるでマシンガンのように、太一は聡美への怒りをぶち撒けた。

「オカンか?!彼女にまで口出しするオカンか?!つーかオカンだってそこまでしないデスよ!」

「は‥?!うちらの仲って、この程度も口出ししちゃいけない仲だったっけ‥?」



そこまで言われては、聡美も黙っちゃいられない。

「確かにお節介だったかもだけど‥それだけでこんなに怒る?!

ていうかこんなの今に始まった話じゃないじゃん!どうして今更‥太一アンタ、本当に冷たくなったよ?」




しかし怒りを吐き出すだけ吐き出したら、今度は寂しさが襲って来た。

聡美は泣きそうな顔で、太一にこう質問する。

「ていうかまさか‥それすらウザくなったの‥?」「はい??」



しかし太一にとっては、聡美のその言動は謎でしかなかった。

自分と彼女を繋いでいる糸が、見えないところで絡まって解けないような、そんな状態。

全てがこんがらがる現状と彼女を理解出来ないフラストレーションで、太一は火を噴きながら頭を抱えた。

「もうあたしが‥こういうことするの全部嫌に‥」

「ちょ‥マジで何の話スか‥?!」



「つーかそもそも、どーして口出ししてくるんスか?!なんでっスか?!」



感情に任せガーッと吠える太一。

そんな太一に圧倒されながらも、聡美は遂にその理由を口に出した。

「だから‥アンタ萌菜さんのこと好きなんでしょ?!

あたしは上手く行って欲しくてー‥。もう!どうして言わせるのよ‥!」




「はぁぁ?!」



太一の素っ頓狂な叫びが、辺りにこだました。

目を丸くする聡美の前で太一は、目も口も大きく開けたままその場に固まる。



そして声を震わせながら、太一はその真実を口に出したのだった。

「ど‥」



「どーして俺が?!一体いつそんなことに?!」



そのあまりの大声に、聡美は思わず耳を塞いだ。

「てか‥どーして俺がバイトしてると思ってるんすか!」

「ちょ‥」



しかし太一は、ようやく知った事実を前に動揺を隠せない。

ハッ、ハッ、と肩で息をしながら目を剥いている。



そしてずっと隠して来たその秘密すら、太一は口に出し始めた。

「聡美さんが欲しがってたあのピアス買うために、

俺が今いくつバイト掛け持ちしてると思ってんスか?!」
「へ‥?」



聡美はその事実を前に、ただキョトンと目を丸くする。

「もー!マジかよ‥!

サプライズにしようと思って我慢してたのに‥言うしかなくなったじゃないスか!

聡美さんが俺のことそんな風に‥もーー!」




太一は一人頭を抱えて悶絶した。

そして溢れるその感情を、少し違うベクトルへと伸ばして声を上げる。

「俺はそうやって頑張ってんのに、聡美さんはまた合コン行くんじゃないスか!

自分のことは棚に上げて、俺には説教スか?!怒ってんのは俺の方スよ!」




「なにそれ?!あたしがいつ‥」

「山田先輩から聞きましたヨ?」



「聡美さんに合コンセッティングしてあげたって!」



再びガーッと吠えた太一であったが、今度は一人ブツブツと何やら呟き始めた。

「暫く大人しくしてたと思いきや‥

けどまた聡美さんのタイプのマタトナイ年上ギラギラ男が現れたら‥もう致命的‥ブツブツ


「何言ってんのよ!勿論断ったよ?!」







聡美のその一言で、太一の動きがピタと止まった。

聡美の方をじっと見る太一を、聡美は目を丸くして見つめている。



太一は意外そうな調子で、こう聞き返した。

「マ‥マジっすか?」「う、うん!」



聡美がそれを肯定しても、太一は未だ信じられないような顔をしている。



太一は聡美の顔を覗き込みながら、不思議そうにその理由を聞いた。

しかし聡美はそんなことよりも、先ほど太一が口に出したその事実の方が気になる。

「なんでッスか?どうして断ったんスか?つーか聡美さん合コン断ったことありましたっけ?

「あ‥あんたこそ!本当にあのピアス‥」



「あたしに‥」



そして二人は、互いに目を丸くしながら見つめ合った。

二人の間に絡んでいた誤解という名の糸が、するすると解けて行く‥。




どちらかが口を開く前に、外から聞き覚えのある声がして、二人はそちらを向いた。

ガラス戸の向こう側に、柳楓や佐藤広隆の姿が見える。

「早く早く!あの人マジ‥ったく!」



「赤山ぁー!」






柳が発した”赤山”という単語に、思わず二人は目を丸くした。

そして二人はその誤解を完全に解く前に、柳の後を追いかけて走って行ったのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼らの誤解>でした。

亮の過去編+亮のモノローグ回を挟んでの、現在に帰って来ましたね。

遂に聡美と太一の間にあった誤解が解けそうな予感です^^

この二人にはサクッと幸せになって欲しいですね。じれったい~~


次回は<あの日の彼女>です。

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解放

2016-03-16 01:00:00 | 雪3年4部(二度目の闇~線の中)


深く沈めたあの事件の記憶が、まるで昨日のことのように蘇った。

左手は今も変わらず震え続けている。



それはまるで呪縛のように亮を縛った。

あの過去から、目を逸らすことを拒むかのように。



亮は暫し自身の手を見つめていたが、依然として制御不能だった。

右手を壁に付き、呆然としながら今の状況を持て余す。

「どうして‥」



「どうしてまた‥どうして‥」







立ち尽くす亮の数メートル先では、未だ先程の大男と柳や佐藤が言い争っていた。

しかし過去の記憶を巡って戻って来た亮にとっては、先程のことの方がずっと前のことに感じられる。



結局亮は何も出来ずに、壁に凭れたままただその場に座り込んだ。

ぼんやりと、ただアスファルトの地面を目に映しながら。



左手は未だ言うことをきかない。

亮の頭の中に、先ほど思い出していたあの日の淳が蘇る。



お前はそこまでだ



あの日言われたその言葉の本当の意味を、亮はこれまで理解していなかった。

いや、理解しようとすらしなかった。

けれど今初めて、その思いの一片を感じ取っている。

お前が言った”線”が何なのか



先ほど自身に向けられた、剥き出しのその嫌悪。

去って行く背中。

まるで、これ以上は立入るなと警告されているかのような。



今まではただそれに首を捻ってばかりだった。

けれどそこにある淳の思いに、今亮は初めて一歩踏み出している。

その線の向こう側が、お前にとってどれだけ大切なのか



それに思いを寄せると、あの時言われたその言葉の続きにも触れられる気がした。

お前は永遠に分からないし、絶えず俺を‥



その言葉に込められた怒りは、今もずっと続いている。

そこにある淳が大切にしているもの。亮はそれを今日、初めて認めた。

確かにもう、分かったよ



オレがバカだったんだ。全部‥



ダメージとオレを重ね合わせて考えんのも



脳裏に、いつか見た幻影が思い浮かんだ。

傷ついた顔を覆いながら、枕元で泣く雪の姿が。

絶対裏切られるだろうって



ダメージとオレは同じだって



彼女のことが気になりだした、それが始まりだった。

それでついつい気になって、



干渉するようになって、



そうするうちに‥



亮はただ、自身の足元を見つめて黙りこんだ。

胸を占める彼女への想い。それはもう、紛れも無い事実だった。

「‥‥‥‥」







やがて亮はその想いへの扉を閉め、ゆっくりと上を向いた。

目の前には、橙色の空が広がっている。

‥そうじゃなかったんだな



自分と雪は同じだと思っていた亮。

けれど今初めて彼は、それに違うと思い至る。

最初はただアイツの思い通りにさせねぇために近付いただけだったのに‥

オレはまた、触っちゃダメなもんに触ってたんだな




再び亮は下を向き、思いを馳せた。

気づかぬ内に、再び踏み出してしまっていたことに。

そうだよな。さっきのデカイ奴にだって、オレが手を下す必要なんてねぇ。

また淳の野郎が、昔みてぇに制裁するだろ




そしてその次は、オレだ



オレがまた、線を越えようとしたから。







左手が、震え続けていた。

鼓膜の裏に、淳の声が響く。歯を食いしばる淳の表情が、瞼の裏に浮かぶ。

お前は永遠に分からないし、絶えず俺を‥



あの時その言葉の続きを、聞き取ることが出来なかった。

だからかもしれない。未だにどこにも進むことが出来ないのは。

そうだよ。ぶっちゃけまだ分かんねぇよ。

オレはバカだから、きっと一生分かんねぇ。

どうしてお前は、他の人間よりも過剰な反応をするのか。お前の本音は、一体何なのか




どうしてここまで、状況がこじれちまったのか‥



真実は、もっとシンプルだったに違いない。

その証拠に次々と、胸の中に切ない感情が溢れて行く。




その記憶の中に、本当のことは一体どれだけあったろう。




まるで兄弟のように、肩を並べて学校に通った高校時代。




何のプレッシャーも無く、ただ楽しく雪とピアノを弾いたあの地下倉庫。




まるで家族のように、一緒にテーブルを囲んだ青田家での晩餐。




何の隔たりも感じさせず、自身を家族の一員のように思ってくれた赤山家。




引き摺っていたピアノへの未練に、そっと手を差し出してくれたあの日の雪。




喧嘩の後で、一緒に花火をしたあの夜の淳。




目に見えない何かに惹かれるかのように、彼女の手首を握ったあの夜の鼓動。




初めて目にした、何の屈託もない淳の笑顔。




この胸をいっぱいにさせる、大好きな雪のその微笑みーーーー‥。






本当のことはたくさんあったのに、

吹っ切れない過去が盲目にさせて、頑なに今までそれに気付こうとしなかった。

誰もそれを、強制なんてしなかったのに‥。



亮は地面に付いた左手を眺めながら、こう思った。

いいじゃねぇか、もう終わらせよう



もうオレも、全部終わらせてぇんだ‥。

オレも静香も、ずっとここで、こんな体たらくのまま生きては行けない




亮は静かに、一人決意する。

自分で自分をがんじがらめに縛り付けていたその呪縛を、解放する時が来たのだと。

終わらせよう



真っ当に生きてみたかったけど、やっぱオレには無理みてぇだ



地面に付いた左手を上げ、手の平を見つめてみた。

左手は、未だ不規則に震え続けている。

「あぁ‥止まれよ」



「止まれ‥」



いくら見つめても、何度念じても、震えは止まらなかった。

希望から絶望まで、全てを知ったその左手。

その左手が、改めて亮に教える。

過去は決して消せはしない、と。終わらせる時が来たのだ、と。



「止まんねぇか‥」



橙色の夕焼け空に、亮の呟きがポッカリと浮かんだ。

胸に閊えていた暗闇が、その声に乗って空へ昇って行く‥。



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<解放>でした。

亮が、初めて淳の抱える思いに思いを馳せた、記念すべき回でした。

亮もまた淳と同じく、「雪と自分は同じ」という思いを抱いていたのですね。

そして淳の抱える思いを知ると共に、「それは違った」ということに思い至る、という‥。

諦めがこのような結論に導いたとすれば切ないですが、

亮さんには、ここからまた新しい一歩を踏み出して欲しいですね。

次回は<彼らの誤解>です。

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