Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

落ち着ける場所

2014-05-11 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
家へ続く道を、雪はトボトボと一人歩いていた。

鉛のように重い身体を引き摺りながら。



お腹の調子が良くないな‥



さっきからずっと、胃の辺りに不快感がある。

雪はお腹を擦りながら、自身の体調が芳しくないことを懸念した。

なんか食べたものが消化不良でもたれてるって感じ‥。疲れたな‥。

帰ったらすぐに寝‥




そう思いかけた雪だったが、ベッドに辿り着くまでにやらなくてはいけないことが山のようにあることに気がついた。

課題が1,2,3,4つ‥。そろそろ中間考査‥。



時間がどれだけあっても足りない‥。

雪は溜息を吐きながら、ふと携帯を取り出して発信を押す。青田先輩への電話だ。

 

先輩は、朝のグルワの授業に出てからすぐインターンに行ってしまった。

どうしているかと思って掛けてみた電話だが、いつまで経っても彼は電話に出なかった。

コール音だけが、虚しく何度も響くのみだ。雪は電話を切った。



そして少ししてから、メールが来た。

会食中なんだ ゴメン~ TT TT



なんだかガックリと力が抜けるようで、雪は項垂れながら歩いた。

きっと先輩は”美女と野獣”のような長テーブルで、優雅に会食中なのだろう‥。



すると突然後方から声がしたと思うと、次の瞬間強い衝撃が膝の裏に走った。

「とぉっ!姉ちゃ~ん!」 「??!!」



いきなりの膝カックンで、雪の身体は前方へ勢い良く飛び出した。

あわや転ぶかと思われた時、力強い腕が雪の身体を抱き止める。

「っと」



雪が目を丸くし顔を上げると、近くに彼の顔があった。

ニヒルな笑みを浮かべる亮は、端正な顔立ちで雪を見つめる。



亮は雪を支えていた手をゆっくりと外し、彼女を立たせてニヤニヤ笑った。

雪は何が起こったのか未だ理解出来ないまま、亮が触れていた部分を意識し赤面する。



「転ぶと顎が擦れちまうぜ」と言う亮の隣で、「膝カックンの勢い強すぎた?」と言って蓮が笑った。

彼等の冗談めいたやり取りに、雪がたしなめるように声を上げる。

「ちょっと!こんなこと止めてって言ったでしょ?!」

「お前こそボーっとして歩いてたくせに」 「そーだよ!呼んでも姉ちゃんが気付かんからだろー」



秋の夜道に、三人のワイワイ騒ぐ声が響く。

雪はようやく落ち着いて、「何で二人が一緒に居るの?」と蓮と亮に向かって質問した。



すると蓮は探偵よろしく、鷹の目で亮に視線を送る。

「俺今日姉ちゃんの大学に行ってきたんだけど、その近くで亮さんとバッタリ会ったわけよ!

な~んか怪しいなぁ~?何で大学の近くに居るのよ?」




「アンタの方が怪しいっつーの。何でうちの大学に‥」 「おい坊や、オレにもプライバシーってもんがあんだよ」

亮は自分が大学に居た理由は流しつつ、蓮の肩に手を掛けて言葉を続けた。

「もうさっさと帰ろーぜ。

ダメージヘアのやつれた姿からして、大学ってのは超疲れる所みてーだからよ」




亮はそう言って、疲れた雪を慮って蓮をたしなめる。

亮にフォローされた雪は頭を掻きながら、なんだか気まずい気持ちだ。きっと見るからに疲労ダダ漏れなんだろう‥。

雪は息を一つ吐いて、気を取り直して二人に聞いた。

「もう夕飯は食べました?」



そして三人は連れ立って歩いた。肩を並べて、ワイワイと賑やかに。

「キンカンが奢ってくれた!」 「ちょっとアンタ‥恵だってお小遣いもらってる学生の身なんだからさぁ‥」

「タメなのに奢ってもらってんのか?金無いのは同じだろーに」 「そうよそうよ!」



まるで兄と姉のように蓮を諭す、亮と雪。

彼等は肩を並べながら、すっかり涼しくなった季節の中を歩いた。


そんな中亮は、フッと雪に視線を流す。

色素の薄いその瞳が、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめていた。



雪がその視線に気づいて見上げると、亮は意味深な笑みを浮かべて顔を背ける。

その表情はどこか含みがあって、そしてとても美しかった。

 

何故こんな視線を寄越すんだろうと思って、雪は赤面した。顔が熱くなって、思わず手で扇ぐ。

亮は満足そうな表情で、蓮に向かって声を掛けた。

「弟よ、お前女をその気にさせるテク知ってる?オレから学ぶ必要がありそーだな!」

「ほっほぉ~!」



身を乗り出す蓮に、武勇伝が聞きたいかとドヤる亮。

雪は二人の間で呆れ顔だが、とても心地良い空間だった。

「オレ上手く行ったんだぜ?」 「聞かして聞かして!」



裏表の無いこの二人と接する時、雪は気楽に構えていられる。

いつも自身を悩ませる考え過ぎの癖も息を潜め、この落ち着ける場所でただ単純に笑って居られるのだ。


昼間疲労の海の中で揺れていた自分が、ゆっくりと浮上する。

とりあえず‥些細な事がさざ波のように押し寄せたとしても、

それはあくまでもさざ波に過ぎない。




誰しもがそうであるように、耐えることが出来る。

いつも、そうしてきたように。



私はまだ頑張れると、雪は心の中で思った。少し楽になった気持ちの余裕が、雪の心の岸に防波堤を作る。

さざ波は、未だ押しては返しを繰り返すけれど。




そして日々は過ぎて行く。


清水香織はレポートに燃えるが、どこかピントがズレているらしく佐藤のダメ出しを幾度となく食らった。

(佐藤は香織に「これが量で勝負する課題だと思うか?」と口にする。

以前淳から言われていた台詞を佐藤が口にするとは、リーダーの自覚がそうさせるのだろうか?)

 

雪はやはり健太に悩まされていた。

課題の話題になると逃げ出す健太。彼は頼みの綱の佐藤にも、避けられてばかりのようだが。

 

味趣連は相変わらずで、居眠りする雪を起こしては今日も美味しい店へと繰り出す。

太一のゲーム好きも相変わらずだが、聡美は特に責めもせず関係は安定を保っていた。



先輩はインターンが忙しそうだ。

”ゴメン 今日も仕事が山積み”というメールを受け取った。



けれど空いた時間を見つけては、図書館の横の非常階段で電話した。

時間としてはほんの十分、十五分の短い会話だったけれど。



二時間弱掛けて家に帰ると、忙しい店を手伝った。

オープンして暫く経つが、未だ客足は多く猫の手も借りたい状態だ。




駆け抜けるように日々は過ぎて行った。


そしていよいよ、グループワーク発表の前日になった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<落ち着ける場所>でした。

前回のラスボス淳とは打って変わって、雪が信頼する‥というか裏を探らなくて良い亮と蓮との場面でした。

素直に笑う雪ちゃんが良いですね。

亮はやはり雪の気を引くことに重点を置いている気がします。淳に当てつけるという意識でやってると思いますが、

彼女が気になるという無意識に根付いた感情で‥。^^ふふふ


次回は<彼女の覚悟>です。



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彼女の潜在意識

2014-05-10 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)


空には夕焼けが広がり、A大キャンパスは橙の陽射しに照らされていた。

雪はもう一コマ授業が残っていたので、空講時間に図書館のアルバイトをする。



返却された本を元あった棚に並べ、また取りに行って並べ‥の繰り返しだが、雪は真面目に取り組んだ。

そして一コマ分の労働が終わると、今日最後の授業へと向かう。



窓の外は既に暗くなり始めていた。雪はノートを取りながら思わず船を漕ぐ。

今日一日の疲れがどっと押し寄せ、何度も眠りに落ちては覚めての繰り返しだった。



思い返せば今日一日もまた、長い一日であった。

週末の疲れが残ったまま学校が始まり、朝の授業前にいきなり清水香織が突っかかってきた。

グループワークでは健太先輩と揉め、その後太一に対する横山の態度と変なメールにムカついて‥。

 

 

雪は疲れていたのだ。

その疲れは、帰宅途中の地下鉄でもとれることはなかった。



片道二時間弱の帰路。

地下鉄の単調な揺れに身を委ねながら、雪は深い眠りに落ちて行った。










気が付くと、雪は真っ暗な空間に一人立ち尽くしていた。

そこは暑くもなければ寒くもなく、見たことも来たこともない場所だった。



何故今自分はここに居るのか、一体誰に連れて来られたのか‥?

雪は何も分からないまま、ただその場に立ち尽くす。


すると近くでぼんやりと明かりが灯り、そこに人影が見えた。

見たことのあるようなないような、そんな女性が誰かに声を掛けている。

あ、香織ちゃん!今回首席だって?



奨学金も受けたんでしょう? いいなぁ!



女性が声を掛けている先には、笑顔で手を振る清水香織の姿があった。

周りの人達は皆、彼女を羨望の眼差しで見つめていく。

そしてその隣には、青田先輩の姿があった。

お疲れ様。夕飯でも食べに行こうか

はい~



彼が清水香織に向かって笑いかけている。

雪は首を傾げながら、「先輩‥?」と彼の行動を訝しがった。



どこかおかしい。

雪のその思いは、続いて目の前に広がった光景を見て尚の事顕著になった。

ダメージヘアー! 雪さ~ん 雪~! 姉ちゃん!交通費ちょーだい! 雪ねぇ~



皆が雪の名を呼んでいる。

いつか見た甘い夢の中で、自分に向かって微笑む大好きな人達が。

 

  

しかし今彼等が囲んでいるのは、自分ではなかった。

赤山雪が居るはずの場所には、清水香織が居るのだった。

「な‥何なの‥?」



雪は信じられない思いで、目の前の光景を眺めていた。

彼等はここに居る自分には気づかずに、楽しそうに笑いながら行ってしまう。

「?!」



すると雪の足元に、突然誰かが足を引っ掛けて来た。

雪はそれに引っかかり、その場で派手に転んでしまう。



雪は暫く痛さで動けず、その場にうずくまっていた。

這いつくばったような格好で。



するとヒタヒタと、何かが近付いて来る気配がした。

雪が顔を上げると、そこには見知った顔が雪を囲むようにして立っている。



その人物とは柳瀬健太と横山翔、そして清水香織であった。

目を丸くする雪を見て、彼等はクックックと可笑しそうに嗤う。



雪はその場から動けなかった。しゃがみ込んだ体勢のまま、顔面蒼白する。

エコーがかかったような三人の不気味な笑い声が、暗い空間に響き渡った。



そして次の瞬間、ギョッとするようなことが起こった。手のひらが透けて、向こう側が見えているのだ。

暗い空間に、ゆっくりと溶けるようにして自分が消えて行く。



すると向こうの方から、もう一つこちらに近付いて来る影が見えた。

ヒタヒタと静かに、その長い足はゆっくりとこちらに向かって来る。



既に半身が消えかかっていた。

顔を上げた雪は、近付いて来たその足の主を見て目を見開く。



彼は消えて行く雪を眺めながら、平然とした表情で彼女と同じ目線に合わせ、背を屈めた。

雪は消え入りそうな声で、彼を呼ぶ。

「先輩‥」



徐々に暗転していく視界の中で、最後に見たものは彼の笑みだった。

まるで裂けたように上がる口角。あの奇妙な笑みー‥。



全ては彼の思惑の中、奪われていく自分、消え行く存在、去って行く大好きな人達。

雪の潜在意識の中に、昼間目にした彼が居る‥。










バッ、と雪は顔を上げた。

目の前に広がる光景は、見慣れた地下鉄のそれだった。



いきなり大きな仕草と共に起きた雪に、周りの人達は訝しげな視線を送る。

雪は決まり悪さを感じながら、一人頭を掻いた。



背中に、嫌な汗をかいていた。

血の気が引くような、あの身体が消えて行く時の感覚が、未だ残っているような気がする。

何これ‥?超変な夢‥。



ドクドクと、鼓動が早鐘を打っている。血液が指先まで流れているのを感じる。

しかし先ほど味わった自分の身体が消えて行くあの恐ろしさは、あの嫌な感覚は、

到底拭い去ることは出来なさそうだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の潜在意識>でした。

昼間目にした先輩のあの姿‥。



あの時の不信感が、潜在意識として夢の中に出てきちゃったんでしょうね‥。

キス以降、表面的には彼に対して恋心と信頼感を感じていた雪ちゃんですが、根本にある不信感が拭い去れてないんです。

だからこその、最後のこのラスボス感‥。



彼氏なのに‥orz 



次回は<落ち着ける場所>です。

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カップル誕生(仮)

2014-05-09 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
蓮は先ほど教えてもらった道順を辿って歩いて行くと、開けた通りに出たのだった。

姉ちゃんの大学‥と小さく呟きながら、蓮はキョロキョロと辺りを見回す。



周りには自分と同世代の学生が沢山歩いているが、蓮はどこか自分が浮いた存在である気がして立ち止まった。

真面目に大学に通う彼等と違い、本来在籍すべき大学から逃げて来た自分‥。



正しい道を真っ直ぐに歩む学生達を見る度、劣等感に苛まれていく。

蓮は溜息を吐きながら、首に手をやり俯いた。

クソッ‥また無駄にここに来ちゃったけど‥憂鬱だなぁ‥



しかしここまで来たからには、姉か恵に会う他無い。

そしてすぐ頭の中に恵の顔が思い浮かぶが、彼女と会ったところでお金も無いし、

顔を合わせたらなぜかすぐケンカになってしまうことを思って蓮は悩んだ。



すると蓮の後方から、彼の名前を呼ぶ声が聞こえる。

蓮が振り向くと、切羽詰まったような表情で、小西恵が駆け寄ってきた。



その場で蓮は恵に声を掛けようとするが、恵は蓮の腕を取ると早足でその場から離れようとする。

「行こ行こ!」 「ちょ、何なの?」 「いいから!」



蓮が戸惑っていると、二人の後ろから野太い声が聞こえた。恵の名を呼んでいる。

「めっぐみちゃ~ん!ちょっと待ってよ~!」



蓮が振り返ると、大きな男が恵を呼びながらこちらに向かって駆けてくる。柳瀬健太だった。

健太を初めて見た蓮は疑問符を浮かべ、その蓮の横で恵は閉口した。

しかし健太は構わず、恵に向かって大きな身振りを交えて話し始める。

「ほんっと~に悪かったよ!この通り!俺が誤解してたみたいだ。謝るから!な?!」



健太は先程、恵が青田淳にフラれたものだと思って慰めの言葉を口にしたのだった。

それが恵の怒りを買い、慌てた健太は逃げる恵の後をずっと追いかけてきた‥。


暫し謝り倒していた健太だったが、恵の隣に居る蓮を見て「友達?」と気にする素振りを見せた。

しかし恵はそれには答えず、迷惑そうな素振りで口を開く。

「分かりましたから。もういいです。大丈夫ですから」



しかし健太は「口先だけの謝罪なんて男がすたる」と言って、尚も食い下がってくる。

その度に言葉を返す恵の横顔を見て、蓮は今の状況がどこか不穏なものだということを察知した。

 

蓮は恵に、「何かあったの」と声を掛けるが、恵は「何でもない」と言って息を吐くだけだ。

そんなやり取りを、健太が訝しげな表情で見ていた。



そして健太はまるで縄張りを誇示する雄の獣のように、蓮をけん制する。

「誰?恵ちゃんと同じ学科の友達?

悪いけど俺等ちょっと話あるから、席外してくんねーか?」




目を丸くした蓮を見て、恵が健太に向かって口を開く。逃げまわってばかりでは解決しない、と恵は踏んだのだった。

「先輩。もう本当に大丈夫ですから。あたしはこれ以上先輩と話すことなんて無いんです。

あたしは確かに自分の気持ちを伝えたのに、ずっとこんな‥」




健太の目を見ながら、恵は真摯な気持ちを口に出したのだが、それ以上は続ける必要が無くなった。

というのも、隣の蓮がとんでもないことを言い出したからである。

「‥違いますよ。俺はこの大学の学生じゃないです。

俺は恵の彼氏っすよ? そちらこそどなたですか?」






「‥‥‥‥」 「‥‥‥‥」



突然の蓮の告白に、健太は勿論恵まであんぐりと口を開けた。

何か言い返そうとした恵であったが、不意に蓮が意味ありげな視線を彼女に送る。



”これは一つの芝居だ”と。

恵はその蓮の意図を汲み取り、蓮に腕を絡ませ彼に密着した。

「そ、そうなんです~!あたしの彼氏なんですよ!」



Yeah!とウインク&ピースする蓮と、頭を彼の肩に凭れかけて微笑む恵‥。

そんな二人を前に、健太はあからさまにショックを受けた。オロオロと両手を震わせている。

「ど‥どうして‥!」

「どーしたもこーしたも、付き合ってるんす。いちいちそちらに報告する義務でもあるんすか?」



すっかり蓮も強気である。

「分かったら今後むやみに連絡しないで下さいね?」と、ハッキリその意志を口にする。



恵は引き攣った笑顔を浮かべながら二人のやり取りを静観した。気分はヒヤヒヤである。

すると健太は動揺に震えながら、少し引き気味に恵に向かって口を開いた。

「あ‥ありえねぇ‥。フラレてすぐにもう新しい男を‥」



またしても健太の口にした”フラレ恵”に、恵はブチッと来た。

「フラレてないですってば!新しい男だろうが古い男だろうが、あたしの勝手でしょ!!」



そんな怒れる恵の肩に蓮は手を置き、「怒らない怒らないと彼女をなだめた。

そして恵と肩を組むと、二人は軽い足取りで健太に背を向ける。

「ご飯でも食べに行こうぜ~!新しい男が美味い店に連れて行ってやる

「あら~それは楽しみね~行きましょう~」



少しぎこちない芝居(特に恵)ではあったが、二人はそのまま連れ立って歩いて行った。

仲の良さそうな二人の後ろ姿を見ながら、健太の血の気が引いていく‥。

  


そして二人は健太から見えないようにして、ヒソヒソと話始めた。

「ちょっとアンタ‥気でも狂ったの‥?」

「クックック‥どーよ俺の演技力?だってお前マジでビビってたじゃんよ」



蓮は雪の言っていた”面倒な先輩”というのが先ほどの男ということを知り、

恵はそんな”面倒な先輩”でも雪の先輩なので、無下に接することが出来なかった、と説明する。



健太が見えなくなってから、二人は肩を外して歩き出した。

「助けてやったんだからメシ奢ってよ!さっき美味い店調べたんだ」

「ったく‥分かったわよ」



「なぁなぁキンカン、お前アメリカの美大に留学考えたりしねーの?‥」

二人は軽く小突き合いながら、カップル(仮)として歩き出す。

蓮の心に巣食っていた憂鬱は、いつの間にか消えてなくなっていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<カップル誕生(仮)>でした。

つきまとう男を遠ざけるためにカップルのふりをするなんて、なんて少女漫画チックな‥!

主人公カップルでは見られない純粋なこそばゆさが蓮と恵にはありますね‥。

カップル(仮)の仮は取れるか?! 注目でございますね~^^


次回は<彼女の潜在意識>です。


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舞い散る葉の中で

2014-05-08 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
グループワークが終わり、清水香織と直美は構内で課題の段取りを話していた。

傍らには横山翔が、そのやり取りが終るのを待っている。



話が終わると、直美は香織に手を振って別れを告げた。

課題頑張ろうねと激励を口にする直美の横で、横山翔がグッと拳を握って笑顔を浮かべる。



ファイティン、と口にする横山に、香織は笑顔で手を振った。

すっかり仲直りした横山と直美は、そのまま肩を組んで楽しげに歩いて行く。

 

香織はそんな二人の姿を眺めながら、心の中に風が吹き抜けるような気持ちがした。

色づいていく木々が示すように、季節はもうすっかり秋だ‥。




ザワザワと、秋風が葉擦れの音を奏でる。

香織は一人、落ち葉を踏みしめながら秋のキャンパスを歩いていた。



すると不意に旋風が巻き起こり、足元の落ち葉が一斉に螺旋を描いて舞い上がった。

香織は手で顔を覆いながら、舞い散る葉の中で目を閉じる。



舞い上がった木の葉は、風が抜けるとハラハラと再び地面に舞い落ち、

香織はその中で目を開けた。



そしてそこで香織は、信じられないものを目にした。

なんと目の前に、あの男の子が居たのだった。

彼は舞い落ちる木の葉の中で、どこか切なそうな表情で天を仰ぐ。



以前声を掛けられた、あの男の子だった。

あの日目にしたこの男の子の姿が、今も香織の脳裏にはありありと焼き付いている‥。




再び彼が目の前に現れたことが、香織には信じられなかった。

しかし彼は秋の風景の中に、今確かに存在している。



ドクン、と香織の心臓は大きく跳ねた。

美しい風景の中に佇む彼から、目を逸らすことが出来ない。



俯き溜息を吐く彼の表情は切なくて、それはなんとも儚げだった。

ドキドキと高鳴る鼓動もそのままに、香織は彼を見つめたままその場に立ち尽くす。



一つ一つの動作が、切り取った絵のように美しく見えた。

携帯電話を掲げて佇む彼に、どこからか美しい言葉が降ってくる。

俺は時折涙を流す‥。頭ではなく心で泣く俺‥



ピピーッと携帯電話から機会音が響いた。画面には、文字がそっけなく表示される。

”バッテリー残量があと僅かです 5%”



蓮は心で泣いた‥。

やるせない気持ちをぶつけるように、落ち葉の絨毯に携帯を投げつける‥。



そして顔を上げた蓮と香織は、目が合ったのだった。

赤面した香織の心臓が、飛ぶように跳ねる。



すると蓮は手を上げて、香織の方に近付いて来た。

「あっちょっと!ちょっと待って下さ~い!」



ドギマギする香織の方に向かって、彼はニコニコしながら近寄ってくる。

「ここの学生さんっすか?ちょっと聞きたいことあるんすけど!」



香織のすぐ傍で、彼が立ち止まる。

香織はどうしたら良いのか分からず、ただ赤面して俯いていた。

「ちょっと美大の場所教えてもらえますかね?」



彼の顔が、ほんの数十センチ先にある。

香織は顔も上げられぬまま、高鳴る鼓動で何も口に出来なかった。



そんな香織を見て、蓮は自分が変な人だと思われているから黙っているんだと思い、今の状況を説明した。

「携帯のバッテリーが無くなっちゃって!ったくこのオンボロ携帯!

前に一度来たことあるんすけど、やたら構内は広いし道が複雑だしで度々こんがらがるんすよ!

あ、だから別に俺が方向音痴ってワケじゃねーすよ?」




蓮はペラペラと香織に向かって弁明を交えて説明した。

その勢いに香織はついていけず、頷いて相打ちを打つだけで精一杯だ。

「美大の場所のついでに、この大学の近くにある美味くて有名な◯◯って店の場所も教えてくれます?」



次々と要求を出す彼に、香織は必死についていこうとして携帯を取り出した。

「今検索します」と言ってネットブラウザのボタンを押す。

一生懸命携帯を睨む香織を見て、蓮は軽い調子で声を掛けた。

「あれ?ところで俺等どっかで会いました?違うかな?」



ハハハ、と笑う彼に向かって、香織は震える手で携帯を操作し、無音でシャッターが切れるカメラアプリを立ち上げた。

小さく震えながらも、しっかりと無音モードになっていることを確認する。

 

そして香織はネットで検索する振りをして、彼に向かってシャッターボタンを押した。

写真を撮られているなど露ほども知らない蓮は、一人鼻歌を歌いながら香織が調べ終わるのを待っている。



ほどなくして香織は、蓮が頼んでいた店の地図を表示し、差し出した。

「こ、ここです‥」 「おぉ~!」



香織は地図を見ながら店の行き方を説明し、蓮はひとしきり頷いた後、香織に礼を言って去って行った。

「ありがとうございました~!」



彼の背中が段々と小さくなっていく。香織は暫し放心した。

そして震える手で、携帯を取り出し画像フォルダを開く。



そこには彼が居た。

秋に色づく背景の中で、写真の中の彼は色素の薄い髪と目が透けるように輝いている。



香織はその写真を眺めながら、先ほど彼が口にした言葉を思い出していた。

俺等‥どこかで会ったかな‥?



ドキドキして顔は上げられなかった。

けれど彼の口元は優しく微笑んで、穏やかに自分を見つめていた‥。

私のこと、覚えてた‥?

あんなに格好いいんだから、写真一枚くらい‥いいよね?




キャアア、と香織はその場で叫んでうずくまった。

まるで小説のような運命の再会。彼の全てが、瞼の裏に焼き付いて離れない‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<舞い散る葉の中で>でした。

香織が雪のカーディガンを真似したことで、奇跡の蓮と香織ペアルック的展開に‥

ちなみにこの蓮の服は、アメリカで買ったものだそうです。

そう考えると雪と被ったのは姉弟の為せるシンクロ技‥?^^


次回は<カップル誕生(仮)>です。

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赤山蓮の悩み

2014-05-07 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)


真昼間のマンションに、子供達がはしゃぐ声が響いていた。

開け放した窓から風と共に入って来るそんな賑やかさを聞きながら、赤山蓮はベッドに横になり、天井を眺めている。



ぼんやりと白い天井。

眺めていると気分までぼやけていくようだ。



退屈だった。

蓮は携帯を取り出して眺めては、つまらなくなって放り投げる。そんな折、友人から一通メールが入った。

何してんの?遊ぼーぜ。出てこいよ



脳天気なメール。

蓮は携帯を睨みながらブツブツ独りごちた。出て行きたくともお金が無いのだ、と。



蓮は退屈を持て余して、長い間仕舞ってあった参考書に手を伸ばした。少し勉強するつもりで。

つまらなそうに、パラパラとページを捲る。



延々と続くアルファベット。

アメリカで使っていた教科書は、当然の如く全て英語だった。

 

ページを捲る度に、心に募っていくこの憂鬱。

全く頭に入ってこない文章を眺めながら、蓮は父親から留学を持ち掛けられた時のことを思い出していた。


蓮、お前いっそ留学に行ってみたらどうだ? なんだかんだいって海外の卒業証書は必要だろう‥



父からそう聞かされた時、蓮は手放しで喜んだ。

アメリカ留学なんて最高にクールだと、何も考えずに喜んだ‥。



それから今に至るまでに経験したことを思い出す度、心の中は暗く湿っていく。

あの時は想像もしなかった苦い思いが、蓮の眼差しを厳しくさせる‥。




「あら?今日はまたどこへ行くの?」



結局出かけることにした蓮の背中から、母親が訝しげな顔をして声を掛けた。

蓮は笑顔を浮かべながら、外の風に当たりがてら友達に会いに、と答える。



母親は顔を顰めながら、「またなの?」と言って息を吐いた。

何も考えていなさそうな長男を前に、母親の小言が炸裂する。

「あんたこんな風に時間を無駄にして‥大学は一体いつ卒業する気なの?

良い所に就職するためには、あらかじめ準備すべきでしょう?!」




蓮はその勢いに気圧されながら、ダラダラとした仕草で靴紐を結んだ。

丸まった蓮の背中に、尚も母の小言は続く。

「アメリカではよくやってたんでしょうね?

私はあんたが帰国してから、勉強してる姿全然目にしてないんだけど?」




蓮は閉口しながらも、母から目を逸らして小さく反論した。

「それでも‥今回の単位はそれなりに良く取れてたじゃん‥」



ブツブツ続ける蓮に、母親は少し強い口調で諭し始めた。

「そんなの上がったり下がったりじゃないの!

あんた、アメリカで勉強する為の費用が一体いくら掛かるか分かってる?

他の子達を見るとアレコレ財団なんかも調べて単位も上手に取って、支援も受けてるってのに‥。

あんたもそういうこと調べてみたりしてるの?」




それなりに‥と蓮は小さく答えたが、その言葉に説得力は何も無かった。

母は溜息を吐きながら、もう何十回何百回と言い続けている言葉を口にする。

「お姉ちゃんを見習いなさい。奨学金も受けて、首席まで取ってるじゃないの!」



ズシッと、何かが蓮の肩に乗る気配がした。

それは目には見えないけれど、母の小言が続くにつれ重さを増していく。

「それにひきかえアンタはアメリカにまで行って奨学金も取れないで‥。

母さんはもう頭が爆発しそうよ。分かってるの?」




狭い玄関に、母の厳しい声が充満していた。

いつの間にか靴紐を結ぶ手は止まり、蓮は息苦しいその空間に一つぽっかり息を吐く。肩が重かった。

「‥それじゃあ、姉ちゃんをアメリカにやれば良かったじゃん」



小さな蓮の呟きに、

母は「え?」と言って目を見開く。



そして蓮は屈んだ格好のまま、ぽつりと心の声を口に出した。

「母さん‥俺、アメリカ戻んなきゃダメ?」



母は虚を突かれたような表情の後、声を上げて蓮に詰め寄った。

「アンタ気でも狂ったの?!言っていいことと悪いことがあるでしょう!

お父さんの前でそんなこと言ってみなさい!ただじゃ居られないわよ?!」




母は立ち上がった蓮の背中にそう声を掛けると、次の瞬間蓮はニッコリと笑って母に抱きついた。

「ヤダお母さ~ん!冗談だって冗談~!」



そして蓮はいつものヘラヘラとして笑顔を浮かべると、ポコポコと母の肩を叩く。

「そんなに長く出掛けないからさ~!そんで早く帰って来て肩揉むから☆」



引き攣った母の表情はそのままだったが、

蓮は笑顔で手を振って「行ってきます」と出て行った。



心労は絶えない。

母は溜息を吐きながら、お気楽長男のことに頭を痛める‥。









一方、こちらはA大学の構内である。

今は休憩時間中で、教室移動の学生達で廊下はごった返していた。

「お~?!恵ちゃーん!!」



廊下に居た小西恵は、不意に遠く離れた場所から声を掛けられた。

振り向いてみると、大きな男が手を振りながらこちらに駆けて来るのが見える。



柳瀬健太だった。

「今授業終わったの?」



そう声を掛けられた恵は、思わず白目でげんなりした。実はついこの間偶然ここで健太に会ったのだ。

彼はこの時間帯なら恵がここで授業を受けているということを、その時知ったのだろう。

「何でメールの返事くんないの~?」



健太はそう言って恵に近寄ってきた。

恵は後退りしながら、「止めて下さいって言ったじゃないですか」と彼に向かって口を開く。

どうやって自分の番号を知ったのかは分からないが、健太は度々恵にメールを寄越して来るのだ。

「え~?いや~ただ俺は~、恵ちゃんのことを心配してさ~」



そう言って健太が思い出すのは、開講早々知ることになったあのニュースだった。

”青田と赤山が付き合っている” そう聞いた健太は、恵はどうなるんだと言って淳に詰め寄った‥。



そして健太は頭を掻きながら、恵を心配している根拠を語った。

「恵ちゃん、アイツにフラレて寂しいんじゃないかなって‥」



急に語られたその見解に、恵は思わず目がテンである。

しかし健太は少し決まり悪そうな態度で、尚も言葉を続けた。

「なんかどうしても気になって慰めようかなって‥。ん?」



健太は、恵が俯きながらプルプルしているのに気がついた。

次の瞬間、恵の叫びが廊下に響き渡った。

「誰がフラれたって言うんですかっ!



オロオロする健太と、噛みつかんばかりの恵。

身長差42センチの二人が、暫し廊下の真ん中で睨めっこだ‥。


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<赤山蓮の悩み>でした。

雪が蓮のように振る舞えないのを悩むように、蓮も常に優秀な姉と比較されて悩んでいるのですねぇ‥。

お母さんの正論を畳み掛けるような説教は、夏休みに蓮を叱った雪を彷彿とさせますね。似てるな~。




次回は<舞い散る葉の中で>です。

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