Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

同じ轍を踏まず

2014-04-30 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
グループワークの授業が始まり、雪は机の上にPCを広げた。

画面に映し出されているのは、聡美と柳から送られてきた各々の分担資料だ。

「皆大体良いけど‥聡美が調べた事例、ちょっと合わない所があるみたい。

柳先輩はここにERG理論の説明を加えると尚良いですね」




テキパキとした雪の指摘に、聡美も柳もそれぞれ快く了承する。

しかしグループワークのメンバーは三人だったであろうか? いや、もう一人居るはずだ‥。

雪はジットリとした視線をもう一人のメンバーである彼に送った。

「そして‥健太先輩は‥」 「えっ?えぇ~?」



わざとらしくしらばっくれる健太に、雪は冷静に状況を伝える。

「先輩‥結局資料送って貰ってないんですけど‥昨日までに絶対送るって言っといて‥」



白目の雪に、呆れた表情の柳と聡美。そんな後輩達を前に、健太は甘えた口調で謝った。

「あ~ゴメンゴメン赤山~!昨日家でマ~ジ大変なことがあってよぉ。

全然抜けれなかったんだよぉ~」




雪は健太の度重なる言い訳の数々に、呆れて物も言えなかった。

そのまま黙っていると、雪の代わりに柳が健太を批判する。

「ちょ、先輩マジひどくねーすか?

分量一番少ないの任せたのに、それもしてきてねーんすか?」




柳は呆れ果てたように彼を批判したが、健太はまるで反省していない様子である。

そして続けて軽い調子の健太節が炸裂した。

「マジでゴメンって~!どーしても就活と家のゴタゴタが重なってよぉ。

赤山が理論の整理だけしてくれれば、後の事例は俺が全部入れるからよぉ!な?それでいいだろ?!」




健太の厚かましい提案に、雪は冷や汗を掻きながら異議を口に出す。

「あの‥先輩!理論の整理と事例を探すのは個人の役割なんですけど、

何で私が先輩の分までやらなきゃいけないんですか?!」




正論である雪の理論だが、健太は健太独自の理論で事を進めようとした。

「そりゃ~当然、赤山がすげー出来る子だからこうやってお願いしてんじゃんか~。

しかも班長なんだからこれくらいは‥なぁ?」




しかし雪も折れるわけにはいかない。健太の目を真っ直ぐに見据え、正論で切り返す。

「班長として私は、他のメンバーの資料を全部保管して確認もしてるんです!

基本的な個人パートまで私に任されても、それは処理出来ませんよ!」


もっともな雪の物言いをまともに受けて、健太は少し譲歩した。

「‥それじゃあ、俺も出来るとこまでやってみる‥」



そうポツリと口にした健太だったが、次の瞬間やはり大きな声で笑いながら、健太節を炸裂させた。

「おいおい~!若い奴がカリカリ心配ばっかすんなって!神経過敏だぜ?!

去年も聞いた授業だからそんなにヘマしねーって!!」




健太はそう言って雪の頭をグリグリと撫でた。その唐突な大きな動きに、皆戸惑いっぱなしである。

「まぁ足らんかったら赤山が補ってくれんだろ!ハッハッハッハ~!」



まるで悪びれずにそう口にする健太を前にして、三人は皆一様に心の中で呟いた。

こいつ、絶対やってこないな‥



雪の脳裏に、先学期の嫌な記憶が蘇る。

徹夜明けの体に、冷たく響いた教授の宣告‥。

グループ5は全員Dです。

 

このままでは同じ轍を踏むことになると、雪を始め聡美と柳もそれを感じていた。

柳が健太の腕を取る。

「先輩、ちょっと俺と話‥」



そのまま席を立たせようとする柳に、健太が抵抗しようとした時だった。

雪の低い声が、最終通告を健太に言い渡したのは。

「‥今回協力しなければ‥グループから除名します



健太を始め雪のグループの他のメンツも、一瞬にして動きを止めた。

雪の宣告は、それほどセンセーショナルなものだったのである。



雪の方から、固い決意の炎が燃えるゴオオオという音がする。

ようやく本気で雪がそれを口にしたことを理解した健太が、改めて口を開いた。

「あ‥赤山‥、お前今なんつった?」



雪は自分が口にしていることの重大さを重々承知しながら、淡々と冷静に言葉を続けた。

「先週の授業、聞いてませんでした?

教授が”無賃乗車するメンバーは除名しても良い”と言っていたんです」




厳しい眼差しで強気に出る雪に、次の瞬間健太はガラリと態度を変えた。

「何だとっ?!呆れたぜ赤山ぁ!それが先輩に対する口の利き方かっ?!」



突然キレた健太に、雪達を始め教室中が驚き彼に視線を送った。

健太はそんなことなど構わずに、尚も自分の主張を続ける。

「誰がしないっつった?!してくるつっただろーがよ!

家庭の事情があるとも言ったじゃねーか!それも理解してくんねーっつーのか?!」




健太は続けて雪ににじり寄り、今までお前に良くしてやったのに、と彼女を責め始めた。

身長190cmを超える大男から凄まれるとさすがに怖い。雪は固く身を強張らせた。



すると場の空気を変えるように、柳が間に割って入る。

「もう止めて下さい、恥ずかしいじゃないっすか。

健太先輩は先学期の前科があるんすから」




俺も無賃乗車は遠慮願いたい、と続ける柳に、健太は尚も声を上げる。

「俺は4年だぞ?!」「はい。俺も4年ですが何か?」



柳の冷静な対処に、だんだんと健太の主張は弱くなっていった。

そして最後に聡美が雪の援護射撃をする。

「雪が担当してる箇所の分量が一番多いんです!

健太先輩は何もやって来なかったのに、逆ギレですか?!」




批判を口にする聡美に健太はカチンと来て再び文句を言おうとしたが、

ハッと気がつけば皆恨めしそうに健太のことを睨んでいた。さすがにこれにはお手上げである。



健太はそそくさと資料に目を落とすと、

「や‥やればいいんだろ?やればよぉ‥」



と言ってその後はブツブツ何かを呟いていた。

ようやく終息した騒動に、雪は深く一つ息を吐く。

い、一応収拾ついたか‥。怖かった‥。



背筋に伝った汗が、冷たくなっていた。

雪は未だ早鐘を打つ心臓を落ち着けながら、気まずい空気の中で居住まいを正した。



騒然となった教室内の雰囲気も、健太が黙ったことで徐々に落ち着いてきていた。

しかし雪達のグループの後方から、じっと彼らを見つめる視線がある‥。



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<同じ轍を踏まず>でした。

雪が柳に言及したERG理論とは、モチベーション理論の一つだそうで。

http://ameblo.jp/work-life-harmony/entry-10385253387.html

詳しく書いてある記事のリンク貼ります。興味のある方はどうぞ‥。



健太先輩‥やってくれますね。しかし先学期とは同じ轍を踏まない雪ちゃん、お見事でした。

さてここで健太先輩のプロフなどおさらいしてみましょう。



やたら「家の問題」を出してくる健太ですが、家族構成は両親、弟、妹。三人兄弟の長男なんですね。

何がごたついてるのか‥それとも完全な嘘なのか‥。ちょっと気になるところです。


そして今回は‥また柳先輩の見せ場があって嬉しかったので、柳のプロフもおさらいさせて下さい。。



家族構成は祖母、父、兄。

あ~次男って感じ!でもA型ってところが何気に気を遣えるとこを表している!(興奮)

秋生まれだから「楓」? 韓国語でギョンファンって楓の意味なんでしょうか‥?(食いつきすぎ)


色々考えてスンキさんは人物像を作ってらっしゃるんでしょうね。

プロフから色々想像すると面白いです。脱線失礼しました~


次回は<仕掛けた罠>です。

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防御壁

2014-04-29 01:00:00 | 雪3年3部(防御壁~グルワ発表前日)
「あ~あ~あ~!」



肩を回すと、ポキポキと骨が鳴る。週初めだというのに、雪は既に疲れていた。

うう‥週末頑張って食堂の手伝い&課題やったから‥もう死にそう‥身体がバキバキ‥。



雪は溜息を吐きながら、重い体を引き摺って廊下を歩いていた。

引き続きストレッチをするが身体は固く、まるでギシギシと関節の軋む音が聞こえてくるようだ。



すると不意に後ろから声を掛けられた。

「雪ちゃん!」



ダラダラした姿を見られてしまった雪は幾分たじろいだが、

誤魔化すようにピシッと気をつけをして彼に挨拶を返した。

「あはは~!先輩おはようでーす!」



淳はニコニコと微笑んで雪に近づくと、優しい表情で口を開いた。

「グルワは上手くいきそう?」



雪は「まぁまぁ‥」と答え、少しはにかみながら彼を見上げた。

ヘヘ、と小さく照れ笑いしながら。



心の中がこそばゆくなり、思わず頬を染めて少し俯く。

甘く温かな気持ちが、胸の中を微かにくすぐる‥。




そのまま二人は教室までの道のりを肩を並べて歩いた。

話題はもっぱら学科を騒がせている、太一と横山の一悶着だった。

「それで横山が太一に‥明らかに故意に仕組んだんですよ!もう本当に腹が立つったら!」



声を荒げる雪に対し、淳は「皆ひとしきり騒いだらすぐにおさまるよ」と冷静だ。

それでも雪は、自分も学科を騒がせている人間の内の一人なので、他人事とはとても思えない。

「太一と私‥あの日はもう完全にババ引いた、みたいな‥」



同じ日の同じ時刻に、横山翔と清水香織によって太一と雪が騒動に巻き込まれたのだ。

そしてそれらの出来事は、今や経営学科の二大事件として、不本意ながら皆を騒がしている‥。

 

げんなりとそう口にする雪の顔を見て、隣の淳は何かを物思い天を仰いだ。

ふぅむ、と一人呟きながら。




「もういい加減平穏に学生生活を送りたい‥」



そう呟きながら、雪と淳が教室に入って来た時だった。二人を見るやいなや、清水香織が声を上げた。

「ちょっと!」



そこには例の如く、先週雪が着ていたカーディガンと似たような物を着た香織の姿があった。

しかしその顔は怒りで歪み、肩をいからせて雪の方に向かって来る。

「ちょっといい?!私も話があるんだけど!」



香織は大声でそう言うと、握り拳を固めて雪に詰め寄った。

「あんたのせいで私ー‥!」



顔や指に絆創膏をした香織は、よく見ると至る所にすり傷があった。

先週、雪と人違いされ河村静香にやられた時の傷だ。



しかしやにわにその怒りを向けられたところで、雪にその理由が分かるわけがない。

目を剥いた雪が、「なに‥?」とたじろいだ時だった。



突然、目の前に大きな手のひらが翳された。

それはまるで、防御壁のように香織と雪の間を遮る。



「何の話?」



俺も一緒に聞きたいんだけど、と言って淳は微笑んだ。

突然の先輩の申し出と有無を言わせぬその笑みに、香織は思わず口を噤む。



そして一度怯んだが、意を決して香織は顔を上げ口を開いた。

「そ‥その‥せ、先週ですね‥!」

 

しかし再び香織は口を噤んだ。

見上げた青田淳の表情から、無言の圧力を感じ取ったからだった。



ヒッと声なき声を上げ、香織はモゴモゴと口ごもった。

そして最終的に、「な‥何でもないです‥」と黙ったのだった。



淳は笑顔を浮かべながらそのまま香織の背を押すと、教室の奥へと彼女を促した。

「さ~授業授業」



そしてそんな二人の後ろ姿をポカンと見つめながら、雪はだんだん心の中が憤って行くのを感じた。

はぁ?!一体何なの?!色々問い詰めたいのはこっちだっつーの!



雪はギリギリと歯噛みしながら、突然の香織の無礼に憤った。

振り返った淳は雪の表情を認めると、ニッコリと笑って小さく手を振る。

またね~



結局ワケの分からぬまま、彼が間に入ることで物事はなぁなぁになった。

雪は深く溜息を吐きつつ、もう少しで始まる授業の為に席に着いたのだった‥。





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<防御壁>でした。

香織さん‥遂にこのちゃんちゃんこ(青さん曰くどてら)も真似しましたか‥。

 

一体どこで買ってるんだろう‥。すぐゲット出来る能力はすごいですね。。


次回は<同じ轍を踏まず>です。

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甘い記憶

2014-04-28 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)


家に帰ってから、雪は何度も先ほどのことを思い出した。

彼が口にした言葉の意味とその感触を思い出す度、恥ずかしさで顔が燃えるようだ。

「きゃあああ!うわああ!どうしよどうしよどうしよ!」



彼に貰ったキャンディーボックスには、無数のアメが入っていた。

雪はそれらをベッドに広げ、枕を抱えて足をバタバタさせる。

「うう‥」



胸の中がこそばゆい。それはキャンディーのように甘く、全身を痺れさせる。

彼が先ほど口にした言葉が、雪の脳裏で優しく響いた。

忘れてないよ



強張っていた心が、解れていくような気持ちだった。

彼が雪の手を包み込むように握ったのは、”悪意”の意味じゃない。



昔雪を心配して、その肩を掴んで顔を覗き込んで来た先輩。

何があったのと、自分からは本心を語れない雪の本音を、引き出してくれた先輩。



肩に掛かる重みを感じて、高い空を見上げた秋の夜。初めてのキスの後。

自分に凭れ掛かって眠りに落ちる、無防備な彼の姿。



それは”好意”に他ならない。

同じ仕草でも中に潜むその感情は、両極を向いている。

 


雪の脳裏に、振り返って微笑む彼の姿が浮かんだ。

「笑顔でいてね」



そう笑顔で口にする彼に、初めて温かさを感じた初夏。

あの時、彼に抱いていたイメージが変わったのだ。

それまで”悪意”しか感じなかった彼に、”好意”という一筋の光が差すように‥。





そして雪はゆっくりと眠りに落ちて行った。

ベッドに散らばったキャンディー達が、雪を甘い記憶の海へと誘う標となる。



甘く胸をくすぐる記憶が、ぼんやりと雪の脳裏を掠めていく。

それは川のように記憶の末端から流れ出し、やがて大海へと続いていく。


オレがぶっ飛ばしてやんよ!



いつだって自分を守ってくれる、河村亮の姿が浮かんだ。

身を犠牲にして殴られたあの姿、不意に見せる温かなその眼差し‥。



粗野でがさつに見える彼の根っこは意外なほど温かで、そして真っ直ぐだ。

ねじれていた雪の家族でさえ、和やかな雰囲気に変えてしまう。



甘い記憶は嬉しかった記憶とも繋がり、続けて父親に頭を撫でられた場面が浮かんだ。

お小遣いだよ、と父から貰ったその気持ち。嬉しくてこそばゆい、あの気持ち。




雪の頭の中に、沢山の人の顔が次々に浮かび始める。


お調子者だが憎めない弟、蓮。

姉ちゃん姉ちゃんと、小さい頃からいつも自分を頼って後をついてきた蓮。




苦しい時、いつも影から手を差し伸べてくれた恵。

本当の妹のように自分を慕ってくれた。何の打算もなく、沢山沢山助けてくれた。




笑いながら手招きする、聡美と太一の姿も浮かんで来た。

大切な二人の親友。いつだって雪の味方になってくれた。




遠く離れていても、心はいつも雪の傍に居る気がする。親友の萌菜。

時折電話で励まされる。心の支柱になってくれる。彼女が笑うと、雪は安心出来た‥。




甘く嬉しい場面の数々が、大好きな人達の幾つもの顔が、ぼんやりと浮かんでは消えた。

そして滾々と流れる記憶の川は、最後に幼い頃のそれを運び出す。


蓮にバレないように、こっそり食べなさい



幼い雪が手にしていたのは、祖母から貰った一本のキャンディーだった。

それは口に含む度に、舌を痺れさせるほどに甘かったのを覚えている。

まったく‥お前はお姉ちゃんなのにまだ子供みたいだねぇ。

また何でこんなに髪がゴワゴワなのかね?母親は気にならなんだか‥じっとしてなさいな




そう言って髪を直してくれる祖母が、雪は大好きだった。

小言を言われることもあったけれど、世界で一番大好きだった‥。





いつの間にか、雪は完全に眠っていた。

平穏な寝息を立てる雪の周りには、無数のキャンディーが散らばっている。



スヤスヤと、子供のように眠る雪の寝顔がそこにあった。

甘く優しい記憶の数々が、彼女に楽しい夢を見せているのかもしれなかった。



知らない内に貰っていた、みんなからの愛情。

キャンディーボックスいっぱいの、甘く優しい記憶達‥。


雪はそのまま朝まで眠った。

瞼の裏に、幸せな夢を映しながら。


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<甘い記憶>でした。

枕に顔を埋めながら、「オットケオットケ」言う雪ちゃんが可愛かったです^^

(オットケ=どうしよう の意味です)

キャンディーが良いモチーフになっている回でしたね。

しかし何本あんねん‥。これを食べきるのは時間がかかりそう‥


次回は<防御壁>です。


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騒がせるもの

2014-04-27 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「‥‥‥‥」



アメを一つ、という雪のリクエストに、淳はキャンディーボックスを一つ買って来た。

歩く度にゴロゴロと音がする。一体どれだけのアメがこの中に入っているのだろう‥。

「ところで‥亮はピアノ弾いてるの?」



ビタミンウォーターを飲みながら淳は、ふと亮について雪に聞いてみた。

しかし未だボンヤリの雪は「よく分かんない‥」と口にするだけだ。

あ‥叔父さんにピアノ捨てないでって言わなきゃだった‥。

そしたら河村氏はベートーベンも弾けてジャジャジャジャーン‥




雪の思考回路の本筋はストップしたまま、何となくボンヤリとピアノについて考え始めていた。

しかしハッと我に返ると、白目のまま彼の方を振り向いた。

‥って違うし!まさか本当に覚えてないの?!全部忘れたの?!



雪の胸中はざわめいていた。いっそ胸ぐらを掴んで詰め寄りたいくらいである。

てかこの状況で聞きたいことってそれだけなの?!私に対しては?!

私がどう思ったかとか!どう感じたかとか!昨日のこと思い出そうともしないっての?!

さっきの電話で全部オシマイってか?!




雪は両手をワナワナさせながら、平然と隣を歩く淳をもどかしく思っていた。

雪にとっては大事件だった昨日の出来事を、彼は全て忘れてしまったとでも言うのだろうか?

たまらず彼を見上げて、雪は声を掛ける。

「あのっ‥!ちょっと気になることが‥」



しかし雪の視線は、無意識に彼の唇へと吸い寄せられていた。

ゆっくりと振り向く彼の、その形の良い唇に。

「ん?何?」



この唇が、昨夜自分のそれに三度も触れたのだ。

雪はその時の感触を思い出し、恥ずかしさに打ち震えた。

き‥きゃあああ! 「どうしたの?寒い?」



震える彼女を見て淳は、雪が寒がっているのだと思った。

「ぼちぼち寒い季節になってきたから‥」



そう言って上着を脱ぎ掛ける彼を見て、雪は「大丈夫です」と言って首を横に振る。

しかし淳は「俺は寒いけど」と言ってニコッと笑った。雪を自分の方へ引き寄せる。

「行こっか」



なるほど二人寄り添えば温かい。

そのままニコニコと微笑む淳に、雪は少し恥ずかしく複雑だ。



淳は雪の背中に回した手を、そのまま深く回し肩を組むようにして彼女に密着した。

「それで気になってることって?」



淳の方からもう一度話を促され、雪は少し躊躇ったが口にすることにした。

「き‥昨日すごく酔ってたみたいだけど‥家にはちゃんと‥」



少し遠回しだが、雪は昨夜の出来事に触れた。

すると淳は背中に回した手を彼女の腕まで伸ばすと、幾分強く彼女に触れる。

「うん。無事帰れたよ」



その手の力を感じた雪は、ビクッと自身の身体が強張るのを感じた。

淳の手は更に深く雪の背中に回され、ゆっくりと彼女の腕を這うように動いて行く。

「遅刻もせずに済んだし、仕事も上手くいったよ」



グッと強く握り締めた雪の手に、淳の手はゆっくりと到達した。

大きな手が、雪のそれを撫でるように触り始める。



雪は背中を冷や汗が伝うのを感じたが、冷静を装って相槌を打った。

「図書館のバイトはどう?」

「お、お小遣い稼ぎ程度で‥」



しかし交わされる何気ない会話さえ、身体の強張りは心にさえ及びぎこちなくなった。

今や雪の手は、完全に淳のそれに飲み込まれてしまっている。



彼への不信が、更にその強張りを助長した。

なぜキスをしたことをおくびにも出さないのだろう。なぜ何事も無かったかのような振る舞いを?

昨夜受けたあの行為は、全て幻だったとでも?



身の強張りは、いつしか怖気となって雪を飲み込んでいた。ゾクゾクと背筋が凍るように寒い。

雪は彼の腕の中に居ながら、一人縮こまってその寒気に耐えていた。

伝わってくる体温でさえ、氷に変えてしまうような不信感と共に‥。



「運転‥気をつけて下さいね‥」



二人は少し離れた店の駐車場まで来ると、別れの挨拶を交わした。

「雪ちゃんを見送ってから出るよ」「え?いえ‥私が‥」



雪はそれ以上言葉を紡げず黙りこくった。彼の目を見ることが出来ない。

身体の方の強張りは取れたものの、心の方には未だしこりが残っていた。



淳の目には、そんな彼女がどう映ったのだろう。彼はニコニコと微笑みながら雪に近づく。

雪はそんな彼には気づかずに、目を瞑ったまま自己の考えを辿っていた。

本当に覚えてないのか‥知らないフリをしてるのか‥。

明らかに全く記憶が無いような潰れ方じゃなかった‥。




そして雪は自分の結論を出した。目を閉じ、ウンウンと納得するように一人頷く。

そうだ。そういうことにしよう。きっと先輩は私が恥ずかしがると思って‥



そこまで考えた時だった。

突如顔が上げられて、再びあの感触が蘇ったのは。

「!」



雪は目を見開いたまま、暫く何が起こったか理解出来ないでいた。

時間はスローモーションのように、二人の周りだけゆっくりと流れ行く。



じきにゆっくりと唇を離した淳は、穏やかな表情で雪のことを見つめていた。

背中越しにボンヤリと光るネオンが、彼の端正な顔を微かに照らしている。



彼女の顔に沿えられた彼の左手が、その柔らかな感触をなぞっていく。

雪は目の前の彼を見つめたまま、何も考えられずに目を見開いていた。



そして淳の手が彼女の顔から離された途端、雪はふと我に返った。あんぐりと口を開け、硬直してしまっている。

そして未だ事態を把握出来ていない雪に向かって、淳は笑顔でこう告げた。

「忘れてないよ」



雪が返事をするより先に、淳は続けて別れの挨拶を口にする。

「おやすみ」



目尻の下がった、見慣れた彼のその笑顔。

結局雪は一言も言葉を紡げぬまま、キャンディーボックスを抱えて彼の車が去るのを見送った。



排気ガスで煙るその場に取り残された雪。

そして彼女は自分の胸の中に、今まで感じたことのない何かを感じた。



胸に手を置いてみると、何かが微かにその中を騒がせている。

こそばゆく切ない感情が、今雪の胸の中に芽生えているのだ‥。




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<騒がせるもの>でした。

先輩‥やってくれますね!この慣れた感!手慣れた感じ!

雪ちゃんの顔と大好きな髪に触れられて感無亮‥感無量だと思います。


それでも抱きしめるとゾワゾワされちゃう先輩‥^^;自業自得といったらそれまでですが、少し気の毒‥



次回は<甘い記憶>です。

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抜け出した二人

2014-04-26 01:00:00 | 雪3年3部(太一への陰謀~甘い記憶)
「も、もう行きましょ!」



雪はわざとらしいほど大仰にそう言うと、先輩の背を押して店の外へと歩を進める。

「先輩送ってくるから!」



そんな二人を見て、雪の母親はもう行くのかと残念がった。

お茶でも、と勧める母に対して、蓮は「この店にお茶なんてあったっけ?」と笑い、父は無口に彼らを見送る。

「それではまた。失礼致します」



淳は最後まで丁寧に頭を下げ、そして二人は店を出て行った。

笑顔で手を振る雪母と蓮、そしてムッツリと黙り込んだ雪父。早く行きましょうと急かす雪の声が外で聞こえる。



そして入り口の扉が閉まったのと同時に、蓮が大きな声で息を吐き笑った。

「いや~マジか~!淳さんって思ってたよりスペック高し?!姉ちゃんの意外な才能が!」

「‥まさか結婚するんじゃないだろうな?」

「それは知んないけどさぁ、もしそうなったらマジ玉の輿じゃん!」



「‥住む世界が違うだろ」

そんな現実問題を口にする旦那に、雪母は溜息を吐いて言った。もし超大企業の子息と結婚なんてことになったら、

私達にとっては万々歳で文句を言う立場も理由もないわ、と。

「えぇ~?父さん反対なのぉ?それじゃあ亮さんは?!仲良さげだけど‥クク」



そう口にする蓮に、両親の鉄槌が下される。

「何言ってんだ!」「バカ言わないの!」



息の合った赤山夫婦アタックは見事蓮の頭にキマリ、蓮は思わず涙目だ。

不平を鳴らす蓮に両親は、嫌ならアメリカに帰れと冷たい返事‥。







「?」



後にした店から微かに騒ぎ声が聞こえ、雪は不思議そうに何度か振り返りつつ、彼と肩を並べて歩いた。

先輩の方に向き直り、気になっていたことを尋ねる。

「お父さんの質問‥困っちゃいましたよね?」



彼の家についての、父親の直球な質問に雪は内心申し訳なく思っていた。しかし淳は首を横に振る。

「大丈夫だよ。完全に秘密にしてるわけじゃないから」



そんな彼の言葉に、「それなら良かったけど‥」と雪は口にして彼の隣を歩いた。

淳が彼女の歩幅に合わせ、少しゆっくりと歩を進める。



涼しい風が頬をかすめる、秋の夜道。

淳は雪に向かって口を開く。

「そういえば、雪ちゃん大学でもバイトだっただろう。それに家でも仕事して、大変だなぁ」



昼間電話で話をした時、彼女は図書館でのアルバイト中だった。

清水香織のことで頭を悩ませ、無くなったライオンの人形を未だ気にしていた‥。



淳は今日が記念すべきインターンの初日であり、もう夜も遅かったが、どうしても彼女が気がかりだった。

だからこんな時間に関わらず、店へと車を走らせたのだ‥。




一方雪は彼を見上げて、改めてその容姿を見つめていた。

髪を短く切りスーツを着た彼は、今までの先輩とはまた一味違って見えた。

なんかかっこいいかも‥



と思ってみた雪だが、彼の真価はそこではないことに思い至り、その考えはそこで終わりにした。

雪が本当に嬉しかったのは‥

これからあんまり会えなくなると思ったのに、こうして来てくれて‥。家も遠いのに‥



姿形の優れた点よりも、雪には彼のそんな気遣いが嬉しかった。今日一日しんどかった分、尚更だ。

雪は言葉には出さなかったが、自然と彼に近寄って笑った。そんな彼女を見て、淳も微笑む。

「あはは」「えへへ」



暫し和やかに笑い合う二人であったが、不意に雪の脳裏にとあることが思い浮かんだ。

身体がカッと熱くなり、思わず唇を手で押さえる。

!ぁああああああああ!!



蘇る記憶が、モヤモヤと脳裏に浮かんで雪は赤面した。

そうだ、先輩と顔を合わせるのは、昨夜のアレ以来なのだ‥。



改めてその事実を思い出してみると、隣で何でも無いように笑う彼が、不可思議に見えてきた。

てか‥!何でこの人こんなに緊張感が無いの?!

も、もしや酔って記憶が無いとか?!‥だって私達‥昨日‥!




ゴクッと生唾を飲み込んで、雪は昨日の出来事を心の中で言葉にしようとした。

キッ‥キッ、キッ、キッ‥!



しかし心臓がバクバクして、心の中でさえその言葉を口にすることが出来ない。

そしてそんな矢先、彼と雪の身体が密着した。



まだ薄着の初秋の季節。

触れた腕の温もりが、微かに伝わってくる。



雪は彼への強烈な意識を持つあまり、ヒッと息を飲んで身を強張らせた。

そして見るからにドギマギしている彼女に、淳が気づいて視線を寄越す。

「どうしたの?」



彼の後ろで光る街灯や店の明かりが、その瞳に映って透けるようだった。

短くなった前髪のお陰で、深く蒼がかったような彼の瞳がはっきり見える。



ドクン、と雪の心臓が一つ跳ねた。

まるでスローモーションのように、彼が自分に近付いて来る。

「雪ちゃん」



視線はいつの間にか、彼の唇へと注がれていた。

雪の脳裏に浮かぶ、昨夜のあの光景。



ドクン、ドクン、と鼓動は更に早くなっていく。

雪は彼の唇から目が離せなかった。

「は‥はい?」



昨夜自分の唇に触れたその感触が、蘇ってくるような気がした。

雪は無意識に身を固くして、高鳴る鼓動に耐えるように両手を握り締める。



ちょっと、と淳が雪に声を掛けた。

身長の高い彼が背を屈め、雪の顔近くに自分の顔を近づける‥。



「飲み物でも買って行かない?仕事疲れたでしょ?」



しかし淳は後ろにあるコンビニを指差すと、平然とそう提案した。

雪は思わずポカーンである。

「あ、ハイ」 「行こ行こ」



そう言って淳はコンビニに入ろうとするが、雪は魂が抜けたような顔でその場に固まっていた。

「何飲む?あったかいのがいい?」「いえ‥私はアメか何か‥」



深い思考はストップしたまま、雪はぼんやりとアメのリクエストをした。

やはり淳は平然と、ニッコリ笑ってそれに了承する。

「はーい」



そして彼はコンビニに入って行った。

雪はあのポカン顔のまま、暫し彼の帰りを待ったのだった‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<抜け出した二人>でした。

ここの雪のお母さんの台詞↓ 直訳すると‥。

「ったくこのダンナは何言ってんだか!結婚するなら光化門の真ん中で平伏しなきゃ!」



と言ってました。

光化門、こちらですね。



*CitTさんより教えて頂きました。

この人目の多い場所で平伏(韓国式の心からの感謝を表す振る舞い)するくらい、淳との結婚は我々にとってありがたいこと、

という意味だそうです。CitTさんコマウォヨ~~!


しかし結婚を言及する父‥まだ付き合って二ヶ月なんですが‥^^;気が早いよ!

そして何気に亮をすすめる蓮君。亮盛り上げ隊の皆様の祭り囃子が聞こえてくるようですw


次回は<騒がせるもの>です。

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