Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

ピアノとオレとアイツとお前

2014-06-18 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)


亮と雪は地下鉄に乗り込み、手頃な席に腰を下ろした。

そして座るやいなや雪は鞄を開け、中からノートを取り出す。勉強を始めるのだ。

「いや~ご立派だねぇ。将来何にだってなれるねぇ」



その姿を見て亮は、少し皮肉っぽく感想を述べた。電車の中ですら勉強なんて本当に熱心ですね、と。

しかし雪は当然の如く頷くと、淡々とその理由を述べた。

「今回は奨学金を狙う子も多いし、今学期こそは自分の実力で首席取ってみたいですから」



昼間耳にした同期達の話に気を引き締め、雪は更に勉強に意欲を燃やしていた。

そんな彼女の姿を前にして、お前以上にデキる学生なんているのかと亮は呆れたように言ったが、

ふともう一人の人物を思い出す。

「あぁ‥淳の方がもっとすげぇか?」



亮の言葉に雪はフッと息を吐いて頷くと、至極客観的な意見を述べた。

「努力家ってとこは互いの共通点ですけど、能力は先輩の方が上ですね。

まともに勝てた試しがないです」




そして雪は強い眼差しで正面を見据えると、今度は主観的な意見を述べる。

「だからこそ、勝ってみたいんですよ」



雪がそう口にする理由を亮はどこか解せず、彼女に一つ質問をした。

「何で付き合ってる奴に対して、そんなに闘争心燃やすわけ?」



それに対して雪は、自分の主観を客観的に捉えて亮に説明する。

「それはそれ、これはこれです。まぁ、あちらはどう思ってるか知りませんけど‥」



そう口にする雪の頭の中で、”あちら”と付き合っている部分の自分がふと考え事をする。

朝のメール以降連絡もない‥



それきり黙り込みノートに視線を落とす雪を見て、亮は心がモヤモヤと騒いだ。

今語られた彼女と淳の関係性に、今まで自分が思っていたものよりも強い繋がりを感じたのだ。



勉強する雪の横顔に、亮は一つの質問を投げかけた。

「それじゃあ、オレは?」



はい? と聞き返す雪に向かって、亮は彼女の顔を覗き込むようにして質問を続ける。

「オレに勝ちたいってことはねーの?」



その唐突な亮からの問いに、雪はその意図が掴めず疑問符を浮かべた。

「へっ?何をですか??」



雪にはその意味が全く分からなかった。

そして暫し亮の顔を眺めるが、



彼は依然としてニパッとした笑みを浮かべるだけで、どこかフザけた様子である。

「たまに一発殴ってみたくはなります」



そのイラつく笑顔を見ながら雪は拳を握り、そう冗談を口にした。

その雪の返答に亮は「もういいと言って呆れ顔を浮かべ、

雪が「何なんですかと反撃する。互いがイライラを募らせていた。



そして亮は改めて雪の勉強ノートを覗き込むと、呆れたようにこう口にした。

「よくもまぁ毎日勉強勉強‥お前他に取り柄はねーのか?」



変に突っかかってくる亮に雪は顔を顰めたが、冷静にそれに対して言葉を返した。

「河村氏の特技がピアノのように、私が勉強が出来るのは一種の特技なんです。

自慢してるわけじゃなく、これが特技だって人もいるってことです」




だからお互い頑張りましょう、と締め括って雪はノートに視線を落とした。

もう邪魔しないでねと亮に釘を刺しながら。


「‥‥‥‥」



亮は雪が語ったその言葉の意味を、地下鉄に揺られながらじっくりと考えていた。

長さが互い違いになったつり革が揺れに合わせて単調に動くのを、ぼんやりと見つめながら。



亮は空に視線を漂わせながら、彼女の言葉を要約して呟いた。

「得意なことで勝ちたいってわけね‥」



一流大学、経営学科、首席争い、奨学金‥。

数々のキーワードが、勉強に集中する彼女の横顔に見え隠れする。



亮は雪のことをじっと見ていたが、彼女はそれ以降自分の方を見もしなかった。

彼女が身を置いている世界に、まるで自分など存在しないかのように。



なんだか心がくさくさして行く。

亮は彼女から反対方向を向き頬杖をつきながら、ポツリと一人呟いた。

「‥あっそ。興味無いわけね、ピアノには」



「オレには‥」



ガタンゴトンと車内に響く音はうるさく、亮の呟きは雪の耳には届かない。

地下鉄は一方通行に進んで行く。


”オレ”の世界には雪が居るのに、”彼女”の世界に自分は居ない。

その代わりに淳が居る。目障りでいけ好かないあの男が。



雪がアイツに意識を向けている。ピアノでも、”オレ”でもなく。

付き合っている相手だろうと競争相手だろうと、その肩書が何であれそこにアイツが居るのが癪だった。

心の中が、前の見えない靄に飲み込まれていく。



地下鉄はやがて闇から光へ進んでいくが、亮の思考は暗い所へ深く潜って行くばかりだ。

単調な揺れと共に進むそれとは裏腹に、亮の心は置いてけぼりのまま地下鉄は進んで行く。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<ピアノとオレとアイツとお前>でした。

何か小話のような題名になってしまいました^^;

亮さんの恋心やジェラシーがチラッと垣間見えた回でしたねぇ。雪ちゃん全然気づいてないけど‥。



次回は<偽物への警告>です。



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初めて会ったその場所で

2014-06-17 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
雪は帰りの地下鉄のホームで電車を待ちながら、一人息を吐いてげっそりしていた。

もう死にそう‥マジで‥



ただでさえ中間試験で頭が痛いというのに、横山からは再びストーカー行為をされ清水香織からは変に絡まれ‥。

再び繰り返されるさざ波のような災難に、雪は閉口していた。

すると雪の耳に、聞き慣れた声が聞こえて来た。

「お~いダメ~ジヘア~!よっ!」

 

河村亮だった。彼は手を振りながら雪に近づくと、ニヤリと笑って話し掛ける。

「何だ?図書館行くんじゃなかったのか?」

「‥止めました。考えてみたら行かない方がいいです」



雪は横山のことを思い出してゲンナリしたが、

気分を変えて亮に「ピアノの方は上手く行ってますか^^」と質問した。



亮は顔を顰めながら「毎日ゲンコツ食らってばっかだ  ̄- ̄」と答え、

そのまま二人は沈黙した。




俯きがちに小さく溜息を吐く雪を見て、亮の脳裏に先日目にした光景が浮かんで来た。

夜道で淳と雪が言い合いをしていた。

淳の元から逃げるように去る彼女は、苦しそうな表情を浮かべていた‥。




どこか落ち込んでいるように見える雪を前に、亮は心のままに口を開く。

「お前もしかして‥淳と何か‥」



そう口にしたところで、雪は亮の方を向いた。

彼女の切れ長の大きな目が、亮のことを真っ直ぐに見つめる。



こう真正面から見つめられては、それ以上聞くのは野暮だと思われた。

亮は首を何度か横に振ると、誤魔化すかのようにストレッチを始める。

「あ、イヤイヤ‥な、仲良くしてっかぁ~?あ~疲れた‥」



亮は心の中で、何でこんな質問しちまったんだと己を責めていた。

その後もブツブツと言い訳を口にする亮を見て、雪はフッと軽く笑う。



そして深く溜息を一つ吐くと、観念したように口を開いた。

「やっぱり全部駄々漏れですか‥ちょっと‥あんまり良くなくて‥」



そう言って俯く雪を見て、亮は気まずそうに相槌を打った。そして諭すように言葉を続ける。

「そ、そうか?まぁ、男女の仲にゃ色々あっからな!」



オレには関係ねーけど、と言って亮は取り繕うように笑った。

そんな亮の隣で彼を見上げていた雪は、イタズラな表情で口を開く。

「ねぇ河村氏、思い出してみれば‥初めて会った時、この場所で話し掛けて来ましたよね?

お前青田淳とどういう関係だーって」




あれはまだ春学期が開講して間もない頃だった。

いきなり現れて不躾な質問をして来た彼の印象は、ハッキリ言って良くなかった。



雪はあの時のことを思い出して、不敵な笑みを浮かべて話を続けた。

「あの時は何このヤンキーと思ったもんですよ」



そう口にしながらも、雪は心の中で思う。でもイケメンと思ったことは内緒にしておこう‥と。

そんな彼女を見て亮は、意地悪な顔をして彼女に近づいた。

「あぁ?そのヤンキーに頭突きしたお前は何だ?ヤ◯ザか?

見てっとお前はマジで時々ヤバイことやらかすから恐ろしいぜ‥」




亮に頭突きをしたり、塾で男子学生に突っかかって行ったり‥。何かと危なっかしい雪に、亮がそれとなく釘を刺す。

けれど雪も自分からしたくてしたわけではなく、相手が自分を怒らせるからだと口にした。

亮と雪の会話は続く。

「テメーはそんな状況になったら全部のケンカ買うってか?」

「うわ~笑っちゃう!河村氏はムカつく人が居ないってんですか?」



雪はそう言い返した。すぐに手が出る亮から言われたら堪らない。

亮は眉を寄せると、天を仰いで息を吐いた。

「まぁ、いるっちゃいるな。静香のガキと、じゅ‥」



つい口から淳の名前が出かかり、

ハッと気が付くと気まずそうに雪が亮を見上げていた。



いやまぁその‥と亮は言葉を濁し、誤魔化すように渇いた笑いを立てる。

バレバレなのだが‥。



雪は亮の口から「静香と淳」が出たことで、心の一部が騒ぐのを感じた。

気まずそうに未だ笑いを立てている亮に、それとなく質問をする。

「あのところで‥河村氏のお姉さんと先輩って‥すごく‥仲良いんですか?」



雪からの質問に、亮は「は?」と片眉を上げて聞き返す。

雪は首を横に振りながら、幾分気まずそうに話を続けた。

「あ、いえその‥今はそんなに良い関係じゃないってことは知ってるんですけど、

それでもそれなりには気兼ねの無い関係に思えて‥」


「そりゃまぁ、幼馴染みだから‥」



亮はそう口にしてから、彼女の質問の意図を推し量って聞いてみる。

「どーしたよ?気になんのか?」



雪は「いや、まぁ‥」と言葉を濁してから、黙り込んだ。

気まずそうな表情を浮かべながら、そのまま二人は立ち尽くす。



電車を待つ人波の間で、暫し亮と雪は口を噤んだまま肩を並べて立っていた。

二人の心の中には同じ様に、淳と静香の姿が浮かんでは消える。



すると亮が突然、雪の方を向いて拳を固めて見せて来た。強い口調で口を開く。

「おい、もし家の姉ちゃんと喧嘩することがあれば、まずは髪の毛を引っ掴めよ!」

「はい?!」



そう口にした亮は、女同士のケンカのイロハを雪に説き始めた。

まずは先制攻撃として髪の毛を掴み、次は床に引き倒して‥と彼の教えは続く。



戸惑う雪に、亮は姉の危険性を切々と説明した。

以前服屋で見かけたあのクレイジー女を思い出せと言って‥。


雪と亮が初めて会ったその場所で、彼等は気を使うこと無く会話した。

時に笑い合い、時に罵り合い‥。




そんな親しい空気を震わせて、電車はホームに滑り込んでくる。

亮が初めて彼女に会った時は、電車に乗った彼女をそのまま見送った。




そして出会って半年経った今は、共に同じ電車に乗って、同じ街へと帰路を辿る‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<初めて会ったその場所で>でした。

亮と雪の関係も、初めの頃に比べて格段に近づきましたねぇ。

初めて二人が会った場所で繰り広げられる会話だからこそ、その空気の温かさが伝わってきます。


そして初めて亮が話し掛けた時も今も、二人の間に淳が居る、という構図は変わっていませんね。

この図が今後変わることになるのか‥先を見守ることにしましょう‥。


次回は<ピアノとオレとアイツとお前>です。


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謝罪の形骸

2014-06-16 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)


中間考査初日は、雲ひとつ無い晴天が続いていた。

ようやく図書館を後にした蓮は無事恵に会えたし、亮は先生に「雑に弾くな」と怒られながらもピアノに精を出した。

 





そして雪は今日最後のテストを受け、ようやく日程から解放された。

(答案用紙を集めるのは、久しぶりに読者の前に姿を現した遠藤さんだろうか?)



身支度を整える雪を見ながら、聡美が図書館に行くのかと聞いてきた。

しかし雪は先程の横山の行動が思い出され、今日はもうこのまま家に帰ると聡美に告げる。



するとそんな雪の耳に、「その服どこで買ったの?」という声が聞こえてきた。

雪が振り向くと、そこには得意そうな笑みを浮かべた香織が居た。

「その辺のデパートで買ったのよ。雑誌を見て買ったんだけど、結構いいでしょ?」



香織の隣に居る女学生が、カワイイと言って頷いた。続けて香織のことを褒めそやす。

「最近香織ちゃん女っぽくなったよねー」



そう言われた香織はまんざらでもない表情でニヤついていたが、女学生が続けた言葉にギクッとする。

「この前まではちょっとボーイッシュな感じじゃなかった?何か雪ちゃんに似た‥」



違うわ、と言って香織は女学生の方に向き直った。取り繕うような言葉を続ける。

「こ‥好みのスタイルが似てる部分があって、少しの間カブってただけよ。

もう三年で就活も控えてるし、ああいうスタイルは捨てようと思ったの。女らしいスタイルの方がいいでしょう?」




「その方が無駄にケンカをふっかけられなくて済むし」と、

香織はチラと雪の方へ視線を流して言った。ニヤついた笑みを浮かべながら。



するとそこには、香織の方をじっと窺っている雪が居た。

ジットリとした視線で彼女の根底まで見透かすような、その鋭い瞳。



雪には先程香織が話していた内容が全て聞こえていた。

まるで自分に非などないと言わんばかりの彼女の態度に、開いた口が塞がらない。



雪からそんな表情を向けられた香織は、息を飲んだ後素知らぬフリで雪から顔を背けた。

まるで何事も無かったかのように香織は振る舞う。



そんな彼女を見た聡美は、苛立ちながら呟いた。

「笑わせんな!喜んでマネしてたのはどこのどいつだっつーの

「もうマネしないなら良いことにしよ。良い方に考えよ、良い方に」



雪は聡美に半分、自分に半分言い聞かせるつもりでそう口にした。

厄介な事柄にはもう関わらず、とにかく今は試験に集中しようと心に決める。


「あ、そうだ」



すると直美が、とあることを思い出して香織に話し掛けた。

「アンタ前に雪ちゃんに謝るって言ってなかった?」



直美の言葉を聞いて、香織は「まだ‥」と口ごもりながら身を強張らせた。

先日、同期の子らや直美の信頼を取り戻したくて打った芝居を思い出す。



あの時「雪に謝罪をしたい」と言った香織の台詞を、直美は覚えていたのだった。

彼女に諭すように、直美は言葉を続ける。

「だったら行って謝んな。いつまで先送りすんのよ。

レポートをコピペしたことはどう考えてもアンタの非なんだから。皆の前で謝るって言ったのは香織自身じゃない」




日頃世話になっている直美からそう言われ、香織は口を結んで俯いた。

胸の中で色々な思いが交錯する。



そしてようやく香織は、自分の中で結論が出て顔を上げた。自信の漲る面持ちで。

‥何も難しいことじゃないわ。私が皆の前で謝罪してそれを雪ちゃんが受け入れなければ、

あの子の方が変な目で見られるに違いないもの!




香織はそう踏み、満を持して雪の名を呼んだ。

「雪ちゃん‥」



しかし呼び止めたはいいものの、すぐには言葉が出て来なかった。

自身の中の葛藤が、香織に躊躇いをもたらしている。

 

暫し動かない香織を前にして、痺れを切らした雪が「何?」と彼女を促す。

するとようやく香織は口を開き始めた。首に手をやりながら、レポート事件のことについて言及する。

「この前‥あなたのレポートを書き写しちゃってごめんなさいね。

ちょっと気持ちが急いちゃって‥考えが足らなかったみたい」




そして香織は機嫌を取るような口調で更に言葉を続けた。

「あんまり悪く思わないでちょうだい?もしかしてまだ怒ってる‥?」



香織はそう言って雪から許しを請おうとした。ここで許さなかったら雪の方が不利になることを見越して。

しかし雪は香織の持っている鞄の方に視線を落とし、そこで揺れている人形に目を留める。

 

今香織が口にしたものは、謝罪という名の形骸だということに、雪は気がついていた。

形ばかりの、中身を伴わない偽物だと。



その証に、彼女の本心がそこで揺れている。

嘘で固めた理由を翳し、雪から盗って行ったその人形が。



「ていうか」



「レポートのことだけじゃないでしょ?」



へつらうような笑みを浮かべる香織に、雪はそう言い放った。

香織は虚を突かれ、当惑しながら言葉に詰まる。



去って行く雪の背中に、香織は声を上げて詰め寄った。

「何なの‥?!私が何をしたっていうの‥?!」



そんな香織の叫びを背中で聞きながら、雪は振り向きもせずにこう口にした。

「それはアンタの方がよく分かってるんじゃないの?」



雪の横で聡美が香織を一瞥し、二人は並んで教室を出て行った。

香織は開いた口が塞がらないまま、二人が去って行くのを呆然と見つめている。







香織達のやり取りを静観していた皆だったが、やがて教室は徐々に騒がしくなっていった。

そしてそれに乗じて、香織も皆に向き直って声を上げる。

「何なの‥?!ちゃんと謝ったのに、何であんな後腐れのある言い方‥!」



しかし香織の主張に対して、皆の反応は冷ややかだった。

「勝手にやっててよ」と言い捨てる同期や、「謝罪を受け入れるかどうかは当人次第でしょ」と助言する子も居た。

 

「服を真似するしないの問題もあったでしょうが、」と彼女らは口にして頷き合った。

あの日皆の前で雪に謝罪したいと口にしていた香織は、確かに服装のことについても誤解を解きたいと言っていた。

彼女たちは、それもみな覚えていたのだ。



それを香織本人は、彼女達からの信頼を取り戻すための芝居とおざなりにしていた。

浅はかなその考えの結果が、今出ているのだ。

香織は自らの思惑が外れ、茫然自失とただ佇むしか出来ない。



当惑した香織は直美の名を呼び助けを請うが、直美は

「その問題についてもまたよく話し合ってみな」とピシャリと言うのみだ。



香織は思うようにならない現実に、周りの人達に、そして赤山雪に、憤っていた。

自分は悪くないと言い聞かせる胸の内が、熱く燻って行く‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<謝罪の形骸>でした。

なんかこの香織‥



これっぽい‥と思ったのは私だけでしょうか‥。




雪ちゃんは相対した相手が発する言葉に、真心が入っているかいないかを見抜く力がかなりありますね。

今回も保身の為に謝罪を口にした香織を見事見抜きました。


そして直美は香織に対して少し冷たくなりましたね。やっぱり嫉妬深いなぁこの人‥^^;



次回は<初めて会ったその場所で>です。



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棚越しの視線

2014-06-15 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)


振り返って眺めた図書館は、しんと静まり返っていた。

しかし雪の鋭敏な本能が、どこかおかしいと騒いでいる。



目の前で本を読んでいる蓮は(蓮は雪から帽子を拝借した)、その異変には気づいていない。

雪は頭を掻きながら、また正しく席についた。

さっきから何か変な感じ‥。勉強しよ‥



雪はささくれ立った神経を鎮めると、再び勉強に没頭し始めた。

蓮は本から顔を上げ、そんな姉にちょっかいを出し始める。人に迷惑にならないようヒソヒソ声で。

「姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん姉ちゃん!」 「何」 

「これマジで全部暗記してんの?」 「うん」 「マジ?全部?全部の全部の全部?」




雪は顔も上げず、ただもう一度頷いた。

蓮はそんな姉を前にして、ふぅんと小さく息を漏らす。



すると蓮は雪が見ている本の一部を隠して、こうすると面白いと言って勉強の邪魔をした。

蓮はヒマなのである。



さっきからイライラしていた雪はそのちょっかいで遂に切れ、蓮のスネに蹴りを入れる。

止めろこのガキッ!てか図書館では黙っとけ!



朝いきなり現れてケンカをふっかけてきたような亮や、やたらちょっかいを出してくる蓮‥。

今日はわけもなく災難が降りかかる日なのかと思い、雪は息を吐いた。



そして即行でペンを走らせ、蓮に書面で注意する。

恵待ってるなら他の所で待てばいいのに!何でここに来たの?!

すること無いなら店の仕事でも手伝ったら!




恵、亮に引き続きまたニート扱いされてしまった‥。

蓮は姉からの注意に、あっかんべーを返す。



その後、姉弟は向かい合いながらも顔を背け合った。

好きにしなと言い捨てて勉強に没頭する姉と、フンと息を吐いて腕組みする弟と‥。




そして結構な時間は流れた。

蓮は本を読むのにも携帯のゲームにも飽き、ぼんやりとただ頬杖をつく。

そんな蓮の前で、雪はまだ黙々と勉強している。

 

蓮が周りを見回してみると、そうやって勉強に集中しているのは姉だけではなかった。

厚い本を片手に勉強する、結構な数の学生が居た。



蓮は帽子を目深にかぶり直して、小さく一つ舌打ちをする。

「チェッ」



皆何か目的を持ち、それに向かって進んでいる。”すべきこと”に向かって。

そんな雰囲気が満ち満ちた図書館は、蓮にとっては居心地の悪い場所だった。

早く恵に会いたい気持ちだけが、彼をそこに留まらせていた。



そしてその頃恵は、試験の余った時間で問題用紙に落書きをしていた。

鉛筆を走らせて出来上がっていくのは、青田先輩の絵だ。



何度もスケッチした彼の絵は、すぐに描き上がって行く。サラサラとした黒い髪と、その下にある大きな瞳‥。

けれど恵はそれ以上ペンが進まなかった。青田先輩の顔やイメージが、どこかぼやけているのだった。



こんな顔だったっけ、と呟いて恵は息を吐いた。

問題用紙の余白に描かれた彼の絵は、未完成のまま試験時間が終わって行く。






やがて待ちくたびれた蓮は、座ったまま眠ってしまっていた。

雪は一つ息を吐くと、眠っている弟をそのままにして本を探しに席を立った。

事例集、事例集っと‥



雪は棚と棚の間を、目を光らせて歩いた。

手元にあるテキストでは、雪が今調べている内容の説明が不十分なのだ。

高い金出して買った教材なのに‥と雪は心の中で嘆きながら、事例集を探して静かに歩く。



するとそんな彼女の後ろから、こっそりと近づく人影があった。

雪の居る通りの一本横を、密やかに歩いて彼女をつけて行く。






雪はその鋭敏な感覚で、誰かが後ろから見ていることを感じ取った。

頭で考えるより先に、身体がそちらを振り返る。





「あ」



横山翔だった。

本と本との間から、棚越しに雪をじっと見ていたのだ。



雪は息を呑むと、ゾワゾワとしたものが体中を飲み込んでいくのを感じた。

脳から発せられた危険信号が全身に回り、心臓が大きな音を立てて鼓動を刻む。



落ち着け、と心で言い聞かせてみるが、身体は言うことを聞かなかった。全身から嫌な汗が噴き出してくる。

「な‥何だよ。何をそんなに驚いてんだよ」



横山は怯えたような表情をした雪を前にそう言ったが、彼もまた彼女の鋭敏さに驚いていた。

彼女の姿を盗撮しようと構えていた携帯を、後ろ手に隠しながら。



雪は自分に落ち着け落ち着けと言い聞かせ続け、まだ何もされてないのだから大丈夫と己を奮い立たせた。

誤解するな、とモゴモゴと言い訳を口にしている横山に向かって、ズンズンと向かって行く。

「アンタまた何しようっての?!マジで死にたいわけ?!」



横山は「俺も事例集を探していた」と言い訳を口にしたが、雪は聞き入れなかった。

横山は雪の剣幕に気圧されながら、俺に対して過剰反応すんなと言い捨てて駆けて行った。



雪は去りゆく横山の背中を睨みながら、心の中が苛立ちに騒ぐのを感じていた。

また横山に神経をすり減らされる日々なんて、もう真っ平だというのに‥。






「クソッ‥!よりによって撮るとこ見つかるなんて‥!」



横山は図書館の方を忌々しそうに振り返りながら、イライラを抱え小走りで道を走っていた。

去年のように録音されたり証拠を掴まれては堪らない、そう思いながら歯噛みしている時だった。

「翔!何?何でこっちにいるの?」



バッタリ直美と出くわしてしまった。雪を追いかけて図書館に行っていた横山はギクッとしたが、

ヘラヘラとした笑顔を浮かべると「探しものって言ったじゃん。そっちこそなんで?」と曖昧な答えを返した。



直美は皆でカフェに行くのを止め、図書館に勉強をしに来たと言った。

直美の眼光が鋭く光り、「翔は何を探しに来たの?」と続けて質問する。



横山は言葉に詰まった。まさか赤山を探しに来たとは言えない。横山は誤魔化すように、直美の方に身を寄せた。

「か‥香織がさ!本を探して欲しいって言うから、それ探しに来たんじゃーん!

でも無かったから直美さんの所行こうと思っててさぁ~」




ケラケラと笑いながらそう口にした横山に、直美は訝しげな視線を送る。

「香織が?何であの子が翔に‥」



直美の脳裏に、親しげに横山と話す香織の姿が思い浮かんだ。

自分も彼氏が居る分際で、なぜ人の彼氏に頼み事なんて‥。



そう口にした直美の言葉に、横山は「友達の頼みは聞いてやんないと」と言って彼女の背中に手を回した。

そして一緒にカフェに行こうと誘い、自然な流れで図書館から直美を遠ざける。



直美はどこか納得出来ない気持ちでいっぱいだったが、そのまま横山と肩を並べてカフェへと向かった。

休憩時間が終われば、また次の試験が待っている‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<棚越しの視線>でした。

今回のびっくりはこれ!



「あっかんべー」です。日本と全く同じなんですね!

韓国では「メーロン」と言って舌を出すのだとか‥。いや~驚きでした。


そして雪から「何でここに来たの」と聞かれても「亮さんに言われたから来た」と言わないところに

なんとなく亮と蓮の絆を感じました。公平な立場で応援するのね、蓮君は~^^


そして蓮の読んでいる「精武門」という本が、映画化されたものがこちらだそうです。

ドラゴン怒りの鉄拳 精武門 Fist of Fury Bruce Lee



ブルース・リーなんですね。蓮も強くなりたいのか??


次回は<謝罪の形骸>です。



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隠された秘密

2014-06-14 01:00:00 | 雪3年3部(静香の携帯~地下鉄にて)
「おいっ!」



暫し恵と甘い時間を過ごしていた蓮だが、突然後ろからすごい力でパーカーのフードを引っ張られた。

蓮が顔を上げると、そこにはニヤリと笑った河村亮が居た。

「おーおーアメリカかぶれがピュアなことしちゃってよぉ!」



先ほどの指切りを見ていたらしい。亮は蓮のフードを掴みながら文句を言った。

「てめぇ、オレが昨日から話があるって..」



そう続けかけた亮だが、ふと蓮の隣に居る女の子に気がついた。

身長の低い恵はビクビクしながら、突然現れたヤンキー風味の大男を見上げている。



そんな視線に気づいた亮はニコッと笑みを浮かべると、幾分慇懃な態度で恵に声を掛けた。

「ちょーっとコイツと話があるもんですからぁ。どうぞそちらも用事に行って下さいよ。

試験期間だよねー」




そう言って手を振る亮に、恵はたどたどしく頭を下げてその場から去って行った。

小さくなる後ろ姿に「後で連絡する」と蓮が声を掛けると、恵は頷いて駆けて行く。



蓮はジットリと亮を睨んだ。せっかく良い雰囲気だったのに‥。

「てか亮さん何なの?!俺がここにいるってどうやって‥」

「お前が美大に顔出してることくらい、オレが知らねーと思うか?」



亮は今やすっかりA大通である。蓮は自分より大学に詳しい亮を前に溜息を吐いたが、

まぁいいや、と言って亮は話を切り出した。

「やることねーんなら、お前ちょっと行って姉ちゃん見てろ」



姉ちゃん? と蓮は反復した。姉ちゃんがどうしたんだ、何かあったのかと矢継ぎ早に質問する。

「うぅむ‥」



亮は蓮の質問に対して、眉を寄せて黙り込んだ。

手が空いてる蓮に雪のことを見守っていて欲しいのは山々だが、何から何まで説明するのはちょっと‥。



亮が口ごもっていると、彼等の居る場所から少し離れた所に大人数が通りがかった。

先ほど大学の外に昼食を取りに行った横山翔御一行が帰って来たのだ。



その中には清水香織の姿もあった。にこやかに笑顔を浮かべながら、ふと通りの向こう側に視線を流す。

「!!」



その視線の先にあの男の子が居ることに気づいた香織は、心臓が大きく跳ねた。

口を開けたまま、暫しあの男の子に見入っている。



するとそんな香織の背後から、直美が声を掛けてきた。

「香織、どーしたの?」



香織はビクッと身を強張らせ、さっと顔を青くした。

咄嗟に否定を口に出そうとする香織の後ろから、直美はひょいと顔を出してその視線の先を見ようとした。

「何?誰がいるの?」



香織は背筋が寒くなった。

もし今あの男の子に見つかったら、自分の嘘がバレてしまう‥。

「な、なんでもない‥!」



香織は動揺のあまり、直美とその隣に居た友達を強く押した。

直美は腕をさすりながら、突然の香織の奇行に顔を顰める。

「な、何なの?!」



香織は青い顔のまま、小さく謝った。

もう一度あの男の子に視線を送ると、もう彼は行ってしまうところだった。

「ご、ごめん‥ちょっとビックリして‥」



背筋が寒くなり、冷や汗がダラダラと流れて行く。

あの男の子と同科の皆が接触することなどまずないと思っていたのに‥。

「ったくもう!マジなんなの!」



直美が香織の行動に憤っていると、向こう側から掛けて来る男の姿があった。

横山翔だった。



横山は鋭い眼差しでキョロキョロと辺りを何やら探っていたが、

そんなことには気がつかない香織は、嬉しそうに彼に声を掛けた。話題を他に移す良い口実と言わんばかりに。

「あ、横山君来たぁ!また合流?直美さんに会いに来たの?」



横山は一行から離れてある人物を探していたのだが、予想外に直美や香織に見つかってしまって動揺していた。

直美は香織の後ろ姿を見つめた後、先ほど彼女が送っていた視線の先を追う。



背の低い方の男の子に見覚えがあった。いつか香織の携帯で彼の写真を見たのだ。

直美は訝しげな視線を送りながら、一人心の中で考える。

あれ‥あの子の彼氏じゃないの?ケンカでもしたのか?何で会いもせずに‥



直美の心中は香織への不信が芽生え始めていたが、とりあえず帰って来た横山の方を向いた。

親しげに横山に話し掛けていた香織と彼との間に入り込み、直美は香織の方を見ずに彼に声を掛ける。

「ところで何でこっちに来たの?うちらカフェ行って勉強するって言ったじゃん」



そして直美は横山と腕を組むと、皆に向かって挨拶を口にした。

「みんな、とりあえずうちらもう行くね」



そう言って皆に背を向ける直美に、彼等はにこやかに手を振る。

しかし横山は直美の腕を振りほどくと、彼等が向かう反対方向へと駆け出した。



横山は探しものをしなくてはならないから、と口にして笑顔で直美に手を振った。

「後で連絡するから先に行って勉強してて!」



直美は未だ事態が飲み込めていなかったが、横山はもう駈け出して行ってしまった。

眉を寄せる直美の胸中が、モヤモヤとしたもので充満する‥。







一方亮と蓮はキャンパス内を歩きながら、話を続けていた。

「ところで‥お前の姉ちゃん、最近なんか色々大変みてぇでよ」



亮は尚も雪のことを言及する。

「姉ちゃんが?何がどうしたって?」「まぁ‥アレヤコレヤな」「んじゃそりゃ」



亮は静香のことには言及せず、「雪が何か困っているようだ」ということだけ蓮に伝えた。

自分が音大に通う途中、何度も雪が憂鬱がっている姿を見た、と。

出来る限り気を配って、とにかく傍についててやれと蓮に指令を出す。

「うちの姉ちゃん、元々神経過敏だからな~。病気だよ病気。てか何かと思ったらそんな話?」



しかし蓮は亮の忠告を耳にしても、特に危機感を持たなかった。

姉が大変そうにしているのはいつものことだと、そう認識する程度だ。

「ったくそうじゃなくて、何かあんだって‥!オレも詳しくは分かんねーけど、

とにかく気にしてやれっての!」




亮は思うように伝わらない現状に苛立った。隠した秘密を話してしまえば伝わるのだろうが、

それが出来ないのがもどかしい。

「亮さん‥」



そんな亮の姿を見て、蓮はピンと来た表情を浮かべた。

蓮は赤山家特有の鋭敏さで、亮の心の底に隠してある感情に気づいたのだ。

「なんかうちの姉ちゃんのこと、気にしすぎじゃね?」 「は?」



そのまま沈黙する亮に、蓮はニヤニヤ笑って言葉を続けた。

「もしかして気があんの?姉ちゃんの彼氏、ちょっとスペック高すぎだから大変だと思うけど‥。

それでも俺は公平に中立な立場で見守るからさー!」
「変なこと言うな!



そう言ってからかってくる蓮を亮は一蹴すると、そのまま音大の方向に足を向ける。

「オレピアノ科の教授と約束あんだわ。んじゃな」



亮はそう言ってくるりと蓮に背を向ける。

「ええ~?!突然何言って‥」「とにかく行けよ!お前の姉ちゃんだろ!」



そして亮は最後に、振り向きもせずこう言った。

「どーせやることもねーんだろ」



「じゃーな!」



その亮の言い草に、蓮は苛立ちの眼差しを送る。どうせヒマなんだからと言われたようなものだ。


皆行くべき方向へ去って行き、取り残されてしまう自分。

蓮は青空に不平を鳴らしながら、仕方なく姉の居る方へ向かって歩いて行った。


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<隠された秘密>でした。

香織が隠した「偽の彼氏」の秘密、亮の隠した「静香の思惑」の秘密、そして亮の心に隠されている「雪への気持ち」‥。

様々な秘密が隠れた回でしたね^^

そして今回も直美さんが‥。ちょいちょい香織と横山が話してる場面で苛ついた表情してますね、この人。

きっとすごいヤキモチ焼きなんでしょうな~前の彼氏には重くてフラれたに違いないな‥。



次回は<棚越しの視線>です。



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