Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

時の流れ

2016-12-30 01:00:00 | 雪3年4部(突撃〜時の流れ)


車は夜の道を走って行く。

雪は後部座席のシートに凭れながら、今日一日の疲れがどっと襲ってくるのを感じていた。



明日も試験なのに、今日は全くと言って良い程勉強出来ていない。

けれど身体は鉛のように重く、テキストを開く気にもなれなかった。






車窓に目を遣ると、景色が飛ぶように流れている。

まるで時の流れのようにその速度は早い。

雪がぼんやりとそれを見ていると、不意に運転中の父が口を開いた。

「今日は試験だったんだろう?」



「あ、うん」



雪がビクッとしながらそう返事をすると、助手席に座る母が振り返った。

「そうよ、試験期間じゃない!どうなの?今日こんな騒動で、試験は大丈夫なの?」







母からそう問われ、思わず雪は口を噤み俯いた。シートに置かれた自身の手を見ながら。

雪は一つ息を吐くと、重たい口を開く。

「私さ‥」



「今日全然勉強出来なかったし‥今回の試験、あんまり出来が良くないと思うんだ。

授業も一つ切っちゃったし‥」




「どう考えても奨学金は受けられないっぽい‥ごめんなさい」



俯いたままそう告白した雪に向かって、母はケロリとした顔で言った。

「え?いいのよ。そんなこと気にしなさんな」



そして父も。

「弟の危機に駆けつけたんだ。試験なんてどうでもいい」







予想外のその返答に、雪は思わず目を丸くした。

両親は前を向いたまま、更に言葉を続ける。

「俺もせっかく入った大企業を辞めて事業を始めた時は、上手く行くと思ってたんだ。

最近の若者事情は更に変わって来てるんだろ?」


「そうよ。結婚したからって皆がお金持ちになれるわけじゃないし」



「だから残りの大学生活だけでも、気を楽にして過ごしなさいな」



母は変わった。

以前は口を開けば父の愚痴と、雪への叱咤ばかりだった。





「心配するな。借金をしてでもお前の学費は最後まで工面するからな」



父も変わった。

女は大学に行く必要なんてないと言って、どんなに頑張っても褒め言葉一つ貰えなかった。




言葉を飲み込んで感情を押し殺していた昔の自分が、今初めて呼吸する。


ほんの束の間だけど、



その日私と弟は「必死に頑張らなくてもいいよ」って、

初めて認めてもらえた気がした。




結果としては、私の大学史上最悪の期末試験だったけど、

こんなに気を楽にして試験を受けたのも生まれて初めてだった。




雪は窮屈な靴を脱いで膝を抱えた。

その変化の余韻を、その時の流れを、存分に味わいながら。

「それにしてもどんな会社だったんだ?」「だから騙されたのよ!」



両親の会話をBGMにして、車は夜の道をひた走った。

飛ぶように流れて行く景色を眺めながら、今日という日が終わって行くのを雪は知る。

笑って良いのか泣いて良いのか分からない一日が過ぎて行った。



胸の奥から温かなものが溢れ出て、車窓の景色はぼんやりと霞んだ。

雪はそのまま目を閉じて、その心地良さに身を委ねる‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<時の流れ>でした。

最後の雪ちゃんの表情!
良かったねぇぇと頭をナデナデしてあげたくなりました

最後の「笑っていいのか泣いていいのか分からない1日」というモノローグは、
遂に雪ちゃんが泣けたことを表しているんでしょうか。本当良かったねぇ‥。

だんだんと変わって行く雪の周辺の人達。

次回はそこにつながる淳の回です。

<狂った計算式>です。

今年最後の更新です。皆さま、良いお年を〜〜


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変化の余韻

2016-12-28 01:00:00 | 雪3年4部(突撃〜時の流れ)


父はフンと息を吐くと、蓮に向かって言葉を掛けた。

「雪ばっかりと言うが、それは雪がそれだけ努力してるからだろう、バカモンが」

「アンタお父さん見てたら分かるでしょ?簡単に儲けようとすると簡単に失敗するのよ」

「なんだと?!」



淳はその場に立ち尽くしたまま、問題を解決して行く赤山家をただ眺めていた。

自分が立つこの場からは、雪の表情は窺えない。

「とにかく親のことを心配する前に、まずは自分のことをきちんとやりなさい」

「あいっ!」



雪の父は淳に向き直ると、息子の非礼を詫びた。

「助けに来てくれて感謝するよ。うちの愚息が迷惑を掛けたね。まったくお恥ずかしい‥

「あ、いいえそんなことは‥。大変だったのは雪ちゃんですよ。

大事にならなくて幸いです。若気の至りというやつでしょう。あまりお叱りになりませんよう‥」
「ああ」



その隣では、蓮と恵が会話している。

「大変だったね、蓮」「ウン‥」



「二度とこんなことしないで。あたし本当に心配したよ」



恵の温かな言葉に、思わず蓮はウルウルと涙ぐんだ。恵はそっと蓮の頬に手を伸ばす。

「とりあえず二人でちょっと話さない?これからのこととかさ」

「キンカン‥」「最初に言っとくけど、」



そう前置きする恵に蓮が「え?」と聞き返すと、彼女は衝撃発言をした。

「次こんなことしたら別れるからね?」



思わずゾゾッと身震いする蓮を引っ張って、恵は元気良く彼の両親に挨拶する。

「おじさんおばさん、あたし達先帰りますね!タクシー呼びました!

「恵ちゃん、蓮のこと懲らしめてやってね」



「お先失礼します〜」



そうして去って行く蓮と恵の後方で、亮は人知れず皆に背を向けた。

するとその背中に、雪の母の声が掛かる。

「亮君!」



「何こっそり帰ろうとしてるの」「あーっと‥」

「最近はどう?上手くやってるの?」

「ハイ、まぁ‥。近いうちにご挨拶に行きます」



言葉を濁す亮のことを、雪の母はまっすぐ見つめてこう言った。

「そうね。亮君は真面目で仕事もきちんとやるから、

どこへ行っても上手く行くと思うわ」




そう言って彼にエールを送る。少し離れた所から、雪の父も亮に声を掛ける。

「辞めたからって遠慮せずに時々メシでも食いに来るんだぞ!」「‥ハイ」






赤山家の父と母は、温かな目で亮のことを見つめていた。

少し離れている場所に居た雪も、亮に向かって会釈する。



しかし亮は雪から視線を外すと、そのまま皆に背を向けた。

「それじゃこれで‥帰ります」「ああ、じゃあな」「今日はありがとうね!」

「先輩、今日はこのまま帰ります。親と一緒に帰った方がいいと思うので‥」

「そうだね、そうした方がいい」



「それじゃ失礼します」

「ああ、運転気をつけてな。良い車に乗ってるな‥「アナタ何言ってるのよ」

「はい」






淳は雪が車に乗り込むのを見送った。

自身を見つめる淳に向かって、雪が最後に声を掛ける。

「先輩」



「今日は本当に本当にありがとうございました。気をつけて帰って下さいね」



雪はそう言ってニッコリと笑った。心からの笑顔で。

「うん、じゃあね」



淳もまたニッコリと笑っていた。

しかしその笑顔がどこか不自然なそれだったことに、ガラス越しの雪は気が付かない。







その車が走り出しても、淳は暫くの間そこから動かなかった。

胸の中をざわつかせるその感情と、その変化の余韻が淳を縛り付ける‥。







握れなかったその手は、ポケットの中に置いてけぼりになった。

もう雪の姿はとっくに見えなかった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<変化の余韻>でした。

問題解決した赤山家と、そこに未練を残さないよう去って行く亮、そして無言で雪を見送る淳‥。

本当一難去ってまた一難です。引き続き暗雲漂ってます〜〜(TT)

でも次回は心温まるお話ですよ^^

<時の流れ>です。


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蓮の吐露

2016-12-26 01:00:00 | 雪3年4部(突撃〜時の流れ)
赤山家とYG企業の社員達は門を出たところで大揉めに揉めた。

「訴えてやる!」「もういいじゃない」

「さようなら、もう二度と来ないで下さいよ!」



怒り心頭の社員達がそう言って会社に入った後、パアンという殴打の音がその場に響く。

「お前って奴は!!」



「大馬鹿野郎め!そんなに簡単に金が稼げると思ったのか?!」



父はブルブルと震えながらゲンコツを固めて蓮に向けて怒鳴った。

叩かれた蓮は頭を押さえて項垂れている。

「誰がお前に金儲けしろと言った?!どうしていきなりこんなバカな真似をしたんだ?!」



思わず母が父に「ほどほどにして下さいよ」と言葉を掛けるも、父の怒りはおさまらなかった。

蓮は目に涙を溜めながら、震える声で言い返す。

「じゃあどうしろって言うんだよ?!」



「こんな風になるって分かってて来たと思う?!

どうしていつもダメなヤツ呼ばわりするんだよ?!俺は自分なりに頑張ったつもりなんだよ!」




蓮は自身の気持ちを叫んだ。しかし母はその態度を諌めて蓮の耳を引っ張る。

「アンタって子は謝りもしないで!」



それでも蓮は吐露を止めなかった。長年溜めてきたものが、息せき切って溢れ出す。

「母さんも父さんも姉ちゃんには嫁に行けばそれでいいって言うくせに、

どうして俺には将来面倒見ろとか言うんだよ?!」




「小さい頃から「蓮、出世して家を頼むぞ」って耳にタコが出来るほど聞かされて!」



父は反省もせず言い返す蓮に、「なんて奴だ‥」と呆れていた。

けれど蓮の主張は止まらない。幼い頃から感じて来た長男のプレッシャーに、押し潰されそうで限界だったのだ。

「家族皆俺に勝手に期待して勝手に失望して!

俺だって自分がバカで迷惑掛けてるって分かってるよ!

でも何者にもなれなくておかしくなりそうだった!」







「毎日毎日罪悪感で押し潰されそうだったんだよ!」







傷ついた魂の叫びが、欠けた月が浮かぶ空に溶けて行く。

自身の気持ちを吐露し終わった蓮のことを、全員が静かに見守っていた。



俯く蓮を、その恋人のことを心配そうな顔で見つめる恵。



長男が抱えて来た重荷に初めて触れ、顔を見合わせている両親。



少し離れた場所で、その様子を静観する亮。



そして淳の隣で、雪は静かにその蓮の叫びを受け取っていた。




はっ‥



いくらか冷静になった蓮は、不意に何かに気付いたように顔を上げた。

今自身が発した言葉が、姉を傷つけたのではないかと思い至って。

「あ‥姉ちゃんのせいじゃないから‥ただ状況が‥」



「ただ俺が置かれてる状況が‥情けなくて‥ゴメ‥」



消え入りそうな蓮の謝罪を聞く雪の横顔を、淳はずっと凝視していた。

彼女がどれだけ傷ついたかを慮り、淳は彼女の手に指を伸ばす。



しかし、淳がその手を握ることは叶わなかった。

雪は蓮に向かって歩いて行くと、肩に手を置いてぐいと引き寄せる。

「!」



「分かってるよ。今までしんどかったね」



雪は蓮の目を見ながら、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。

「今まで蓮がストレス溜めながら悩んでた気持ちも分かるよ。

今日もアンタなりに頑張ろうと思ってやったことなんでしょう?

皆アンタのことが心配なんだよ。怒ってるわけじゃない」




「辛かったね」



それは皆が蓮を責める中で、初めて掛けられた温かな言葉だった。

気張っていた心の表面が、柔らかく溶けて行く。

「う‥」



「う‥うわああん!怖かったよぉ!あそこで死ぬんだと思ったよぉ!マジで怖かったよぉぉぉ」

「うんうん」「ったくコイツは‥」



家族に慰められてむせび泣く弟の姿を、穏やかな気持ちで雪は受け止めていた。

責任は誰にあるのかを突き詰めたり、互いの不公平さを論じ合うよりも、

ただ慰めが必要な時もある。




私もそうだった。



ほんの少し前までは、こんな感情を抱くことは出来なかっただろう。

雪が経験して来た様々な出来事が、彼女に周りを気遣う余裕を与えていた。

その雪の態度が、蓮に対する両親の怒りを優しく解いて行く‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<蓮の吐露>でした。

雪ちゃん優しいなぁぁいいですねこんなお姉ちゃん‥

でも少し前の雪なら、自分と比べて卑屈になっちゃってたような気がしますよね。

そうならずに蓮を慰められたのはやはり淳化の影響が大きいんじゃないでしょうか。

今回「握れなかった雪の手」がすごく意味のあるシーンになっていますよね。

その後のコマの淳の無言の後ろ姿が、暗雲漂います‥。


次回は<変化の余韻>です。


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脱出

2016-12-24 01:00:00 | 雪3年4部(突撃〜時の流れ)
「うわああああー!」



ようやく手にした鞄を抱え、蓮は脱出を図ろうと猛ダッシュした。

しかし狭い通路を抜けることが出来ず、結局捕まってしまったのだった。

「離せぇぇぇ!」「ったく!ネズミみてーな奴だ!」

「ちょっと目を離したスキにこんな所に‥」



「どうやって倉庫の場所が分かった?!」

「はなせぇぇぇぇ!」



蓮は死に物狂いで逃げようと身体をよじるが、大の男三人に捕まえられては無駄な抵抗だった。

倉庫内に殴打の音が響く。

「うわあ!うわあぁ!」



「お母さ〜〜〜〜ん!」



蓮の悲鳴が倉庫の中で響くが、それが外に漏れることはなかった。

相変わらず雪達三人は無言でソファに座っている‥。






頬杖をつく雪の姿を、淳はじっと見つめていた。

先日佐藤から送られて来たメールの文面が脳裏に浮かぶ。

今赤山から頼まれて静香さんの勉強見てるんだ。

赤山は本当に親切だよな。皆に気を配って




淳はその事実を未だ雪の口から直接聞いていない。

けどそのことが、彼女を悩ませる一因になっていることは確かだと淳は踏んだ。

その上で、雪が居るこの場で静香の話題を亮に振る。

「お前、ここを出て行く時は静香も連れて行くんだよな?」






突然出された静香の話題に、雪の心臓がドキリと跳ねる。

亮はというと、暫し無言のままただ前を向いていたが、



やがてふいっとそっぽを向いてそっけなくこう言った。

「アイツのこといくつだと思ってんだよ。好きなように生きて行くさ」



「‥‥‥‥」



静香のことを厄介払いしたい淳の気持ちは、分からないでもない。

けれどやはりそう直接的に言われると、胸の中がモヤモヤと煙る。亮は苛つきながら言葉を返した。

「いらん心配せずに無視してりゃいいって言ったろ。

テメーは自分の彼女の心配だけしてりゃいいんじゃないスか?」
「俺に関してはいい。ただ雪に‥」

「そんなに心配ならオレから言っとくからよ。ダメージには‥」

「あー大丈夫ですよ!私と静香さんのことは気にしないで下さい!」






雪が放ったその一言に、淳も亮も突然口を噤んで雪の方を見た。

思わず「あ」と固まる雪‥。



「いやその‥あの人は河村氏のお姉さんってだけで‥

私とはあまり関わり無いですから!心配しなくても大丈夫ですって!はははは‥」




そう言って場を和まそうとするものの、二人は一向に笑わなかった。

雪の言葉の裏にある真実を、二人は敏感に感じ取っている。



は‥



口元を引き攣らせながらの作り笑いも何も生みはしなかった。

痺れを切らした亮が話題を変える。

「おい、もう五分経ったぞ。突撃すっか?」



その時だった。

ガシャーン!






突然階上で大きな音がした。雪達三人は目を丸くして音のした方を見る。

そこでは傷だらけになった蓮が、泣きながら叫んでいた。

「離せぇ!」



「こっから飛び降りてやる!離せよぉ!」

「二階からで死ねるかよ」「だから飛び降りるんだっつの!」



「離せ!離さんかぁぁ」



今にも窓から飛び降りようとする蓮を、男達は必死に引き止めていた。

蓮はジタバタと暴れながら、まるで小さな子供のように泣き叫ぶ。

「お家に帰るぅぅぅ!」「コイツまじやばいな‥」

「おい、お前の姉さんが来てるんだ。ちゃんと帰れるから」「嘘だぁぁ!」



「まったくなんて奴だ!」「蓮!」



バン!と扉が開き、雪達三人が部屋に突入した。

窓枠に足を掛けながら暴れる蓮を始め、皆雪達の方を向く。






傷だらけになった弟の姿を見て、思わずあんぐりと口を開ける雪。

蓮もまた目を丸くして姉を見た。

「姉ちゃん?」



「蓮?!」



聞き覚えのある声が窓の外から聞こえたので身を乗り出すと、

そこにはなんと両親と恵の姿が見える。

「ヤダ!あれ蓮じゃない?!」「そこで何をやっとる?!」「危ないよー!」



赤山家を始めその周辺の人々を巻き込んでの事態に、蓮もさることながら男達もまた青くなっていた。

「クソッ親が来たぞ」「穏便に済ませろ」



蓮の姿を、雪はその場でじっと見つめている。

「これでも警察呼ぶか?あーっオレの腕がぁ〜」

「もうそのくらいにして下さい!」



その真っ直ぐな視線に耐え切れなくて、

蓮は所在なさげに俯いた。



姉から視線を外しながら、ボソボソと口を開く。

「あ‥姉ちゃん‥その‥どうやってここが分かっ‥」







雪は何も答えずに、ただそっと蓮の手を取った。

「行こう」



たった一言そう言って、姉は優しく弟の手を引く。

「うん‥」



そして事件は収束した。

雪は蓮の手を引いて、ようやくこの会社の門を出ることが出来たのだが、

そこには怒り心頭の両親が待ち構えていた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<脱出>でした。

ようやく会社から出ることが出来ましたねぇ〜。

しかし蓮よ‥「お母さ〜ん!」とか「お家に帰るぅ!」とか‥。子供か!

雪がしっかりしてる分、蓮のおこちゃま度が半端ない‥。恵、本当に蓮でいいのか‥?!


次回は<蓮の吐露>です。

皆さま、メリークリスマス

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心地良い狭間

2016-12-22 01:00:00 | 雪3年4部(突撃〜時の流れ)


もうすっかり空は暗くなっていた。秋の夜に虫の音が響いている。

三人のスパイは身を寄せ合って一つのソファに掛けていた。

誰も一言も喋らず、ただ前を向いている。

  

それにしても三人で一つのソファはさすがに狭い‥。

なんでこんなギュウギュウに‥



それは先程淳と亮がこんなやり取りを交わしたからだ。

「あっちに座ってれば?」「は?ぼっちとかヤだし。」



まぁわからんでもないけど‥






そんなわけで三人は並んで座っていた。

前を向いて座る雪のことを淳はじっと見つめ、亮は頬杖を付きながら明後日の方向を向いている。

膝を抱えた体勢のまま、雪は二人に向かって礼を言った。

「二人共、助けに来てくれてありがとうございます」



それに応える淳。

「当然だよ」



そして亮。

「助けるもクソもねぇよ、ついて来ただけだ」



そして再び三人の間に沈黙が漂う。

少し不満そうな淳と、ただ前を向いて座る雪、得意そうに鼻を鳴らす亮。

  

そっぽを向き合う淳と亮の間で、雪は小さく息を吐いた。



何だかとっても非現実的



雪はチラリと淳の方を見てみたが、その表情は窺えなかった。



膝を抱えた体勢のまま、雪は天井を眺めながらぼんやりと考え事をする。

「‥‥‥‥」



どうしてこんな所に座ってるんだろ‥。

つーか蓮‥やってくれたよね




アイツ、ウチの経済状況分かってて、敢えてこんな所来たのかな。

だからってこんなのに騙されるか?バカなの?アホなの?

もっと大変なことになって借金背負うことになったらどーすんの?

お母さんもお父さんも元気なわけじゃないって分かるじゃん‥それより怪我はしてないでしょうね?

てか私明日も試験なのに、全然勉強出来てないよ!そして恵とはどんな顔して会うつもり‥?




蓮に対する怒りや心配が頭の中でぐるぐると回る。

居ても立ってもいられないのに、ただ座っているだけの苦痛。

雪の溜息が、白く曖昧な天井にぼやけて消えて行く‥。







淳はそんな雪のことをじっと見つめていた。

雪は天井を眺めながら、重たい溜息を小さく吐き出す。



彼女の頭の中ではさぞ様々な考えが巡っていることだろう。

淳はそんな雪を慮って、彼女の手をそっと握る。



雪は握られた手の温かさを感じて、淳の顔を見上げた。

見つめ合う二人の姿を、亮は視線だけ動かしてチラリと盗み見る。



「河村氏」



モヤッとしたものが胸の中に芽生えることに気を取られていた亮は、

突然彼女から名前を呼ばれて思わず動揺した。

「あ、えっ?!」「ところで実際の所、蓮はどうだったんですか?」

「なんで?!えっ?!」






心配そうな顔で亮のことを凝視する雪の顔が、すぐ近くにあった。

亮はぽかんと口を開けながら固まっていたが、後に冷静になると自身の知る限りの情報を伝える。

「あ‥知らん。居なくなっちまって。他の部屋に連れて行かれたみてー」



「全員ぶっ飛ばして上がってみっか?」

「いえ、結構です」



亮は焦れながら、なんとか突破口を開けたいと地団駄を踏んでいた。

「いいだろ?!一分待ってみて来なきゃ殴り込みだ!」「五分経ったらにしよう」



淳は亮の無謀な作戦に乗る気は無かったが、なんとかしなくてはならないという気持ちは同じだった。

もしかしたら雪に危険が及ぶかもしれないという考えの元、淳は亮に向かって批判を口にする。

「ていうかお前、どうして雪にメールした?するなら俺にしろよ」「は?」



「はいぃ〜?そりゃーこういう時は家族に連絡するだろうがよ」



二人はバチバチと火花を散らし合い始めた。

「聞き捨てならないな。危ないと分かってて一緒に来たのか?」



「あのな、今蓮は彼女に捨てられたくなくて宙ぶらりん状態なわけよ。

んな奴にまともな判断が出来ると思うか?オレにだって止めらんねーよ!」




ヘン!と鼻で息を吐き、亮は前のめりでこう話し始める。

「つーかよ、テメーは理性的すぎて理解できねーんだ」



「おいダメージ、コイツは見た目よりお子ちゃまだからな。

お前の愛の力で包み込んでやれよ?ww」
 そろそろまた始まるか‥



亮の皮肉に目がテンになる淳の隣で、雪はまた二人の言い争いが始まる気配をビンビン感じていた。

思った通り今度は淳が亮に向かって口を開く。

「お前近々出て行くって言ってたよな。どうしてまだここに居る?

蓮君は経験ないからしょうがないにしても、お前はピラミッド商法だって分かってたハズだろ?」


「アイツが正気に戻ってから出て行こうと思ってよ。悪ぃか?」



雪は火花を散らし合う二人に挟まれながら、そのやり取りを黙って聞いている。

「ここ出てく前に色々やることあんだよ、オレにもよ」「だからどうしてお前が?」



「分かってたんなら最初から止めろよ。皆の心配の種を増やすだけだろ?

雪なんて試験期間中なのに駆けつけたんだぞ」
「え?そうなん?」



コクリ‥



素直に頷いた雪に向かって亮は息を飲み、ボソボソと言い訳を口にし始めた。雪は黙って受け入れる。

「そりゃ‥その‥悪かったな。けどダメージどうこうじゃなくて、

蓮とは兄弟みてーな感じだからよ、だから来たんだ。勘違いすんなよ?

つーかオレにもそれなりに事情っつーもんがあんだ。偉そうに言わないでもらえます?お坊ちゃま!」


「そのお坊ちゃまっての止めろ、「ダメージ」も」「はぁ?!」



「坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃん坊っちゃんダメージダメージダメージダメージ」

「お前とはもう何も話したくない」 二人共本当お子ちゃま‥



二人はまた小学生男子のようなやり取りを重ね、互いに互いをけなし合っていた。

くだらない言葉が出ては消え出ては消え、白く曖昧な天井に溶けて行く。



そんな二人の間で雪は、頬杖をつきながらふっと笑った。

この狭間は随分と心地が良い。



ホント、非現実的状況だ



騒動と騒動の間の、非現実的なその時間。

雪は二人に挟まれながら、ずっとその温かな体温をほのかに感じていた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<心地良い狭間>でした。

イケメン二人に挟まれる雪ちゃん‥いいですね〜^^

そして雪のことを慮って手を握る淳が印象的でしたね。

急に話し掛けられて慌てる亮さんも良かったです。


さて次回は<脱出>です。


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