Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

露呈

2016-12-16 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
ふーっ‥



なんとか静香と会っていたことを隠し通せた安堵から、雪は深く息を吐いた。

隣には笑顔の彼がいる。

「試験は上手く行った?」

「あ、はい!ちょっと難しかったですけど、勉強した所全部出ましたから」



「頑張ったね」「へへ」



二人は夕焼けの空の下を並んで歩いた。先輩が大学に来るのは一週間ぶりだ。

「俺も試験受けなきゃいけない科目があって、近い内‥」



話す彼の横顔を見つめながら、雪の脳裏にふと健太の言葉が浮かんで来た。

「なんだよー俺とお前の仲じゃねーか!

その‥赤山から青田に上手く話してくんね〜かな〜なんて‥」


「はい?何の話ですか?」



あの時感じた微かな違和感が、雪の心に引っ掛かったままになっていた。

そして淳も同じく、心の中に引っ掛かりを感じている。



「あの‥雪ちゃん、もしかして‥」「先輩」



二人は同時に口を開いた。そして互いに先を譲る。

「あ、先に言って」「いえお先にどうぞ」



「何だよ〜」



そんなやり取りに二人が顔を見合わせて笑っていると、雪の携帯電話が鳴り出した。

「雪ねぇ!」「恵?」

「雪ねぇ今どこ?電話出れなかった?」「あー、試験でしばらく電源切ってたや。どうしたの?」



「え?」



その後恵が話し出した内容を聞くやいなや、雪の顔色が変わった。

そしてすぐさま雪は恵と会うことにしたのだった。



恵の携帯電話に表示されているのは、数時間前の蓮と恵とのやり取りだ。

「今日面接だって?」「うん!今向かってるとこ!」

「蓮、やっぱりどう考えても行かない方がいいと思う」

「確かにちょっと怪しい気もするけどさ、そうだったら出てけばいい話だから。

ったくキンカンは心配性だなー」


「でも‥」「到着!終わったら連絡する!」

「面接終わった?」1



その画面を見せながら、心配そうな表情をした恵が言った。

「ここから既読にならないし連絡もなくて‥」



思わず白目になる雪と目を丸くする淳。

恵はそんな二人に、自身が知っている限りの蓮情報を伝える。

「ここに入って四時間も経ってるのに‥面接がそんな長いなんておかしくない?

名前も聞いたことない会社だったし、何かあったんじゃないかって‥」




「電話は?かけた?」「うん、でも出なくて‥」



下を向く恵を見ながら、雪の背筋がゾワゾワとざわめき出した。

ざわ‥ざわ‥ざわ‥なんだこの嫌な予感はっ‥



あの賭博師ばりにざわざわする雪を見て、口元を引き攣らせる淳。

雪は溜息を一つ吐いた後、自身の携帯を取り出した。

「それじゃ私が一回掛けてみる‥ん?」



そして雪は、新着メールが届いているのに気がついたのだった。

「メールが‥」「なんて?」「あ‥」



「河村氏から‥」

おいダメージ。蓮の奴今日ここに行くぞ



添付された<地図>には、「Young Man産業 SGビル」と記載されていた。

亮が残したその足跡を見つめて、三人は目を丸くする‥。









その頃YG産業に居る蓮は、渡されたプリントを持ちながら一人悶々と立ち尽くしていた。

同室には同じく落ち着かないらしい応募者の姿がある。



蓮は先程の光景を思い出してゲンナリしていた。



「つーかどーしてチーム分けすんの?!亮さーーん!!」

「あなた方はこちらへどうぞ〜」



先程三階の廊下にて、頼りにしていた亮と離されてしまった蓮。

ピンチなのは明らかだったが、蓮はどうしてもまだそれを認められずにいた。

ピラミッド商法‥俺がピラミッド商法‥この俺が自らそんなモンに飛び込むなんて‥



‥こうなったら逃げ出すしか道は無い。

蓮の鷹の目が鋭く光る。



しかしドアには鍵がかかっていた。



あの鍵を開けるにはどうすればいいか。

蓮は周りを窺った後、さり気なさを演出するため鼻歌を歌いながらそこに近付く。



しかし。

「あ」



「もうすぐ面接が始まりますので、ご着席お願いしますね」



脱出失敗‥。

「ハイ‥」



しかしここで諦めたらまたふりだしだ。蓮は中年男に向かって声を上げる。

「あ、あの!やっぱ面接は止めて帰りたいんですけど!」

「え?どうしてですか?」「その‥今家から連絡が来てすぐに帰らないと‥」



それは蓮が咄嗟に思いついた嘘だった。中年男はそれを見破ってこう言い返す。

「はい?!鞄は倉庫の中なのにどうやって連絡なんて‥」



「倉庫?」「あっ‥」



しまった、と中年男は慌てて口を噤んだ。

そして再び笑顔を浮かべながら、隣の大柄の男と共に強引に蓮を室内へと促す。

「ほらほら、緊張のしすぎですよ。そんな嘘ついて〜

そんな難しい面接じゃないですから、まずは緊張をほぐしましょう!」




「就職のドアは開かれていますよ。我々と一緒に働けば‥」



中年男は耳あたりの良いことを言っているが、手には力が込められ、

蓮はズルズルと半ば引っ張られるように中へと戻された。

脳裏に心配そうな顔をして忠告してくれた恵の姿が浮かぶ。

「蓮、もう一度考え直してみない?ちょっとおかしいと思うの」



看過して来た真実が、自分の間違いを認めたくない弱さが、次々と露呈する。

それは蓮の瞳から大粒の涙となって流れ落ちた。

「め‥めぐみぃ‥」



「うわあああああー!」









一方ここは亮が連れて来られた部屋。

亮は配られたプリントになんとなく目を通すも、その内容についてはサッパリだった。

何が書いてあんだ?こりゃ






チラ、とドアの方を窺って見ると、そこにはまるで門番のようにガタイの良い男がずっと立っている。

「はい、それじゃあ皆さん一人ずつ詳しい説明を聞いてみましょうか」



亮の視線に気付いたガタイの良い男がそれを追うと、

もう既に亮は彼から視線を逸していた。



男は亮の横顔から目を逸し、再び前を向く。



‥と見せかけてもう一度亮の方を見た。

「!」



男と視線が合ってしまった亮は、その警戒を解く為にニッコリと笑顔を浮かべる。



だんだんとこの会社の本質が露呈する。

亮はその鍵穴を開けるチャンスを窺いながら、じっと息を潜めていた‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<露呈>でした。

あの賭博師ばりにザワザワする雪‥。

 

蓮がエスポワールに乗ることになったらどうしよう!‥と慌てないのは、

亮さんがついててくれるからこそですね。


さて次回は<突撃>です。


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爪痕

2016-12-14 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
学食にて、雪と静香は共に昼食を取っていた。

「見せて下さい」



「‥‥‥‥」



そう言って手を出す雪に、静香は顔を顰めながらも問題集を差し出した。

「何よ食事時にまで‥」「私も試験があるんで。早く終わらせましょ



「つーか学食クソまず」「お金あるなら他行ったらどうです?」



愚痴る静香に苛つきつつも、雪は律儀に彼女の宿題をチェックする。

「全問正解。別段直す必要もありませんね」



「佐藤先輩が全部教えてくれたんですか?」

「ちょっと!全部自分で解いたのよ自分で!

やってもらったんじゃないっつーの!」
「ギャッご飯飛んだ」



飛び散ったご飯粒を払いつつ、雪はその課題に隈なく目を通した。

途中の式も解答もそれなりに出来ている。



「なんとなく理解はしてます?」

「ぜんぜん」「‥‥‥」



静香は溜息を吐きながら、相変わらずグチグチと愚痴を零した。

「ていうかさぁこんなことさせるアンタも会長も‥」

あ、髪の毛にご飯粒ついてる



「なんて無駄なことをー‥」



静香の髪についたそれにそっと手を伸ばした、その時だった。

ガッ!







目にも留まらぬ早さで、突然静香は伸ばされた雪のその手を掴んだ。

瞳孔の絞られた瞳の中に、得体の知れない感情が凍る。






一方雪は突然のことに目を見開いて固まっていた。こんな静香の姿を目にするのは初めてだった。

バッ



我に返った静香は掴んでいた手を突然離し、きまり悪そうに口を開いた。

「もぉ止めてよ。誰に向かってこんなことしてると思ってんの?」



静香自身も戸惑っているのが見て取れる。

「‥‥‥」







雪の手首には、掴まれた時の指の跡がうっすらと残っていた。

まるでそれは何かの爪痕のように、雪の心に何かを残す‥。



不意に鞄の中で着信音が鳴った。

見てみるとそこには”先輩”と表示されている。

「!!」



雪はヒッと息を飲むと、すぐにその電話を取った。

「先輩?!」「今どこ?大学来てるんだけど」

「えっ?!大学?!」「ナッ?!」



突然の淳からの着信。雪も静香も動揺する。

「い、今ですか?!」「はは、毎回ビックリするね」



早く早く、と雪が急かし、静香は真っ青になって荷物をまとめた。

その間にも淳は雪の居場所を持ち前の鋭さで突き止める。

「周りガヤガヤしてるけど、学食?」「え?え?あ‥はい‥!」



しまった‥。

「ちょっと!何ハイハイ返事してんのよ!」「つい‥」



「今行くよ。近くに居るから」「は、はい!待ってます〜」



こうしている間にも淳は学食に向かっている。静香は急いで身支度した。

電話を切ってからも、二人はバタバタと痕跡を消すのに大忙しだ。

「食器下げて行って下さい!」「なんで?!」「私一人で食べてたことにするから!」



そして静香がそこを離れたその瞬間、後ろから声が掛かった。

「雪ちゃん!」



「先輩!」



ギリギリセーフ‥。静香は壁に身を隠して肩で息をした。

「食べてからでいいよ」「もう終わりました!」



二人は淳が前を向いているのを確認してから、互いに向かってサインを送った。

”いつも見張っていますよ”と指を指す雪と、”フザケンナ”と中指を立てる静香‥。







そして雪と淳は学食から出て行った。

静香はそんな二人の後ろ姿を、壁の後ろからじっと窺っていた‥。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<爪痕>でした。

雪が手を伸ばした時、怯えたような静香の目が印象的な回でしたね。

静香の抱えるトラウマに雪ちゃん気付いたでしょうか。。

そしてモコモコダウンコートの先輩。いささかガタイが良すぎるような‥。



ま、いっか‥(←適当)

次回は<露呈>です。


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看過の代償

2016-12-12 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


その建物の前に、二人は佇んでいた。

やる気満々の蓮と、連れて来られて乗り気じゃない亮と。



「とにかくガッポリ稼ぐんダーッ!」「ま‥悪かねーけど‥」



「俺らなら出来ーる!」

「まー特に断る理由もねーけどよ。オレ何気にコミュ力高ぇし‥」

「お待ちしておりました」



社内の人間に促され、二人は建物の中へと入って行く。

「ようこそ!」「ハイ!こんにちはーっ」



バタン!



その扉は二人の背後でガチャリと閉められた。

訝しげな視線を送る亮と目を丸くする蓮に、男はニッコリと笑顔を浮かべて相対する。



<実のところ蓮は、この時点で薄々気が付いていたのだが>



急に警戒モードの蓮は、キョロキョロと辺りを見回しながら慎重に足を進めた。

あっちは閉めなかった‥なら問題ないか?

「二階でプレゼンをしますので、よく聞いて面接に臨んで下さいね」「ハイ!」



この扉の向こうには希望と金がたっぷりとあると信じて‥。

金稼ぐぞ!Many Money!



<それを無理やり否定してしまった>







ドドン!



応募者は一つの部屋に集められ、円形に配置されたテーブルに就いて挨拶を交わした。

「こんにちは〜」「はい、こんにちは」「こんにちは〜」



ニコニコと皆に笑顔を振り撒く蓮とは対照的に、亮は無言でただじっと座っている。

じきに担当者らしき中年の男性とガタイの良い男性が二人、室内に入って来た。

「こんにちは〜」「こんにちは」「こんにちは!」



中年男性は柔和な態度で皆に飲み物を聞いて回る。

「何か飲みますか?コーヒー?お茶?」「お茶で!」「オレはいい」



その中年男性の後ろから、ガタイの良い男性が段ボールを持って皆の間を回り始めた。

「鞄をここに。こちらで預からせて頂きます。終わったらお返ししますので」

「あ‥はぁ‥」



箱は蓮と亮の前にも回って来た。しかし亮は首を横に振る。

「カバン持ってねぇ」「あ、それじゃあ携帯電話をお預かりします」

「俺、自分で持ってたいんですけど‥どうして預けなきゃいけないんですか?」



「実はうちのプレゼンが口コミで広まってまして‥

録画してアップする人がいるみたいなんですよ。どうぞご協力お願いします」




男はそう言いながら、箱を二人の前に差し出し続けた。

後ろに立つガタイの良い男の威圧感が物凄い。

「お願いします」



蓮はタジタジしながら「あ‥はい」と言って鞄を手に持った。

しかし亮は‥。



亮は二人を見上げたまま、動こうとしなかった。

そんな亮に笑顔を見せつつ、この二人もまた動こうとしない。



だんだんと亮の目つきが鋭くなって来た。



そしてこの二人の表情も、貼り付けたような笑顔が徐々に引き攣って行く。






そんな二人に、今やあからさまにガンを飛ばす亮。

思わず口元を引き攣らせる中年男と、同じ様にガンを飛ばすガタイの良い男‥。



やがて亮は折れ、携帯をその箱の中に入れた。蓮も鞄を入れる。

「どうぞ‥」「ほれ」「ありがとうございます」






男達は同じ様に箱を持って皆の前を回る。それを見ながら蓮が悔し紛れにこう言った。

「気にしない気にしない!録画なんかしなくてもどーせ流出すんのに!何を大げさな!」



そんな蓮のことを亮はジトッと見ていたが、敢えてその理由については口にしなかった。

「あり?なんでそんな目で見んの?」「別に」







数分後、プレゼンが始まった。

「私どもYM株式会社は、動物と共存可能な「エコ企業」というビジョンを持っており‥

特に弊社が販売致します「香菌剤RBD」は天然成分を配合しておりまして‥」




熱心にノートを取る蓮と、仏頂面で腕を組んだままそれを聞く亮‥。

「書くほどのモンじゃねーだろ」



刻々と時間は過ぎ、いつしか外は夕焼けに染まっていた。

しかし社内に閉じ込められた蓮と亮が、その夕焼けを見ることはない‥。





「あー終わった終わった!」



「思ってたよりプレゼンイケてたじゃん!ほらやっぱりちゃんとした会社だったっしょ?」

「知らねーっつの」「三階の面接会場に移動して下さい」



皆部屋を出て一様に廊下をゾロゾロと歩く。案内するのは先程の中年男だ。

「十分程の休憩時間を挟んで、面接を始めます」「鞄はどこでもらえますか?」

「あ、それは面接が終わってからお返ししますので」



チリ、と嫌な予感がした。

蓮は目を丸くしながらその男の説明を聞く。

「チームごとに部屋を用意しましたので、一旦そこへ移動しましょう」

「はい‥?」「さ、さ、皆さん移動お願いします」







男はそう言ってさっさと歩いて行き、その後ろに居るガタイの良い男がギョロリと蓮のことを睨んだ。

固まる蓮の背中はその大きな手で押され、皆半ば強制的に皆同じ方向へと歩かされている。

「移動お願いします」



「さぁ入って。入って!」



強制的な団体行動、外部との接触不可、そして少人数での部屋移動‥。

模範的な商法の手口である。



蓮が看過していた嫌な予感は、ジワジワと自身の首を締めつつあった。

立ち尽くす蓮に向かって、その胸中の声を代弁するかのように亮が言う。

「ハメられたな」



「これってよぉ、いわいるプライド商‥」



言い間違う亮に向かって、蓮はヤケクソで叫んだ。

「ピラミッド商法!」








突然のその大声に、皆が蓮の方を向く。

「え?」「い、いえ‥」



蓮と中年男は、おかしくもないのに顔を見合わせて笑い合った。

「はは!」「ははは!」「はははは!」



そして蓮はまた目の前の真実に目を背ける。

「いや‥俺がそんなもんに登録するわけねーし‥」



亮は蓮が苦し紛れに紡ぐ言葉に、ただ相槌を打って頷いた。

「そういうのじゃねーって!まだ面接もしてねーし!」

「あぁ、んだな」



亮はわざと歩く速度を緩め、

ゾロゾロと歩く群衆の数メートル後ろに就いた。



フン、と鼻で息を吐く。



亮は頭の中で、先程見た限りで把握出来る人数を反芻していた。

ここには四人‥さっき下には二人‥三階には‥何人だ?



蓮が見ないふりをしているそれからは、危険な匂いがプンプンしていた。

とりあえず今日アイツはヒデー目に合うだろうな



数々の修羅場を潜り抜けてきた亮だからこそ、分かっていた。

これから蓮が、その看過の代償を受けるだろうということも。

つーかダメージ、さっきオレが送ったメール見てねーのか?



携帯が取り上げられるだろうということも、亮は予測していた。

彼がこの建物の中に入る前に掛けた保険は、今雪の携帯の中に潜んでいる‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<看過の代償>でした。

はい、予想通りのマルチ商法でした〜

蓮、読者全員がそうだと思っていたよ‥。亮さんついてきてくれてヨカッタネ‥。

ガン飛ばしまくりの亮さんが良かったですね。ふふふ‥


次回は<爪痕>です。

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飛べない鳥

2016-12-10 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)
青田淳にメールを打ち終わった後、佐藤広隆は二人に向き直ってこう質問した。

「ところで、どうしていきなり二人で勉強を?」



その問いを受けて、静香は甘え口調で話し出す。

「広隆ぁ〜あたし脅迫され‥」

「静香さんってば今度こそ本気で勉強したいからって!

だから学校に来てって誘ったんです〜!で す よ ね〜?」
「ウ、ウン‥」



凄い形相で同意を迫る雪に押されて、

静香は自身の置かれている状況を今一度思い出し、ようやくそれに乗っかった。

「そ、そうなのよ〜!勉強するって決めたのぉ〜!」

「あ‥そうなんだ‥仲良いんだね」



「仏頂面禁止!こっちがしたいっつーの「は‥」



けれど二人共本心ではやはり相容れない関係のようだ。

やがて雪は佐藤に促され、帰宅する運びとなった。

「先帰りなよ」

「ほ、本当にありがとうございます」



出る準備をした後、静香の耳元で雪が囁いた。

「全部解き終わったらそれを写メして下さい。

さもなければ‥」




ニッコリ



笑顔で釘を刺す雪に、屈辱に悶ながら叫ぶ静香。

佐藤はただオロオロと彼女たちのやり取りに翻弄されている。

「ありがとうございます〜!」「うわあああー!アイツブチコロスゥゥゥ!!」



そして佐藤と静香は、二人でテキストに向かうことになった。



観念する静香のその横顔を、佐藤は咳払いをしながら嬉しそうに見つめている。







時間は刻々と過ぎて行った。

「はいコーヒー」「サンキュー」



「この基本原理は‥」



「広隆ぁ〜あたし頭痛ーい。頭痛‥」「ただ分かんないだけだろ!」



「あああ〜」「ちょ、ちょっと待って」



自由奔放に振る舞う静香に、やはり振り回される佐藤。

頭が痛いと言う彼女の為に、ダッシュで薬局に行ってきたようだ。

「ほら、頭痛薬‥はーはー「サンキュ。でも後で飲むわね!」



「もう一度見てごらん。

ここの基本原理は‥」








時計を見ると、勉強を始めてから一時間が経過していた。

「ううーん‥」



「広隆ぁ〜」「ダ メ!」



甘えるような口調な静香に、今度こそ振り回されまいと佐藤は強くそう言い切った。

静香は唇を尖らせながら、頑なな態度の佐藤のほっぺたを突っつく。

「え〜?まだ何も言ってないわよぉ」

「もう何も聞かないからな!勉強しなさい!」



つれない態度の佐藤に、静香は溜息を吐いて愚痴をこぼした。

「だってぇ〜勉強も休憩しながらじゃないとぉ〜」

「君が赤山からどう言われてるのか、何か理由があるんだろうけど、大体見当はつくけどね



「なにはともあれ、勉強するってことは良いことだよ。さ、早くページを進めよう」



結局佐藤も雪側の意見という結論に、静香は憤慨して立ち上がった。

「ちょっと!だからってアンタまであたしにこんなこと!アンタに何の関係が‥!」

「それじゃ赤山に連絡しても良いんだな?」



「いやそれはちょっと‥」

「だったら勉強しよう」



「まだ一章目も終わってないよ。俺のタブレットPC貸そうか?」「広隆ぁ‥」



あくまで勉強を進めようとする佐藤に、静香は溜息を吐いて甘えを零した。

しかし佐藤の視線は、彼女自身にではなく彼女の持ち物に注がれている。

「なんでこんなに冷たいの?あたし達一緒にお酒飲んだ仲じゃん?ねー?」



ブランド物の薄手のバッグ、そして机の上に開かれた電算会計のテキスト。



どれも、彼女の本心とは違う気がした。

「ところで‥ずっと考えてたんだけど」「え?」



「君は美術を学びたいから、この大学にモグリにまで来たんだろ?

けどいきなり授業に来なくなって、今更電算会計の勉強を始めて‥」
「あ‥」



佐藤から切り出されたその話を、静香はのらりくらりと交わす。

「まぁそれは色々事情がさぁー‥」



けれど佐藤はそれを流さなかった。

真っ直ぐに正直に、その正論を静香に向かって突き付ける。

「俺には、君がしたいことを突き詰める切実さが足りないように思えるよ」



「本気で何かしたいって人は、君のようには行動しない」







静香は目を丸くしながら、佐藤の話を聞いていた。

そしてその意味を理解するにしたがって、心がカッと熱くなる。

自分はもう飛べない鳥なのだと、古傷を抉られている様な気がしてー‥。



「は?!何なのよ!」



静香は力任せに机の上に置いてあったノートをその場に投げつけた。

そのままコートを羽織り、佐藤に背を向ける。

「もういい。帰る」「帰るの?」

「一人でやるわよ!マジでもう付き合ってらんない‥」「じゃあ赤山に連絡‥」



ブルブル‥



けれど佐藤のその一言が静香を止めた。

静香は引き攣った笑顔を浮かべながら、もう一度彼の方を振り返る。

「広隆ぁ〜?アンタそんな子じゃなかったじゃん?

どうしてこうなっちゃったのかな〜?」




佐藤はそれには返答せず、淡々とペンでテキストに線を引いていた。

そしてマークした所を、静香に見えやすいように見せてやる。

「ここからここまで」



「ここの部分の既出問題解いてみて。分かんなかったら聞いて。座りなよ」

「‥‥‥‥」



佐藤はそれ以上静香を責めるでもなく、罵倒するでもなく、ただもう一度静香に向き合った。

静香は何も言えないまま、逆に翻弄されている今の状況を受け入れるしかない。



「分かったわよ!」



静香は再び、佐藤の隣に腰を下ろした。

仏頂面でテキストに向かうそんな彼女の横顔を、佐藤は嬉しそうに見つめている‥。








家に帰ってから、雪は静香にメールを送った。

明日も来て下さいね



静香からすぐに返信があった。

Shit!!



安定のクソ呼ばわり‥。



なんだかもう腹が立つのを通り越した雪は、ふぅと息を吐いてそのやり取りを終わらせた。

とにかく、と考えを明日に向かわせる。



とりあえず今日は上手くいったぞ。明日の試験も頑張ろ



雪はそう思いながら、ううんと伸びをした。

試験という荒波を、この羽で飛び越えていく‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<飛べない鳥>でした。

佐藤先輩と静香、良い感じですね〜〜^^

心から静香を心配してるからこその正論、胸に響きました。こんなに静香に向き合ってくれる人、

今までいなかったんじゃないのかなぁ。雪にしても佐藤先輩にしても、静香にとってのキーパーソンになりそうですね。

そして気になったのはこのコマ↓



佐藤先輩のセリフが抜けている‥。何だったんでしょうね^^;


次回は<看過の代償>です。


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籠の鳥

2016-12-08 01:00:00 | 雪3年4部(鏡〜露呈)


河村亮は元職場の同僚と共に細い路地の上にいた。

同僚の男は、痛そうに顎を押さえている。

「うう‥歯がグラグラする‥」「また殴られたんかよ」



亮は溜息を吐くとこう言った。

「もういい」



「吉川‥そろそろあの野郎をシメねぇとな」



亮が見据える先には、自身と男を支配する元職場の社長・吉川がいた。

今まではただ逃げてばかりだったが、どうやら反旗を翻す結論に達したようだ。



同僚の男は腫れた頬に手を当て、幾分恐縮しながら謝った。

「ごめんね亮‥俺のせいでここから逃げらんないんだろ」

「いーっつの。それよか診断書とか録音とか録画とか、

そういうの集めんの忘れんなよ。わかったか?」
「うん、全部準備してるよ」



亮は男の肩に手を置くと、ゆっくりと低い声でこう口にした。

「今度こそぜってー逃げ切って、お互い真っ当に生きて行こうぜ。な?」






亮からそう言われ、男は嬉しそうに微笑んだ。

籠の鳥であった自身に、亮は出口の光を見せてくれる。

「分かったよ‥!」



不意にポケットの中に入れてあった携帯が震えたので、

亮はそれを取り出した。蓮からメールだ。

亮さん、一次合格だって!連絡来た?行こーぜー!







亮はすっかり忘れていた蓮との約束を思い出し、思わず目を白くした。

出口の無い現状にもがいている籠の鳥が、ここにももう一羽‥。







都内某所にあるZ社企業ビル。

高層階のオフィスフロアの一角にて、青田淳はぼんやりと佇んでいた。



昨夜耳にした雪の言葉が、鼓膜の裏でずっとリフレインしている。

「今は前よりもっと、先輩のことが理解出来る気がします」



心の中に、重たい澱が溜まって行くような気分だった。

うず高く積まれた防波堤の内側で、水嵩ばかりが増して行く。

「‥‥‥‥」



重苦しい気分を助長させるように、ポケットに入れた携帯電話が、

柳瀬健太からのメールを受信した。

俺、卒業試験も上手くいかんかったし、このままじゃ単位も取れねーかもしれねーんだよ!!

もう少し時計の値段負けてくれたら、定期預金解約して払うからよ。

旅行用に溜めてた金があるんだ‥








雪に聞いた話とその流れを推測するに、もう柳瀬健太には後が無いし味方もいないだろう。

淳は今まで被って来た仮面を剥がし、幾分強い態度での文面を作成する。

治療費も貰わないことにしたのに、これ以上まだ譲歩させるつもりですか?

先輩がしたことを思い出すと腹が立つので、もう連絡しないで下さい。




数分後、健太からの反論が届いた。

お前、そりゃあまりに酷くねーか?

お前がそのつもりなら、俺も赤山に話すぞ。あのハーフ女とワケアリの関係なんだってな!







”ハーフ女”こと河村静香と柳瀬健太は、

以前佐藤広隆を交えて顔を合わせている場面を目にしたことがある。



あれ以降どちらかが淳を陥れる為に、コンタクトを取ったという可能性も高いだろう。

誤魔化しても無駄だぞ!俺は全部知ってんだ!



まるで切り札のように静香との関係性をちらつかせる健太であったが、

淳の態度は変わらなかった。

何を言ってるのか意味が分かりません。

そういう女性がいるなら一度教室に連れて来て下さい。俺明後日学校ですから




ヒッ



柳瀬健太は淳からのその返しに息を飲んだ。

切り札としての”ハーフ女”だったが、特に決定的な証拠を掴んでいるわけじゃない。

つい売り言葉に買い言葉で‥こんなつもりじゃ‥



そんな健太を見透かすかのように、淳から続けてメールが届く。

どうせ来ないと思いますけど。



ジ・エンド‥。

健太の頭の中に、追い打ちを掛けるかのような悪魔直美が嘲笑っている。

「証拠あるんですか?」「証拠証拠」「証拠もないくせに〜」

あ〜オワタ〜



再び健太の携帯が震える。

こういった行動に出ることで損をするのはそちらです。

また連絡して来たら、治療費も請求させて頂きますので




取り付く島もないとはこのこと‥。健太は頭を抱えて座り込んだ。

マジでオワコンだ‥俺‥



そして淳からの最終通告が届く。

あ、それと雪に迷惑掛けないで下さい。



オワタ‥。

ああああ〜〜〜〜









淳は健太へのメールを打ち終えると、続けて柳にメールを打ち始めた。

静香との関係性で一悶着起きる気はしなかったが、横山翔の一件の例もある。

柳に雪周辺の近況について聞いておいた方が良いだろう。

雪に何かあった?

今日健太が赤山ちゃんに絡もうとしてたけど、

アイツ今悲惨な状態だし何も出来やしねーと思う。

もうそんな心配することねーんじゃねーかね〜




柳からの返信は早く、それはいくらか淳に安心感を与えた。

それでも胸の中がざわめく不快感は簡単には消えてくれず、

淳は溜まった澱を放出するかのように息を吐く。



一見何不自由なく暮らしているように見える彼は、実は見えない籠の中に捕らわれている。

大学を出ても‥いや、



どうせどこへ行ったって‥



籠の鳥は、結局幾ら羽ばたいてもそこから抜け出せない‥。

ブルル‥



再び携帯が震え、メールが届いた。

しかし差出人は柳瀬健太でも柳楓でもない。

<佐藤広隆>

卒業試験上手くいった?

ああ。

今赤山から頼まれて静香さんの勉強見てるんだ。

赤山は本当に親切だよな。皆に気を配って







佐藤からの文面を読んだ後、思わず淳は目を丸くした。

そして遠い場所で一羽の鳥が羽ばたく、小さな羽音が聞こえた気がした。



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<籠の鳥>でした。

それぞれがそれぞれの状況をこじらせ、そこから羽ばたこうともがいているような回でしたね。

健太は自業自得ですが!

次回も鳥繋がりです^^<飛べない鳥>です。

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